あるとれいと~絶対回避能力があるのに色々トラブルに巻き込まれちゃう男のお話~

上田るぅ

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お城奪還編

第72話 アルの思惑

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 パチパチパチパチ……

 バルコニーから現れたジルドレは、笑顔を浮かべながらアル達へ拍手を送る。

「素晴らしい。 いやぁ、本当に素晴らしいです。 まさか【予定】を覆すとは。 ふふっ」

 ジルドレはアル達をバルコニー上から見下ろすと、首を刎ねられた【神狼】に視線を送る。

「それでは、ここからは私がお相手しましょうか?」

 にこやかな笑顔を向け、尋ねるようにアル達に言葉をかけるジルドレ。

 アルは返り血を浴びながらへたり込むレイ達、そして同じくへたり込むアズサに視線を送る。

(まずいな…… 今、襲われたら逃げ切れる自信が無いし……)

 アルは少し思案を重ねつつ、時間稼ぎをするようにジルドレに言葉をかけた。

「出来れば遠慮願いたいかな。 それより、貴族達の事は良いのか?」

 話を逸らすアルに対し、ジルドレは「ふふっ」と小声で笑い返答する。

「えぇ。 それは私には無用ですので。 今は貴方達に興味がありますねぇ」

(無用? 貴族達の事は必要無いってのか? 一体コイツは…… 何が目的……)

 ジルドレの言葉に対しアルは少し動揺するが、そういった素振りを見せずに話を続ける。

「そっか…… まぁ、相手になって欲しいなら俺がしてやるよ」

 標的を自分に向くように仕向けたいアルは、安っぽい挑発をする。

 それに対しジルドレは再度、拍手をしながら笑みを浮かべ話しかけた。

「ふふっ。 お相手して差し上げたいのですが、それは【予定】に御座いませんので」

 そう言うとジルドレはバルコニーの手すりに足をかけ、軽快にバルコニーの屋根に登る。

 そして上空に向けて何かを放り投げた。

 シュンッ………… パァァーーーーーン……

 ジルドレが投げた信号弾が上空で音を立てて破裂すると、緑色の煙が現れた。

「貴方達のお相手は別な者達にお任せしましょう。 それでは、またいずれ」

 そう言うとジルドレは、屋根を伝い逃げるように姿を消してしまった。

 アルはその姿に少し唖然としていたが、直ぐに皆に声をかける。

「おいっ! 動けるか?」

「うっ、うん…… 何とか」

 疲れ切ったような表情のレイとは対象的に、リナはスッと立ち上がり城を眺める。

「中に……」

 リナの言葉を聞いたアルは一瞬、思案するような様子を見せた。

(あの信号弾が何を意味するか分からないし、城に何があるか分からないけど……)

 そしてへたり込んで座るアズサと、その傍らに佇むシナモンに視線を送る。

(今、コイツ等を連れて逃げ切れるか? 無理だろ。 それならイチかバチか……)

 考えが纏まったアルは、大きな声で皆に言葉をかける。

「城に入るぞ! 急げっ!!」

 その言葉に皆は大きく頷き、正面扉からヨタヨタと城の中へ入っていった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 一方その頃、アストリナ城の近く……

 城の付近で待機していたジルドレの兵は、緑色の狼煙を確認する。

 兵長と思わしき人物が、後ろに控える兵達に言葉をかけた。

「よしっ! ハイランドに帰還する。 各地に散らばる者達にも伝令せよっ!」

「ははっ」

 そして兵達は身に付けていた甲冑を捨て、旅装のような服装に着替え始めた。

「良いか? 交戦は禁ずる。 人と会っても何食わぬ顔で、旅人を装え」

 兵長が言葉をかけると、一人の兵士が真剣な表情で質問する。

「ゼニールの私兵は如何されます? あの者達には、我らの顔も知られていますが……」

 その言葉に兵長は腕を組み、少しだけ思案する様子を見せた。

 そして考えがまとまったのか、皆に聞こえるように大きな声で返答する。

「捨て置け! 見つかった場合のみ、殺しても構わん。 行けっ!」

「ははっ!!」

 兵長の言葉を聞いた兵士達は、急ぐように各方向に散っていった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 ジルドレの兵とは別な場所に、ディンゴ達の姿が見える。

 アストリナ城へと続く街道付近の開けた場所に、大勢の人達が集まっていた。

「狼煙が上がったぞぉぉ! 皆の衆! あっしに続いてくれぇぇ」

「オォォォォォォ!!」

 ディンゴが後ろに控える者達に声をかけると、千を超える数の群衆が大声で応える。

 各々、武器や農具を持ち年齢や風貌も様々だった。

(国境の警備が無くなって、予想以上の人が集まったが…… あの狼煙は……)

 ディンゴは上空を見上げると、緑色の雲が徐々に薄くなるのが見えた。

(旦那が言ってた赤と青以外の狼煙。 バレリア様がやってくれたに違いねぇ)

 そして意を決したように頬を両手でパンっと叩き、大声をあげるディンゴ。

「行くぞぉぉぉっ! 続けぇぇぇ」

 逸る気持ちを抑えながら、大声を上げながら城へと向かっていった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 城の中へと入ったアル達は、人気の無い城内を歩き回っていた。

「アルぅぅ…… ゼニールって人…… もう逃げたんじゃ……」

「あぁ…… そうかも……」

 レイの言葉を聞いたアルは、少しだけ焦っていた。

(城を手に入れても…… ゼニールって奴を捕らえなきゃ意味が無いよな……)

 アルはシナモンの肩を借りながら、笑顔を見せるアズサに視線を送る。

(それにあのレドルジって奴の言葉も気になるし…… どうするかな……)

 思案を重ねながら皆の様子を伺っていたアル達は、謁見の間と思わしき場所へやってきた。

 すると先程まで疲労を見せていたリナが、トタトタと小走りし一枚の大きな肖像画の前に立つ。

 それに釣られるように移動したシナモンとアズサ。

「うわぁぁ…… とても綺麗な人なのですよ……」

 金色の長い髪の美しい女性の肖像画。

 見惚れるように眺めるシナモンに、アズサが笑顔で答える。

「これがアストリナの女王様、フローラ様だよっ! 綺麗だよねっ」

「この方がリナっ…… んんっ…… 女王様なのですかぁ」

 危うくリナの正体を言いそうになったシナモン。

 その瞬間リナにジロっと睨まれ、誤魔化すように咳払いをしていた。

「綺麗な人だね! アル! リナちゃん」

 肖像画の前で絵を眺めるリナに、後ろから抱きつくように手を回したレイ。

「……うん」

「そうだな……」

 レイに抱かれるリナの横に立ったアルも、肖像画を眺めながら返答する。

 ワァァァァ…… ってこーーいっ!!

 少しの時間、絵を眺めていた皆の耳に外からの騒音が聞こえてきた。

 まるで騒ぎ立てるような人々の声に、皆は顔を見合わせる。

「アルぅぅぅ……」

「どどど、どうするです?」

 少し不安そうな表情で皆がアルを見つめる中、アルは人差し指を口元に立てて呟く。

「静かにっ……」

 声のする方向を見つめ、外の声を真剣に聞く。

「ゼニール!! 出てこーーい!!」

 騒ぎ立てる喧騒の中で聞こえたディンゴの言葉を、アルは聞き逃さなかった。

(オッサン…… やってくれたか…… とりあえず助かった……)

 アルは安堵した表情に変わると、声のする方を指差し皆に声をかけた。

「行くぞ」

「だっ…… 大丈夫なの? ボクはもう戦えないけど……」

「あぁ、心配すんなって! ほら、行くぞ」

 アルは声のする方向、バルコニーの方へと進んでいく。

 それに釣られるように皆も、アルの後に続いていった。

「ひっ…… これは……」

「シナモンちゃん!! 見ちゃダメ!!」

 バルコニーの近くにやってきた皆の目に飛び込んできた物。

 それは腸を撒き散らし、首を刎ねられた男の死体。

(居ないと思ったら…… アイツが殺ったのか?)

 ゼニールの無残な姿に、背筋がゾッとしつつもレドルジの事を思い出すアル。

 しかし、直ぐに別の考えがアルの脳裏に浮かんだ。

(オッサンが来てるって事は…… 他国とも通じてるって事だよな……)

 そしてゼニールの死体を眺めるリナと、死体から目を背けるアズサに視線を移す。

(ここで決めておかないと…… でも…… こんな状態のリナやアズサじゃ……)

 外から聞こえる群衆の声を気にしつつも、俯き眉間にシワを寄せ思案を続けていた。

(仕方ねぇ…… まぁ…… 俺に出来る最後の事だと思えば……)

 アルは決心したように顔を上げ、声をかけた。

「リナっ! アズサっ! ちょっと良いか?」

 そう声をかけたアルは、吐き出しそうな物をグッと飲み込みゼニールの首を右手で掴んでいた。

■■■■■■■■■

 お城奪還編はここで終了です。

 次回からは違う章になります。予定
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