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~見えてきたのは~
5-1 <歴史から抜け落ちた王>
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マルケス・グリントは母校であるフリーベック学校の分校において幼い子供達に国語や数学を教えていた。歴史が専門のマルケスだが十歳に満たない子供にならば、基礎的な学問を教える事は出来る。それに孤児であったマルケスが学問を学ばせてもらい、こうして学芸員を目指せるのも子供達に無償で学問の場を与えてくれたフリーベック学校のお陰だからである。だからこそ未熟な身でありながらもこうして自分が教鞭を取るのは、マルケスにとってささやかであるが恩返しの意味もある。フリーベック学校は百年程前、伝説の按察官補助士フリー・ベックによって開校された学校で、子供達が誰にでも学べる場を提供震する為に作られた学校である。当初は税金と寄付による運営で、講師は有志によるボランティアによって運営されていたようだ。マルケスのように多くの卒業生が率先して講師を引き受け、さらに寄付を行う事でさらなる広がりと充実がはかられ今に至っている。また高くはないものの、講師する事で給金が支払わられるようになった事で、学生が勉学を続けながら生活費を稼げる良い場となっていた。
テストの採点をしている前で、子供達が試験の終わった解放感もあり気儘にお喋りしたり、歌ったりしている。
「あ~れた大地に城作り~アレク王が国造り~♪ 二代目マルセル王が街造る~♪」
歴代王の名前と功績を分かりやすく覚えるために歌にしたもので、マルケスが子供時代から使われていたモノである。
「六代目王は無能のウィリアム~貴族に任せでボーロボロ♪ ソコに出てきた八代目♪」
六代目国王もこの歌では酷い言われようだなと思って思わず笑い歌を聞き続けて、この歌詞の可笑しい所に気がついた。何故自分がフリデリック王という存在を、綺羅サッパリ忘れていたのか。その理由が分かったからだ。
「九代目王のテオドール♪ 金の瞳で国育て~」
この歌では愚王と呼ばれたウィリアム王ですら歌われているのに、フリデリックはその名すらない。それなのに六代目から八代目と正確に表現されている。
思えば昔その事に気が付き講師に尋ねたクラスメイトがいた。その時講師は何と言ったか? 困った顔をして「王位につき直ぐに病死したのだろう」といった事をモゴモゴ言い誤魔化した。あの講師は生物を専門とする人だった。だから七代目国王となったフリデリックが七十過ぎまで生きた事は知らなかったのだろう。
この歌だけでない、歴史の教科書からもフリデリックの名は消えている。あの時代にはそんな絵が上手なだけの気弱な王族の事より語るべき歴史が一杯あるから仕方ないとも言うべきかもしれない。
「センセー」
子供の声にハッとする。さっきまで元気に歌っていた子である。
「なんで、この歌一人足りないの? 王様十一代までいるのに、歌われている王様十人だけ」
マルケスはその子供にニッコリと笑いかける。
「偉いな! よく、気がついた、誰がいないのか分かるか?」
そう質問すると、子供はウ~ンと声出して、分かったのか顔を上げる。
「七代目が、抜けてる!」
マルケスは頷き子供の頭を撫でる。
「そうだね、七代目が誰か知っているか? みんなは?」
周りでこの、話題が気になってきていた子供達にも聞いてみるがみな首を横に振る。
「先生、だ~れ? 七代目は」
そう聞いてくる子供達にマルケスは笑いかける。
「七代目はね、フリデリックと言って、あの有名な金獅子の従兄弟である人物で……」
マルケスは調べた範囲ではあるものの、出来る限り正確なフリデリックについて子供達に語る事にした。多くの歴史家が語る事が一切ないと判断し無視された七代目王の王位がどういうものであったのか。
案の定はじめはワクワクした顔で聞いていた子供達は、ガッカリした顔になっていく。
「七代目って、使えないバカだったんだね~」
一人の子供の言葉に、別の子供がハッとした顔になる。
「どこかで聞いたと思ったら、フリの事じゃん! 弱虫無能のフリ~♪ だったら仕方がないよ」
教室の子供達がその言葉に『あ~!』と声をあげ納得する。
「愚かな王子はどうしようもないっ」
一人の子供が、愚かな王子の言葉遊び歌を歌いだす。
「一人じゃなにも出来ないバ~カ!」
「一人で外もあるけませ~ん」
次々の後をついで子供が遊び出す。昔から子供の間ではやっている言葉遊び歌で、愚かな王子がどう愚かなのか? をリズムに合わせて言葉を繋いで遊んでいくもの。
この歌がフリデリックのものを指しているわけではないとは思うが、子供が競ってダメっぷりを作っていくから、内容はどんどんエスカレートしていく。この歌のせいでフリデリックの印象はさらに悪くなったように思う。
マルケスも正直この歌遊びのせいで、フリデリックがとんでもないバカな王子という印象をもってしまった。
その様子を見て、マルケスはなんともモヤモヤしたものを感じる。
最近フリデリックの描いた絵と日記に触れるにつれ、愚か者フリの印象が揺らいできていた。
戦の勝利に喜ぶ民衆の感情を感じ共に歓び、怪我をした兵士の姿に嘆き、より民衆に、近づこうと行動を始めていたフリデリック王子。それなのに『無能』『弱虫』『卑怯モノ』と揶揄られても仕方がない程無為の人生を生きた。
何故王族としての務めを一切の放棄したのか? まだマルケスが見ているのは十四歳の時の日記。これから彼が何を想い生きて行ったのか? さらに先の時代が気になってきた。
テストの採点をしている前で、子供達が試験の終わった解放感もあり気儘にお喋りしたり、歌ったりしている。
「あ~れた大地に城作り~アレク王が国造り~♪ 二代目マルセル王が街造る~♪」
歴代王の名前と功績を分かりやすく覚えるために歌にしたもので、マルケスが子供時代から使われていたモノである。
「六代目王は無能のウィリアム~貴族に任せでボーロボロ♪ ソコに出てきた八代目♪」
六代目国王もこの歌では酷い言われようだなと思って思わず笑い歌を聞き続けて、この歌詞の可笑しい所に気がついた。何故自分がフリデリック王という存在を、綺羅サッパリ忘れていたのか。その理由が分かったからだ。
「九代目王のテオドール♪ 金の瞳で国育て~」
この歌では愚王と呼ばれたウィリアム王ですら歌われているのに、フリデリックはその名すらない。それなのに六代目から八代目と正確に表現されている。
思えば昔その事に気が付き講師に尋ねたクラスメイトがいた。その時講師は何と言ったか? 困った顔をして「王位につき直ぐに病死したのだろう」といった事をモゴモゴ言い誤魔化した。あの講師は生物を専門とする人だった。だから七代目国王となったフリデリックが七十過ぎまで生きた事は知らなかったのだろう。
この歌だけでない、歴史の教科書からもフリデリックの名は消えている。あの時代にはそんな絵が上手なだけの気弱な王族の事より語るべき歴史が一杯あるから仕方ないとも言うべきかもしれない。
「センセー」
子供の声にハッとする。さっきまで元気に歌っていた子である。
「なんで、この歌一人足りないの? 王様十一代までいるのに、歌われている王様十人だけ」
マルケスはその子供にニッコリと笑いかける。
「偉いな! よく、気がついた、誰がいないのか分かるか?」
そう質問すると、子供はウ~ンと声出して、分かったのか顔を上げる。
「七代目が、抜けてる!」
マルケスは頷き子供の頭を撫でる。
「そうだね、七代目が誰か知っているか? みんなは?」
周りでこの、話題が気になってきていた子供達にも聞いてみるがみな首を横に振る。
「先生、だ~れ? 七代目は」
そう聞いてくる子供達にマルケスは笑いかける。
「七代目はね、フリデリックと言って、あの有名な金獅子の従兄弟である人物で……」
マルケスは調べた範囲ではあるものの、出来る限り正確なフリデリックについて子供達に語る事にした。多くの歴史家が語る事が一切ないと判断し無視された七代目王の王位がどういうものであったのか。
案の定はじめはワクワクした顔で聞いていた子供達は、ガッカリした顔になっていく。
「七代目って、使えないバカだったんだね~」
一人の子供の言葉に、別の子供がハッとした顔になる。
「どこかで聞いたと思ったら、フリの事じゃん! 弱虫無能のフリ~♪ だったら仕方がないよ」
教室の子供達がその言葉に『あ~!』と声をあげ納得する。
「愚かな王子はどうしようもないっ」
一人の子供が、愚かな王子の言葉遊び歌を歌いだす。
「一人じゃなにも出来ないバ~カ!」
「一人で外もあるけませ~ん」
次々の後をついで子供が遊び出す。昔から子供の間ではやっている言葉遊び歌で、愚かな王子がどう愚かなのか? をリズムに合わせて言葉を繋いで遊んでいくもの。
この歌がフリデリックのものを指しているわけではないとは思うが、子供が競ってダメっぷりを作っていくから、内容はどんどんエスカレートしていく。この歌のせいでフリデリックの印象はさらに悪くなったように思う。
マルケスも正直この歌遊びのせいで、フリデリックがとんでもないバカな王子という印象をもってしまった。
その様子を見て、マルケスはなんともモヤモヤしたものを感じる。
最近フリデリックの描いた絵と日記に触れるにつれ、愚か者フリの印象が揺らいできていた。
戦の勝利に喜ぶ民衆の感情を感じ共に歓び、怪我をした兵士の姿に嘆き、より民衆に、近づこうと行動を始めていたフリデリック王子。それなのに『無能』『弱虫』『卑怯モノ』と揶揄られても仕方がない程無為の人生を生きた。
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