公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

文字の大きさ
28 / 52
chapter2__城、始動

そのままの君で

しおりを挟む


「どした? 目がアシュレイ並に死んでんぞ」
「……あ、うん……ちょっと寝不足で……」
「僕の目ってこんな感じなんだ」
「正直、今日のザラ嬢の方が鮮度が落ちていますね」

(死んだ魚の目・鮮度対決で負けた……)

 洗濯を終えて城館へ戻ってきたザラを見て、ダリルとエンドレが目配せする。

「今日は宿泊客もいねーし。ひと休みしようぜ」
「でもまだ掃除が……」
「そんなの後でいいですから」

 二人になかば強引に連れられ、休憩室へ入ると。
 テーブルに置かれた物に気付き、死んだ魚の目にかすかな光がともった。

「本当は最終日にするつもりだったけどな」
「景気づけにお酒の席をもうけながら、お渡ししようと思っていたんですよ」

 宴会はこのまま開催する予定ですけどね、と付け足す。
 そこにあったのは、サイン済みの二枚の紙。ダリルとエンドレの契約書だ。
 元気のないザラを見て、試用期間終了日を待たずに提出することにしたようだ。

「二人とも、ありがとう!! これからもよろしくお願いします!!」
「こちらこそよろしくお願いいたします」
「乗りかかった船ってやつだ。当分は居座ってやんよ」
「よかったね、ザラ」
「うんっ!!」

「お? 契約書なら俺もサインしたぞ」
「予定より早いじゃないですか。ズルいですよ、俺も今すぐ提出します!」
「ええっ!? 二人も本契約してくれるのっ!?」
「……どこに驚く要素があんだ」
「まあまあ。目の鮮度が爆上がりしていますし、このタイミングで正解でしたね」

 休憩室に顔をだしたユージンとイアンが、契約書を取りに引き返す。
 喜びと安堵ですっかり回復した表情を、三人が満足げに眺めた。

 契約書を胸に抱き、ほくほくするザラへアシュレイが笑顔で言う。

「あとはヘルムートがサインをすれば、全員残留だね」
「…………」
「あれ? ザラ?」

 みるみる鎮火していく幸福感。
 書類を手に戻ってきた二人も加え、突然の落ち込みぶりに皆が慌てる。

「おいまた目が死んだぞ!?」
「ああ……せっかく蘇った鮮度が、透明感ゼロの濁り目に……」
「今夜はザラ様の好物を作ります、元気出してください!」
「心配するなよ。ヘルムートだってサインするにきまってるさ」
「…………ん」

 ユージンにあやすように頭を撫でられ、口ごもる。

(残念ながら。本契約どころか、社会的抹殺を検討されてもおかしくない事案を発生させましたので。絶対無理……)

(なんであんなことを……。前世の記憶と一緒に、実は隠し持っていた『イケメンの指をペロペロしたい性癖』まで目覚めた……とかだったらどうしよう)

 昨夜の無自覚かつ無意識の行動を思い出して、身震いする。

 それからの数日、ヘルムートに会うとすばやく両手を後ろに回し。(※セルフセクハラ対策)
 いたたまれない気分を抱え、ザラはもの言いたげな視線から逃げまどう日々を過ごしたのだった。


   凹凹†凹凹


 ――試用期間終了日――

 朝、宿泊客を2組見送り。
 昼、駅を利用しがてら昼食をとった客3組を見送り。
 夕、馬をかえて先を急ぐ馬車1台を見送り――。

 夜。一日の業務を終えたメンバーたちが、寄せたテーブルの上に食べ物や飲み物を並べ、立食ふうの宴席をこしらえたメインホールに集まっていた。

「……ん? ザラはどこいった??」
「そういや最後の客を見送ってから見かけないな」
「ま、まさか誘拐っ……!? 今すぐ捜しにいきましょう!!」
「エンドレの姿もないが……」
「ま、まさか駆け落ちっ……!!?」
「落ち着いてイアン。ジャンヌもいないよ。もしかして……」

「待たせたねっ!!」
「ほらそこ、先生に道をお譲りして!」
「ジャンヌ!!(なんか面倒くさい付き人っぽくなってる)エンドレ!!」

 バーン!という擬音が聞こえてきそうな二人の登場で、ざわめきの質が変化する。
 期待に満ちた空気が漂うなか。「静粛に!」とエンドレが手を叩き、うやうやしい仕草でジャンヌに発言を促した。

「え~、タイトルは『ほろ酔い義妹のパーティーナイト ~道の城の愉快な仲間たちを添えて~』です。愛らしさはそのままに、オトナの色香をちょい足ししました」
「オレらは添え物か?」
「ガン見はギリセーフですがくれぐれもお手を触れないように。 ――野郎ども! 宴の始まりだあ~~!!!」
「エンドレもう酔ってる??」

 拍手に包まれながら、ジャンヌの作品をまとったザラがホールに現れた。

 紅紫のシンプルなドレスは、やはりミニ丈。
 だが今回のスカートは後ろ半分がくるぶし丈のまま残され、フリルや装飾がふんだんにあしらわれている。
 さらに背中が大きく開いており、バックスタイルを華やかに強調したデザインだ。
 髪は落ち着いた夜会巻きふう。小花を散らした髪飾りが愛らしい。

 つぎつぎ飛んでくる誉め言葉に照れ笑いを返し。ひざまずいて拝むイアンの隣で、一緒に拝みはじめたジャンヌとエンドレたちをどうにか立ち上がらせ。
 グラスを手にした皆をぐるりと見渡してから、ザラが自分のグラスを持ち上げた。

「それでは【道の城】の発展を祈念し、乾杯!!!」
「「「「「「かんぱ~~い!!!」」」」」」
「乾杯」
(参加してるっっ)

 グラスを掲げるヘルムートの姿を認め、内心驚くザラ。

(皆とつもる話をしたいのかな。送別会を開催するべきだったかも)
(……最後にもう一回、きちんと謝ろう。「このセクハラ女。私の傷口にお前の口内雑菌を送り込むテロ行為、絶対許さん」とか言われたらひたすら土下座しよう……)

 宴もたけなわの騒がしいホールを抜け出すと、ヘルムートの部屋へ向かう。
 すると部屋から出てきたところにばったり出くわした。

「丁度よかった。これを」
「ほえ…………えええぇぇっ!!?」
「驚きすぎだろう」
「だだ、だだだって!!!」

 軽い調子で手渡された書類――サイン済みの契約書と目の前の顔を、ザラが何度も見比べた。
 どこか手持ち無沙汰に腕を組み、ぼそっと返す。

「……いきなり驚かせるようなことをするのは、控えてもらいたいが」
「は、はい。その件につきましては大変申し訳なく。誠心誠意反省するとともに、徹底した再発防止につとめるべく……!」
「そこまで思い詰めるな」

 わずかに苦笑すると。やや逡巡するような間のあと、菫の瞳がザラを見つめた。


「そのままの君でいればいい」


 すぐに視線を外すと横を通り過ぎ、階段をのぼっていく。宴会場へ戻るらしい。
 契約書を握りしめて、ザラは廊下に立ち尽くした。

(……えっ?? イケメンの指ペロするあたしのままでいい、と……??)
(いやだからそんな性癖ない!!! たぶん!!?)

 口数の少ない彼なりの、「気にするな」という意思表示なのかもしれないが。

 さらりと投げられた言葉の解釈に悩むザラの寝不足が改善されるまで、さらに数日を要すこととなった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

処理中です...