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第一章 『ベルガレートの迷宮』

第一章7 迷宮踏破から始まる異世界スローライフ

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 俺は魔石の光を頼りに、薄暗いところ歩いた。
『恐怖耐性』がなかったら多分一人でこれはきついだろうな。
   前世はお化け屋敷とか苦手だったし……。

「腹減ったけど、何も食べるものがない。せめて水だけでもあれば……」

   俺は魔石を見て思った。
 そういえば、ずっとこれのこと魔石って呼んでたけど、魔力入ってんのか?
 試しに収納してみるか。

「ステータス確認……おっ!」

 入ってる! さっき魔力が29230で、今の魔力が……29240か。
 たった10だけだが、これだけあれば。
 それに光に辿って進んでるんだ、通ったところの光源を取っとけばまず迷うことはないだろう。

 俺は歩きながら魔石の収納を繰り返す。
 ステータスのところには、魔石(298個)と書かれている。
 つまりたったこの作業を繰り返すだけで2980もの魔力が溜まったのだ。

「お金なくても魔力があれば……」

 魔石も売ったりできそうだしな。

 それにしてもここらへんモンスターが1匹も出てこないな。
 それに寒い……寒がりの俺には地獄だ。アルノアといた場所よりも寒い。

 ――バリッ

 足元で何か割れた音がした。

「氷、か?」

 もう少し進んでみる。
 俺はそのまま真っ直ぐ進んだ。いや、一本道だけど、それっぽくねっ!

「めっちゃヌメヌメしてる……」

 氷がない場所には、ヌメヌメとした水が広がっていた。
 これはさすがに飲める気がしない。

「の、飲むぞ」

   ――ゴクリッ

 両手でスライムをすくうと、俺は喉を鳴らした。
 と、その時、後ろでぽちゃんと音がなった。

「スライ、ム……」

 振り返ると青色の体を持ったスライムがそこにいた。
 こうしてみるとかなり可愛いな。クラゲのようだ。

「ごめんな。可愛いけどここから出るため……」

 というか、スライム――剣で倒せるのか?
 魔法が使えたら別だが、俺はまだ使えないぞ!

「とりあえず切ってみるか」

 瞬間身体強化をつけて、思いっ切り振り下ろす!
 お、魔石に変わった。何かスキルもらえるかな? 
   
   ――収納。

〈スライムの個体スキル『対熱耐性』、『対寒耐性』、『身体再生』獲得〉

 スライムってある意味チートモンスターだな……。
 というか、なんでスライム再生できるのに死んだんだ?

「剣スキルが関わってんか? 『魔力遮断』だったよな……」

 もしや、スライムの体って魔力でできてるのか?
 まぁ深く考えても無駄だな。スライムのおかげで寒さも和らいだみたいだ。
 
 この水も頑張ればいけるよな、多分。
 なんかローションを飲むみたいだ……。

   両手ですくい、口元へ持っていく。

「めっちゃ甘い! なんじゃこりゃ!」

 でもこれはこれでいける! ペットボトルみたいなのに入れて収納したいけど、都合よく容器があるわけもない……諦めるか。
 腹がいっぱいになるまで飲むとしよう。

 
「甘い……糖尿病になりそうだ……」

   三杯くらい飲むと心なしか、腹はいっぱいになった
 ……妙に満腹感がある。

「とりあえずこれでもう少し耐えるだろ」

 空腹感がなくなった今、俺は最強になった!
 うれしくもなんともないけどなっ! 俺はのんびりしたいんだよっ!


 そのあとも、俺は一人で闇雲に歩き続けた。
 分かれ道の時はスキル『危険察知』を使って選び、よくわからないときは勘で進んだ。
 
 そして早くも一週間くらいが過ぎた。
 なぜか空腹感に襲われることはなかった。とはいえ、口はさみしい。
 話す相手もいなければ、道を教えてくれる者もいない。

 モンスターを倒すのも作業のようになり、いちいち魔力がどれくらい溜まったか確認することもなくなった。

 スキルもいくつか手に入れた。クモみたいなモンスターからはスキル『魔力糸』と『気配遮断』を手に入れた。『気配遮断』に関してはロリニオンが提示したスキル一覧にあったやつだ。

 いくつか階段を見つけて上ったが、どちらにしろ十五歳になるまではここから出れない。
 魔力を持っているってだけでユルシリアは八歳の少年を迷宮に落としたんだ。外に出て見つかれば、最悪処刑だ。


 睡眠はスキル『気配遮断』を使って行っていた。『恐怖耐性』があるせいか、なんの躊躇もなく眠りについた。 


 そんなことを一人で延々と繰り返しながら、四年経ったある日。
 迷宮は本当に作業ゲーと化していた……ラスボスを序盤で倒したせいで、それ以上の強さを持つ者は出てこなかった。
 地上へ繋がる階段は見つけた。一年くらい前になっ! だが処刑されるわけにはいかないと、我慢したのだ!
 
 だが、今日。俺は一匹のモンスターと出会った。
 その名も――そう! ……カエル? みたいなやつ!
 いや、俺に正式名称みたいの聞かれても分からないから。迷宮で引きこもりしてたし……。

 そのカエルからは魔力が一つも感じられなかったが、とりあえず倒した。
   すると、一つの個体スキルを手に入れた。

   ――『魔力不可視化』

  つまりはほかの者から魔力の存在を隠せるということだ。
  十二歳になった俺(引きこもり)は、今日家(迷宮)を出ることにした!

「おつかれさま、俺……これからはゆっくりのんびり暮らそうな」

 んでもってじゃあな、迷宮。四年間住んでいた俺の家。
 
 俺は光の方へ向かって歩き出した。
 よし、これからが俺の第二の人生!

「スローライフ開始だっ!」
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