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アストリナ王編
第78話 計画
しおりを挟む「私はその件の当事者。 数少ない、生き残りなのですよ」
下腹部の痛々しい傷を擦りながら、ルクレティアは笑顔を向けていた。
その笑顔を見たダンテは、すぐに自身のマントを脱ぎルクレティアに羽織らせる。
「しっ、失礼致した。 お許し下され」
「ふふっ、過去の事です。 お気にならさらずに」
ルクレティアは羽織っていたマントを返すと、脱ぎ捨てた服に着替え始める。
その様子を直視出来ないダンテは、無言のまま背を向けていた。
「もうこちらをお向きになって結構ですよ?」
「はっ……」
少し気不味そうな表情で相対し、頭を下げるダンテ。
その様子を見て少し笑みを浮かべながら、ルクレティアは静かに話し始める。
「少し話がそれてしまいましたね。 頭を上げて下さい」
「はっ……」
恐縮したような表情のダンテに対し、ルクレティアは笑顔を向けていた。
「私はこの傷のせい…… いや、おかげと言った方が良いのでしょうか?」
そう言うとルクレティアは小声で「ふふふっ」と笑い声を上げる。
「お陰…… と言うと? どういう事ですかな?」
「女性でありながら男性と同じ特性を持つ【烙印】。 この左目を手に入れたのですから」
ルクレティアは覗き込むように、ダンテの目を見つめる。
「そしてこの力は、女性特有の特性も兼ね備えているのです」
「と…… いうと?」
「この【烙印】は、力を使えば使うほど…… 使わなければ使わないほど…… つまり、際限なく力が増す【異怪の烙印】とも呼べる代物なのです」
「まっ…… まさか……」
ルクレティアの言葉を聞き、ダンテは驚愕の表情に変わる。
「もちろん…… これは偶然の産物。 あのような劣悪な環境で体を引き裂かれ、生きている方がおかしいのですから……」
ルクレティアは思い出すように上を見つめ、話を続けていく。
「私自身、気付いた時には帝国に運ばれ、数年間は寝たきりでしたしね」
「…………」
ルクレティアの言葉を聞き押し黙るダンテ。
しかし意を決したように、静かに口を開いた。
「何故、そのような事実を某に?」
真剣な表情で尋ねるダンテに対し、ルクレティアは少し驚いた様子を見せていた。
「将軍、貴方がお訪ねになられた事では?」
「うむ。 しかし某の心の内が読めるそなたであれば、某に真実を伝えず取り繕う事も出来よう」
率直な意見を聞いたルクレティアは、少し笑みを浮かべながら返答する。
「私は知りたいのです」
「知りたい?」
「えぇ。 何故この世界に【烙印】が存在し、何故この世界に【神狼】のような者が存在するのか」
ルクレティアはダンテの周囲をゆっくりと歩き出し、静かに話を続けていく。
「日に日に強力になるこの左目の力を持ってしても、未だに真実に辿り着く事が出来ません」
「…………」
押し黙るダンテを気にする素振りも見せず、ルクレティアは話を続ける。
「何故だと思いますか?」
「そのような事を。 某には分かりかねまする」
その言葉を聞いたルクレティアは、またしても笑みを浮かべ返答する。
「それは私が唯一視えない者。 【数字の烙印】に関係しているからです」
ルクレティアの言葉を聞いたダンテは、驚きを浮かべていた。
「将軍。 貴方の忠義が陛下ではなく、民に向いている事も存じています」
「…………」
「私も同様。 陛下の側に居るのは、真相の為であり忠義によるものではありません」
「ルクレティア殿…… 何故」
言葉に詰まるダンテに対し、ルクレティアは改めて笑みを浮かべていた。
「将軍が仰ったのでは? 腹を割って話すと」
「そうでしたな……」
ダンテはそう呟くと、言葉を発せずにただ黙って俯いていた。
その様子を見ていたルクレティアは、少し申し訳無さそうな表情で静かに言葉をかける。
「ですので…… 陛下の思惑については、少しお待ち頂けますか? それまでは、あくまでも民の為にお働き頂ければ。 私も微力ながらお力添え致しますので」
そう言うと目を瞑り頭を下げるルクレティア。
ダンテはその姿を目にし、少し慌てた様子を見せていた。
「お顔をお上げ下され。 ルクレティア殿」
「ふふっ。 ありがとうございます、将軍」
静かに笑みを浮かべ、謝意を述べるルクレティア。
ダンテは少し納得したような、スッキリとした表情に変わると改めて話し始めた。
「某が民の為に剣を振るうのは当然の事。 しかし今後は職務を抜きにしても、ルクレティア殿の為にも剣を振るいたい。 如何であろう?」
その申し出に対し、ルクレティアは笑顔を浮かべ静かに首を横に振る。
「その必要はありません。 もちろん、今後の状況次第ではニノカミ神聖国、アストリナとも争う可能性はありますが……」
ルクレティアはそう言うと、真剣な表情に変わり言葉を続ける。
「その際に一つ。 お願いがあるのです」
「願いとは?」
「えぇ。 戦が避けられぬ状況になったとしても…… バレリア。 彼女と戦うのはお避け下さい」
その言葉を聞き、ダンテは疑問を浮かべた表情に変わる。
「何故そのような? 某と同門だから…… ですかな?」
「そうではありません。 彼女に勝つ事が不可能だからです」
ルクレティアの意外とも取れる言葉を聞き、ダンテは思わず笑い声を上げていた。
「フハハハッ。 御冗談を。 某が妹弟子に遅れを取るとお思いか?」
ダンテの言葉を聞き、ルクレティアは静かに首を縦に振る。
そして右手で下腹部を擦りながら、静かに話を始めた。
「あの時…… 助け出された【烙印を持つ少女】は僅かでした」
思い出すように目を瞑り、話を続けていく。
「その中で私のように…… 子宮を取り出され生存していた者は…… 恐らく居ないでしょう」
呟くように言葉を発すると、ゆっくりと目を開けダンテを見つめる。
「薄れゆく意識の中で私が見たもの…… 記憶している事は三つあります」
ルクレティアの話を聞いていたダンテからは笑みが消え、真剣な表情に変わる。
「一つは…… 【剛】の烙印が刻まれた少女を抱き、私に対し『助けに来た』と言ったバレリアの姿」
再び目を瞑ったルクレティアは、思い出すように言葉を続ける。
「二つ目は…… 燃え盛る炎へ隠滅するように投げ込まれていた、【烙印】や【神狼】に関する書物」
押し黙ったままのダンテに対し、ルクレティアは話を続けていった。
「後々分かった事ですが、あの時の炎はバレリア諸共、焼き払おうとした帝国兵によるものでした」
「なっ! それは真かっ?」
ルクレティアは静かに頷き、更に話を続ける。
「もちろん帝国の意志ではなく、あくまでも一個人として罪を問われ即座に斬首されましたが……」
「何故そのような事を……」
顔をしかめながら呟くダンテ。
「恐らく彼女に…… バレリアに知られたくなかったのでしょう」
「知られたくない?」
「えぇ。 私が見た最後の記憶。 それは焼け焦げた書物に記載されていた言葉です」
そう言うとルクレティアは、ゆっくりとダンテの目を見た。
「彼らは人為的に作り出そうとしていたのです」
「作り出すとは…… まさか?」
「えぇ。 焼け焦げた書物にはこうありました…… バレリア計画と」
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短かったですがアストリナ王編はここで終わって次回からは別な章になります
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