公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

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chapter2__城、始動

意外な才能

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「……どう思う?」
「限りなくクロに近いグレーですね……」
「シロだろ。へんな下心がある感じはしねーぞ」
「今までのガラ悪い連中とは違うさ。だが下心自体はあるとみた」
「問題はどの程度の積極性があるかですが……」
「人のよさそうな奴に見えるけどなー」
「そういうひとほど豹変したりしますからねぇ」

「……なんの話だ」
「んーと。あの郵便屋さん」

 1階、厨房前廊下。
 真剣な顔を寄せ合い、三人がひそひそと話し合う。
 そこへ合流した怪訝そうなヘルムートに、アシュレイが窓の外を指差した。

 城門を入ってすぐの中庭に一台の馬車が停まっている。駅の利用客ではなく郵便馬車だ。
 その前で郵便屋の青年とザラが立ち話をしていた。

「このところ郵便馬車が立ち寄る回数が増えてるだろう。それもきまって彼が。ザラに気があるんじゃないか、って心配してるみたい」
「くだらないな……」
「くだらなくありませんよ。今のザラ嬢の魅力は隠しきれるものではない。じわじわと隠れファンを増やしてしまっているんです。このままでは美少女城主の噂を聞きつけ、彼女目当ての訪問者が現れても不思議じゃありません」
「たしかに、くだらないと一蹴しがたい話だ」

 呆れ顔だったヘルムートがにわかに思案げになる。

「だめだよヘルムート。どんなに集客力があっても、あの短いスカート姿を彼女目当ての者に晒すのは危険だ」
「……案外まともな意見も言うんだな」

 考えを察して先回りしたアシュレイに、ヘルムートが本音を返す。

「ザラは命の恩人だから。無価値で無意味な命だとしても。一応感謝してるんだよ」
「そういう言い方ザラにはするなよ。……ま、自力で飯食いにくるようになっただけマシか」

 にこにこ言うアシュレイ。ユージンがため息まじりに呟いた。

「みんなお待たせ。郵便屋さんに頼んでみたら、うちの宣伝ポスターを彼の担当範囲の街角に貼ってもらえることになったわ。しかも報酬はいらないって! すっごくいい人でよかった~!」
「「「「……」」」」」
「よかったね、ザラ。じゃあ朝食にしようか」
「うん!」

 純粋に喜ぶその後ろで。今度は「クロと断定」「今後の対策を……」「豹変した時はボコる」「低リスクで集客に繋げる方法は……」と盛り上がる四人を、ザラが一度だけ不思議そうに振り返った。


   凹凹†凹凹


 3階には、鍵付きの部屋(暫定金庫部屋)を合わせて8つの部屋がある。
 城主とその家族が使っていたであろう広めの部屋が4つ。客室らしい部屋が2つ。残りは書斎らしき部屋と金庫部屋だ。

 かつてはそれらの部屋にも錠前がついていた。だが激しい戦闘があったようだ。
 最初にザラが訪れた時、城内の扉の多くが壊され、使い物にならない状態だった。
 そこでイゼルラント家に支払いを押し付けて呼んだ工匠に修復させたところ、鍵のないものが取りつけられたのだった。

(で。さすがに誰もが使うのを避けた、戦闘の爪痕が残る部屋もあったりして……)

「落ちない壁の汚れやシミに、オレが上から絵を描いて隠す。トイレ掃除免除で喜んで引き受けたけどよ。これどんなに早描きしても数日かかるぞ」
「それにこの部屋だけ絵があるのも少し不自然といいますか……」
「他の部屋までやれっての? 同じ絵ばっかり描き続けんのだりぃ~そんなに集中力続かねぇよ~」
「しかしある程度の統一感は必要だと思います。ですよね、ザラ嬢」
「う~~ん……」

 壁に筆を走らせながらブツブツもらすダリル。エンドレがザラを振り返った。

(どっちの言い分もわかる……。ダリルはピアノほど絵を描くことに興味がないようだし、この広い部屋の壁を絵で埋める作業は誰でもくたびれるよね。ただ、一部屋だけ壁画っていうのも統一感に欠けるのは事実)

 考えあぐねているなか。追加の画材を運んできたアシュレイが悩むザラを見た後、ダリルの描いた絵をじっと眺め。
 画材を持ったまま部屋を出る。少しすると入口から顔をのぞかせた。
 それから手招きされたザラが一緒に隣の部屋へ入ると。

「えっ!? コピペ!?」
「こぴぺ??」
「あ、いやその……これ、ダリルの絵そっくりそのままだけど。まさか、」
「うん。彼の絵を見て、僕が描いた」
(ちらっと見ただけなのに、短い間で完全に再現した……!??)

 壁にはダリルの描いたものと寸分違わない絵が描かれている。
 信じがたい現象に驚くザラへ、アシュレイが微笑んだ。

「自分で何かを創造するのは苦手なぶん、真似するだけなら得意なんだ。それに一度見たものや聞いたことは忘れない。忘れたくてもね」
(なんて並外れた記憶力……)

 隠し持っていた意外な特殊能力を語る、どこか儚げな笑顔をしばらく見つめ。

「アシュレイ。ここにいてくれてありがとう」

 ザラの口からそんな言葉が自然とこぼれた。
 アシュレイが何度も目を瞬かせる。
 いつもの死んだ魚の目に、ほんの少し戸惑うような、照れくさそうな感情が浮かんだ。

「困ったな。そんなふうに言われたら、もう牢獄塔の最上階の壁際でうたた寝できないね」
「なにその危険行為っ!?」
「晴れた夜は、星空がすごくきれいに見えるんだよ。今度ザラも一緒に、」
「きれいな星空はちょっとでも体勢崩したら即死の場所から見るもんじゃないのよ!!? 今後はその危険行為、絶対禁止ですっ!!」
「残念だなぁ……」

 そっとザラの片手をとるものの、あっさり振りほどかれる。
 誘いを断られたアシュレイが心から落胆した声をだした。

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