あるとれいと~絶対回避能力があるのに色々トラブルに巻き込まれちゃう男のお話~

上田るぅ

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お城奪還編

第35話 先手

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「予想より多く入ってたのですよ! これで食料も確保出来るのです」

 ズッシリとした布袋に頬ずりしながらシナモンが、恍惚な表情でアル達へと声をかける。

「おっ、おぅ。 食料調達は任せて良いのかな?」

 シナモンの様子に若干引いた表情を見せつつも、アルはシナモンに問いかける。

「もちろんなのです! この額なら、ちょっと位は他の物も買えるですよ」

 その言葉を聞いたレイは少し気不味そうな表情を浮かべながら、シナモンへと言葉をかけた。

「ねっ、ねぇ。 本とか買っても大丈夫かな? それとお菓子とかも……」

 両手の人差し指を合わせ、苦笑いを浮かべながらお願いするレイ。

 そのレイの様子にシナモンは満面の笑みで答える。

「もちろんなのです! というか、そもそもレイ様のお金なので遠慮は要らないのですよ」

「本当に? ありがとぉ! えへへぇ。 嬉しいなぁ」

 子供のように無邪気に喜ぶレイの姿を見て、アルは胸を撫で下ろしていた。

(やれやれ…… どうやら機嫌が治ったようだなぁ。 今日は色々あったしなぁ……)

 アルは少しだけ笑顔になるが、すぐに真剣な表情に変わりシナモンへと話しかける。

「ちょっとその袋、貸してよ」

「むむっ……」

 アルの言葉に少し不服そうな様子を見せつつ、シナモンはお金の入った布袋を手渡す。

 その袋と受け取ったアルは、無造作に手を突っ込むと中から十数枚の銀貨を取り出した。

「ななっ! 何するです」

「まぁまぁ。 慌てない慌てない。 金は足りてるんだろ?」

「そうなのですが…… 一体、何に使うですか?」

 シナモンは不機嫌な様子を見せると、問い詰めるようにアルへと言葉をかける。

「まぁ…… 酒をね。 良いだろ? 少しくらい」

「んなっ! 全く、あなたと言う人は……」

 シナモンはブツブツ文句を呟きながら、不服そうな表情でチラッとレイへ視線を送る。

 その視線に気付いたレイは笑顔のまま「少しくらいならぁ」と答えていた。

「不本意なのですが…… まぁ、アルさんのおかげも少しだけあるので、良いのですよ」

「へいへい。 ありがとうございますよ」

 不服そうな態度を変えないシナモンに対し、アルは呆れた表情で返答する。

「というか、食料調達はお前らに任せて良いんだよな?」

「んっ? それは大丈夫なのですが……」

 シナモンはキョトンとした表情で答えた直後、少し疑うような視線をアルに向ける。

「アルさんはどこ行くですか? 言っておくですが、これ以上、お金あげないのですよ?」

「分かってるって! 大人には大人の事情ってもんがあるんだよ! ところでさ」

 アルはシナモンの話を流しつつ、言葉を続けた。

「アストリナの貴族連中の大体の年齢、聞いても良いか?」

「んっ? それは構わないですが…… 何するです?」

「だから言ったろ? 大人には大人の」

「ふんっ。 分かったのですよ。 子供で悪かったのです」

 不機嫌そうにフンッと鼻を鳴らすと、シナモンは懐から小さな布を取り出す。

 そこに携帯用の筆でサラサラとメモ書きし、アルへと手渡した。

「おっ、ありがと! んじゃ後でな! 待ち合わせはっと…… ここで良いだろ?」

 そう言うとアルはシナモン達を残し、裏路地の方へと消えていった。

「どこ行ったんだろうね?」

「どうせ、ろくでもない事なのですよ。 じゃレイ様! お買い物するのですよ」

「うん! 行こっか」

 そう言うと二人は、シナモンが目星をつけていた食料品店へと向かっていった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 一方その頃、アルは十数枚の銀貨を握りしめ先程まで居たディンゴの酒場に向かっていた。

(まぁ…… この先、何があるか分からんしなぁ…… 先手を打っておくか……)

 そんな事を考えながら歩を進め、ディンゴの酒場の前へと到着した。

 カランカラーン……

 アルが酒場の戸をゆっくりと開けると、金属製の乾いた鐘の音が店内に鳴り響く。

 その音に気付いたディンゴが店の奥から出てくると……

「んっ? 忘れ物でもしたんですかい? どうしやした?」

 少し不思議そうな表情でアルを見つめながら、問いかけるディンゴ。

「いやっ。 無事、換金も出来たからさ。 ちょっと頼みがあるんだけど」

 アルはそう言葉を掛けつつカウンターの席に座ると、握りしめていた銀貨を取り出した。

 そしてそれをカウンターへ無造作に置くと、真剣な表情でディンゴへ問いかける。

「これじゃ足りないと思うけど…… 身分証を用意してくれないかな?」

「身分証? 一体、誰ので?」

「これ。 えーっと…… 十四人分かな?」

 アルはそう言うとシナモンから受け取った、アストリナ貴族達の年齢が書かれた布を手渡す。

 ディンゴはそれを受け取り書かれている内容に目を通すと、眉間にシワを寄せながら

「旦那。 アンタ相場ってモンが分かって無いのかもしれねぇが…… この額じゃ……」

 難色を示すディンゴの様子を見てアルは、少し困惑した様子を見せる。

(だよなぁ…… 正直、金銭的な価値は分からんけど…… 無理あるよなぁ……)

 そんな事を考えつつアルは、ディンゴへと視線を向ける。

 アルの目にもディンゴが難色を示しているのは、ハッキリと理解出来たが……

(でも、拒絶しないって事は…… もしかして、何とかなるのか?)

 アルは襟を正しディンゴへ真剣な表情を向け、話を始める。

「もちろんそれじゃ無理なのは百も承知だけど…… 実はバレリアが……」

 その言葉を聞いたディンゴは、ハッとした表情に変わる。

「もしかして…… バレリア様の?」

 その言葉にアルは静かに頷く。

(実際、バレリアが俺に「あとはよろしく」って言ってたんだし……)

 アルは真剣な表情のままディンゴの様子を伺う。

(それにバレリアが…… としか言ってないのに、バレリア様の? とか言ってるし……)

 そんな事を考えつつ無言のまま、ディンゴの出方を伺うアル。

 ディンゴは目を瞑り腕を組みながら、何か思案するように「うーーん」と唸っていた。

 数秒の沈黙を挟み、ディンゴは決心したようにアルへと話しかける。

「良いでしょう。 その代わりと言っちゃぁ何だが……」

 そう言うとディンゴは寡黙な表情に変わり、店の奥へと引っ込んでいく。

 十数秒後、再びアルの元へと戻って来ると、その手には折りたたまれた一枚の布を持っていた。

 そしてその布を無言のままアルの目の前に置くと……

「これをバレリア様に渡してくだせぃ」

「んっ? それは構わないけど……」

 アルは布に右手を伸ばすと、そこに重ねるようにディンゴの右手がアルの手を掴んだ。

「良いですかい? バレリア様が渋るようだったら……」

 真剣な表情のディンゴは、少しだけ躊躇うような素振りを見せていたが……

「旦那の方からも、あっしに協力するように言ってくだせぃ。 良いですかい?」

 そのディンゴの様子を見て、少し圧倒されたアル。

 少し戸惑いながらもアルはディンゴへと言葉をかけた。

「そりゃ良いけど…… 内容は?」

「それはバレリア様に聞いてくだせぃ。 良いですね? 約束ですよ?」

 ディンゴの様子を見てアルは小声で「あぁ……」とだけ呟く。

 するとディンゴは少し安堵した様子を見せながら、話を続ける。

「ふぅ…… これで安心だ! あっ! そうだ」

 何かを思い出したようにディンゴは、カウンターに並べられていた酒瓶を一本取り出す。

「これをバレリア様の手土産に。 くれぐれも頼みましたぜ」

「……はい。 わかりました……」

 少し罪悪感を覚えつつも、アルは承諾の返答をディンゴにする。

「さて。 こうしちゃ居られねぇ。 あっしはさっそく手配してきまさぁ」

 ディンゴは慌ただしく店の奥へと向かうと、バタバタと何やら準備を始めていた。

 そして店の奥の戸の影からアルを覗き見る。

「じゃ旦那も気を付けて! 頼みましたぜ」

 そう声をかけると再び店の奥へと引っ込んでいった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 アルはディンゴに手渡された布を大事そうに懐に仕舞い込み、酒瓶を握る。

 そして気不味そうな表情のまま、店を後にした。

「何か不味い事になってきた気もするけど…… 俺のせいじゃない…… よな?」

 少し…… いや結構な罪悪感を感じていたアルだが、すぐに気を取り直すと……

「というか、どう考えてもバレリアが悪いよな。 うんうん……」

 アルは自分に言い聞かせるようにそう呟き、自分を肯定する。

 そして酒瓶を片手にレイ達との待ち合わせ場所に向かうのだった。
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