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アストリナ王編
第73話 アストリナの再建国
しおりを挟む「出て来やがれっ!!」
「この国は俺達の国だーー!!」
「さっさと帝国に帰りやがれ!!」
バルコニーの外では、城を取り囲むように群衆が叫び声を上げている。
その群衆の中心に居るディンゴは、皆の感情を煽り率先して大声で叫んでいた。
「アルルン? こっ、来いって…… どこに?」
「…………」
ゼニールの首を持つアルに対し、少しだけ恐怖を感じながら問いかけるアズサ。
アルはその言葉に対し返答する事は無く、シナモンの視界を遮るように抱くレイに視線を送った。
「悪いけど、ちょっとソイツの事、頼むよ」
「えっ? うっ…… うん」
苦笑いを浮かべるアルに対し、レイは少しだけ驚いたような表情で答えていた。
「出てこーーーい!!」
「ゼニールーー!! 八つ裂きにしてやるーー!!」
「そうだそうだーー!!」
城の周りに集まった群衆は興奮し、武器を掲げるように上げ叫び声を上げている。
その群衆が見える場所。
バルコニーの方をアルは指差し、リナとアズサに声をかけた。
「すぐ済むから。 ちょっとこっち来てくれ」
「えっ…… えっと……」
アズサはチラッとリナを見ると、リナは無言のままアズサの目を見て小さく頷く。
そしてバルコニーに向かった三人は、リナを中心に左手にアズサが、右手にアルが並ぶ。
その姿を見た群衆は叫ぶのを止め、ガヤガヤとは会話を交わしていた。
「誰だ? あれは」
「子供と女。 それに奇妙な男だが……」
「ゼニールじゃないよな? 誰なんだ?」
アル達を見た群衆は先程までの勢いが失せ、ざわついていた。
その喧騒の中に居るディンゴは、驚いた様子でアル達を見つめる。
「旦那…… それにお嬢さん達も…… ばっ、バレリア様は何処に……」
小さく呟くディンゴを他所に、群衆のざわつきは止まる事は無かった。
そんな群衆の姿を見て、不安そうにアルを見つめるアズサ。
「あっ、アルルン…… どっ、どうするの? 一体……」
訳も分からずに呼び出され、群衆の前に立つように言われたアズサ。
アルの手には、未だに血が滴り落ちるゼニールの首が見える。
「……そろそろ頃合いか」
アルは小さく呟くと、一歩だけ前に出て群衆にゼニールの首を掲げる。
「あっ、あれは!!」
「まっ、まさかゼニールの……」
先程までのざわつきとは明らかに質の違う、驚きが混じった民衆のざわめき。
徐々に小さくなる群衆を見たアルは、スーーッと大きく息を吸うと大声で叫ぶ。
「アストリナの忠臣達よ! よく聞いて欲しい!」
アルの言葉を聞いた群衆は、言葉を発する事をせず静かにアルの言葉に耳を傾けた。
「女王フローラ様がお隠れになって以来、他国により国土は蹂躙され、徳化が損なわれ皆に災いが降りかかっただろう!」
その言葉を聞いたリナとアズサは、言葉こそ発さないが少し驚いた様子を見せている。
しかしアルは、そんな二人の様子を気にする素振りも見せず言葉を続けていく。
「そしてゼニールが権力を掌握し、国土は疲弊し皆を更に苦しめた! しかし今日!」
そう言うとアルは大きく息を吸い込み、左掌をリナ達に向け言葉を続ける。
「天上の女王フローラ様が遣わせし、王女リナリア様と」
その言葉に対し、アズサは目を見開き驚愕した様子でリナを見つめた。
「アストリナの英雄、ヨイチ将軍が一子、アズサ・カリウディーナ様によって」
「えっ? えっ? ボク??」
アルの言葉に対し、首をキョロキョロさせながら小さな声で呟くアズサ。
そんなアズサを無視するように、アルは右手に持ったゼニールの首を高く掲げる。
「アストリナを害する大罪人、ゼニールが討ち取られた!」
そしてアルはバルコニーの手すり付近まで移動し、正面扉の前で息絶えている【神狼】に視線を送る。
【神狼】の死体を避けるように群衆が取り囲んでいるその場所に、ゼニールの首を放り投げた。
「更に、フローラ女王を殺め、アストリナから微笑みを奪った【神狼】を屠り、再びこの国に微笑みを取り戻す事が出来たのだ」
その言葉を聞いた群衆は、ザワザワした様子を見せている。
「アストリナの忠臣達よ!」
再びアルが大声で叫ぶと、ざわめきがピタッと止みアルに注目する。
その様子を見たアルは、ゴクッと息を飲み込むと大きな声で声を発した。
「本日この時より、リナリア王女による、新しいアストリナの建国を宣言する!」
大きな声で叫ぶように宣言された言葉を聞いた群衆は、静まり返っていた。
(そこは乗れよ……)
アルは少し気不味い思いをしていたが、そんな素振りを見せず群衆に紛れるディンゴに視線を送る。
呆気にとられていたディンゴだが、その視線に気付くと右手を高く掲げ大声で叫んだ。
「アストリナ万歳!! アズサ様、万歳!!」
その声に釣られるように群衆は高く腕を上げ、大声で叫ぶ。
「オォォォォォォ!!」
「アストリナバンザーーイ!!」
「リナリア様ーーーー!!」
ゼニールを呼ぶ声以上に大きな歓声を聞き、アルは大きく溜息を吐く。
そして呆然とするリナとアズサに視線を送ると、呆れた表情で声をかけた。
「おいっ。 応えてやれよ? この為に来たんだろ?」
アルの言葉を聞き、ハッとしたような表情に変わった二人。
遠慮がちに右手を振るリナとは対象的に、満面の笑みを浮かべ両手を大きく振るアズサ。
その様子を見て安心したように、アルはゆっくりと後ずさる。
城内に入るとマントを脱ぎ、それを横たわる首の無いゼニールへとかけた。
そしてシナモンを抱くレイの元へ歩み寄ると、ニコッと笑顔を向けた。
「はぁぁ…… やっと終わったな……」
「うっ、うん。 アル…… さっきの言葉ってまさか……」
レイは少し驚いた表情で、アルに問いかけた。
するとアルは腕を組み、得意げな表情で返答する。
「あぁ。 トルーア物語だっけ? レイのオススメの本の最後。 確か…… あんな感じだったろ?」
「うんっ! えへへっ。 ちゃんと読んでくれてたんだねっ」
ニコやかな表情で笑うレイに笑顔を向けたアルは、レイの胸元に抱きつくシナモンの頭を撫でる。
「もう良いぞ。 お前も、ご苦労だったな?」
「あっ、アルさん……」
少し泣きそうな表情でそう呟くと、ハッとした表情に変わり首をブンブンと横に振る。
「とっ、当然なのですよ! 私を誰だと思ってるですか」
少し照れた表情で腕を組むと、そっぽを向きながら強がった様子を見せていた。
「さてと……」
アルはレイに視線を送ると、改めてシナモンの頭をポンポンと撫でる。
「お前はここに残って、リナ達の力になってやれよ?」
「あっ、アルさん達は…… どうするですか?」
アルの言葉を聞いたシナモンは、少し驚いた表情で問いかける。
「俺達が付き合うのはここまで! 後はお前等で頑張れよ。 なっ?」
そしてレイの方へと視線を向け、言葉を続けた。
「よしっ。 んじゃ行くか」
「うん…… そうだねっ!」
「あっ…………」
レイは少し苦笑いを浮かべつつ、シナモンに背を向けると、振り返らずに城を後にした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
群衆の中をかき分けるように城外に出たレイとアルは、集落跡への帰り道を歩いていた。
俯きながら少し寂しそうな表情のレイに、アルは後頭部に両手を当てながら声をかける。
「どうする? 別に戻っても良いんだぞ?」
アルの問いかけに対し、レイはブンブンと大きく首を振る。
「んんっ。 良いの! もう会えなくなる訳じゃないし…… それに」
レイは顔を上げ少し苦笑いを浮かべながら、アルに視線を送った。
「皆の帰る場所。 そのままにしておけないしねっ」
「まぁそうだな。 やれやれ」
アルはそう言うと、深いため息を吐きながら呆れた表情で話を続ける。
「明日からは何も無いし。 しばらくは酒でも飲んで、のんびり出来そうだな…… っと」
そう言うと、アルは道端に転がる石をつま先で蹴り上げる。
そんなアルの様子を見ていたレイは、ニヤッと白い歯を見せながら
「何言ってんの? いーーっぱいする事あるんだからね? それに料理当番はアルだしぃ……」
レイは空を見上げながら、右人差し指で顎をチョンチョンと触りながら言葉を続ける。
「アルには、まだまだ読んで欲しい本、いっぱいあるからさっ! 明日から頑張ってね」
ニコッと笑顔を向けるレイを見て、アルは嫌そうな表情に変わっていた。
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