公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

文字の大きさ
9 / 52
chapter1__城、再誕

筋肉と魔法

しおりを挟む


 石落としはその名の通り、下の敵に石や熱湯などを降らせて攻撃する隙間だ。
 牢獄塔の外壁からやや張りだすかたちで何カ所か設置されている。

 ちなみに城館の天井にもいくつか同じ目的の穴があり、これらは“殺人孔”とも呼ばれる。

 一同は中庭へ出ると、石落としの小さな屋根に引っかかり、いつ崖下へ落ちてもおかしくない状態の人物を眺めた。

「うわあぁやばいやばい!! 殺人孔で人身事故とか笑えねー!!」
「ええと、とりあえず最上階から縄を渡して……」
「間に合うかぁ!?」
「女神に祈るしかありませんね」
「エンドレ、ダリルはその作戦でお願い!」

 ザラの指示に頷き、牢獄塔の入口へ向かう二人を見送る。
(間に合ってくれればいいけど……)

「落下地点にクッションになるような物を置けないかな」
「下は城門側よりも急峻な崖、その程度の物があったところで助からないだろう。時間もない」
「じゃあ、魔法は!?」

 ヘルムートがかすかに眉根を寄せる。珍しく悩んでいるようだ。

「……許可なく使用するのは違法なんだ」
「だけど……っ! 人の命がかかってるのよ!?」
「魔法は君が思うほど万能ではない」
「べつに万能だと思ってるわけじゃ……、っ!!」

 ぐらっ、と人影が大きく揺れた。ザラが声にならない悲鳴を上げる。

 居住に関わる部分はおおむね補修したが、牢獄塔は長らく放置されたままだ。中の階段なども古い。ダリルとエンドレも慎重に進まざるを得ないだろう。

 老朽化した石落としの屋根の一部が外れ、崖を転がり落ちていった。
 屋根の崩壊とともに、引っかかった人物も間もなく同じ運命を辿ることになる。
 震えるザラの隣で小さく舌打ちし、ヘルムートが腕輪に片手をかけた。その時。

「魔法よりも頼りになるのは、筋肉だあああ!!!」

 背後から走ってきたユージンが、風を巻き起こして二人の脇を通り過ぎた。
 その手には柄が身長の3倍ほどある長槍が握られている。

 中庭を駆け抜け牢獄塔に迫る。目の前まで来ると、大きく地を蹴った。
 長大な槍をかついでいるとは思えない跳躍力。だが石落としまではまだまだ遠い。

 跳びながらユージンが振り上げた槍を壁に突き立てた。

 ガキッと鈍い音をさせ、石壁に刃が深々と刺さる。とてつもない腕力だ。
 その勢いを利用し、棒高跳びの要領でもう一段高く跳びあがった。

 同時に屋根が大きく崩れた。引っかかっている人物の身体が宙に浮く。
 それを見越して跳んだユージンがまっすぐ両手を伸ばした。

筋肉兄貴ユージンーーっっ!!!)
「うそだろーーっ!!?」
「どんな身体能力ですかーっ!!?」

 ザラがぎゅっと両手の指を組む。最上階に現れた二人がどよめく。
 ユージンが落ちた人物を見事に空中でキャッチした。

「うおおおおオオオ!!!!」

 雄叫びを上げ、人を抱えたまま空中で一回転すると、着地地点の外壁を蹴った。
 そのまま跳びはねるようにして外壁を走る。尋常ではない離れ業だ。
 しかし延々と壁走りを続けられるわけもなく。じわじわと重力に負け、姿勢も危なげにブレはじめた。

「お願いユージンの筋肉、頑張ってえええー!!」
「くっ……オオオオオ!!!」
「その足場を使え!!」
「オオオお!? おうっ!!!」

 ヘルムートが叫ぶ。いつの間にか外壁の一部がぼこりと不自然にとび出していた。
 ユージンがとび出た足場を蹴る。するとその着地先に、また足場が現れる。

 テンポよくとび出す不思議な階段をつたい降りていき。
 気を失っているらしい人物を抱えたユージンが、牢獄塔の入口付近へ倒れ込むようにして着地した。

「ユージン!! よかったあああ!!!」
「ふはは……筋肉の……勝利……」
「本当にありがとう筋肉さんたち!! ……それに、ヘルムートも!」

 涙を浮かべてユージンに駆け寄ったザラが、振り返って笑顔をみせる。
 壁に足場を出現させたのは、彼の魔法だと確信していた。
 腕輪を手首にはめ直したヘルムートが溜息を吐く。

「まったく……我儘な雇い主だ」


   凹凹†凹凹


 アシュレイ・ディートリヒ

 子爵家長男。22歳。
 艶やかな黒髪、印象的なサファイアブルーの瞳。

 ヘルムートと並んでも見劣りしない、中性的な美貌の持ち主だ。
 だが表情や雰囲気に翳がある。暗く沈んだ瞳は、“死んだ魚の目”という形容がピッタリであろう。


 ユージンの筋肉とヘルムートの魔法によって命を救われた人物――アシュレイが、死んだ魚の目をトロンと開いた。

 自分を取り囲む顔を、目だけ動かして順番に眺め。ザラを見て動きを止める。

「あれ……? 死んだはずなのに。 また連れ出しに来たの……?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

処理中です...