公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

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chapter2__城、始動

馬の耳に嵐(6)

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 ――数分前。ザラの部屋にて――

「……よし、だいたいの形はできた。これ借りるよ」
「あ、どうぞ」

 ハサミをエプロンにしまい、今度は携帯ソーイングセットをとりだすジャンヌ。
 部屋を見回し、裁断したドレスをトルソー代わりのポールハンガーにかけると。

「はっっっや!!!!」

 目にも止まらぬ速さでドレスを縫い始めた。ザラが思わず声を上げる。
 どうやら嫌がらせ目的だけで、無軌道に切り裂いていたのではなかったらしい。

 彼女の頭の中には確固たる完成図があるようだ。
 迷いなく手を動かしてドレスを少しずつ様変わりさせ、切り落とした布でさまざまな装飾を作っては、本体に縫い付けていく。

(ココはレース早編み大会で優勝したらしいし、デニーも手先が器用みたいだけど。この高速ソーイングは別次元だわ……!!)
 驚くザラへジャンヌが得意げに、だがどこか哀愁漂う微笑みをみせる。

「こんな娯楽もなんもない田舎はねぇ……、暇なのさ。農閑期が」

(なるほど。農作業がストップする冬の間、家で手仕事がはかどるわけね)

 この半島は冬も比較的温暖で、街道が雪で閉ざされることはめったにない。
 それでも馬車の交通量は減る。ここは駅として必須の位置付けでもないため、アルベルゾ村同様、冬季はトロット家も閑散期らしい。

 それにしても並外れた早業だ。ジャンヌには抜きんでた才能があるようだが……。

(すごい、あっという間に完成間近!)
「……あんた、本当にこれを着る勇気があるのかい?」
(たしかにこんなドレスは今まで見たことないわ――

 ドレスから目を離さないジャンヌの質問に、少し考える。

「んん~~。実際、ある種の勇気は必要かもしれないけど……、」
「あたしに似合いそう。試着するのがとっても楽しみ!」

 軽やかなその言葉が耳を激しく打ったかのように。
 勢いよく振り向いたジャンヌが、目と口を大きく開いてザラを見つめた。


   凹凹†凹凹


 二タニタするジャンヌの前の義妹天使――ザラに五人の視線が集中した。

 華やかなリボンやフリルがふんだんにあしらわれた、艶のある水色のドレス。
 センスよくデコレーションされた純白のレースが、あどけない天使感を演出する。

 しかし全体から受ける印象は、現代異世界人の感覚では奇抜としか言いようのない、かなりとんがったものであった。

 特にスカート丈。
 膝上、約10センチ。

 この国の女性の服装はくるぶし丈が一般的だ。どんなに短くても膝下。貴族も庶民もそれほど違いはない。

 そこをあえて大胆に、膝まるだし。
 手首まであった袖も当然カット。肩にかかる大きなフリルで、二の腕が半分くらい隠れる程度。
 ちなみに髪はジャンヌとおそろいのポニーテールだ。水色の大きなリボン飾りが愛らしさを強調している。

(いうなれば『アイドル衣装系ロリータ』って感じ?)

(まぁ実際、見るのはよくても自分が着るとなると気恥ずかしさは存在する。でも、けっこう似合ってると思うんだけど……)
(ジャンヌのために、ここは嘘でも褒めてほしいなぁ)

 無言のままの五人を見つめ返す。
 トロット家を取りこむための最重要人物。だがそういった思惑抜きで、なんとなく卑屈な自己評価をするジャンヌにもっと自信を持ってほしかった。

(世が世なら一部界隈で高く評価され、需要もあるデザイン。この世界では先駆者すぎて理解されにくいからって。実力あるアーティストの心を折らせはしない……!)

 決意すると。両手を胸の前で組み、ほんの少し首を傾げ、瞳を潤ませて。

「こんな“可愛い素敵な”ドレス、性格に問題あるワガママ娘には似合わない……?」

「「「「「…………!!!!!」」」」」
「はうっ!! 天使の上目遣い……っっ!!!」

 やっと男性陣が我に返った。(ジャンヌはその場にくずおれた。)

「べっ別に似合わなくはないけど!? あと足なんてぜんぜん見てないけど!?」
「ああ、似合ってるぞ!! リボンがでかいな!!」
「はじめて見るデザインで驚いたよ。すごくかわいい」
「この件で判断を求められても困るが……、おそらく似合っている……はずだ」

(ふう。これでなんとか「ドレス=素敵可愛い」の図式も成り立ったよね)
 慌てて言いつのった感想に、ひとまず安堵するも。

(……どうしたのエンドレ、真っ先に褒めてくれると思ったのに。またジャンヌの気分を害するようなら、永遠に戦犯と呼ぶわよ)

 無言を貫く最後の一人を、あざとい演技を必死で保ちながら見つめると。

「ジャンヌ。あなたがこのドレスを作ったんですね」
「そうだけど……」
(ヒエ……)

 ついに口を開いたエンドレが、鋭い視線を投げた。
 妙な気迫のこもった瞳に、思わずたじろぐジャンヌ(とザラ)。

「なっなにさ! どうせ田舎者はセンス悪いとか、下品だとか言う気だ……」
「――天才ですか???」
「へ???」
(ヒエ……)

「天使の名にふさわしい清楚な色調。可憐さを引き立てるデコレーション。どこか危ういいとけなさと、聖女のごとき神聖な空気感の絶妙なバランス。15歳の少女の美しさを幻想的に表現する、計算され尽くしたデザイン……!!」

「極めつけは完璧なスカート丈ッッ!!! まさしく見る完全栄養食!! この偶像崇拝を止められる者などこの世に存在しないと断言できますっ!!」

「……っ!!!」
(め、目が本気すぎて怖っ……じゃなくてありがとうエンドレ! あらぶる大絶賛で、ジャンヌの瞳がどんどん自信に満ちあふれていく)

 やんわりと周囲が引くのも構わず、真剣なまなざしのエンドレがジャンヌの前でうやうやしく片膝をついた。

「あなたの才能に心から敬服いたします、ジャンヌ先生」
「先生だなんて……」
「どうかそう呼ばせてください。そしてこれからも神作品を生み出していただきたい。ザラ嬢には小悪魔コンセプトなんかも絶対似合いますよね」
「! 実はもう構想はあって、瞳の色に合わせたバラをモチーフに……」
「最高ですね! ローズピンクと黒のコントラストにワクワクが止まりません~~」

(わあ……和解通りこして急速に仲良くなってるぅー……)

 訪れた大団円(?)を遠い目で喜ぶザラへ、瞳を輝かせたジャンヌがもじもじしながら再び要求を出す。

「その……。これからも時々、アタシの作った服を着てもらえるかな?」
「ハイよろこんで」
「ありがとうありがとう……!!!」

「要求する“特権”が予想外すぎる……」

 ヘルムートの呟きは、快諾するザラを拝みはじめたジャンヌの耳を素通りした。

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