あるとれいと~絶対回避能力があるのに色々トラブルに巻き込まれちゃう男のお話~

上田るぅ

文字の大きさ
45 / 82
お城奪還編

第45話 お膳立て

しおりを挟む
 リナがアルを襲った日の翌日、正午。

 その日は前日のうだるような暑さとは打って変わり、過ごしやすい陽気に変わる。

 風も弱く朝方から気温が下がると、アルの部屋の開け放たれた窓からは涼し気な風が入り込む。

 眠りを誘う鳥の声とそよ風によって、アルの眠りも自然と深くなってしまう。

 前日の疲れも重なり正午前まで眠ったアルは、ハッとしたように目が覚めた。

「ふぅ…… 今日は起こしに来なかったなぁ」

 ゆっくりと身体を起こし長座しながら、そう呟くアル。

 立ち上がり着替えを済ませると、あくびをかきながら居間へと向かった。

「おはよーー。 んっ? どしたんだ?」

 居間ではレイとシナモン、そしてリナが遅めの朝食もそこそこに暗い表情で俯いている。

「あっ、おはよアル。 んっ…… 何でも無いよ」

 レイは誤魔化すように苦笑いを浮かべていた。

「なんだよ。 あっ、俺にもご飯ちょーーだい」

 アルはレイの隣にドカッと腰掛けると、シナモンに声をかける。

 するとシナモンは少し不安そうな表情で、アルへと問いかけた。

「あっ、あの…… これから、どうするですか?」

「一体、どしたんだ? 俺に任せておきながら、不安そうな顔して……」

 あっけらかんとした表情で答えるアルに、シナモンは少し不服そうな表情で返答する。

「アルさんに任せてるから不安なのですよ……」

「悪かったな」

 アルが不機嫌そうに答えると、シナモンは少し気不味そうな表情に変わる。

「あっ…… 冗談なのです。 ごめんなさいなのですよ……」

 シュンとするシナモンと苦笑いを浮かべるレイ、そして無表情のリナの顔を見回すアル。

(うーーん。 一晩寝て冷静になったのか…… 予想以上にテンション低いな……)

 アルは少し思案するような表情で、それぞれの顔を改めて見回す。

(リナは何考えてるか分からんけど…… まぁ時間も無いし、さっさと話を進めるか)

 少し気の抜けたような表情に変わったアルは、いつも通りのトーンで話を始めた。

「とりあえず、城を奪還する方向で動くぞ。 良いか?」

 アルの問いかけにレイはハッとした表情で大きく頷く。

 リナも無表情のまま頷くが、シナモンは不安そうな表情のまま確かめるように尋ねる。

「かっ、可能なのですか?」

「うーーん。 やってみないと分からん」

「んなっ!!」

 アルの返答にシナモンは納得のいかない表情で絶句する。

「良いか? あと九日しか無いんだぞ?」

「でっ、でもアルさんは【数字の烙印】を持ってるですよ? 烙印の力でバーーンっと……」

 アルの本当の力を知らないシナモンは、両手を広げ説得するようにアルへと言葉をかける。

(やっぱり期待してるよなぁ…… 避ける事しか出来ないってのに……)

 アルは少し呆れた表情でシナモンを見つめると、小さく溜息を吐いた。

(まぁ無理も無いか。 大国を治める奴と同じ能力ってんだから、期待しちゃうよなぁ……)

 そんな事を考えながらアルは、三人の顔を見回しながら言葉を発する。

「良いか? 俺一人で何をしても良いってんなら、城くらい何とかなるかも知れんけど」

 嘘を付いてる事を後ろめたいアルは、誤魔化すように右手で顎を触りながら話を続ける。

「全員が無傷で安全に城を奪還するってのは…… さすがに簡単じゃないだろ?」

 アルの言葉を聞いていた三人は、少しガッカリしたように俯く。

「それに上手く城を落としても、ハイランド帝国ってのが逆に奪還しに来たら、太刀打ち出来んだろ?」

「そっか…… 確かにそこまで考えてなかったかも」

 レイはガッカリした表情のまま、俯きながら呟く。

「だから、やれるだけの事をやって駄目そうなら逃げる。 良いか?」

 アルの言葉を聞いたレイとシナモンは、無言のまま頷く。

 それとは対象的に、無表情ながら眉間に少しシワを寄せたリナが反論する。

「嫌だ…… リナは一人でも取り返す……」

 リナの予想通りの返答を聞いたアルは、少し口角を上げながらリナに言葉をかけた。

「誰も奪還しないなんて言ってないだろ?」

「……どういう事?」

「九日以内に奪還出来なければ逃げる。 けど時間をかけて、城は絶対に奪還する」

 アルの言葉を聞いたシナモンは、ハッとした表情に変わる。

「確かにそうなのです。 ゼニールの任期は後一年なのですから…… それも可能かもなのです」

 シナモンの言葉を聞いたリナは、渋々ながら「……分かった」と呟いていた。

(よし。 これで、とりあえずリナの暴走は避けられたな。 まぁ城を取り戻すなんて非現実的過ぎるし…… 逃げる方向で進めるけど……)

 アルはそんな事を考えつつ、改めて三人の顔を見回すと右人差し指を軽く振りながら……

「んじゃ、とりあえず村に言ってディンゴのオッサンに会うぞ」

「んっ? ディンゴって、お姉ちゃんの配下だったオジサンだよね?」

「あぁ。 何するにせよ情報が足りないからな。 あのオッサンにも役に立って貰おうぜ」

 アルの言葉を聞いた三人はお互い顔を合わせると、やる気に満ち溢れたように頷き合う。

 そしてスッと立ち上がると、未だにテーブルの前に座るアルへ視線を送る。

 三人の視線に気付いたアルは小さく頷きながら、真剣な表情で言葉をかけた。

「とりあえず…… 朝ご飯…… 良いっすか?」

 真剣な表情で話すアルの顔を見たレイは、右手で眉間を抑えながら溜息を吐いていた。

「やっぱりアルさんはアルさんなのです…… 今、用意するですよ……」

 呆れた表情のシナモンはいそいそと台所へ向かい、リナは改めて座ると残った食事を食べ始めた。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 食事を済ませたアルとリナは村へとやってきた。

 既に時刻は正午を過ぎており、レイとシナモンは集落跡で留守番をする事になる。

「おっ、あそこだあそこ。 とりあえず、用心の為にフードは被っておけよ?」

 路地裏にあるディンゴの酒場へとやってきた二人は、さっそく店内へと入る。

「こんちわーー! 居るかな?」

 アルが少し大きめの声で呼びかけると、カウンターの奥からディンゴが姿を見せた。

「おっ、旦那ですかい? バレリア様には…… って」

 ディンゴはフードを被るリナを見て、ハッとしたような表情に変わる。

「ばっ、バレリア様も居らしてたんですか? ……んっ?」

 リナを覗き込むように見たディンゴは、疑問を浮かべた表情でアルに視線を送る。

「えっと…… バレリア様じゃ……?」

 その様子を見ていたアルは少し苦笑いをしながら、ポンポンとリナの頭を叩く。

「この子は残念ながらバレリアじゃないよ。 とりあえず座って良いかな?」

「えっ? あぁ。 構わねぇですが……」

 少し懐疑的な表情でリナを眺めつつ、ディンゴはカウンターに飲み物を二つ用意した。

 席に座ったアルは、隣に座るリナに声をかける。

「このオッサンは信用出来る人だから。 フード取っても良いぞ」

「……わかった」

 リナは促されるようにフードを脱ぐと、無表情のままディンゴを見つめる。

 端正な顔立ちだが、まだ幼いリナの顔を見たディンゴは少し表情を曇らせる。

 そしてジッとアルを見つめ、意を決したように話を始めた。

「旦那、この際だからハッキリ言っておきやすが……」

 ディンゴは表情を曇らせたままチラッとリナに視線を送ると……

「あっしはどうも女の子供ってのは苦手でね。 出来れば連れて来ないで欲しいんですが」

 ディンゴの突然の言葉を聞いたアルは、少し苦笑いを浮かべる。

(それで、こないだシナモンを恫喝してたのか…… まぁ理由は何となく想像出来るけど……)

 アルはふとバレリアの事を思い出しつつも、苦笑いのままリナの頭をポンポンと撫でる。

 そしてディンゴに視線を向け、話を始めた。

「まぁ気持ちは分かるけどさ。 とりあえず、バレリアに頼んでた件なんだけど良いかな?」

「もっ、もちろんでさ。 でっ、バレリア様は何て仰ってました?」

 カウンターから身を乗り出し、食い入るようにアルを見て話すディンゴ。

 その様子にアルは少し後ろめたさを感じていた。

(この様子だと…… バレリアが居ないって言ったら…… 協力してくれんだろうなぁ……)

 そんな事を考えつつ、アルは少し苦笑いを浮かべたまま返答する。

「オッサンのお膳立て次第では引き受ける…… って言ったけど……」

 アルのその言葉を聞いたディンゴの表情は明るくなり、少し上ずった声で……

「もっ、もちろん何でもしますぜ! っで、何をしたら良いと?」

 ディンゴの返答に少し後ろめたさを感じつつも、アルは話を続けていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

処理中です...