公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

文字の大きさ
11 / 52
chapter1__城、再誕

前途は多難のようですが

しおりを挟む


「幼い頃、実の父親が馬車の事故で他界。彼は婿養子だったそうです。その後、母親が再婚。義父はディートリヒ家の分家筋の方らしいですね」

「なにかと不運が重なり、お家の経営状態は少々苦しいものだったと聞いています。そんななか、母君もご病気でお亡くなりに」

「家を継いだ義父が昨年、再婚。相手は子爵家とゆかりの深い……ぶっちゃけ上司にあたる伯爵家の娘。お互い連れ子のいる再婚です。そしてあっという間に、後妻の息子がディートリヒ家の跡取りになりました」

「本来なら長男であり、子爵家の血を引くアシュレイが後を継ぐのが順当。しかし没落寸前の家を救った伯爵家の後妻に、義父は頭が上がらないのでしょう」

「わが国の法では、正当な理由なき後継者の変更はなかなか認められません。逆にすんなり許可される事由としては……『度を越した放蕩・不品行』、『出奔・長期にわたる行方不明』。当然ながら、『死亡』した場合ですね」

 やや芝居がかった調子でエンドレが声をひそめた。

「貴族社会の闇は深いですよー。誰しも他人のお家騒動になんか関わりたくないですから。『いや絶対おかしいだろ』って内容で後継者が変わっても、深くつっこまれないことが多いんです」
「だからって……晩餐会をする家の中で“餓死”なんて。絶対怪しまれるじゃない?」
「そこをスルーさせ、もみ消しを可能にするのが、金と権力ですよ」

 ザラが俯き、やんわり下唇を噛んだ。エンドレがあやすように細い肩に触れる。

「彼は本当に幸運でしたね。ザラ嬢の我儘……いえ好奇心と行動力がなければ、今頃この世にいなかったのですから」


 エンドレと別れ、自室として使っている部屋でザラはベッドに深く腰かけた。

 今までなら、このまま昼寝でもしていたかもしれない。
 だが今日は一日、新事業は中断して、眠ってしまったアシュレイの様子を見るつもりだ。起きたら少しでも何か胃に入れさせなければいけない。

 今までなら、全部まとめてユージンに押し付けていただろう。
 御者をつとめた後に夜通しの見張り、さらに無茶な救助活動。今日はしっかり休むように言い渡した。
 本人は「このくらい全然平気だ」と言っていたが、さすがに少し眠そうだった。

 前世を思い出して早々、雪崩のようにやってきた日頃のツケが(多分)一段落し。
 少し落ち着いてきたザラの頭に、ふと疑問が浮かんだ。

(そういえば……。ひどい食あたりだったとはいえ。わざわざ早馬でここへ報せたのは、誰なんだろう)

 覚えている限りでは、後見人の男爵は見舞いに来ていない。
 まさかそちらに早馬は行かなかったのか。それとも知らせを受けたうえで、捨て置かれたのか。

(……まぁそんなの今はいいか。アシュレイの様子を見ながら、明日までに事業計画をしっかり練り直さないとね)

「さんざんワガママ放題やって、前世では難しかった『開き直り』を習得したわ。この先どんなツケが回ってこようと、ウジウジしてる暇はない。前進あるのみ!」

 前途多難を感じながらも、ザラは気合いを入れてベッドを降りた。


   凹凹†凹凹


「やっぱあいつも雇うんだ」
「うん。アシュレイには最初から本契約をしてもらうことになったわ」

 アシュレイは命こそ取り留めたものの、実家にその存在を抹殺されている。
 つまり現役の住所不定無職だ。

(ちょっと強引な雇い方しちゃったかな。だけどいつか他にやりたい仕事が見つかったり、別の場所に行きたいと思った時に、まとまったお金があった方がいいものね)
(あと働くことで、もう少しまともな生活習慣に改善して。できればあの不穏なメンタル面も改善してもらいたいんだけど……)

 今まで人前に姿を現さなかったアシュレイ。どうやら一日のほとんどを牢獄塔で過ごしていたらしい。ダリルとエンドレは彼の存在にすら気付いていなかった。

 日常生活のあらゆること、食事にすら無頓着。ユージンが世話を焼いていなければとっくにどうにかなっていただろう。「餌やり」などと悪態をつきたくなるのも仕方ないかもしれない。あらゆる意味で生活破綻者である。

「ふーん。だったらなんで集合場所に来ないんだよ?」
「……まだ本調子じゃないから。しばらくの間、アシュレイの仕事は『食事・早寝早起き・体力づくり』よ」
「なにそれ。あいつだけずりぃ~~」

 ダリルが柔らかそうな頬を膨らませて不満をもらす。
 アシュレイ落下事件から一夜明け。集合場所である中庭にはいつものメンバーが顔をそろえていた。エンドレがおずおずと挙手する。

「あの~……それで、本日行う“最重要業務”とは一体何でしょうか」
「いい質問ですね」

 両手を腰にあて、三角巾の端をぴょこんと揺らしてザラが頷いた。

 今までの派手なドレス姿ではない。今後はドレスを着る機会は少なくなるだろう。
 今日のザラの服装は、使用人同様の質素な上下にエプロンをかけ、頭には三角巾、首元にはマスク代わりにもなるバンダナ。
 いくら汚れても構わない、動きやすさ第一のスタイルだ。

 事前に指示し、四人も普段より質を落とした服装で集まっていた。ユージン以外はそこらの村人とまではいかないものの、貴族感はうすれている。

「本日の最重要業務……それは!!『トイレ掃除』ですっ!!」
「「ええええ~~~??」」

 びしっと人差し指を空中につきつけて宣言するザラに、ダリルとエンドレがあからさまに顔をしかめた。

「なんでだよ!? もっと他にやるべきことがいろいろあんだろっ!?」
「最重要です。異論は認めません。なぜなら――【道の城】だから」
「「「「道の城??」」」」

 初めて聞く単語に四人がそろって首を傾げる。
 おおまかな事業計画は話したが、正式名称は昨日思いついたばかりだった。

 モデルは前世で何度か訪れた、道路沿いに建つあの地域振興系休憩施設だ。

「長時間の馬車の移動で疲れた人にとって、快適なトイレのある休憩場所は重宝するものよ。特に女性」

 以前、港へ向かう貴族一家が馬をかえるついでにトイレを借りにきたことがあった。
 夫人は笑顔でザラへ礼を言った。しかし立ち去り際、小声で「こんなところではとても暮らせないわ……」と呟いたのが聞こえてしまった。

 この城には単純なつくりの下水施設がある。だが汚水をそのまま川に流してしまうため、厨房以外は使用していない。

 トイレは城館の数ヶ所に、いわゆる汲み取り式に近いものを置いてあるのだが。前世日本のそれらと比べ、清潔感・衛生面ともにはるかに劣る。

(そのあたりの設備も、なるべく早くもっと良いものにリフォームしなきゃ。工事資金を稼ぐためにも、サクサク事業を軌道に乗せなきゃで……)

 先行きの厳しさに思わず沈みそうになる心を叱咤し、ザラがローズピンクの瞳に強い光をともらせた。それから威勢よく腕まくりをする。

「トイレ掃除が終わったら、館内全体を清掃します。それでは皆さん、元気にキリキリ働きましょう」
「だからそんなん、使用人を雇ってやらせれば……」
「うちにそんな余裕はありません」
「野生動物みたいな金の扱い方するからだろっ!?」
「今は心を入れ替えましたので」

「……おねだりまでやめる必要なくない? むしろ特技と誇っていいんだぜ?」
「おねだりの仕方を忘れました」
「だったらぼくが思い出させてあげるよぉ~★ ほらぁザラ様、まずはいつものギラついたドレスに着替えて……★」
「周囲に混乱をもたらすので、勤務時間中のビジネスショタ化は控えてください」
「ビジネスショタってなんだよ!!? 【道の城】とか謎のネーミングセンス含め、あんたが誰よりも混乱をもたらしてるっつの!!!」

「……まさか、人格をまるごと変えてしまう魔法なんて……」
「使えるわけがないだろう。私の知る限り、そのような邪法は存在しない」
「ですよねー」

「わけがわからんが。いい変化なんじゃないのか? なんか楽しそうだし」
「良し悪しを論点とするなら、そうなんでしょうけど」

 小動物同士の小競り合いめいた様相のザラたちを、のんびり眺めるユージン。あいまいな返事をするエンドレ。

「本当におかしな女だ……」

 ヘルムートのごく小さな呟きを拾った二人が、同時に大きく頷いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...