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chapter2__城、始動
そのままの君で
しおりを挟む「どした? 目がアシュレイ並に死んでんぞ」
「……あ、うん……ちょっと寝不足で……」
「僕の目ってこんな感じなんだ」
「正直、今日のザラ嬢の方が鮮度が落ちていますね」
(死んだ魚の目・鮮度対決で負けた……)
洗濯を終えて城館へ戻ってきたザラを見て、ダリルとエンドレが目配せする。
「今日は宿泊客もいねーし。ひと休みしようぜ」
「でもまだ掃除が……」
「そんなの後でいいですから」
二人になかば強引に連れられ、休憩室へ入ると。
テーブルに置かれた物に気付き、死んだ魚の目にかすかな光がともった。
「本当は最終日にするつもりだったけどな」
「景気づけにお酒の席をもうけながら、お渡ししようと思っていたんですよ」
宴会はこのまま開催する予定ですけどね、と付け足す。
そこにあったのは、サイン済みの二枚の紙。ダリルとエンドレの契約書だ。
元気のないザラを見て、試用期間終了日を待たずに提出することにしたようだ。
「二人とも、ありがとう!! これからもよろしくお願いします!!」
「こちらこそよろしくお願いいたします」
「乗りかかった船ってやつだ。当分は居座ってやんよ」
「よかったね、ザラ」
「うんっ!!」
「お? 契約書なら俺もサインしたぞ」
「予定より早いじゃないですか。ズルいですよ、俺も今すぐ提出します!」
「ええっ!? 二人も本契約してくれるのっ!?」
「……どこに驚く要素があんだ」
「まあまあ。目の鮮度が爆上がりしていますし、このタイミングで正解でしたね」
休憩室に顔をだしたユージンとイアンが、契約書を取りに引き返す。
喜びと安堵ですっかり回復した表情を、三人が満足げに眺めた。
契約書を胸に抱き、ほくほくするザラへアシュレイが笑顔で言う。
「あとはヘルムートがサインをすれば、全員残留だね」
「…………」
「あれ? ザラ?」
みるみる鎮火していく幸福感。
書類を手に戻ってきた二人も加え、突然の落ち込みぶりに皆が慌てる。
「おいまた目が死んだぞ!?」
「ああ……せっかく蘇った鮮度が、透明感ゼロの濁り目に……」
「今夜はザラ様の好物を作ります、元気出してください!」
「心配するなよ。ヘルムートだってサインするにきまってるさ」
「…………ん」
ユージンにあやすように頭を撫でられ、口ごもる。
(残念ながら。本契約どころか、社会的抹殺を検討されてもおかしくない事案を発生させましたので。絶対無理……)
(なんであんなことを……。前世の記憶と一緒に、実は隠し持っていた『イケメンの指をペロペロしたい性癖』まで目覚めた……とかだったらどうしよう)
昨夜の無自覚かつ無意識の行動を思い出して、身震いする。
それからの数日、ヘルムートに会うとすばやく両手を後ろに回し。(※セルフセクハラ対策)
いたたまれない気分を抱え、ザラはもの言いたげな視線から逃げまどう日々を過ごしたのだった。
凹凹†凹凹
――試用期間終了日――
朝、宿泊客を2組見送り。
昼、駅を利用しがてら昼食をとった客3組を見送り。
夕、馬をかえて先を急ぐ馬車1台を見送り――。
夜。一日の業務を終えたメンバーたちが、寄せたテーブルの上に食べ物や飲み物を並べ、立食ふうの宴席をこしらえたメインホールに集まっていた。
「……ん? ザラはどこいった??」
「そういや最後の客を見送ってから見かけないな」
「ま、まさか誘拐っ……!? 今すぐ捜しにいきましょう!!」
「エンドレの姿もないが……」
「ま、まさか駆け落ちっ……!!?」
「落ち着いてイアン。ジャンヌもいないよ。もしかして……」
「待たせたねっ!!」
「ほらそこ、先生に道をお譲りして!」
「ジャンヌ!!(なんか面倒くさい付き人っぽくなってる)エンドレ!!」
バーン!という擬音が聞こえてきそうな二人の登場で、ざわめきの質が変化する。
期待に満ちた空気が漂うなか。「静粛に!」とエンドレが手を叩き、うやうやしい仕草でジャンヌに発言を促した。
「え~、タイトルは『ほろ酔い義妹のパーティーナイト ~道の城の愉快な仲間たちを添えて~』です。愛らしさはそのままに、オトナの色香をちょい足ししました」
「オレらは添え物か?」
「ガン見はギリセーフですがくれぐれもお手を触れないように。 ――野郎ども! 宴の始まりだあ~~!!!」
「エンドレもう酔ってる??」
拍手に包まれながら、ジャンヌの作品をまとったザラがホールに現れた。
紅紫のシンプルなドレスは、やはりミニ丈。
だが今回のスカートは後ろ半分がくるぶし丈のまま残され、フリルや装飾がふんだんにあしらわれている。
さらに背中が大きく開いており、バックスタイルを華やかに強調したデザインだ。
髪は落ち着いた夜会巻きふう。小花を散らした髪飾りが愛らしい。
つぎつぎ飛んでくる誉め言葉に照れ笑いを返し。ひざまずいて拝むイアンの隣で、一緒に拝みはじめたジャンヌとエンドレたちをどうにか立ち上がらせ。
グラスを手にした皆をぐるりと見渡してから、ザラが自分のグラスを持ち上げた。
「それでは【道の城】の発展を祈念し、乾杯!!!」
「「「「「「かんぱ~~い!!!」」」」」」
「乾杯」
(参加してるっっ)
グラスを掲げるヘルムートの姿を認め、内心驚くザラ。
(皆とつもる話をしたいのかな。送別会を開催するべきだったかも)
(……最後にもう一回、きちんと謝ろう。「このセクハラ女。私の傷口にお前の口内雑菌を送り込むテロ行為、絶対許さん」とか言われたらひたすら土下座しよう……)
宴もたけなわの騒がしいホールを抜け出すと、ヘルムートの部屋へ向かう。
すると部屋から出てきたところにばったり出くわした。
「丁度よかった。これを」
「ほえ…………えええぇぇっ!!?」
「驚きすぎだろう」
「だだ、だだだって!!!」
軽い調子で手渡された書類――サイン済みの契約書と目の前の顔を、ザラが何度も見比べた。
どこか手持ち無沙汰に腕を組み、ぼそっと返す。
「……いきなり驚かせるようなことをするのは、控えてもらいたいが」
「は、はい。その件につきましては大変申し訳なく。誠心誠意反省するとともに、徹底した再発防止につとめるべく……!」
「そこまで思い詰めるな」
わずかに苦笑すると。やや逡巡するような間のあと、菫の瞳がザラを見つめた。
「そのままの君でいればいい」
すぐに視線を外すと横を通り過ぎ、階段をのぼっていく。宴会場へ戻るらしい。
契約書を握りしめて、ザラは廊下に立ち尽くした。
(……えっ?? イケメンの指ペロするあたしのままでいい、と……??)
(いやだからそんな性癖ない!!! たぶん!!?)
口数の少ない彼なりの、「気にするな」という意思表示なのかもしれないが。
さらりと投げられた言葉の解釈に悩むザラの寝不足が改善されるまで、さらに数日を要すこととなった。
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