あるとれいと~絶対回避能力があるのに色々トラブルに巻き込まれちゃう男のお話~

上田るぅ

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アストリナ王編

第75話 アルヴァイン王

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「いやいやいやっ…… ないないない…………」

 白髪の男性が玉座に座るよう促すが、アルは右手を振り即座に否定する。

「リナから何を聞いたから知らんけど…… 俺はアイツの兄でも何でも……」

 玉座に座るリナはその言葉を聞いた途端、眉間にシワを寄せ不機嫌そうな表情に変わる。

 一方の白髪の男性はアルの言葉に耳を貸す事も無く、アルの背中を押し玉座の近くまで移動させた。

「あっ、これは失礼。 ささっ、貴女様もこちらに」

「えっ? 私も?」

 白髪の男性の言葉にレイは、右人差し指で自分の顔を指し疑問を浮かべた表情で聞き返す。

 多少強引に玉座に座らされたアルと、隣の玉座に座るリナの間に立つレイ。

 アル達は隣の玉座に座るリナに視線を向ける。

 美しい白いドレスを着たリナは、無表情のまま右手で手刀を作りアル達に声をかけた。

「ヤッホー……」

「ヤッホーじゃないから…… ってか、この爺さんは誰なんだよ……」

 アル達が座る玉座の前には、左手を胸に当て右手を後ろに回した白髪の男性が見える。

 その言葉を聞いた男性は、アルに笑顔を向けると小さく笑い声をあげた。

「フフッ…… お忘れですかな? 私めの事を」

「いや…… 知らないと思うけど……」

 アルは即座に否定すると、男性は上を見上げ涙を流す素振りを見せた。

「お労しや。 リナリア様に聞きましたぞ? アルヴァイン王は何やら記憶を無くされているとか……」

 その言葉を聞いたアルは、ジロッとリナを睨みつける。

 するとリナは無表情のまま、先程と同じ様に手刀を作りアルに向けていた。

(クッ…… うぜぇ……)

 アルは溜息を吐きながら、男性に言葉をかけた。

「大体、リナと俺じゃ似てないだろ? 髪の色も目の色も全然違うだろうが……」

 金色の髪に碧眼を持つリナに対し、アルは黒髪で濃い茶色の目をしている。

 呆れた表情で話すアルに、男性は首を振り再度泣く真似をしてみせた。

「そこまで忘れてしまうとは…… あぁ…… 何と嘆かわしい……」

(こっ…… このオッサンもなかなかウザいな…… 見た目はセバスチャンって感じなのに……)

 アルが少し引いた目で男性を見つめていると、男性は壁に掛かる一枚の大きな絵を指差した。

「あちらをご覧下さい。 アルヴァイン王」

 アルは指差された方を見ると、そこには四人の家族と思わしき肖像画が見えた。

 椅子に座る金髪の女性に抱かれた赤子と、壮健で威厳のある黒髪の男性が描かれている。

 その男性の傍らには、歳の頃は十五、六と思わしき黒髪の青年が描かれていた。

「な…… なるほど…… そういう事ね……」

 アルは少し呆気にとられながらも、改めてリナに視線を送る。

 するとリナは無表情ながら、手刀ではなくVサインをしてアルに見せつけていた。

(うっ…… ウザいな…… まるでシナモンのようなウザさだ……)

 アルは溜息を吐くと、呆れた表情で白髪の男性に視線を送る。

 すると男性はハッとしたような表情に変わり、改めてポーズを取り言葉を発した。

「改めまして…… 私めは、アストリナに代々使える執事。 名を」

(セバスチャン! どうせならセバスチャンであれ……)

 アルは心の中でそう叫ぶと、息を呑み男性を見つめる。

「セバスサマと申します」

「サマかよ…… そこはチャンだろ……」

 アルは呆れた表情で呟くと、セバスサマは笑顔を浮かべ返答する。

「アルヴァイン王はお忘れなのですね? 執事は階級によって名前が変わる事を」

「いや…… 知らんけど……」

「セバスから始まり、セバスタン、セバスチャン、セバスクン、セバスサン。 そして最後が……」

 セバスサマは自慢気にニヤリと笑い、少し勝ち誇った表情に変わる。

「何か嘘くさいけど…… って事は大分偉い……」

 アルがそう呟くと、隣に座るリナが溜息を吐きながら小さく呟く。

「嘘ばっかり……」

「いや、嘘かい……」

 リナの言葉を聞いたアルは、呆れながらセバスサマを見つめる。

「フフッ。 少しお茶目が過ぎましたな。 失礼」

 そう言うと改めて姿勢を正し、頭を下げながら言葉を発した。

「私めの名前は、セバスタンと申します」

「階級は本当なのかよ…… っていうか、結構低いな……」

 呆れたように話すアルを気にする素振りも見せず、セバスタンは話を続ける。

「ところでアルヴァイン王よ、見ましたぞ? 外での事……」

「外での?」

 セバスタンの言葉に対し、疑問を浮かべた表情で返答するアル。

 そのアルの表情を見たセバスタンは、アルとリナの間に立つレイに視線を向けた。

「何やら腕を組まれて…… ううっ…… もうお会い出来ないと思っていたアルヴァイン様が、后を連れてお戻りになられるとは…… 私めは感激しておりますぞ!!」

 そう言うとセバスタンは「ぉぃぉぃ」と言いながら嘘泣きをしていた。

「あのっ…… 私とアルは…… そんなのじゃ……」

 少し照れたように顔を赤くし、俯きながら否定するレイ。

 アルは親指でレイを指差すと、呆れた表情で同様に否定する。

「そうだぞ! コレと俺は別に何も…… まぁ妹みたいなもんか」

「ちょっとぉ! コレって何よコレって!!」

 アルの言葉に対し、少し不満げな態度で頬を膨らますレイ。

 その様子を見ていたセバスタンは、右手で左掌をポンっと叩くと納得したような表情を見せていた。

「リナリア様に聞く所によると、レイ様はあの悪名、オホンッ……」

 セバスタンは誤魔化すように咳払いをすると、改めて言葉を続けていく。

「あのご高名なバレリア将軍の妹君とか。 そのレイ様が妹となると……」

 アルの顔を覗き込むように、セバスタンはニヤリと笑顔を向ける。

「アルヴァイン王はバレリア将軍と恋仲という」

「「「それは無い」」」

 セバスタンの言葉に食い気味で反論した三人。

 するとセバスタンは少し悲しそうな顔で俯いていた。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 話が一段落すると同時に、アルは玉座からスッと立ち上がる。

 そしてリナに視線を向け、呆れた表情で声をかけた。

「てか、用が無いなら帰るぞ? 俺は王になる気なんてサラサラ無いしな」

「用ならある…… タン……」

「ははっ。 姫様」

 セバスタンは両手をパンパンと叩き、大きな声を上げる。

「本日は散会とする。 王への謁見は、また後ほどという事で」

 謁見の間に居た人々は、セバスタンの言葉を聞くと玉座に一礼してゾロゾロと謁見の間を後にした。

 その様子を見ていたアルは、チラッとセバスタンを見つめる。

(タンって呼ばれてるのかよ…… 普通、セバスじゃないのかね…… 知らんけど……)

 そんな事を考えていたアルは、小さく息を吐くと気を取り直したようにリナに声をかけた。

「んで…… 人払いまでさせて、一体何の用があるってんだ?」

「こっち…… 来て……」

 リナはスッと立ち上がると、謁見の間の裏にある控えの間へと進んでいく。

 リナに続いて控えの間に進んだアル達の後には、アズサとセバスタンの姿もあった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 控えの間にはゼニールが遺していったであろう、数々の調度品が見える。

 成金主義を全面に押し出したような調度品は、価値の分からない者でも高額であると予見出来た。

 そんな調度品が並ぶ控えの間の中心には、一際大きく豪勢なテーブルが置いてある。

 その上には大量の書簡や竹簡が山積みにされ、それらを見つめながら唸るシナモンの姿が見えた。

「よっ! 久しぶりだな。 っても三日振り位だけど」

 アルが声をかけると、ハッと気付いたように笑顔に変わるシナモン。

「あっ、アルさんにレイ様! 来てくれたですか」

「これっ! シナモン殿! アルヴァイン王に無礼ですぞっ!」

 シナモンの言葉を聞いたセバスタンは、焦ったような表情で言葉をかける。

 その言葉にシナモンは少しだけムッとした表情に変わり、アルの方を見つめた。

「あっ…… アルヴァ…… イン…… おっ…… 王…… 様……」

「お前どんだけ嫌なんだよ…… 別に今まで通りで良いよ。 王じゃないし俺」

「良かったのですよ! アルさんに様を付けるのは、ちょっと無理なのですよ」

 そう言うとシナモンは、パァッと笑顔に変わる。

 そんなシナモンの様子を見て、アルは呆れた表情に変わる。

「んで? 一体、何があったんだよ?」

 シナモンの隣に腰掛けたアルは、表情を変えずに書簡の山を見つめていた。

「何かあったというより、何も無いのですよ。 非常に困ってるのです」

「何も無いなら良いだろ? 何が困るんだよ」

 アルの言葉を聞いたシナモンは、一枚の紙を差し出した。

「んっ? 何だよこれ」

「良いから見て欲しいのですよ」

 アルは差し出された紙を、上から順に目を通していく。

 そこには国の財政的な内容、支出や収入が記載されていた。

「こっ…… これは…… 酷いな……」

 収入に関しての記載は殆ど無く、支出のみが記載されている。

 パッと見ただけでも、財政的に大赤字なのが理解出来た。

「アストリナの復興によって、各地から沢山の人達が戻ってきてるのですよ。 なのですが……」

 シナモンは言葉に詰まり大きく溜息を吐くと、少し気不味そうに話を続ける。

「食料等の物資も乏しく、城下の建物を再建する資材も殆ど無いのですよ。 それに……」

 そう言うとシナモンはジロッとした目で、セバスタンを睨みつける。

「誰かさんが城に人を大量に雇い入れたせいで、僅かな資金も底をついたのですよ」

 その言葉を聞いたセバスタンは、バツの悪そうな表情で部屋にある調度品を磨き始めた。

「なるほど…… 絶望的だな。 でも、ゼニールって奴が金、遺してたんじゃないのか?」

 数日前まで居たこの城の主、ゼニール。

 兵を数百人雇い入れ、賄賂や大理石の城壁まで作らせたその財力をアルはアテにしていた。

「それが一銭も残って無かったのですよ…… 慌てて運び出された痕跡はあったですが……」

「マジかよ……」

 落胆する様子のシナモンと同様に、アルも少しガッカリした様子を見せていた。

 そんな二人の様子を見ていたリナは、アルの肩をポンポンと叩き声をかける。

「という訳で…… お兄ちゃん…… よろしく……」

「お前なぁ。 俺にそんな事出来る訳ないだろ?」

 リナの言葉を聞いて呆れた表情で答えるアルに、アズサがニコっと笑顔を向けた。

「いやぁ、アルルンなら大丈夫だってば! アルルンのおかげでお城も戻ってきたんだし」

「いや…… それとこれとは、全然違うだろ」

 食い気味に反論するアルに、レイが言葉をかけた。

「でも確かに、何か考えないと。 このままじゃまずいよね」

「まぁ…… そりゃそうだけど…… だからって、俺に出来る事なんて無いだろ。 さすがに」

 口籠るアルに対し、シナモンが皆の顔を見回しながら話し始める。

「リナ様はまだ幼いですので、他国との交渉は足元を見られてしまう可能性があるですよ」

「シナモンよりは大人……」

「ぬぐぐ……」

 リナの反論に対し一瞬怯んだシナモンだが、咳払いをして改めて話を続ける。

「アズサ様は大人なのですが…… 何ていうか…… アレなのですよ」

「んっ? アレってなになに?」

「何でもないのですよ……」

 疑問を浮かべるアズサに対し、シナモンは少し気不味そうな表情に変わった。

 しかし直ぐに気を取り直すと、隣に居るアルの肩をポンっと叩き言葉を発する。

「アルさんは一応、大人の男性なのですよ」

「一応ってなんだ、一応って」

 呆れた表情で話すアルの様子を気にする素振りを見せず、シナモンは言葉を続ける。

「それに何と言っても【数字の烙印】を持ってるのですよ! それがどんな力かは、分からないですが」

「つまり…… これを交渉のダシに使えってか?」

 アルの言葉に小さく頷いたシナモンは、真剣な表情で言葉を続ける。

「大国を支配する【数字の烙印】を持つ王であれば。 他国との交渉の余地があると思うのですが……」

 シナモンの言葉を聞いたアル以外の皆が首を大きく縦に振り、アルをジッと見つめていた。

 その様子を見たアルは、不満そうな表情で大きく溜息を吐く。

(やれやれ…… 一難去ってまた一難かよ…… まぁ、今すべき事は……)

 そして改めて皆の顔を見回したアルは、真剣な表情で言葉を発する。

「とりあえず…… 祝勝会…… お酒は?」

 アルの言葉を聞いた皆は、今後の未来が明るくなさそうな予感に襲われていた。
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