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お城奪還編
第47話 戦神とうたわれし者
しおりを挟むアストリナ貴族の引き渡しまで、残り八日。
この日も前日同様、快晴で風も無く過ごしやすい陽気。
絶好の偵察日和と言えるだろう。
朝食を済ませたアル、レイ、シナモン。
三人はシナモンが有り合わせの布や、服を組み合わせて作った商人風の服装に着替える。
リナは念の為、フードを深く被った旅装のような格好をしていた。
「よしっ。 大体、準備出来たか。 でっ、ここから城って、どれ位の距離なんだ?」
アルの問いかけにレイは右人差し指を顎に当て、少し斜め上を見ながら答える。
「うーーんと…… 歩いて二時間って所かなぁ? あの辺ってあんまり近寄らないけど……」
(割と距離があるな…… まぁ今から出たら昼までには着くか……)
アルは右手で顎を触りながら、思案するような様子を見せていた。
そして考えがまとまったように、三人の顔を見回すと……
「とりあえず行ってみるか。 先に言っておくけど、見回りの兵士に会っても余計な事とか言うなよ」
「当たり前なのですよ! 心配無用なのです」
無い胸を張るシナモンの様子を見たアルは、軽く溜息を吐く。
(お前が一番心配なんだけどな……)
そんな事を考えつつも四人はゼニールの居城、アストリナ城へと向かっていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
一方その頃、目的地のアストリナ城では……
「居たぞーー! あそこだーー!」
「昼間から堂々と! 絶対に逃がすなーー」
槍を持った兵士達が庭園内を逃げ回る人影を追い回す。
「へへーーんだ! ノロマな奴に捕まる程、ボクは間抜けじゃないよーーだ!」
フードを深く被り背に白く美しい弓を背負った盗賊が、兵士達を煽っていた。
「クッ! 馬鹿にしやがって! 囲め! 囲めーー!」
兵士達は逃げ回る盗賊を捕まえられずに、悪戦苦闘している様子だ。
「全く何してるゼニ! 早く捕らえるゼニよ!」
庭園を見渡すように城の正面に作られたバルコニー。
その上から庭園を望み、青筋を立てながら怒鳴り散らすゼニール。
「まぁまぁ。 あんなコソ泥、放っておいても良いじゃないですか」
そんなゼニールを宥めるように、にこやかな口調で話すレドルジ。
「何してるゼニ! お前も行って、さっさと捕まえるゼニ」
「フフフ。 まぁまぁ」
バルコニーから眺める二人を他所に、兵士と盗賊の追いかけっこは続いていた。
「ノロマだなぁ! それじゃボクはそろそろ失礼するよーー! じゃぁねぇ」
盗賊は生け垣の影に隠れると、そこに兵士達が群がる。
追い詰めたように取り囲んだが、生け垣の周辺には人の姿は見当たらない。
「おっ、おい。 どこ行った? そっちは?」
「いやっ、こっちにも居ない」
辺りを見回す兵士達に対し、バルコニーから怒りの声が飛んできた。
「何してるゼニ! さっさと捕らえないと、どうなるか分かってるゼニか?」
青筋を立てバルコニーの手すりをドンドンと叩きながら、叫ぶゼニール。
そんなゼニールとは対象的に、涼し気な口調で話すレドルジ。
「もう城内には居ないようですよ? 今から城外を追えば、捕まえられるかも知れませんねぇ」
その言葉を聞いた兵士達はお互いに顔を見合わせると、焦ったように言葉を発する。
「城外だ! 行くぞっ!」
一人の兵士がそう叫ぶと、呼応するように「オウ!」と掛け声を上げ、正門へと向かう。
その様子を見ていたゼニールは、不満そうな表情でレドルジを睨みつける。
「お前は行かないゼニ? 全く…… コソ泥一匹も捕らえられないゼニか」
「ボクの専門は肉体労働じゃありませんので。 申し訳ありません」
悪びれもしないレドルジに対し、ゼニールは追求するように声を荒げる。
「それに! 貴族共を連れてくる約束はどうなったゼニ? 十日も猶予を与える必要なんて無いゼニ」
「まぁお気持ちは分かりますが…… ゼニールさんも帝国貴族の身ですよね?」
レドルジの問いかけに「フンッ」と鼻を鳴らし、怒ったような口調で返答する。
「それがどうしたゼニ?」
「最近、ゼニールさんの事を嗅ぎ回ってる連中も居るようですし。 念の為、帝国法に則った形で事を進めた方が良いかと思いましてね」
にこやかな口調で諭すように話すレドルジに対し、嫌らしい笑顔でニヤッとしたゼニールは
「心配無いゼニ。 ワシは帝国軍第七位の将軍に、多額の献金をしてるゼニ。 多少の事は何でも金で解決出来るゼニよ」
少し勝ち誇ったような表情で、レドルジを見下すように話すゼニール。
「そうですか。 余計な心配でしたかね」
その言葉を聞いたレドルジは涼しい表情のまま、小さく呟いていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
時を同じくして城外では、槍を持った十人程の兵士達が辺りを見回していた。
「居たか? そっちはどうだ?」
「駄目だ。 一体、どこに行きやがった」
焦りと怒りが籠もったような表情で、盗賊の姿を捜す兵士達。
「なっ、なぁ。 もし見つからなかったら…… 俺達もザーマスみたいに……」
兵士の一人が発した言葉によって、一同は押し黙る。
その一言によって先日【ザーマスが化け物に食われた】という噂が兵士達の脳裏を過る。
実際に断末魔の叫びを聞いた者も居て、その噂の信憑性が高い事を心の何処かで実感していた。
数秒の沈黙の後、意を決したように別の兵士の重い口が開く。
「いっ、今は余計な事は考えるな。 とにかく、手分けして捜すぞ!」
兵士達はお互いに顔を見合わせると、無言で頷き方方へと散っていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
太陽が高くなり、時刻は正午に近づいていた。
アストリナ城へと続く一本道。
そこを歩くアル達の姿が見える。
「結構歩いたけど…… まだなの?」
アルは後頭部に両手を当て、少しダルそうな口調でレイに話しかける。
「もうちょっとだと思うけど…… 多分……」
少し自信なさげにチラッとリナの方を見るレイ。
その視線に気付いたリナは無言で頷くが、ふと何かに気付いたように前方を指差す。
「あれ…… 誰?」
リナの指差す方向を見ると、猛スピードで駆けてくる一人の人物の姿が見える。
アルは人影に気付くと三人に目配せし、小声で話しかける。
「良いか? 俺達はゼニールに雇われた商人。 俺が話すから、お前らは話を合わせろよ?」
その言葉を聞いた三人は無言で頷くと、少し緊張した面持ちで立ち止まった。
アル達の方へと駆け寄る人影が、立ち止まるアル達に気付き歩調を緩める。
そして警戒するように、ゆっくりと近付くとアル達に声をかけてきた。
「この先はゼニールの城だけどぉ。 君達は知っててこの先に行くのかな?」
少し懐疑的な様子で尋ねる人物。
マントを羽織りフードを深く被った性別不詳の人物だが、声は女性のように聞こえる。
その人物は先程、ゼニールの城を荒らしていた盗賊だった。
そんな事とは知らずにアルは、打ち合わせしていた通りの言葉を発する。
「もちろんですとも。 私共はゼニール様にご贔屓頂いている商人でして」
アルの言葉を聞いた盗賊は、その言葉を聞いて少しピクッと反応する。
「なにぃぃ? ゼニールのぉぉ? それじゃ……」
そう言うと盗賊はアルの後ろに控えるリナに、チラッと視線を送る。
「その子はぁ?」
一人だけフードを被るリナの姿を見た盗賊は、懐疑的な様子で尋ねる。
「えっ? この子ですか?」
(なんだコイツ……? ゼニールの名を出せば引き下がると思ってたけど……)
アルは少し疑問に思いながらも、怪しまれないように話を続ける。
「これはゼニール様に献上する奴隷でしてね」
「なっ…… なにぃぃぃぃ?」
盗賊はプルプルと震え出すと突然、マントを脱ぎ捨てた。
その姿は青みがかった長い髪を後頭部で結い、少し肌の露出が多い黒い服装の女性。
(なっ…… 女かよ……)
アルは突然マントを脱ぎ捨てた女性の様子を見て、少し驚いた様子を見せていた。
そんなアルを他所に、女性は背負っていた白く美しい弓を左手に持ち、矢を右手に持つ。
そして矢の先端を突き付けるようにアルヘ向けると、声を高らかにして叫んだ。
「そんな幼い子を奴隷にするなんて、ボクが許さないよっ!」
突然、矢を突き付けられたアルは少し焦ったように、女性へ声をかけた。
「おっ、落ち着けって! ってか、お前は誰なんだよ。 ゼニールの仲間じゃないのか?」
焦るアルと少しだけ身構えるレイとシナモン。
リナはアルの後ろに控えてはいるが、いつでも動き出せるよう準備していた。
そんな四人を見た女性は、少し疑問を浮かべた表情で返答する。
「女の子に…… 顔に変な模様が描かれたオジサン。 変な組み合わせだねぇ」
「オジサンじゃねーーし!」
矢を突き付けたままの女性は、アルの言葉を気にする事も無く言葉を続けた。
「まぁいっか! 聞いて驚かないでねぇ? ボクの名は……」
女性は勝ち誇った表情に変わると、アルに矢を向けたまま名乗りを上げた。
「戦神とうたわれし者 アガレス・ルーグナー!!」
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