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chapter3__城、営業中
モラハラVSワガママ(2)
しおりを挟む「おお!! これはいい弓だ!!」
(死んだ魚の目仲間かと思ったら。筋肉たちを見つめていた時、いやそれ以上のキラキラおめめに!?)
西ホールの一角。壁やテーブルを使って博物館ふうに武器を並べた場所へ、一直線に向かったカルナが表情を輝かせた。
ひとしきり武器を見渡し、ザラの許可をとると、手にとってジックリ眺める。
クロスボウをためつすがめつする眼光は鋭く、触り方には玄人感が漂っていた。
ザラを振り返ると、床に置かれた兵器を指差す。
「このドデカいクロスボウはなんです!?」
「バリスタという兵器です」
「へえ……立派なものだ。威力も射程距離もさぞすごいんだろうな~」
「そうでしょうね。城を攻めたり守ったりするため、人力では不可能な領域に届かせようと開発したのでしょう」
「人間同士の争いなど醜いものだと思うが。こういう素晴らしい武器を見るのは血が熱くたぎ……る……」
興奮ぎみに話していたカルナがふと我に返り、さあっと顔色を変えた。
「あ、わ、私は。武器、特に弓が好きで……。女のくせにおかしいですよね」
「おかしくなんてないですよ。性別も関係ないと思います」
「でも子爵夫人にはふさわしくない趣味です。どうか夫には内緒にしてください」
(前世なら、そういう女子(ヲタク)もいるよねーくらいで済む話なのになぁ)
「カルナ様。差し出がましいとは思いますが……モーラー子爵との結婚生活に、お悩みなのではありませんか?」
意を決して切りだすと。カルナがゆるゆる視線を上げた。
「やっぱりさっきの会話、聞こえてたんですね」
「その、お部屋の前に行ったら偶然……。盗み聞きしてすみません!」
「いいんです。途中からザラさんの気配を……扉の先で心配されているような気配を感じてました」
(気配読みの達人がここにも!?)
頭を下げるザラへ、カルナが沈んだ瞳で微笑んだ。
それから軽く息をつき、壁に展示されたクロスボウに優しく触れる。
「父は猟師だったんです。私も幼い頃から父にくっついて、人里よりも森や山の中にいる方が長い生活をしていました」
「いずれ自分も父のような猟師になると信じていました。女猟師なんてふつうはあり得ないっていう、一般常識も知らずに」
「司祭様は昔、狼たちに襲われそうになったのを父が助けたんです。以来、私たちにとてもよくしてくださって。父が死んでからは特にお世話になりっぱなしで……」
仲人の司祭は恩人の娘カルナを、本当に実の娘のように思っているらしい。
天涯孤独になった彼女を心配し、融資を頼みにきた若い貴族との縁談を思い付いた。良家の妻になることが、彼女の幸せだと信じて。
「だけど本当は……私は……」
「猟師に、なりたいんですね」
途切れた言葉をザラが継ぐと、少し迷って、小さく頷く。
「なっちゃいましょうよ。女猟師。すっごく格好いいです」
「……無理ですよ。女だという理由で、とった獲物を安く買い叩かれたり。そもそも買ってもらえなかったりする。それに支度金まで用意してもらって、結婚しちゃいましたから。司祭様にこれ以上迷惑かけられません」
(ぐぬ……確かにここはその手の男尊女卑的価値観も存在する。さらに一方的な理由で離婚したらあの子爵、ここぞとばかりに高額慰謝料つきつけてくるだろな~~)
自分のことのように苦悩しだしたザラを見て、カルナが目を細める。
「辛気くさい話をしてごめんなさい。ザラさんはしっかり者だから大丈夫だろうけど。借金持ち貴族とは結婚しないように気を付けてくださいね」
「カルナ様……」
「あと顔や愛想が良すぎる男はみんな結婚詐欺師だって、前に麓の村のじいちゃんが言ってました」
「カルナ様……(偏見です……)」
「それから筋肉は自分を裏切らないって……――」
「うお~~い、ザラさん。ここにいたのか」
「ホセさん?」
「おっと、お話中でしたか」
「お構いなく」
カルナが話を促すと、やって来たホセが軽く会釈してザラに向き直る。
「村の猟師連中から連絡を受けてよ。手負いのワイルドローズボアが、このあたりに潜伏しちまってるらしいんだわ」
畑を荒らす害獣を罠にかけたものの。罠を抜けられ、この付近で見失ったそうだ。
「手負いのワイルドローズボアか……。追い詰められた時のあいつらの狂暴さ、しぶとさには熊ですら一目散に逃げ出すほどだ。厄介だな……」
「お、姉さん詳しいね。だもんで奴が捕まるまで、なるべく出歩かないようにな」
「な……なんですってー!!?」
今度は顔色を変えたザラがカルナに向き直る。
「モーラー子爵は今、丘の下で花束作りの真っ最中なんです!!」
「……!?」
ふもとにはいくつか野生の花畑が点在している。
ディナーまでの間、フリッツには『彼女へ手作りの花束を贈ろう☆』というプランを実行させているのだった。(付き添いはダリル。)
「げ。まじかよ……」
「ダリル!? 子爵は一緒じゃないの?」
「花束を作りがてら、ヘルムートと話がしたいって言うから呼びに来たんだよ。これを機に家同士の付き合いをはじめたいとかなんとか……」
「じゃあ丘の下に一人で……!?」
「これお借りします」
「あっ、カルナさん!?」
カルナがクロスボウ一式を引っ掴んだ。踵を返しホールをとびだしていく。ザラが慌てて後を追った。
(カルナさん、そんなに必死になって。なんだかんだ子爵のことを愛――)
「ワイルドローズボアの肉は極上の美味……! だが長時間ストレスを与えると、肉質が極端に悪くなる。すぐに仕留めなければ!! あと人命もかかってますし」
(愛――じゃなかった。)
「うわあああ!! た、助けてくれ~~!!」
城館を出たとたん、かすかな悲鳴が耳にとびこんできた。
丘の中腹あたりを、フリッツが城目指して走ってくる。後方には片足を引きずりつつも、かなりの勢いで猛追する巨大なイノシシが見えた。
カルナが駆けだした。
城門ではなく城壁へ向かい、ある一角で止まる。
そして壁の隙間、狭間の前で腰を落とすと、クロスボウを構えた。
ヒュッと風を切ってとんでいく矢が、瞬きする間に消える軌跡を描き――。
フリッツの背後で、頭に矢を受けたワイルドローズボアが声もなく地に伏した。
凹凹†凹凹
やわらかなピアノの調べがメインホールに響きわたる。
今の時間は、新プランを試す若い夫婦の貸し切りだ。
入口が開くと、席で落ち着かない様子だったフリッツが立ち上がった。
ドレス姿の新妻がゆっくり近付いて来るのを、ぼうっと見つめる。それから急いで傍まで行って手をとりエスコートする。
鮮やかな黄色の花をたっぷり使った花束を手渡すと、椅子を引いて彼女を座らせ、正面の席に戻った。
「ありがとうございます」
「あ、……うん」
カルナがテーブルの中央に花束を飾った。沈黙が落ちる。
ピアノが次の曲に入ったタイミングで、フリッツが口を開いた。
「少々個性的なアレンジのドレスだが、似合ってるよ。綺麗だ」
「ありがとうございます」
「その、クロスボウを構えた君も……とても美しかった」
「……?」
ほのかに頬を染めたフリッツが、小首を傾げるカルナに真剣な瞳を向けた。
「ありがとう。君は命の恩人だ」
「お怪我がなくて何よりです」
「……今まで本当にすまなかった」
「?」
「君のことを見下して、酷い言葉を投げつけて……。どうか許してほしい」
「旦那様、そんな。頭を上げてください」
「僕を許してくれるかい?」
「はい」
「ありがとう、カルナ。……もしよければ、これからは名前を呼んでもらえるかな」
「わかりました。フリッツ様」
「カルナ……」
(おや~? 案外いい雰囲気。これなら関係再構築もアリかも?)
入口付近で見守るザラの指示で、二人の邪魔をしないよう、食事は最低限の給仕でサクサク進行させていく。
デザートを食べ終える頃。穏やかなメロディが最後の一小節を奏でると、妻が夫の名を呼んだ。
「フリッツ様」
「なんだい、カルナ」
「離婚してください」
「――――り こ ん ???」
「私、あなたと離婚して。今日から猟師になります!!」
「はああアア!?????」
あんぐり口を開いて固まるフリッツに、カルナが満面の笑顔を返す。
「司祭様には融資額を減らさないよう話をつけておきます。なので今日の件を感謝してくださるのなら、慰謝料の請求は勘弁していただけると助かります」
「そんなのどうでもいい! ……待ってくれカルナ。なにも離婚する必要はないじゃないか。猟をしたければ、僕と結婚したまま時々どこかの森にでも出かければ……」
「いえ。猟が趣味の貴族夫人ではなく、猟師になりたいので」
「で、では一緒に田舎へ引っ越そうか!」
「いえ。貴族生活をしながら田舎暮らしは、逆にいろいろと面倒ですし。ということで今までお世話になりました」
「そんなぁ! 頼む、考え直してくれよ。カルナああ~~~!!!」
「腕のいい猟師さんが爆誕ね。うちにも良質なジビエ料理が爆誕しそう♪」
半泣きで縋られたカルナが、冷徹にぺこりとひとつ頭を下げる。
晴れやかな顔を横目に、ザラは野趣あふれる新メニューを想像して胸を躍らせた。
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