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お城奪還編
第42話 お兄ちゃん
しおりを挟むレドルジが集落後を去った日の夜。
その日は昼から気温が上がり、風も無く燦々と降り注ぐ陽光が地面を焦がす。
季節は初夏だというのに、異様な程の暑さが皆に窮地を忘れさせた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
夜になっても気温が下がらず、季節外れの暑さに気が滅入っていたアル。
「あぢぃなぁ……」
自室の布団の上で寝転ぶアルは、暑さのせいで眠れずにいた。
開け放った部屋の窓からは温い風が入り込み、部屋の中は虫の声だけが聞こえる。
「しかし…… マジでどうするかな……」
眠れずにいたアルは、今朝の出来事を思い出す。
レドルジに追い詰められ、逃げる事も出来ない状況。
「ハァ…… どうせなら解決してから旅立てよな……」
自分の置かれた状況に対し、やり場の無い不満がバレリアとワンに向いていた。
「とりあえず…… 今は…… 何も考えられ……」
寝苦しい暑さを忘れさせる程の眠気が襲い、ウトウトと浅い眠りにつくアル。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そして夜も深まった頃……
カタン……
アルの部屋の開け放たれた窓の付近で、小さな物音がした。
そのせいで、先程まで賑やかに鳴いていた虫の声がパタリと止み、辺りは静けさに包まれる。
アルは浅い眠りの中で、そのような状況の変化に気付くと無意識に寝返りを打とうとした。
(んっ…… んん!? かっ、身体が動かん……)
浅い眠りについてたアルが夢と現実の狭間の中で、身体を動かそうとする。
しかし何かに両腕を挟まれ、身体の上に何かが乗っている感覚がした。
(金縛りか? ……ふぅ。 落ち着け落ち着け。 金縛りってのは……)
アルは目を瞑ったまま頭の中で状況を整理し、足の指や手の指が動く事を確認する。
(頭は起きてるけど、身体が寝てる状態…… だったっけか?)
手足の指が動く事を確認すると、アルはゆっくりと目を開けようとする。
(ってか、マジで何か乗ってる感覚あるなぁ…… こんなリアルな金縛りも……)
そんな事を考えつつ、ゆっくりと薄目を開ける。
「っ!!」
「静かに……」
アルが目を見開くと身体の上に馬乗りになるように、一人の少女が座っていた。
そして目を開けたアルの口を左手で抑えると、右手に持っていたサーベルを喉元に当てる。
(落ち着け…… これは…… マジの奴だよな?)
寝起きの状態で突然襲われている状況に、アルは困惑していた。
(この世界は寝起きで襲われるように出来てんのか?)
アルは最初に【神狼】に襲われた事を回想しつつも、冷静に状況を判断していく。
(切りつけないって事は…… 何か目的があるのか?)
そんな事を考えているアルに、少女がサーベルを突き付けたまま声をかける。
「あの人達を…… どうするの? ……売るの?」
感情が希薄で抑揚の無い少女の問いかけに対し、アルは口を抑えられたまま小さく首を横に振る。
「じゃぁ…… どうするの? ゼニールを…… 殺す?」
続けざまの問いかけに対しても、アルは同様に小さく首を横に振る。
(一体、何なんだ? てか、回避能力ってこういう場合も有効なんだろうか……)
喉元に突き付けられたサーベルの冷たい温度を肌で感じ、アルは少し焦りを覚えていた。
そして確かめるように、少しだけ腰を動かす。
(軽いな。 喉元から離れた瞬間に…… 何とか剣を奪えれば……)
そんな事を考えているアルの様子を他所に、少女は質問を続ける。
「ゼニールを殺さないなら…… 貴方が死ぬ?」
先程とは違い少しだけ感情を込めて話す少女。
アルの口を抑えていた左手を外し、両手でサーベルを逆手に持つと……
ドスッ!!
少女の持つサーベルはアルの左頬の真横に刺さり、刃先は枕に沈んでいた。
「答えて…… っ!」
「ふんっ!!」
アルは思い切り身体を横に揺らし、上体に乗ってる少女を振り落とす。
突然の出来事に驚いた少女だが、視線はアルでは無く枕元に突き刺さったサーベルへと向かっていた。
アルはそのスキに少女の両手首をガッシリと掴むと、覆いかぶさるように布団へと押し付ける。
ドタドタドタッ!!
両手を塞がれた少女は足をバタつかせながら、顔を背けている。
「落ち着け。 っていうか、お前は誰なんだよ!!」
アルは組み敷いた少女に対し、少し大きめの声で問いかける。
「…………」
アルの問いかけに対し、無言のまま顔を背ける少女。
そんな事が行われていたアルの部屋に、ゆっくりと近付く足音が聞こえてきた。
ガラガラッ…… バタンッ……
その足音の主レイが、アルの部屋の扉を開けると寝惚け眼を右手で擦りながら……
「うるさぁぁい…… 何してるのぉ? えっ!?」
レイは左手に持つランプでアルと少女を照らす。
開け放たれた窓から差し込む月明かりと、レイの持つランプに照らされた状況。
それはアルが少女を組み敷き、襲っているように見えた。
「アッ…… アルぅぅぅぅぅぅ」
「えっ!? あっ、いや。 ちょっ、落ち着けレイ!!」
レイはドスの聞いた低い声で、唸るようにアルの名前を言葉に発する。
その声を聞いたアルは焦ったように、パッと両手を離すとへたり込むように座る。
そして右手を床に置き、制止するように左掌をレイに向けていた。
肩を怒らせるレイと追い詰められたようなアル。
そんな二人に挟まれていた少女はムクッと起き上がると、レイに背を向けアルの方を見る。
そして少女は少し感情が籠もった口調で、アルへと問いかけた。
「…………アル? まさか…… 本当にアル?」
「えっ? あっ、あぁ……」
少女の突然の問いかけにアルは、少し呆気にとられたように肯定する。
すると少女は突然、アルの胸元に抱きつきながら……
「お兄ちゃん!」
少しだけ感情を込めた、少しだけ大きな声で少女はアルをそう呼んだ。
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