公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

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chapter1__城、再誕

生き物を拾ったら、さいごまで面倒をみましょう

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(なんで忘れてたんだろう。……って、まだ記憶はぼんやりしてるなぁ)

 吸い込まれそうなサファイアの瞳を見つめ、ザラの記憶の断片が蘇る。

 ひと月ほど前。
 ディートリヒ子爵家の跡取り令息からナタリエへ、晩餐会の招待状が届いた。

 ナタリエはあの調子だ。デビュタントは済ませたものの、社交は必要最低限かつ短時間で済ませる。
 家同士の付き合いはなく、家格も劣る子爵家の催しは当然、お断り一択だ。

 それをたまたまおねだりに来ていたザラが、
「お義姉様の代わりにあたしが挨拶しに行ってあげるわ!」
 と強引にレスターから招待状をむしり取ったのだった。

 そうして乗りこんだ子爵家の晩餐会。周囲の白い目などお構いなしで、ついていったユージンと一緒にご馳走をむさぼり散らかし。
 子爵家の召し使いたちが止めるのも聞かず、屋敷を闊歩していると。

 ザラはある部屋の前で足を止めた。

 招待客の往来から最も遠く、日の当たらない、使用人が使うものより粗末な部屋。
 さらに古びたドアにはかんぬきや錠前、複数の鍵で閉ざされていた。

「なにここ。宝の隠し場所にしてはボロくさいわね」
「お客様! そこは開かずの間でございます」
「開かずの間~? そう言われるとよけい気になるのよ。鍵を開けなさい」
「……旦那様よりかたく禁じられております。どうぞお戻りください」

 顔色のよくない老執事が低い声で言う。
 鍵だらけの異様な扉から視線を外さず、ザラが隣に声をかけた。

「ユージン、開けて。あんたならこんなもの、軽くぶっこわせるでしょ」
「は? いやまぁ、できなくはないが……」
「お客様っ!?」
「なぁ、姫さんがどうしても見たいって言ってるんだ。俺もひとの家の物を壊したくはない。チラっとでいいから、中を見せてくれねーか?」

 顔の前で両手を合わせてみせるユージン。有言実行しそうなたくましい長身をしばらく見つめたあと、執事が俯いた。

「……毒婦の娘……その悪女に入れこむ貴族の放蕩息子……。私は命令され、脅されて、仕方なく鍵を開けただけ……」
「どうしたジイさん。ぶつぶつ言って」
「い、いえ。なんでもございません。……かしこまりました。しかしここで見たものは、くれぐれも他言なさいませんよう」
「はいはい、わかったわよ」

 鍵を持つ手をかすかに震わせながら、執事が一つずつ開錠していく。

 開いたドアの先に入ったザラは――窓のない空気のこもった暗い部屋で倒れる人物を見て。
 何が起きているのかを、本能的に理解した。


「どうせいらないんでしょ!? だったらあたしが拾ってあげるわっ!!」


 表情を失って立ち尽くす執事の脇をズカズカ横切り、部屋を出る。
 部屋の主を肩に担いだユージンが通り過ぎる時、

「いっそ、扉を壊していただけますか」
「ん? ……そうだな。なんなら金目の物もガメとくか」
「お願いいたします」

 片手でやすやすとドアの蝶番を壊し、引き返して見つけたごくわずかな金品を服に隠すと、ザラの後を追いかけた。
 これなら強盗が押し入ったようにも見える。少なくとも表立って、公爵家の娘の仕業にできる者はいないだろう。

「……アシュレイ様……。どうか新たな人生では、あなたを愛するわざわいから逃れられますように」

 老執事の呟きは、人目を避けて屋敷を出たザラたちの耳に届くことはなかった。


   凹凹†凹凹


「……そうか。僕は助かったのか」
「命を粗末にするんじゃねぇよ」

 真剣な声に、アシュレイがザラからユージンへ視線を移す。

「……ごめん……?」
「あと飯くらい自力で食え。毎回ひとに運ばせんな」
「ああ……そういえば、ここ何日か君のことを見かけなかったね。お腹すいた……」
「ったく……」
「――アシュレイ」

 パンッ。

 上半身を起こしたアシュレイの頬を、ザラが片手で打った。
 かよわい娘の平手打ち、力も抑えており大した威力ではない。だが突然の暴挙に皆が驚く。“今のザラ”に慣れてきた四人は、後で驚いたこと自体にも驚いた。

 打たれたアシュレイだけはとくに驚かず、死んだ目のまま、今にも泣きだしそうなザラをぼんやりと見つめた。

「どうして……なんでこんなことするの。残されたあたしたちがどんな気持ちになるか、考えなかったの!?」
「え……? どんな気持ちになるの?」
「悲しくて苦しくて悔しくて。ずっと後悔し続けるのよ! もう新事業どころじゃないわっ!!」
「……ごめんね」
「謝るより、二度とこんなことしないって約束――」

「デデッポー」

「…………ででっぽ??」

 目に涙をあふれさせたザラの頭を、アシュレイがおずおず撫でる。
 その胸元から顔を出したハトとザラが、至近距離で見つめあった。ハトが豆鉄砲を食らった顔とはまさにこのことだ。

「あ、忘れてた。もう怖い奴はいないから、出ておいで」
「ポーゥ」

 アシュレイが服の隙間を広げる。真っ白なハトが、きょろきょろ周囲を見回してから這いでてきた。
 どうやら迷い込んだ伝書鳩のようだ。一同が唖然と見守るなか、片足に紙をくくりつけたハトは元気に飛び立っていった。


 塔の最上階にいたアシュレイ。そこへ突然、ハトがとびこんできたらしい。
 鷹に襲われたのだ。ハトをかくまうアシュレイにも、鷹は執拗に襲いかかった。
 攻撃から逃げまどううちに、塔の端でバランスを崩し――。

「か、勘違いしてごめんなさい! あたし、てっきり……」
「うん。天気もいいし、落ちたら気持ちよさそうだなーと思って登ったんだ」
「「「「「…………」」」」」

 静まりかえる一同を不思議そうに見て続ける。

「いつもは陽の差さない部屋から出たくないんだけど。こんなに天気がいいと、いい感じに目の前がかすんで、心地よい睡魔に襲われて……」
「それ空腹で死にそうになってんだろっっ!!」
「アシュレイーーー!!!」

 ユージンのつっこみとザラの悲鳴が晴天に響くなか。再びアシュレイの華奢な身体が、中庭の草の上に沈んだ。

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