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婚約破棄を告げられた伯爵聖令嬢
エピソード17
しおりを挟む聖タバタの向かい側のソファに移動して、腰かけた東の聖巫女と呼ばれた女、名をペトラ=トルンカと言って、元々はトルンカ男爵家の末娘、上には2つ年が離れた兄が一人。
だが、7つの時の魔力判定でペトラが光属性であることがわかり、陞爵して伯爵家となったことで、ペトラ=トルンカ伯爵聖令嬢と呼ばれるようになった。
ペトラの住む東のイースランド王国は、聖教国のある山々から大陸の東側に広がる大草原地帯で、聖教国から流れ落ちるレカリーヌと呼ばれている聖なる大河が、ノースランド王国と国境を隔てていた。
レカリーヌの両岸は切り立った高い岸壁であったので、両国で領土争いが起きたことは無かった。
寧ろ、レカリーヌの所有権を争っていたのは聖教国で、なぜなら、その河を奥へ奥へと遡り、聖教国を取り囲む岩山にポカリと開いた洞窟があり、真っ暗な中をまだまだドンドンと突き進めば、急に明るく輝く魔石クリスタルの大鍾乳洞が広がる場所に辿り着く。
その純度の高い魔石に囲まれた場所は、不思議と自身の魔力が増幅されるので、普通は使えないような魔法も使うことが出来る、ので、この場所を聖教会は高地にあり物流の不便な聖教国と各国を繋ぐテレポーテーションの重要拠点とした。
つまり、風魔法の魔力を詰めた魔石を動力にした動力船でこの場所までくれば、ここから聖教国にある大きなカルデラ湖まで船を転移させることが出来る、空港として今も利用しているのだった。
この場所は聖教国の地下にあるのだから聖教国の物だと、教会が主張すれば、では入口の河口の土地はイースランドの領地なのだから、使用料を払わなければ使用させないとイースランド王家も反論し、結局両国の共有ということに落ち着いた。
ちなみに、この場所から切り出した大きな姿見ほどの魔石を聖巫女の居る神殿の奥に設置してあるので、彼女たちは自身の光の魔力で、聖教国に設置してある大聖堂に瞬時に移動することが出来るのだが、特別な理由が無く使用した聖巫女は一人も居ない、どの聖巫女も聖教国に良い思い出など無いのだから、当然である。
この大河レカリーヌの東に王都が荷揚げ用の船着き場と一緒に造られたので、イースランドはレカリーヌの河口付近を中心に発展した。
そして、イースランド王家もご多分に漏れず、かつて召喚された聖女を娶り、その血を引いていたが、他の国と違うのは、光属性の者を輩出した家に爵位を与えて、必ず王妃にしてきたことだろうか。
逆に光属性の者が3代続けて出なければ爵位を落とされるという制度を定めて、聖女を国のよすがとしたのだった。
それが行きすぎて、光属性の者が生まれるよう人為的に操作する研究を長期に渡って王家主導で取り組み、それだけが王家の務めと勘違いし、王国民の生活を気にかけることも無くなってから久しい。
だからイースランド王国民は、レカリーヌの使用料などで潤沢な収入が王国に齎されていることも知らず徴税されていたし、魔物の驚異からも守って貰えず、光魔法で傷や病の治癒も受けられず、魔法とは縁遠い生活で、王候貴族と平民との分断は広がる一方、平民の間での不平不満は常態であった。
さて、ペトラであるが、家の爵位が男爵まで落ちる位光属性の者など永らく生まれて来なかった。
兄が家を継ぐ代で一族の子供の何処かに光属性が生まれなければ、平民になるしかない所まで来ていた。
母の実家も男爵まで地位を落としていて、切羽詰まった同士の婚姻だったので、どちらの家門の女たちはみな必死で、この国独自の民間信仰、レカリーヌでの沐浴やら水浴びやらを毎日毎日繰り返し、見事ペトラを生んだことでトレンカ家と生家を見事救い、同じような立場の貴族家からはその信心深さを敬われることになったのだが、それはさておき。
光属性がわかったペトラは、イースランド王家の第一王子アレシュと婚約するとすぐに、聖教国へと渡り清貧をモットーとした聖女教育を受けることになった。
サザランド王国のマルシアと同じように、タバタのスペアに据えられて、ペトラは13歳までの6年間を聖教国で過ごした後、還俗して帰国し、王太子となったアレシュの婚約者として、今度は王太子妃教育を受けて王宮で過ごしていたのだった。
イースランド王国は、王都を出ると、広陵な台地が地平線の先まで広がり、平民のほとんどは酪農と小麦を作って暮らしていた。
さらに東に行けば行くほど、人も農地も減り、変わりに深い森が広がっていた。
森には魔物が多数生息していたので、普通の人はそこに近寄りはしないが、それでもいくつかの村が遠目に森を見れる位の場所に存在していた。
東の絶壁な海岸には、なぜか立派な聖教会が建てられていて、週末には説法をしたり、結婚や葬式など冠婚葬祭の一切合切がここで行われていて、国の辺境に住む人々の心の拠り所であった。
新月の夜、キーンと言う癇に触る金属音、耳鳴りのような不快な高音がペトラの耳の奥に響いた。
王宮の大広間には、国の貴族たちが集まり、王家主催の大規模な夜会が開かれていて、王太子の婚約者としてエスコートされながら入場をしたばかりだった。
ペトラは耳に手を当てて庇いたかったけれど、王太子妃教育の賜物か、グッと奥歯を噛み締めて我慢した。
そして、王族の場に立って、国王陛下の挨拶を聞くフリをした。
何時までも金属音は耳の奥で鳴り響いていて、とても話を聞いて居られなかったから。
貴族たちの拍手で、話が終わったことを知ってフッと目線を上げれば、隣にいる王太子がペトラから少し体を離して、
「ペトラ=トルンカ伯爵令嬢、私は君との婚約を破棄することを此処に宣言する!」
そう大声で言い放ったのだった。
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