愚者が描いた世界

白い黒猫

文字の大きさ
33 / 51
~見えてきたのは~

5-1 <歴史から抜け落ちた王> 

しおりを挟む
 マルケス・グリントは母校であるフリーベック学校の分校において幼い子供達に国語や数学を教えていた。歴史が専門のマルケスだが十歳に満たない子供にならば、基礎的な学問を教える事は出来る。それに孤児であったマルケスが学問を学ばせてもらい、こうして学芸員を目指せるのも子供達に無償で学問の場を与えてくれたフリーベック学校のお陰だからである。だからこそ未熟な身でありながらもこうして自分が教鞭を取るのは、マルケスにとってささやかであるが恩返しの意味もある。フリーベック学校は百年程前、伝説の按察官補助士フリー・ベックによって開校された学校で、子供達が誰にでも学べる場を提供震する為に作られた学校である。当初は税金と寄付による運営で、講師は有志によるボランティアによって運営されていたようだ。マルケスのように多くの卒業生が率先して講師を引き受け、さらに寄付を行う事でさらなる広がりと充実がはかられ今に至っている。また高くはないものの、講師する事で給金が支払わられるようになった事で、学生が勉学を続けながら生活費を稼げる良い場となっていた。
  テストの採点をしている前で、子供達が試験の終わった解放感もあり気儘にお喋りしたり、歌ったりしている。
 「あ~れた大地に城作り~アレク王が国造り~♪ 二代目マルセル王が街造る~♪」
  歴代王の名前と功績を分かりやすく覚えるために歌にしたもので、マルケスが子供時代から使われていたモノである。
 「六代目王は無能のウィリアム~貴族に任せでボーロボロ♪ ソコに出てきた八代目♪」
  六代目国王もこの歌では酷い言われようだなと思って思わず笑い歌を聞き続けて、この歌詞の可笑しい所に気がついた。何故自分がフリデリック王という存在を、綺羅サッパリ忘れていたのか。その理由が分かったからだ。
 「九代目王のテオドール♪ 金の瞳で国育て~」
  この歌では愚王と呼ばれたウィリアム王ですら歌われているのに、フリデリックはその名すらない。それなのに六代目から八代目と正確に表現されている。
  思えば昔その事に気が付き講師に尋ねたクラスメイトがいた。その時講師は何と言ったか? 困った顔をして「王位につき直ぐに病死したのだろう」といった事をモゴモゴ言い誤魔化した。あの講師は生物を専門とする人だった。だから七代目国王となったフリデリックが七十過ぎまで生きた事は知らなかったのだろう。
  この歌だけでない、歴史の教科書からもフリデリックの名は消えている。あの時代にはそんな絵が上手なだけの気弱な王族の事より語るべき歴史が一杯あるから仕方ないとも言うべきかもしれない。
 「センセー」
  子供の声にハッとする。さっきまで元気に歌っていた子である。
 「なんで、この歌一人足りないの? 王様十一代までいるのに、歌われている王様十人だけ」
  マルケスはその子供にニッコリと笑いかける。
 「偉いな! よく、気がついた、誰がいないのか分かるか?」
  そう質問すると、子供はウ~ンと声出して、分かったのか顔を上げる。
 「七代目が、抜けてる!」
  マルケスは頷き子供の頭を撫でる。
 「そうだね、七代目が誰か知っているか? みんなは?」
  周りでこの、話題が気になってきていた子供達にも聞いてみるがみな首を横に振る。
 「先生、だ~れ? 七代目は」
  そう聞いてくる子供達にマルケスは笑いかける。
 「七代目はね、フリデリックと言って、あの有名な金獅子の従兄弟である人物で……」
  マルケスは調べた範囲ではあるものの、出来る限り正確なフリデリックについて子供達に語る事にした。多くの歴史家が語る事が一切ないと判断し無視された七代目王の王位がどういうものであったのか。
  案の定はじめはワクワクした顔で聞いていた子供達は、ガッカリした顔になっていく。
 「七代目って、使えないバカだったんだね~」
  一人の子供の言葉に、別の子供がハッとした顔になる。
 「どこかで聞いたと思ったら、フリの事じゃん! 弱虫無能のフリ~♪ だったら仕方がないよ」
  教室の子供達がその言葉に『あ~!』と声をあげ納得する。

 「愚かな王子はどうしようもないっ」

  一人の子供が、愚かな王子の言葉遊び歌を歌いだす。

 「一人じゃなにも出来ないバ~カ!」
 「一人で外もあるけませ~ん」

  次々の後をついで子供が遊び出す。昔から子供の間ではやっている言葉遊び歌で、愚かな王子がどう愚かなのか? をリズムに合わせて言葉を繋いで遊んでいくもの。
 この歌がフリデリックのものを指しているわけではないとは思うが、子供が競ってダメっぷりを作っていくから、内容はどんどんエスカレートしていく。この歌のせいでフリデリックの印象はさらに悪くなったように思う。
 マルケスも正直この歌遊びのせいで、フリデリックがとんでもないバカな王子という印象をもってしまった。 

  その様子を見て、マルケスはなんともモヤモヤしたものを感じる。
 最近フリデリックの描いた絵と日記に触れるにつれ、愚か者フリの印象が揺らいできていた。
 戦の勝利に喜ぶ民衆の感情を感じ共に歓び、怪我をした兵士の姿に嘆き、より民衆に、近づこうと行動を始めていたフリデリック王子。それなのに『無能』『弱虫』『卑怯モノ』と揶揄られても仕方がない程無為の人生を生きた。
 何故王族としての務めを一切の放棄したのか? まだマルケスが見ているのは十四歳の時の日記。これから彼が何を想い生きて行ったのか? さらに先の時代が気になってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...