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chapter3__城、営業中
幸せの青い羊(3)
しおりを挟む<……その男は貴様に好意など持ってはいなかった……>
(ん? 渋谷君のこと?)
(うん。好意を持たれていたのは私じゃなくて、私の作った料理だから)
<……貴様は心のどこかで期待していた……>
<……だが奴の言葉は全て嘘偽り。貴様をのぼせあがらせた後、絶望に叩き落とすための虚構……>
(期待……してたかも。今日も喜んでもらえるかな、って)
(確かに社交辞令も含まれていたのかもね。でも全部が嘘だったとは思わない)
(食べている時の表情が演技には見えなかった。……あと好物の時はハムスター系の詰め込み方。それをこっそり見るのが実は楽しみで~)
<……どれだけ記憶を美化しようと、貴様は愛されてなどいない……>
<……妹からかばったのも、勘違いする貴様を見て、嘲笑うため……>
(……そうね。プロでもないただの高校生の手料理を、「愛」と呼ぶほど気に入ってもらうのは難しいよね)
(だけど渋谷君はひとを嘲笑ったりしない。かばってくれた時も、妹の失礼な発言をたしなめた感じだった。勘違いする余地もないほど正義感が強い、いい人よ)
<……クッ。こやつの認知、つよい……!?>
漆黒の闇の中。ザラのゆるぎない返答に、謎の声がひるんだ。
(さっきから何故か、渋谷君の人格を歪めて話したがっているみたいだけど。あたしはそんな悪意あるアンチのステマに屈したりしないわ)
<……ち、違う。歪めたいのは貴様の認知……>
(あたしの認識はなにも間違ってない。渋谷君はすっっごくいい人!!!)
<……こやつ愛されていた自覚がない、だと……!?>
思い当たるフシのないザラが、おののく声へ怪訝そうに返す。
(この闇空間も、あなたの仕業なの? 青い羊を捕獲しなきゃいけないし、はやく帰りたいんだけど)
<……愚か者め。貴様が見たのは青い羊などではない>
(えっ?)
<あれは沼に棲まう魔物が、訪れた者の望むものを見せただけ。油断した相手を催眠状態にし、効率よく黒歴史を収集するための幻だ>
(黒歴史を収集する魔物!? 一体何が目的で……)
<人が恥辱を暴かれる際の激しい苦痛。それに共感性羞恥を感じることで、奴は力を増すのだ……>
(嫌なレベルアップの仕方っ!!?)
声が告げる内容に驚愕してから、警戒しつつ返す。
(あなたも黒歴史を収集して、恥ずかしい気持ちに共感したいの?)
<そのような趣味でも生態でもないわ。沼の魔物が辟易して手放した、貴様の晴れわたり花咲き乱れる脳内に、適量の絶望をもたらしてやろうとしただけのこと>
(そこまで能天気な脳内お花畑じゃないと思うけど)
<見目好い男共に囲われ、城を我が物顔で改造し、珍妙な店をヘラヘラと営業する貴様に説得力など皆無>
(……あなた、何者??)
その疑問には、かすかに鼻で笑う気配だけが返ってきた。
<厄介な者を連れて来おって。悪運の強い奴よ。真の主に奪還される時まで、魔改造した城でせいぜいお気楽に過ごすがいい……>
捨て台詞なのか不吉な予言なのか。
謎の声がフェードアウトしていくと、ザラの意識は沼のほとり、心配そうにのぞき込んでくるヘルムートの腕の中で復活した。
凹凹†凹凹
「結局、本物の青い羊は見つけられなかったね」
「あれが魔物の作った幻だったとは。闇の魔力や気配に大した力を感じなかったからと、油断した。すまない」
「ヘルムートが謝る必要ないわよ。ちょっと眠らされただけで実害はなく、さらに何かしてくることもなかったし」
「臆病な魔物だったようなのが不幸中の幸いでしたね。……それはともかく、」
太陽が傾きかけ、茜色に染まりはじめた街道を2騎が行く。
目覚めた後。沼を一周して探し回るも、目的を達成できないまま時間切れとなり、ザラたちは城へ戻ることにした。
会話の途中、耐えかねたようにエンドレがヘルムートを睨む。
「どうして君がザラ嬢と二人乗りをしてるんです!? 帰り道は僕に譲る約束だったじゃないですかっ!!」
「君は魔物の罠にかかった。何らかの影響を受けている可能性が捨てきれない。念のためザラは私が護衛をする」
「魔物の影響なんて受けていませんってば~! 眠っている間、なにやら昔のことを語った気はしますが。話が山場を迎える前にあっさり目が覚めましたし~」
(いい感じの共感性羞恥を得られなかったんだ……)
どうやらエンドレの語る黒歴史も、魔物の食指を動かすものではなかったらしい。
「ヘルムートは魔物の罠にかからなかったのよね。さすが魔法使い!」
「……腕輪を外していれば、はじめから幻惑だと見抜き、君の身を危険に晒すこともなかった」
「腕輪の封印って強力なんだ。でも外したらいけないんでしょ、仕方ないわよ」
「ここでの暮らしは、いちいち見咎める者もいない」
「真面目すぎるのも善し悪しだけど。だからって環境を理由に吹っ切れすぎるのも、どうなのかなー」
「綺麗事だけでは手に入らないものもある」
「わっ!?」
ヘルムートが急に馬の速度を上げた。エンドレを大きく引き離してから、ザラへ顔を寄せる。
「“シブヤ”とは誰だ?」
「っ!!?」
(ま、まさか。黒歴史を覗かれてた……!?)
魔法使いの彼なら可能なのかもしれない。知られたのはあくまで断片的なもののようだが。思わず硬直した耳元で質問が続く。
「君の変貌に関わっている人物なのか?」
「彼はべつに関係ない……」
「やはり男か……」
「ね、ねえ。私が変わった原因なんて聞いて、ヘルムートになんの得があるの?」
逆に質問すると、少しの間のあと、
「得があるかどうかはわからない。だけど知りたい」
(だからなんで~~~)
普段と違いどこかあどけなさを感じる囁きに、困惑している間に後ろから馬が追いついた。
「こらー! 最近、ザラ嬢のまわりは抜け駆け野郎が増殖しすぎかと! このままでは危険です、身辺警護を雇うべき……いや男では二の舞になるだけ……女性の護衛を雇いましょう!!」
「そんなに危険があるなら、その護衛女性にも護衛が必要じゃない? 資金不足よ」
「女性に不埒な下心をもつ輩を、解雇する方が先なのでは」
「ああ、たしかに……」
「ちょっ……、えぇ?? なぜ二人とも僕を見るんですかっ!??」
二対のなんとなく温度の低い視線を、エンドレが必死に受け取り拒否をした。
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