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お城奪還編
第39話 嘘
しおりを挟む「さてと…… ここまでは概ね予定通りですねぇ」
日が暮れ、すっかり夜になると午前中の天気とは一変し、雲一つ無い快晴となる。
遮るものの無い月が、遠くまで見渡せる程の光で辺りを照らす。
城壁に囲まれた城の中庭には、美しく咲き乱れた花々や綺麗に整えられた生け垣が見える。
腕の良い植木職人によって造園された庭は、多額の費用が惜しみなく注ぎ込まれていた。
月明かりに照らされたその美しい庭の景観をぶち壊すように設置された、ゼニールの巨大な彫像。
旧アストリナ城の地下牢から地上へと戻ったレドルジは、その彫像を眺めながら
「お次はゼニールさんの希望通り、徴税と貴族の確保を行うとしますか」
そう呟くと「ふふっ」と小さな笑みを浮かべ、城内へと消えていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
時を同じくして、ここはレイ達の住む集落後。
村で購入した大量の食料を蔵へと保管すると、シナモンがテキパキと料理を始める。
「申し訳無いのですが、手伝って頂きたいのですよ! えーーっと……」
集落跡の集会場に居る旧アストリナ貴族達。
子供も含め全員が女性であるが、シナモンは少し気不味そうに料理の手伝いを依頼する。
「いえっ、気にしないで下さい。 出来る事は何でも致しますので」
貴族達の中の一人が笑顔で返答すると、シナモンも少し恐縮したように……
「あっ、ありがとなのです。 それでは、さっそくなのですが……」
集会場にある大きめの調理場で、女性十数名が料理の支度を急いだ。
そんな慌ただしい集会場から少し離れた屋外に、レイとアルの姿が見える。
調理場の窓から見えるシナモン達の様子を、並んで立ったまま何気なく眺めていた。
「何か、急に賑やかになったぁ」
「うん! こんな大勢の人と一緒にご飯食べるのって初めてかも」
レイとアルは他愛も無い話をしながら、料理が出来るまでの時間を潰す。
しばらくすると、調理場の窓から美味しそうな匂いが漂ってくる。
その匂いを嗅いだアルは、自分の腹部を右手で擦りながらレイへと話しかけた。
「レイは手伝わなくて良かったのか? 料理、得意だろ?」
「むぅぅ。 そんな意地悪言って…… ふんっ」
冗談っぽく言うアルの言葉に少しだけ気を悪くした様子のレイ。
「ははっ。 冗談だって。 まぁでも、とりあえず何とかなりそうだなぁ」
「うんっ! 何か人の役に立つって良いよね! 皆も嬉しそうだし」
無邪気に笑うレイの言葉を聞いて「いやぁ……」と少し気不味そうにするアル。
「んっ? どしたの? アルはこういうの嫌い?」
キョトンとした表情で尋ねるレイに、アルは気不味そうな表情を変えずに答える。
「えっ? そうじゃないけど…… まぁ実際、俺は何も役に立ってないしなぁ」
(シナモンがここまで連れてきて、レイが衣食住を提供。 俺は……)
そんな事を考えているアルの背中をレイは、少し強めに平手打ちする。
「ゲホッ…… っ、何すんだよ」
「えっ? いやぁ。 何か、らしくない事、言ってるなぁって」
ニコッとアルに微笑みかけたレイが言葉を続ける。
「実際アルが居なかったら、上手く行ってなかったかもだし……」
そして少し言葉に詰まったように照れた様子を見せるレイ。
その様子を見たアルが不思議そうに問いかける。
「何だよ。 言いたい事があるなら言えよ」
「えっ? うん。 何ていうかさ! 私ってお姉ちゃんしか居なかったから」
レイは照れを誤魔化すように「えへへっ」と笑いながら頬を掻く。
「妹みたいなシナモンちゃんと仲良く出来て嬉しいし……」
そう言うとレイは、アルの方をチラッと見上げる。
そしてアルにギリギリ聞こえない程度の声量で、言葉を続けた。
「アルみたいな……」
「レイ様ーー! アルさーーーん! そろそろ出来るですよぉ」
話を続けようとするレイを遮るように、集会場からシナモンの大きなが声がしてきた。
「おっ! 出来たみたいだな。 行くか?」
「えっ? あっ、うん。 ………んん」
レイは言葉を遮られて、少し納得いかないような表情で答えていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
レイとアルが集会場に着くと、料理が盛られた三つの膳が準備されている。
「さっ。 行くですよ? レイ様のはこっちなのです」
シナモンは膳を持つと、アル達にも運ぶように促す。
「行くってどこにだ? ここで食うんじゃないのか?」
「うんうん。 皆、一緒の方が……」
キョトンとする二人の様子を見て、シナモンは小声で二人へ声をかける。
「ちょっと話したい事があるです」
貴族達に聞こえない声量で囁くと、シナモンは貴族達へと一礼する。
「私達はあっちの家に居るですので、何かあったら仰って頂きたいのです」
そのシナモンの様子を見た貴族達は、一様にアル達へと頭を下げていた。
「さっ、行くですよ」
「えっ? あっ、あぁ」
シナモンの押し切るような半ば強引な態度に、アル達は渋々ながら付いていく。
見慣れたレイ達の家へ着くと、そのまま膳を居間へと運ぶ。
「ふぅ…… やれやれだなぁ。 それで…… 話ってなんだよ?」
「うんうん。 あの人達には言えないお話って事だよね?」
居間の壁を背にして縦長のテーブルに、レイとアルが並んで座る。
それと向かい合うように膳を置いたシナモンが、いそいそとお酒やお菓子を準備していた。
「ちょっと待って欲しいのですよ」
そう言うとシナモンは村で買ってきたお菓子をレイの前に、お酒をアルの前へと置く。
そして襟を正し二人に正対すると、頭を地面に付けるように平伏していた。
「おっ、おい。 一体、どーしたんだ?」
「ちょっ、ちょっとシナモンちゃん。 顔上げてよ! ねっ?」
急なシナモンの様子に二人は戸惑った様子を見せていた。
そんな二人を他所に、シナモンは申し訳無さそうに言葉を発した。
「もっ、申し訳無いのです。 私…… 二人を騙してたですよ……」
平伏したまま顔を伏せるシナモン。
その言葉を聞いていたレイは、不安そうな顔でアルの横顔を見つめている。
一方のアルは少し呆れたような表情で、シナモンへと声をかけた。
「まぁどうせ、金貨三万枚の価値がある物なんて無い…… って言うんだろ?」
アルの言葉を聞いたシナモンは、頭を下げたまま動こうとしない。
無言のままのシナモンを見たレイは、心配そうな表情でシナモンへ声をかける。
「そう…… なのかな? 本当? シナモンちゃん」
レイの問いかけに対しても無言を貫く様子を見て、レイはアルへと視線を送る。
するとアルは呆れたような表情のまま、レイに話し始める。
「そもそも、大金を叩いてあの貴族達を買って、無一文になったって言ってたしな」
「まぁ…… 言われてみればそうかもだけど」
アルの言葉を聞いたレイは、少し納得した表情に変わる。
そして改めてシナモンへ声をかけた。
「シナモンちゃん? 騙してたっていうのは、その事なのかな?」
「……はぃ。 なのです……」
レイの問いかけに対し、消え入りそうな言葉で返答するシナモン。
アルは小声で「やれやれ……」と少し呆れた様子を見せていた。
しかしレイはシナモンの返答を聞いて、パッと明るい表情に変わる。
「なぁーーんだ。 そんな事かぁ。 騙してたって言うから何事かと思っちゃった」
ケロッとした表情で笑うレイの言葉を聞いて、シナモンはバッと頭を上げる。
「おっ、怒らないのですか?」
「んっ? 何で怒るの?」
レイは不思議そうな表情でアルを見つめる。
「いやっ、俺に振られてもな……」
二人の様子を見ていたシナモンは、弁解するように話始める。
「あっ、あの…… 金貨三万の価値がある物は既に渡してるです! 物…… では無いのですが」
「へっ? どぉいう事? シナモンちゃん」
シナモンの言葉を聞いたレイは、キョトンとした表情で問いかける。
アルは苦笑いをしつつ、シナモンへと声をかける。
「まさかとは思うけど、それってあの貴族達の事か? 金貨三万枚であの連中を買ったとか?」
「……まさに、その通りなのです……」
アルは呆れた表情に変わり「ハァ……」と溜息を吐く。
「つまり…… あの連中を俺達に渡して一年間は面倒を見てねって事だよな?」
「そういう事に…… なるかもなのです……」
その言葉を聞いたアルは呆れた表情になると、小さな声で「やっぱりか……」と呟く。
そしてレイも少し不満そうな表情で腕を組むと、シナモンへと言葉をかけた。
「シナモンちゃん! 何でそんな嘘つくかなぁ……」
「それは…… ごめんなさい…… なのです」
今にも泣き出しそうなシナモンの表情を見て、レイは優しく諭すような表情に変わる。
「お金なんて無くても、ちゃんと相談してくれれば良かったのに! ねっ?」
てっきり怒られるかと思ってたシナモンは、レイの予想外の言葉を聞いて緊張の糸が切れる。
そして我慢していた感情が堰を切ったように溢れ出し、シナモンの両目から流れ落ちた。
「ううっ…… ごっ、ごめんなさっ。 うぅっ…… うわぁぁぁぁぁぁ」
へたり込み大声を上げて泣き出すシナモン。
その様子に驚いたレイはシナモンの元へと近付くと、そっと胸に抱きしめる。
アルは用意された酒を手酌で猪口に入れて口をつけ、シナモンが泣き止むのを待っていた。
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