公爵家のワガママ義妹、【道の城】はじめました!

パルメットゑつ子

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chapter3__城、営業中

狂愛×もふもふ=闇の味!?(1)

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「ノヴァ様、ぜひまたいらしてくださいね。カラオケ共々お待ちしております」

 名残惜しげに厩舎の窓から顔をだすカラオケをなでていた、小さな手が止まった。
 ザラを振り返り、ノヴァが小生意気だが真面目な表情で言う。

「少しずつ設備やサービスを向上させているからな。そうしてやってもいい……と言いたいところだが。ある一点を改善しない限り、贔屓にしてやるのも限界がある」
「は、はい。どの点が至らなかったか、お聞かせ願えますか」

 姿勢を正して待つザラへ、もったいをつけた間を置くと。

「この城に足りないもの、それは食事の質。美食だ!」
「もしここの食事をビサイツィアの宿で出せば、一晩で安宿扱いだ。たとえ部屋の質や、城全体の設備が上級だったとしてもな」
(ひえぇ……大都市の採点、鬼きびしい)

「はっきり言って、今のシェフではどれだけ工夫を凝らそうと高い評価を得ることはあるまい。もっと才能のある者を雇わなければ、この城に未来はないぞ」

「ブルルア~~♪」
(荒馬をあっさり餌付けするセレブの言葉。悔しいけど説得力が違う……!!)

 持参したニンジン(高級品種?)をカラオケに与えるノヴァの忠告に、ザラは素直に礼を言った。


(イアンはまだ見習いのうちに連れてきちゃったからなー……)
(才能あるシェフ。王都あたりで探してスカウトしたとしても、能力に見合ったお給料を払える気がしないわ)
(それにいきなり来た人を上の役職につけたら、今まで頑張ってくれたイアンのモチベーションを下げてしまうかも……)

「ザラ様」
「あ、お疲れさま」

 休憩室で頭を悩ませていたザラの前に、悩みの原因が現れた。
 内心を隠して笑顔を作るも、妙に思い詰めた顔が返ってくる。

「イアン、どうしたの?」
「――しばらくお暇をいただけますか」
「えっ……。理由を聞いてもいいかしら」
「今の俺ではザラ様の足を引っ張ってしまう。だから一人前の料理人になれるまで、修行の旅に出ようと思います」
「修行の旅っ!?」

 唐突な宣言に仰天するザラ。イアンが真剣に言いつのる。

「先日ノヴァ様から、的確なご指摘をけちょんけちょんに受けまして」
(あのクソガキ様、本人にも言ったのかい……)
「気にしなくていいのよ。少しずつ経験値を増やして、皆で力を合わせてメニューを見直したりすれば……」
「いいえ。このままで腕が上がるとは思えません。俺には才能なんてないんです!」
「そ、そんなことないって~~」

「……ノヴァ様以外のお客さんの反応も、うすうす知ってます」
「(とくに貴族のお客様は舌が肥えてるのよね……。)ともかく今は代わりの人もいないし、修行はともかく旅の必要性がよくわかんないし、考え直して、」
「あと最近ジャンヌさんの作品発表会が楽しみすぎて、そのことばっかり考えて手元がおろそかになりがちですしっ!」
「そ、それは改めてもらわなきゃ困るけど……」
(女性向けファッションに多大なる興味を……!?)

「なあ。揉めてるとこ悪りぃけどさー」
「ダリル。どうかした?」

 話が中断してホッとするザラへ、ダリルがドアから困惑顔をのぞかせた。

「丘の下にやたら毛深いのが落ちてんだけど……。たぶん、行き倒れ」
「やたら毛深い行き倒れ!!?」

 報告を受け、ユージンを連れて一緒に丘の下へ向かう。
 城門へ続く道の脇に一人の男が倒れていた。ボリュームのある巻き毛の髪が背中を覆い、髭も伸び放題。服は薄汚れていてあちこち穴が開いている。

「軽い。……わかりやすい行き倒れだな」
「とりあえず城へ運んで、なにか食べさせましょう」

 男を担いだユージンの感想に、ザラが心配そうに言うと。二人の後ろをついていくダリルが皮肉っぽく呟いた。

「その状態なら、イアンの飯を死ぬほど美味いと思えるだろーな」


   凹凹†凹凹


「素晴らしい食事をありがとうございました」

 髪と髭のせいで人相はほとんどわからないものの(推定30代前半。)
 休憩室に運び込んだ男が食事をたいらげ、丁寧に一礼した。

(落ち着いた物腰、食べる所作もきれいだった。この人も実は、いいところのお坊ちゃんだったり?)
 まじまじ男を見ていると、表情のわからない髭面がイアンへ振り向く。

「あなたが作ったんですね。大らかで快活な、人好きのする素敵な味でした」
「あ、ありがとうございます」

「なんか感想が独特なんだが……」
「人柄を褒める時みたいな表現ね……」
 隣のダリルとこそこそ囁く。

 男の名はミルコ。旅の途中、立ち寄った町で財布を盗まれ、途方に暮れていると親切な馬車に乗せてもらった。
 ところがそれも野盗だった。わずかな荷物を奪われ道端に放りだされて、あてもなくさまよった結果、ここへ辿り着いたらしい。

「大変な目に遭われましたね。よければお家までお送りします」
「いえ、もともと家はありません。借りていた部屋も引き払ってきました」
「どうして旅を?」
「……あるものを追い求め……。ですがこれも運命と思って、諦めます」

 静かに言いきり、テーブルの上で皮手袋をはめたままの両手をかたく組む。

(ワケアリ感がすごい。……まあ悪い人ではなさそうだし、)
「ミルコさん。ここでしばらく旅費を稼いでみませんか」
「え……?」
「お給料は良いとはいえませんが。旅をやめるか否か、考えながらでも」
「わたしのような素性の知れない者を、いいんですか……?」
「うちは慢性的な人手不足ですから」

 伸びた髪の隙間からミルコが大きく目をみはる。ダリルが呆れたと言わんばかりに肩をすくめた。

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