あるとれいと~絶対回避能力があるのに色々トラブルに巻き込まれちゃう男のお話~

上田るぅ

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お城奪還編

第64話 城壁

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 アストリナ貴族の引き渡しまで、残り四日、夜。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 居間で夕食を済ませた皆が、いつも通りの定位置に座っていた。

 小綺麗な格好をしたディンゴは、当然のようにアズサと向かい合うように座っている。

 ニコニコと笑顔を向けるディンゴに対し、アズサは苦笑いを浮かべていた。

「いやぁ、お嬢さん。 あっしも役に立つ男でしょ?」

「ほぇっ? あっ、うんうん! オジサン凄いねぇ」

 自慢気に話すディンゴとは対象的に、苦笑いのアズサの言葉には抑揚が無い。

「ってかさっ! もう日にちも残り僅かだけど、どぉするの?」

 ディンゴの視線を誤魔化すように、上座に座るアルにアズサが声をかけた。

 その問いかけに対し、アルはディンゴに視線を向け確かめるように問いかける。

「んで…… 首尾の方は? その様子じゃ上手くいったみたいだけど……」

「もちろんでさ。 国境の警備はほぼ倍に。 この様子じゃ城は殆ど空ですぜ?」

 ディンゴの言葉を聞いたレイやシナモン、リナも小さく「おぉぉ」と呟く。

「っとなると…… そろそろ聞いておきたいんだけど、城壁ってどうやって抜けるんだ?」

 アルは敢えて聞かずにいた、城壁の抜け方をアズサに問いかける。

「そうなのですよ! というか、何で今まで聞かなかったです?」

 少し不満げに話すシナモンの様子を見て、アルは溜息交じりに言葉を返す。

「ハァ…… あのなぁ。 いくら俺達だけとは言え、情報が漏れたら洒落にならんだろ?」

「んぐっ…… 何も考えてないと思ってたのですが…… ちゃんと考えてたのですね……」

「当たり前だろ…… 人を何だと思ってんだよ」

「アルさんなのですよ!」

 小さく「フンッ」と鼻を鳴らすシナモンに、アルは呆れた表情でジトっと睨む。

 そんな二人の様子を他所に、アズサが思い出すように話を始めた。

「城壁はねぇ、穴が開いてるんだよねぇ。 もちろんパッと見は隠されてて分からないんだけどさっ」

 ニコッと笑うアズサの表情を見て、ディンゴがうっとりとした表情でそれを見つめる。

「可憐だ……」

 横目に映った小声で呟くディンゴをアルは見なかった事にし、改めてアズサに問いただす。

「穴ねぇ。 何でそんなのが分かるんだよ?」

「ふっふっふーー! それはねぇ、あれは確かぁ…… 一ヶ月前位の事だったんだけど……」

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 およそ一ヶ月前の昼下がり。

「うぅぅ…… お腹減ったよぉぉ…… うぅぅ……」

 お金も無く食べ物も無いアズサは、街道を一人でフラフラと歩いていた。

 そんなアズサに一人の青年が声をかける。

「そこのレディ! どうしたんだい? 何やらお困りのようだね?」

 少しボロボロの煤けた白装束に身を包んだ、貴族風の男。

 キザな口調で話すその優男は、フラフラと歩くアズサの腰に手を回し話を続ける。

「僕で良ければ力になるよ? どうだい? 町で食事でも」

「食事? ご飯ご馳走してくれるのっ?」

 男の言葉を聞いたアズサは立ち止まると、腰に手を回す男にパァッと笑顔を向けていた。

「もちろんっ! 僕の名前はロダン。 レディ。 君の名は何て言うんだい?」

 キザな口調で自己紹介をするロダンに対し、アズサは笑顔を向け答える。

「アズサ! それで、何食べさせてくれるのっ? てかお兄さん、お金持ってるの?」

 アズサはロダンの少し汚れた衣装に目をやると、懐疑的な表情で尋ねる。

「これは赤い髪の女に追われて…… いやいや、レディには関係無い事だったね」

 ロダンは何かを思い出したように表情が青くなるが、気を取り直して言葉を続ける。

「もちろんお金は持ってるよ! 何でもレディの好きなものを食べると良い」

「ほんとに? いっぱい食べちゃうかも知れないけど良いの?」

「構わないよ? そのかわり…… 僕の頼みも聞いてもらえるかい?」

 ロダンの言葉を聞いたアズサは、大きく首を縦に振る。

「オッケー、成立だ! それじゃ、近くの町まで行こうか」

 そうして二人は、近くの町へと向かっていった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 と、ここまでアズサが話すと、ディンゴがしかめっ面で声を荒らげていた。

「ちょっと待ってくだせぃ! まさか、そんな変な奴に付いて行ったんで?」

「ほぇ? うん。 ご飯食べさせてくれるって言うし」

「何てこった! そっ、それでソイツに何かされたんで?」

 食い気味にアズサに問うディンゴに対し、アルが呆れた顔で制止する。

「オッサン…… ちょっと落ち着けって。 その話はまた後で良いから。 んでそれから?」

「あっ、うん! えっとねぇ……」

 アズサが話を続けようとすると、ディンゴは押し黙ったまま少し不満げな表情に変わる。

 ふとアルがレイに視線を向けると、レイは何かを思い出すようにブツブツと呟いていた。

「んっ? どうかしたのか?」

「えっ? あっ、何でもない! 何か聞いた事ある名前だなぁって…… それに赤い髪の女って……」

 レイの様子を他所に、アズサは首を傾げ思い出すように話を続けていく。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 町についたアズサとロダン。

 ロダンの案内の元、宿場の中にある食堂で食事を取っていた。

「うん、うんうん…… 美味しいねぇ! ハァ…… あっ、おかわりーー」

 次々と運ばれる料理をぺろりと平らげていくアズサに、ロダンは圧倒されていた。

「よっ、よく食べるレディだね。 フフフ。 そんな焦らなくても料理は逃げないよ?」

 ロダンの言葉を無視するように、ガツガツと料理を口に運ぶアズサ。

 心ゆくまで食事を堪能したアズサは、ポンポンとお腹を擦りながら溜息を吐いていた。

「ふぅ…… まだ食べれるけど…… 腹八分目って言うもんねっ?」

「まっ、まだ食べれるのかい? ふっ、フフフ。 困ったレディだ」

 アズサの屈託のない笑顔に少し圧倒されていたロダンだが、気を取り直して言葉をかける。

「それで…… そろそろ僕の頼みを聞いて欲しいんだけど。 良いかい?」

「うん! なになにぃ?」

 ロダンの問いかけに対し、アズサはニコやかに答えていた。

 そのアズサの笑顔を見たロダンは、「ふっ」と小さく笑う。

「見た所、レディはスタイルが抜群だね? どうだい? 僕の彫刻のモデルにならないかい?」

「モデル? んっ? なにそれ?」

 ロダンの問いかけに対し、アズサは首を傾げ疑問を浮かべた表情で問い返す。

「何、簡単な事さ! 裸になって寝ていてくれれば、それで構わないよ?」

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 と、アズサがここまで話した時点で、またしてもディンゴが声を荒らげている。

「ちょっと待った! それは本当の事ですかい?」

「ほぇ? うん。 何かそんな事、言ってたけど」

 ディンゴの問いかけに、アズサはあっけらかんとした表情で答える。

 するとディンゴは両手で顔を覆い、上を向きながら

「なんてこった。 そんな羨まし、じゃなかった。 そんな事があって良いのか、ちきしょう」

 そんなディンゴの様子を見ていたアズサは、表情を変えずに言葉を発する。

「んっ? ボクの裸が見たいって事? こないだアルル」

「アズサ! それは良いから、とりあえず話の続きを……」

 何か不味い事を口走りそうだと感じたアルは、制止するように焦ってアズサに声をかける。

 そんなアルの様子を、レイ達はシラッとした冷めた視線で見つめていた。

 そしてアズサが話し始める。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「えぇぇ? 裸は嫌だなぁ。 風邪ひいちゃうし」

 即座に拒否したアズサに対し、ロダンは少し困惑した表情に変わる。

「そっ、そうかい。 それじゃ、もう一つのお願いを聞いてくれるかい?」

 気を取り直したロダンは荷物を漁ると、一欠片の石を取り出した。

 それをおもむろにテーブルに置くと、アズサの目をジッと見て話しかける。

「こういう石を見た事無いかい? これは大理石といって、とても高価な物なんだけど」

 アズサは箸で石をヒョイッと取ると、目の前まで持ってきてじっくりと眺める。

「この石の大きな物、もしくはレディの裸。 どちらか好きな方を選んでくれたまえ」

 ロダンはキザっぽく「フッ」と笑い、アズサの体をじっくりと眺めていた。

(食事のお金も無いレディには、無理な代物。 となると必然的に……)

 何かを想像していたのかロダンが少しニヤッとすると、アズサはハッとした表情に変わる。

「あぁぁ! 見た事あるよコレ! 大きなのがあれば良いんだよね?」

「えっ? それはそうだけど。 大きいといっても、こんなのじゃ駄目だよ? レディ」

 そう言うとロダンは両掌を向かい合わせ、頭くらいの大きさに広げる。

「大丈夫だってば! そんなのじゃなくてぇぇ」

 アズサはロダンの手を握ると、その手を大きく広げていく。

「これ以上あるかな! 壁みたいなものだし」

 ニコッと笑うアズサの表情を見て、ロダンは驚いた表情に変わる。

 そして先程まで少々下品な想像をしていたが、創作意欲が湧いたのか目を輝かせて問いかける。

「ほっ、本当かいレディ! それはどこにあるんだい?」

「本当だってば! さっそく行ってみようよ!」

 アズサは会計を済ませたロダンの手を引き、ゼニールの城へと向かっていった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 と、ここまで話したアズサを見て、アルが溜息交じりに言葉をかける。

「で…… まさか、ゼニールの城壁を?」

「うんうん! 何か一心不乱に彫り始めちゃってさぁ。 ボクは退屈で帰って来ちゃったんだよねぇ」

 両手を後頭部に当て、あっけらかんとした表情で話すアズサ。

「んで後から見に行ったら、バッチリ塞がってたんだけどさっ」

「おいおい…… 塞がってたら駄目だろ……」

 アルの言葉にアズサは、ニカッと白い歯を見せ答える。

「だからパッと見は塞がってるけど、ちゃんと通れるから大丈夫だってば」

 その言葉を聞いたアルは、皆の顔を見回す。

 そして皆が無言で頷くと、ディンゴが小さな声で呟く。

「旦那。 安心しやしたぜ。 良かった」

「えっ? あぁ。 そうだな」

 急に声を掛けられ少し驚きながらも、ディンゴの言葉に小さく頷くアル。

「えぇ。 結局お嬢さんの裸は、見られてないって事でやすよね?」

「あっ…… そっちね……」

 ズズズッ………………

 ディンゴの言葉の後、居間はリナの茶を啜る音だけが聞こえていた。
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