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chapter2__城、始動
馬の耳に嵐(3)
しおりを挟む「さすがダリル。急に頼んだのにこのクオリティ、世が世なら神絵師と呼ばれ、万を超えるファンがついても不思議じゃない」
「よくわかんねー褒め方すんな。てかこっちはまだわかるけど、最後の1個……」
「それじゃ、出番まで指あっためておいてね!」
「聞けよ!!」
「ザラ嬢」
「どうしたの戦犯」
「そろそろ戦犯扱いお許しいただけませんか……。厨房を覗いたのですが、味はともかくメインのボリュームに難がありまして」
「時間が足りなかったもの、仕方ないわ。盛りつけを工夫できる?」
「そのつもりです。しかし相手が貴族であれば“上品”で通せても、こちらの方々に通用するかは賭けですね」
「うーん……そうだ! いっそ、こういうのはどうかな?」
「! それなら今日のコンセプトにも合いますね。やってみましょう」
「よろしく!」
「ザラ。これ……」
「アシュレイ?」
「牢獄塔の地下で見つけたヴィンテージワイン。たぶん昔誰かが隠した、60年物」
「え゛……」
「もう1本あったから飲んでみたけど、美味しかったよ」
「飲んだのっ!?」
「うん。お腹も痛くない」
「……しばらく様子を見て、安全そうなら提供してみましょうか」
「それじゃ行ってくる」
「頼んだわね」
「なんなら“カラオケ”に馬車を引かせたら、派手でよくないか?」
「どちらかというと威圧感の方が勝りそうだから……」
「そーか? 格好いいと思うんだけどなぁ」
(超絶暴れ馬を手懐けてるユージンを格好いいと思われたら、計画が破綻するので)
「あ、いたいたヘルムート」
「なんだ」
「できればあなたにも協力してほしいの。この役なんだけど」
「……!?」
「他に適役がいなくて……やっぱり、ダメ?」
「…………わかった。だが質に期待はするな」
「ありがとう! こっちでフォローするしフリだけで、自然体で大丈夫だから!」
「……(私の能力を超えた注文だ……)」
1階、厨房前廊下。
(……来た! 今夜の主賓が到着よ)
茜色に染まりはじめる窓の外を眺めていたザラが、城門をくぐる馬車を確認し、集まった面々へ向き直る。
「それでは皆さん、配置についてください。――このミッションは【道の城】の今後を左右する最初の分水嶺。必ず成功させましょう!!」
「「「おおー!!!」」」「わ~」「……」
案外ノリのいいダリル、エンドレ、イアン。ふわっと返事をするアシュレイ。
厨房へ戻っていくイアンを見送ると、
「……で。なんで隠さなきゃいけねーんだよ」
厚手の紙で作られた馬の面をつけ、ダリルがぼやいた。さきほど彼の手で作成したものだ。ザラとイアン以外の全員分用意されている。
「本日、顔がつよい皆さんには黒子に徹していただきます。シンデレラコンプレックスをナメてはいけません」
「特に戦犯の僕は、顔出しすると面倒なことになりそうですしね……」
「話が早くて助かります」
「これ、視界がちょっとだけ悪くなる。落ち着く……」
「アシュレイ、階段を上り下りする時は面倒がらずに外すのよ」
「はーい」
「心配性の母親か」
「……もしこの“乱痴気騒ぎ”で失敗したら、目も当てられないな」
一人だけ様子の異なる面をつけたヘルムートの呟きは、熱気に満ちた騒がしさの中にかき消された。
凹凹†凹凹
2階、メインホール。
入口付近にて。ザラと馬の面をつけたエンドレにそれぞれ先導されていた二人が、互いの姿を視界に入れると、足を止めて息を呑んだ。
「ココ……!?」
「デニー……!?」
大きく目をみはり、ぼうっと見つめあう。
ココはザラのドレス。デニーはエンドレの服。
城へ着いてすぐ、二人はザラに(やや強引に)案内された部屋で着替え、貴族風に身なりを整えたのだった。
(非日常感の演出、まずは成功ね)
心で拳を握りしめ、二人をそっとホールの中央へ促す。
二人が席に腰を落ちつけた。するとやわらかいメロディが部屋に流れる。ダリルのピアノ演奏だ。
軽やかな甘い旋律。互いの姿に釘付けの二人の間にも、甘い空気が漂いだした。
(いい仕事してる~。こないだ楽しみにとっておいたビーフジャーキーを盗み食いした件は、大目にみるか……)
「招待状を手渡された時は、どんな目に遭わされんのかと思ったけどよ。意外と悪くねぇな」
「そうね。貴族のお嬢様ってもっと怖い人かと思い込んでたわ。このお城も、ピアノも本当に素敵」
「まぁその……ドレス姿も、わ、悪くねぇぜ」
「……デニー。あなたもその服、案外似合ってるわよ」
「案外ってなんだよ」
「うふふ」
(よしよし。いい雰囲気を壊さないように、前菜はさらっと終わらせよう。説明もいらないわ、たぶん聞いてないだろうし)
ザラの指示で、エンドレ(馬の面でココには気付かれていない)が手際よく給仕をこなす。
その間、ココとデニーは幼い頃の思い出話に花を咲かせているようだった。
村の少年たちと一緒にこの城に忍び込み、あとで大人からこっぴどく叱られた話に、ココが丸顔をほころばせる。デニーがさらに身振り手振りを大げさにすれば、声を立てて笑った。
「あ~、おかしい……っとと。せっかく綺麗なドレスを借りてるのに、田舎者丸だしのバカ笑いしちゃった」
「べつにいーだろ。気取った服を着たところで、おれたちの中身はしょせん……、」
「お待たせいたしました。メインディッシュの『蹄鉄サンド』でございます」
目の前に置かれた、U字型の料理の存在感に二人がぽかんと口を開けた。
(挟んだ肉のボリュームはそこそこでも、野菜やチーズで高さを出して、パンの形で変化をつける。エンドレ監修の彩りも上品でいい感じ)
(料理自体は庶民的だけど。今夜のコンセプトは……、)
「あれ? ナイフとフォークがない?」
「こちらは手で掴んでお召し上がりください」
「いいのかよ??」
「はい。是非どうぞ」
「……どんなにいい服を着ても、あたしたちは田舎者。お上品な食べ方なんて不釣り合いか。マナーもろくに知らないしね」
(しまった~~! 庶民食で、シンデレラ状態に水を差す結果に!?)
ぽつりとこぼしたココを、馬の面が少しの間じっと見つめ、
「失礼ですが、お客様は誤解をなさっています。この料理は『幸運を呼び、不運を振り落とす』といわれる馬蹄がモチーフ。お二人の築くご家庭が円満となるよう、作らせていただいたものです」
エンドレが二つのUの字の上部を交互に指差した。
それから二人に清潔なテーブルナプキンを差しだす。
「ここを合わせてみてください。円になりますでしょう。つまり力を合わせて呼び込んだ幸運を、お二人で分かちあっていただこう、と」
「お、おう……こうか?」
「あはは。ちょっといびつなだ円ね」
互いに蹄鉄サンドを手にとると、それをテーブルの上で合わせる。
笑顔の戻ったココに、馬の目が微笑んだ。
「堅苦しいテーブルマナーで幸せの器を細切れにするのではなく。ガブッとひといきに、仲良く楽しく味わっていただきたい。それが我が城主の願いでございます」
「そうだったんだ……。勘違いしてごめんなさい」
「へへっ。だったら幸運を逃がさないように、思いきりかぶりついてやらなきゃな」
(ナイスアシスト戦犯……いいえ、解説のエンドレさん。『姫気分なのに肩肘張らない、実家のような安心感。』コンセプト発案者のあたしまで「そうだったんだ……」ってちょっと感動しちゃった)
手をとめて様子をうかがっていたダリルが演奏を再開した。
「あ、この曲知ってる。何だったかしら」
「ん? たしか、子牛のなんちゃら……」
「違うわよ……思い出した、『子馬のワルツ』!」
(よっしゃ! この調子で最後まで駆け抜けるわよ~!!)
緊張を解いて料理にかぶりつく二人の表情を、入口からこっそり確認し。
ザラは戻ってくるエンドレとすれ違いざま、静かにハイタッチを交わした。
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