公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

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chapter1__城、再誕

あと一人

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「もも申し訳ございませんでした!! どどどどうか命だけはお許しを……!!」

 朝になって玄関ホールへ集合すると。
 ザラを見たとたん、イアンが真っ青になって床に這いつくばった。
 隣でユージンが見張っているが、手足の縄はほどかれている。この様子から、もうザラに危害を加える気はないとみて解放したらしい。

「どうする、ザラ? こいつ魔法も使えなくなったみたいだぞ」
「? どういうこと?」
「魔法なんて俺なんかが使えるわけありません。その、なぜか急に『俺つええ!!』みたいな変な自信が湧いてきて……頭が真っ白になって。たまっていた怒りに火がついたところまでは覚えているのですが……」

 昨夜の行動、そして魔法を使った記憶すらあいまいなようだ。
 何度か試してみるも、もうあの突風を起こすことはできなかった。

「妙な話です」
「てかさー、あれ本当に魔法? ヘルムートの勘違いだったんじゃね?」
「……」
「屋内であんな突風が自然発生するとは思えません。しかし彼が魔法を再現できないのなら、真相は闇の中ですね」

 皆が首を傾げるなか。ザラがイアンの前に膝をついた。

「そっか。あたしへの怒りがたまっていたのね」
「ヒエッ……! ああぁの、その……っ」
「守れない約束をしたこと、それに今までの振る舞いも。こちらこそごめんなさい」
「…………へ???」

 床にへばりついていたイアンがおそるおそる顔を上げる。
 ザラは真摯な表情で目を合わせた。

「できることなら、イアン。あなたも1カ月の試用期間を試してもらえませんか?」
「はあぁっ!? こいつあんたに包丁向けたんだぜ? 雇ったら、また何しでかすかわかったもんじゃねーぞ」

 ザラの提案に、ダリルが毛を逆立てた猫のような剣幕で言う。
 言われた内容が理解できず固まるイアンに、エンドレが簡単に説明した。それでも信じがたい魔法を目撃したと言わんばかりの顔でザラを見つめる。

「……俺を許して、もう一度雇ってくださるんですか」
「ええ、ケンカ両成敗っていうのはおかしいかもしれないけど。以前のあたしではないとわかってほしいの。……ナタリエお義姉様との結婚は叶えてあげられないけど、それでもよければ」

 上半身を起こしたイアンが不思議そうに何度も瞬きする。
 目をそらさずにいるザラとしっかり視線を合わせると――その頬がみるみる染まっていった。

「もっもちろん今度こそ、誠心誠意働かせていただきます!! っていうかナタリエ様の件は大丈夫です!もうそんな気は一切なくなりました!」
「え、そうなの?」
「はいもうスパッときれいに!! 俺、過去に執着しない方なので!!」

「おい……なんか別の意味でやばくねーかコイツ」
「美少女にあんな目でお願いされたら。気持ちはわからなくないんですけどねぇ」
「よくわからんが、これ、一件落着ってことでいいのか?」

 頬を染め、うっとりした表情でザラを見つめるイアン。安堵の息をつくザラ。それをなんともいえない顔で見守る三人。
 一同を見渡してから、ヘルムートが冷静な声で話題を転換した。

「――ところで。あと一人はどこにいるのだろうな」


   凹凹†凹凹


(……あと一人???)

 相変わらずの淡々とした口調に、反応したのはユージンだった。

「うおー!すっっっかり忘れてた。おいイアン、俺がいない間したか!?」
「へ……? あ……! そういえばここ数日、うっかり忘れていました」
「おいおい。死んでたらどーすんだよ」
「すみません。なんせ一度たりとも姿を見かけたことがないので、つい……」
「ともかく飯の用意だ! 俺たちの分も!」
「ハイっ!!」

「あ~腹減った。オレの分は用意しなくていーや。作ったそばからつまみ食いする」
「行儀が悪すぎますよ」
「いいじゃん。あいつが毒盛ったりしないか監視も兼ねて」
「少なくともザラ嬢に盛る気はもうない……いや。淫らな気分にさせるいかがわしい薬等を盛る可能性はありますね。僕も監視します」
「その発想が瞬時にでてくるお前がやべーよ……」

「……???」

 慌てて駆けだしたイアンの後ろをダリルとエンドレがついていく。
 一体、何の話をしていたのか。戸惑うザラにユージンが振り返った。

「すまん。あいつの世話まで気が回らなかった」
「……あいつ、って??」
「だからあいつだよ。前にお前が、招待された義姉さんの代わりに、ってほぼ乱入した晩餐会で……――」

「…………なぁ。あれ、何だと思う??」

 厨房へ続く廊下の途中。ダリルが窓を指差した。
 隣でエンドレが目をすがめてその先を見る。

「……服、ですかね」
「どっちかってーと、服を着た人間に見えるんだけど?」
「ですがあんなところに人間がいるわけありませんよ。あそこは石落としの屋根。もし生身の人間なら……体勢から推測するに、塔の最上階から落下したかのような」

 ザラとユージンも二人の傍へ行き、窓の外を眺めた。
 中庭の先に見える塔――かつて牢獄塔として使用されていたらしい――その最上階の一階分下あたりに、壁から張りだした狭い屋根があった。エンドレの言う石落としだ。そこに何かが引っかかっている。

 ダリルの目、エンドレの推測の通り。ザラにも人に見えた。
 その人影が時折、ぐらぐらと不安定にうごめいている。

「……塔の最上階から落下し、運よく石落としの屋根に引っかかり……。不安定な足場で今にも再び落下しそうな人間だな」

「「「「わーーーー!!!!?」」」」

 やはり冷静なヘルムートの分析を背に、四人の悲鳴が廊下に響きわたった。

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