公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

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chapter2__城、始動

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 大陸のおよそ西半分を治める大国・リンネバルト王国。

 現在は平和を享受しているが。かつては『魔人』の脅威にさらされていた。

 神出鬼没の彼らは『魔王の眷属』を名乗り、魔物を従え、強力な魔法を操り人々を苦しめた。
 中でも『常闇の王』と呼ばれる存在は、同じ魔人たちすら恐れるほどの力を持っていたとされる。

 二千年前に封じられた魔王の復活をもくろんだ彼らが、およそ千年前、勇者たちの活躍で闇の世界へ追い返されると。
 その『道』は強力な封印によって、かたく閉ざされたのだった――。


(まさか魔法にとどまらず、魔王だの勇者だのが存在する世界だったなんてね~)

(魔王や魔人の脅威が去ったら、結局人間同士で戦争やったりもしているみたいだし。そういうところは悪い意味で前世の世界と大差ないかな)

(――それにしても、)


「(異世界の)文字、難しい~~」

 握った細い木炭から指を放す。
 子供向けの歴史書と、その内容を書き写していたノート代わりの木の板を脇へずらすと、ザラが机に突っ伏した。

(リスキリング、いわゆる学び直し。って張りきって、隙間時間にエンドレに家庭教師をお願いしたものの。今までのだらけた生活の反動か、疲労感がはんぱない……)

「短い時間でみるみる上達していますよ」

 ぐったりするザラへ、エンドレが爽やかな笑顔をみせる。
 彼には読み書きや、経営に関する知識などを教授してもらう代わり、トイレ掃除を免除した。この条件にダリルから激しいブーイングを受けたが、無視した。

「地方の役所で働けるほどです。正直驚きました」
「一応、孤児院で基礎を習っていたから……」
(実質的なことはほとんど習わなかったけど。お金の管理方法とか)

「7歳でここまで習得しておられたなんて。ザラ嬢は孤児院の幹部候補と見込まれていたのでしょうね」

 おだてられ、机に片頬をつけたまま苦笑する。

「まわりとうまくいかなかっただけよ。他の子たちが遊んでいる暇な時間を、勉強で埋めていただけ」 

(あの頃はまだ、ワガママ三昧してなかったはずなのに。態度や言動が悪くなくても他人とうまくいかないって、地味にへこむなぁ)
(……そういえば前世の職場でも、「まだ1年目だし!」って自分に言い聞かせてたっけ。……あれ? コミュ力に難ありの経営者って、先行き不安すぎない??)

 忘れてもいいような内容に限って思い出せてしまう。心で自嘲していると、

「少年たちはあなたに憧れて、おいそれと声をかけられなかったのでしょう。少女たちの方はおそらく嫉妬でしょうね」
「はあ? 憧れ? このあたしに??」
「少し前なら、僕もこんな推測はしなかったかもしれませんが。今の勤勉なザラ嬢を見ていれば、自然にそう思います」

 柔和な表情をにわかに引きしめ、ザラを見つめる。

「あなたには特別な魅力……不思議な引力がある。気安く触れることの許されない、わけもなく畏れを抱かせるような……」
「……エンドレ?」

 真剣な瞳に見すえられ、戸惑っていると、

「おらぁー邪魔するぜー」

 ドアを足で蹴り、ダリルが部屋に入ってきた。
 顔を上げたザラの前、机にバン!と手をつく。手の下には大きめの紙が広げられ、そこには細かな図面が描かれていた。

「頼まれてた、城のざっくり見取り図。大仕事したんだから当然トイレ掃除、」
「免除しません」
「ざけんな! ……ぼくのしらうおのよーな指が荒れちゃうよぉ。ピアノの演奏にも支障が出ちゃうしぃ」
「残念ながらまだ、演奏を披露してもらう場がないので……」
「なー、他は置いて先に始めようぜ。メインホールで高級ダイニング!! 女性客はヘルムートに酌させたり、客べろべろに酔わせてみんなで高級酒コールしたりさ~」

 2階のメインホールはこれまでサロン会場として使用していた。
 他の場所は放ってきらびやかに整えられ、ピアノやシャンデリア、テーブルセットもある。そこだけならすぐにでも、貴族相手の食事処にもできそうな空間だ。

「その手の夜の店すぎる営業はコンセプト違いですよ。ね、ザラ嬢」
「です」
「んだよ。こんなヘンピな場所、それくらいインパクトのある何かやんなきゃ経営成り立たねーだろ」

 呆れ顔のエンドレにザラが同意すると、ダリルが舌打ちする。

「ダリルの言い分も一理あると思う。でもあたしは、そういうガツガツした雰囲気にはしたくないわ。来た人がほっとできて、ゆったり過ごせる安心感というか」
「都会との差別化をはかれて、僕もいいと思います」
「そうよね! 田舎も個性の一つ。どうせならその空気感を最大限活用して……」
「あ~~ハイハイ。わかったわかった。ほら、行くぞ」

 ダリルが肩をすくめた。それから笑顔で語りだすのを遮り、机の上の手をとる。
 ザラを席から立たせると、片手を繋いだまま一緒に部屋を出た。

「ちょっと、ダリル?」
「こんな夜更けまで慣れない勉強なんかして。もし雇い主にぶっ倒れられたら、オレらが迷惑すんの」
「このくらい平気よ。体調管理も怠らないようにするわ」
「……なんでそんなに危機感ないんだよ」

 ぼそっと呟かれた言葉に小首を傾げる。
 ダリルが廊下の途中、ザラの自室の前で足を止めた。
 手を離さないまま、窓からさす月明りに照らされた天使のような顔が、にやりと口の端を上げた。

「知ってるか? ここの最後の城主、『常闇の王』じゃないかって言われてたんだ」
「えっっ!!?」

 イゼルラント領に併合される直前の話らしい。ダリルがにやにやして続ける。

「凶悪な魔法の使い手で、人の生き血をすすってたって噂まであるんだぜ。若い娘の血はきっと大好物だろーな。最後は非業の死を遂げたとされてるが。……もし本当に最強の魔人なら、600年たった今もどこかで、この城を奪還しようと狙ってるのかもしれねーなぁ……」

「う、噂でしょ? 長い時間の中で、誇張されて伝わったりするよね」
「さぁ、どうだろ。他にもいろいろ血生臭い伝説があったような……聞きたい?」
「……もうこんな時間だし、明日も早いし。遠慮しておくわ」
「あっそ」

 手を放したダリルが、その指先をザラの目の前につきつけた。

「コワーイ魔人に襲われたくなかったら。さっさと部屋に鍵をとりつけろよ」

 神妙な顔でザラはコクリと頷いた。

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