21 / 52
chapter2__城、始動
お客様第一号様(1)
しおりを挟む自由都市ビサイツィア。
イゼリア半島の南東に位置する大きな港町だ。
自由都市の名の通り、ここはイゼルラント領ではない。
かつて独立した国だったものがリンネバルト王国に併合された。半島内の他の陸地はイゼルラント公爵家の領地となったものの、この都市だけは規模の大きさ、有力家の支配力の強さから公爵家の手に余った。
そのため評議会が任命した総督のもと、自治を行っている。
貿易で繁栄した海洋国家。今もなお『イゼリア海の王女』と讃えられる水の都。
残念ながら、イゼリア半島中央部(道の城周辺)はここへの“素通り地点”。
馬をかえる必要がないなら立ち寄る理由もない田舎……そんな認識が一般的だ。
(逆に言えば、きっかけさえあればついでに立ち寄ってもらえる可能性はある。どうにかビサイツィアの知名度に乗っかって、この城を宣伝するには……ん??)
「ヘルムート? 何してるの?」
2階、東ホール。
中央に位置するメインホールの両側にはそれぞれ、今のところ物置と化している小ホールがある。西側ホールの方がやや広い。
これらは城の兵士の詰所のように使われていたらしく、武器や甲冑などの類が残されていた。ユージンがアシュレイの救出に使った長槍も壁に飾られている。
その東ホールの奥。壁を見ていたヘルムートが、入口のザラを振り返った。
「ああ……、いや。何でもない」
「??」
口ごもったあと、引き返してくるとそのままザラの横を通り過ぎる。
手には以前ダリルが作製した、城の見取り図が握られていた。
(以前に比べてかなり喋るようになったものの。相変わらず謎が多いなー)
(ただ意外と5人の中で一番、事業の運営にやる気がありそう。でも見限られたら一番、とりつく島もなく去っていきそう……。好きなものとか、引きとめられそうな要素が全然思いつかない)
(知識豊富で現実的なアイディア出しが得意。ぜひ本契約してほしい人材だけど)
「……って、先の心配してる場合じゃない。有能な人材がいるうちに、目の前の問題を一つでも多く解決しておかなきゃ」
小首を傾げて見送った後ろ姿を、宣伝方法を相談したいザラは慌てて追いかけた。
凹凹†凹凹
「こちらはノヴァ・リッチョ様。自分は側仕えのニコロっす」
馬車から降りた青年が気さくな笑顔で、豪華な座席に座る少年を片手で示す。
紹介された10歳くらいの少年が腕を組み、開け放たれたドアの先、城門前に迎えに出てきたザラたちをじろじろと見下ろした。
「リッチョ家。ビサイツィアの名門家の一つだ」
「貴族ではありませんが。ヘタな貴族より金も権力もある、大商人のご令息ですよ」
(ま、まじですか~~)
こそっとヘルムート、エンドレが耳打ちする。
突然の大物の訪問に、ザラは内心冷や汗をかきつつ笑顔で最敬礼した。
「いらっしゃいませリッチョ様。ご訪問いただきまことに光栄です」
「だろうな。この僕が来てやるなんて奇跡でしかない、ボロ城だもん」
(んっ……)
高飛車に言い放ち、ニコロの手を借りて馬車を降りる。
頭を下げた姿勢のまま、顔だけ向けたザラの前まで来ると、
「まー顔は悪くないけど。なんだよそのドレス! ダサいし似合ってないし。だいぶ前に流行りが終わった型落ち品じゃないか」
(うぐっ……! 子どもの正直な感想は時に凶器……!)
(仕方ないじゃない。手持ちの中ではこのベージュのドレスくらいしか、接客できる程度に落ち着いたデザインのものがないんだから)
見下すような目で言うノヴァ。
地味にダメージを受けるザラの隣にエンドレが進みでた。
「僭越ながらお客様。これはあえてでございます」
「お客様をおもてなしする我々が、最先端をまとってしゃしゃり出るわけにはまいりません。主人を立てるため、執事がわざと流行遅れの物を身につけるのと一緒です」
(ナイスフォロー、エンドレさん)
「ふんっ。そんなの言われなくてもわかってるよ」
顔をそむけて言うやいなや、一人でズカズカ城門をくぐっていく。
すると途中で厩舎に目を止め、方向転換した。後を追ってきたザラたちに横目を向けると、厩舎の窓から顔をだした一頭を指差す。
「あのクソでかい馬に乗せろ」
「お、お客様っ!??」
指を差されたカラオケが「ん?」と顔を向ける。
あわてふためくザラが再び頭を下げた。
「申し訳ございません。あれは砂窟馬という荒馬。危険ですので乗馬はご遠慮を」
「なんだよ、ここにいるってことは飼い馴らしたんだろ。いいから乗せろよ」
「大変申し訳ございませんが……」
「やだ。絶対乗る。の~せ~ろ~~!!」
「おお客様っ! どどどうかご遠慮くださいいっ!!」
ノヴァがザラの肩に両手をかけガクガク揺さぶる。完全に駄々っ子だ。
「わかったわかった。俺が二人乗りしてやるよ」
ノヴァをザラから引き離し、ユージンが苦笑する。
「おい筋肉ゴリラ。僕に少しでも怪我をさせたらこんなボロ城、二度と営業できなくなるからそのつもりでな」
「「…………」」
「あ~~すいませんね。うちの坊ちゃんてば、ご覧の通り好奇心旺盛でして。こちらに興味津々みたいなんで、ひとつよろしくお願いします」
ふんぞり返ってユージンに指をつきつけるノヴァ。軽い調子でぺこりと一礼するニコロ。
((((((しょっぱなから厄介なのが来た……))))))
一同の心の声が見事にハモった。
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる