公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

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chapter2__城、始動

馬の耳に嵐(4)

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 明るい雰囲気のなか、おしゃべりを弾ませる幼なじみ。
 それを孫を見守るような目で眺めていたザラだったが……。

(ああ~~。エンドレに手伝わせてるけど、やっぱりデザートが遅れてる。イアンはまだ見習いだったせいか、デザート系は不得意なのよね)
(こうなったら。よい大人は絶対真似しちゃいけません案件……っ!)

 廊下を振り返り、壁際に待機していたアシュレイに目配せする。
 馬の面が頷き、メインホールに入った。静かに二人のテーブルの傍に立つ。

「こちらは60年物のヴィンテージになります。いかがでしょうか」
「高そうなワインだな~。本当にタダで飲んでいいのかよ?」
「もちろんです」
「……うおぉっ!? なんだこれ、めちゃくちゃうんめええ!!」
「じゃああたしも、少しだけいただこうかな?」
「はい、……っ!」
(あ……っっ!?)

 ココの方へ向き直ったアシュレイが、ぐらりと傾いた。
 見れば足元には使用後のテーブルナプキン。どうやら二人のどちらかが気付かず床に落としてしまったらしい。
 それを片足で引っかけ、つまずいた。

(運、悪ーっっっ!!! まずい、ワインが!!?)

 なんとか転ばず踏みとどまったものの。
 抱えたボトルの口からあふれ出た液体が、グラスを差しだすココに降りかかる、その瞬間――。

「きゃっ!?」

 ガタン、と大きな音。それから小さな悲鳴が響いた。
 椅子を倒して立ち上がったココが、グラスを持つ手をぴんと伸ばし、立ち尽くす。
 その中には、彼女にかかると思われたワインが見事に収まっていた。

「――え?? え???」

 だが神業ともいえるナイスキャッチに一番驚いたのは本人らしい。
 怯えのにじむ顔でグラスを置き、あたりを見回す。
 皆がココに注目するなか、部屋の片隅でかすかな咳払いがしたかと思うと。

 突如、シャンデリアの明かりや照明が一瞬にしてかき消えた。

「うわっ!?」
「きゃあっ!? な、なに!?」

 いきなり訪れた闇に、ココとデニーが慌てふためく。
 はじめは一緒に驚くザラだったが。犯人の意図を察し、その場に踏みとどまった。

(こぼれたワインがココにかかるのを、しまったせいで……)

 部屋の窓際、床までとどくカーテンを翻し。忽然と青年が現れた。
 彼も馬の面を装着している。だが他の四人とは異なり、顔のほとんどを覆う兜をつけ、目を真っ赤に血走らせた恐ろしげな軍馬の絵柄だ。

 二人の方へ歩いていきながら、すっと片手を上げる。
 するとテーブルの中央に飾られていた花が光を灯した。再び悲鳴が上がる。
 淡い光にぼんやり照らしだされた軍馬が、低い声で名乗った。

「――私は『常闇の王』――」

(予定にないタイミング&演出ひっさげて登場したあーーー!!!?)

「あいつやってんな」
 魔法を見たダリルがぼそっと呟く。すぐさま頭を切り替えたザラは、怪現象と怪人物に目を白黒させる二人へ声を張り上げた。

「なんということでしょう!? 常闇の王が600年の眠りから目覚めてしまったようです! どうかお二人の力をお貸しください!」
「はっ!? ち、力って、どうすりゃいいんだよ!?」
「“愛”です! 冷酷な魔人は尊い愛を目の当たりにすると、精神にゲシュタルト崩壊的なダメージを受けてわけわかんなくなって滅びるはず!!」
「まじでわけわかんねーぞ! そんな設定で大丈夫か!?」
「さぁデニーさん、プロポーズです!! 熱くたぎるプロポーズで、ココさんへの深い愛を見せつけてくださいませっ!!」

 ダリルを無視して煽ると、震えるココの肩を抱いたデニーの顔に決意が浮かんだ。

「……お前が『レース早編み全国大会(※決勝戦開催地:王都)』で優勝した時から、都会で手仕事しながら暮らすことに憧れてるのは知ってる」
(おお。なんかすごそうな特技の持ち主だった)

 恐怖を張りつけていた表情を変え、ココが気まずそうに俯いた。
 そんな彼女を正面からひたと見すえ、続ける。

「おれと結婚したら一生村から出られないと思ってんだろ。んで都会者にちょっと口説かれたらその気になっちまって。前から思ってたけどお前、思い込み激しいぞ」
「なっ!? ……思い込み激しくて悪かったわね」
「こんなやべー城に住みついて、田舎者を招待する酔狂な都会者がいるように。好きな時に好きに都会へ行けばいい。そんな自由な田舎者がいたっていいだろ」

 そう言うとココの手をとり、ポケットから取りだした物をその指にはめた。
 中央にパールのような立体的な装飾がついた指輪だ。

「シャンクボタン。糸を通す脚を潰し、指輪にろう接したのか」
「かわいいね」
「どれどれ。へえ……原価安そうなわりには、悪くないじゃん」

 常闇の王が解説を入れた。近寄ってきたダリルとアシュレイが指輪を褒める。
 装飾的なボタンをろう接、いわゆるハンダ付けした手作り品のようだ。

「前に荷を積み出しに行った奴から聞いたんだ。最近こういうのが都会の娘たちの間で流行ってるんだと。安いのに見栄えがいいって」
(プチプラってやつ? どこの世界の女子も、オシャレ好きさんが多いんだね~)

 ココがまじまじ自分の指を見つめる。
 夜目がきくザラには、その瞳がキラキラと輝きだすのがわかった。

「今、カインじいさんに弟子入りしてろう接の修行してんだ。もっと上手くなったらこういうのをいろいろ作って、お前のレースと一緒に王都へ売りに行こうぜ。ついでに観光したりさ」
「デニー……」
「ココ。結婚しよう」


「――……はい!!!」


 デニーがココをしっかり抱きしめた。
 ザラ、ダリル、アシュレイが拍手を送る。いつの間にかザラの傍で様子を見ていたユージンが口笛を吹く。

 晴れやかな祝福の余韻が、少しずつ落ち着きを取り戻していくと。
 全員の視線がクールに二人を見守る常闇の王に注がれた。

「…………うっ」

「こちらは『無事精神崩壊して滅びそうだよのポーズ』です。たぶん」
「大根なんだよなぁ」
「これどんな状況ですか」
「おう、エンドレ。プロポーズが成功したら、無事ヘルムートが崩壊した」
「どんな状況ですか?」

(こういう演技、苦手そうなの知ってて無茶振りしてごめん。お疲れ様……)

 ぎこちなく膝をついて呻いたヘルムートを、ザラは心でねぎらった。

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