あるとれいと~絶対回避能力があるのに色々トラブルに巻き込まれちゃう男のお話~

上田るぅ

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お城奪還編

第71話 正体

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「おわぁぁっ!!」

 アルと攻防を続ける【神狼】の戦鎚が、目にも留まらぬ速さで下から上へと弧を描く。

 ギャリーン!!  キーーーーーーーンッ!!!!!

 レイ達が放った矢の音より先に、【神狼】の戦鎚の破裂音がアルの耳に届く。

「なっ!!」

 戦鎚は何かに衝突し砕け散ると、アルを避けるように破片が辺りに飛散した。

 一瞬の出来事で何が起こったか分からなかったが、ハッと振り返ったアルは現状を把握する。

(しっ…… 失敗したのか!?)

 レイ達の方に視線を送ったアルは、へたり込むように座るレイとアズサ、そしてシナモンを目にする。

 そしてすぐに【神狼】に視線を戻すと、砕けた戦鎚を放り投げ上空に視線を向けていた。

 釣られるように上を見ると、アズサの矢が円を描くように回転しながら飛んでいるのが見える。

「グルルルルルルゥゥゥゥ」

「させるかよっ!!」

 回転する矢に視線を向けた【神狼】は、その矢めがけて今にも飛び跳ねようとしていた。

 ダンッ!! ガシッ!!!

 アルは飛び跳ねた【神狼】と同時に飛ぶと、【神狼】の脹脛を両腕で抱きしめるように掴む。

「ガァァァッ!!!」

 ドサッ!!

 足を捕まれバランスを崩した【神狼】は、仰向けになり首だけ起こし足元のアルを睨みつける。

(くっ…… どうする…… 今コイツに矢を奪われたらマジで終わるぞ……)

 歯を食いしばりながら必死に足に抱きつくアルだが、【神狼】は力を込め片足を抜き出した。

 その瞬間。

「ハァァァァァァァァァッ!!」

 声と共に【神狼】の上半身が影に包まれ、上空から何かが落下してくる。

 ザシュッ!!!

「グアァァァァァッ!!」

 全体重を掛けて、上空から矢じりで【神狼】の首を斬りつけるリナ。

「うっ…… うぅっ……」

 一瞬の出来事だったが、リナの突き立てた矢じりは【神狼】の両掌で防がれていた。

「グッ、グルルルゥゥゥゥ」

 鋭利な矢じりとリナの全体重をかけた一撃で、何本かの指は切断されていた。

 しかし着地したリナの力では、首を切り落とす事は不可能に見える。

(くっ…… ここまで来たのに……)

 アルは足を離してリナの元に駆けつけるべきか否か、一瞬の内に思考を繰り返していた。

 その時、へたり込んで座るレイがフラフラとしながら立ち上がる。

「かっ、借りるよっ!」

「あっ、レイちゃっ!!」

 レイはアズサの弓を握り駆け出すと、リナに大きな声で声をかけた。

「リナちゃん!!」

「はやくっ!!」

 そして【神狼】の目前で高く飛び上がると、体を反るように渾身の力を弓に込める。

「いっけぇぇぇぇぇ」

 キーーーーーンッ!!  ドンッ!! ドシュッ!!

 ソウル鉱の弓矢の衝突音、地面に響く衝撃音と同時に【神狼】の首が切断された。

 ドンッドン…… ゴロゴロゴロ……

 足に抱きついていたアルは、その足が動きそうにない事を察知する。

「やっ…… やったな……」

「ハッ…… ハッ…… ハァ…… ハァ…… うっ…… うん……」

「…………っ」

 【神狼】の返り血を浴びたレイとリナは、無表情のままその場にへたり込む。

 その一瞬の出来事をバルコニーの上から見ていたレドルジは、驚愕したような表情に変わる

「ばっ…… 馬鹿な…… ヤラれた? これは…… 現実ですか?」

 そんな事は有り得ないとばかりに、信じられない様子で【神狼】の死体を眺めていた。

 そして直ぐに右手で眉間を抑えると、体を小刻みに震わせる。

「くくっ…… クククッ…… ハハッ…… ハハハハァ…… これは傑作ですね」

 レドルジは思わず漏れた笑い声を隠す事もせず、笑顔に変わっていた。

「ふぅ…… これでここには、本格的に用が無くなりましたね。 さて……」

 そう呟くと、後ろに控えていたゼニールに視線を送る。

「なっ、何してるゼニ!! 化け物が居なくなったなら、お前がアイツ等を始末するゼニよ!!」

 ゼニールは焦った様子で、吸っていた葉巻をカタカタと震えさせながらレドルジに向ける。

 その様子を見たレドルジは、小さく溜息を吐くと急に無表情に変わった。

「誰に命令しているんです? 一体、何の権限で?」

「なっ! 何を言ってるゼニ!! 領主であるワシの言う事が聞けないゼニか!?」
 ゼニールにとって意外とも言えるレドルジの言葉に、青筋を立て怒りを顕にしている。

「領主…… ですか。 私はこう見えても帝国の出身でしてね。 帝国法に則った形であれば問題はありませんよ?」

 ゼニールの言葉を聞いて、先程までの無表情から少し笑顔に変わったレドルジ。

 その様子にゼニールは苛立ち、激しい口調で命令する。

「帝国法に則るなら、ワシの言う事を聞くゼニ! 帝国法では、身分の高い者ほど権限を有している事位、平民のお前でも分かるはずゼニ!!」

 そして火の着いた葉巻をレドルジの胸元に投げつけると、声を荒らげ言葉を続けた。

「早くするゼニ!! さぁ! 何してるゼニ!!」

「ふふふっ…… はははっ…… アハハハハッ! いやぁ、笑わせてくれますね貴方も」

 そのゼニールの様子を見て、レドルジは笑い声を上げ話を続けた。

「ルクレティア様の仰る通りでした。 ゼニールは頭からつま先まで欲に塗れ、私が顔を隠し名前を反転させるだけで、疑いもせず受け入れると…… ふふふっ。 アハハハハッ」

 腹部を抑え、大きな声で笑うレドルジ。

 その姿に激昂したゼニールは、腰に携えていた宝剣を手にすると切っ先をレドルジに向けた。

「何をゴチャゴチャ言ってるゼニ!! それにお前如きがルクレティア様などと!」

「やれやれ…… まだ気付かないんですか?」

 レドルジは切っ先を向けられると、涼し気な表情に変わり問いかける。

「何の事ゼニ!!」

 その問いかけに対し、ゼニールは顔をしかめながら問い返す。

「貴方は確か…… 帝国軍の第七将軍に献金をしていたと…… その将軍には会った事は?」

「ふんっ! あんな若造の事、顔も覚えてないゼニよ!」

 その言葉を聞いたレドルジは小声で「ふふっ」と小さく笑みを浮かべる。

「そうですか。 それでは、その将軍の名は?」

 レドルジの問いかけに対し、ゼニールは吐き捨てるように言葉を返す。

「たしか、ジルドレとか言ったゼニが…… ジル…… ドレ?」

 ゼニールは何かに気付いたように、ハッした表情に変わっていく。

 その様子を見たレドルジは、口元を覆っていた布を外しニヤリと口角を上げ笑いかける。

「ようやく気付きましたか? 私が、そのジルドレですよ? ゼニールさん」

 その言葉を聞いたゼニールは、全身から血の気が引くような感覚に襲われる。

(まっ、まさかゼニ…… でも…… 確かに見覚えがあるゼニ……)

 冷や汗をかきながら驚愕した表情で、固まったようにレドルジを見つめる。

(元罪人で帝国軍の将軍の中でも一番、金に汚く残虐な男と言われてるゼニが…… まっ、まずいゼニ)

 ガチャン…… カラカラ……

「はっ…… ははぁぁ……」

 ゼニールは手に持っていた宝剣を床に落とすと、額を床に擦り付けるように土下座する。

「たっ…… 大変申し訳ありませんゼニ……」

 ジルドレは床に額をつけるゼニールを他所に、転がる宝剣を拾い上げ眺めていた。

「ふふふっ。 貴方も下級とは言え帝国貴族。 ケジメだけは付けなくてはいけませんねぇ」

「はっ!! ははっ!! なっ、何卒…… ご寛大な……」

 全身からブワッと汗が吹き出し、恐怖するゼニール。

 その様子を笑顔で見つめるジルドレは、「ふふっ」と笑いながら声をかけた。

「まぁまぁ。 お立ち下さい。 お話も出来ませんしね」

 その言葉を聞き、滝のように汗を流しながらゆっくりとゼニールが立ち上がる。

 それを確認したジルドレは、ゼニールに背を向けると思い出すように話し始めた。

「貴方の罪は、汚職を始め強盗、窃盗、暴行、殺人、人身売買などなど。 多岐に渡りますねぇ」

「そっ、それは……」

 その言葉に対し、ゼニールは焦った表情で弁解しようとするが言葉に詰まっていた。

 レドルジは右手に持つ宝剣の刃の部分を、ポンポンと左掌に当てながら言葉を続ける。

「安心して下さい。 その件については、貴方の多額の献金に免じ不問としましょう」

「あっ…… ありがとうございますゼニ!!」

 ゼニールは安堵した表情でお礼を述べると、少しだけ笑顔に変わっていく。

「しかし…… 一つだけ不問に出来ない件がありまして……」

 ジルドレはクルッと振り返ると、宝剣の切っ先をゼニールに向ける。

「あっ…… あの…… それは……」

「それは、私に対する不敬罪です。 これに関しては、償って貰えますか?」

 ニコッと笑いかけるジルドレに、ゼニールは再び汗を掻き焦った表情に変わる。

「あっ…… いっ…… 命…… 命だけ」

 グサッ!!

「グゥゥゥゥ…… あっ…… ガハッ……」

 ゼニールが話し終える前に、ジルドレは宝剣の先端をゼニールの腹部に突き立てる。

「ふふっ。 もちろん! 命だけで、許してあげますよ」

 そう言うと、突き立てていた宝剣でゼニールの腹部を切り裂いていく。

「ぐえぇぇぇぇっ……」

 ドチャ……

 ゼニールは腸が床に落ちると、膝から崩れ落ちるようにへたり込む。

 ヒューヒューとした呼吸をしながら、涙と鼻水を垂らし苦悶の表情でジルドレを見つめていた。

「ふふふっ。 醜いですねぇ。 今、楽にしてあげますからね」

「あっ…… いっ……」

 ザシュッ…… ドンッ……

 何かを言いかけたゼニールの首を刎ねたジルドレは、小さく「ふふっ」と笑い声を上げていた。

「さてと。 最後の仕上げと行きますかね」

 そう呟くと、ゆっくりとバルコニーへと向かっていった。
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