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chapter3__城、営業中
パワハラVSワガママ(2)
しおりを挟む小鳥がさえずり、朝日が丘をゆっくり照らしはじめた頃。
「てめぇら、何を遊んでやがるっ!!!」
城の裏手に怒声が響き渡った。職人の男が徒弟たちと視線を交わすと、ヴィルゴの前に出てきて頭を下げる。
「へい。それが昨晩、ザラさんから追加で仕事の依頼がありまして」
「追加の依頼だと!? これだから傲慢貴族は……。まぁ金さえ払うならそれはそれでいい」
渋面で舌打ちする。それからギロリと部下を睨みつけた。
「だがお前らは何をぬくぬくと、手の込んだテントで焚き火なんぞしとるんだ!」
「へい。これは依頼された“新施設のトライアル”です」
「新施設のとらいあるぅ!??」
下水道工事の現場。その一角に、四本の柱を建て、大きな布で天井と三方を覆った簡易テントが設置されていた。
布は城の物置から引っぱりだしてきた古いタペストリーだ。素材は綿。敵に火をかけられることを想定し、過去の備品にはそこそこ耐火性のある物が多い。
テントの中央では、レンガを積み上げた焚き火台で薪を燃やしている。
コの字型のテント内には熱がこもり、徒弟たちは上半身裸で汗を拭っていた。
「こうやって汗が噴きでるほど暖かい『サウナ』という小屋を作るそうで。狭い部屋で火を焚くんでお客さんがぶっ倒れないよう、似たような状況をしっかり試し、安全に配慮して作るようにと」
屋内でストーブを焚くサウナの場合、最も気を付けるべきは一酸化炭素中毒だ。
ザラの指示を伝えると、ヴィルゴがますます苦虫を噛み潰した顔になった。
「……ちっ、面倒な注文つけやがって……。だったらその妙な小屋をさっさと作っちまえ。くれぐれも本来の工事に遅れを出すんじゃねぇぞ」
「「「「ういーす!!」」」」
水道施設のプロである彼らは、基礎的な建築技術も叩き込まれている。ある程度の大工仕事なら本職にも負けない腕前だ。
汗をかくほど体を温めた職人たちが元気に返事をする。
焚き火を消してサウナテントを出ると、ヴィルゴの視線を受けながら、明るい表情でキビキビと働きはじめた。
――数日後――
「てめぇら、何をやっとるかっ!!?」
早朝の工事現場に、またもやヴィルゴの怒声が響いた。
職人たちは完成したサウナ小屋(今は実質、四人の宿泊場所になっている。)の左右で二手に分かれ、地面に穴を掘っていた。
これらは下水道工事のためのものではない。一目で違和感に気付いた上司へ、作業の手を止めた職人が頭を下げた。
「へい。ザラさんからの追加依頼で」
「またか! 今度は何だ!?」
「この小屋の両側に、それぞれ男湯、女湯に分かれた大浴場を作れ、と」
「だっ大浴場おーー!??」
部下の言葉にヴィルゴが目を白黒させる。
城の裏手のだいたい中央付近に建つサウナ小屋。その左右に二つの風呂を作り、城館側から見えないように内包する施設を建てる計画だ。
「あの嬢ちゃん大人をナメてんのか!? もはや追加の域を超えとるわっ!!」
「依頼はそれだけじゃ終わらないんす」
「なんだと!?」
「その建物の二階部分を、洗濯物の干し場にしたいって……」
「はあああ!??」
今までこの城館裏手を物干し場にしていたザラ。工事が始まってからは、仕方なく場所を移していた。
しかし少しずつ宿泊客が増えるのにともない、シーツなどのかさばる洗濯物の量も増えていき。不都合を感じていたザラが思いついたのは……、
「ストーブの煙突からの放熱を利用したりして、洗濯物を乾燥できないか、と」
「ワガママ祭かっっ!!!?」
あまりの無茶振りに、思わずヴィルゴが声を裏返す。
二人のそばに集まってきた徒弟たちが、うんうんと頷いた。
「いやー、すがすがしいほど難易度高い注文ぶちこんでくれますよね」
「放熱っていってもな~。洗濯物を乾かせるほど放熱する煙突ってのも、下手すりゃストーブの方に支障が出るかもしんねぇし」
「下の階からの湿気も遮断できなきゃ意味ねーしなぁ」
「それもこれも、どうにかうまいことやってくれって。ワガママの極みだぜ~」
言葉とは裏腹に。表情は活き活きとして、声も弾んでいる。
サウナ小屋はガタイのいい男四人には少々狭い。とはいえ野宿に比べればはるかに快適だろう。
それにサウナも楽しんでいるらしい。ここへ来た頃よりも活力がみなぎっている。
「悪いな。うちの姫さんの、久々のワガママ祭に付き合わせちまって」
「な、なんだおめぇはっ?」
「「「「あ、ユージンさん」」」」
ひょっこり現れた大男にぎょっとするヴィルゴ。
振り向いた職人たちへ、ユージンが爽やかな笑顔で言いきった。
「そういうわけだ。大浴場が完成するまで、俺たちも手伝わせてもらうぞ」
「「「「あざーす!」」」」
「おい、素人が出しゃばるんじゃねえ!!」
「ですが親方。手伝ってもらわないと工期を守れませんよ」
「オレらが寝ずに作業しても、浴室×2と乾燥機能付き物干し場を備えた二階建てとか。期限内にはまず無理っすね」
「次の仕事にも影響が出ちまうし……」
「ぐぬぬ……!!」
悔しそうに呻くヴィルゴへ、後からやってきたエンドレが一礼した。
「ヴィルゴ様。上司がさんざん我儘を言って申し訳ありません。これを……」
「!? これは……!」
手渡された小さな紙箱の中を訝しげに見て、はっと目をみはる。
「大浴場が完成した暁には。ぜひ一番乗りでお試しになり、それをお使いください」
「……ちっ、しゃあねえ。工事代金だけはきっちり支払ってくださいよ」
「もちろんですとも」
ヴィルゴが受け取った物を懐に入れる。するとあっさり城館へ引き返していった。
「あいつに何を渡したんだ?」
拍子抜けした様子の四人とユージンへ、エンドレがにこやかに返す。
「『湯の花』です。疲労や神経痛などに効くそうですよ」
「へえ。珍しい物をよく持ってたな」
「本当は最近頑張りすぎなザラ嬢へプレゼントするつもりでしたが。こういう使い方をした方が、きっと喜んでもらえるでしょう」
「そうだな」
(一緒にお風呂に入るような関係になれたら、もう一度取り寄せればいいだけです)
「それは許さん」
「ヒッ!? 心を読まれた!?」
「いや読めんが。なんとなく嫌な顔してたから」
「やだもうこわい……」
「よーしお前ら!! 今日もバッキバキのゴリゴリに働くぞー!!」
「「「押忍っっっ!!!」」」
パワハラ上司の監視からひととき解放された職人たちが、朝日のなかで威勢よく声をあげ、力強く作業に戻っていった。
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