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バレリア決戦編
第79話 ニノカミ神聖国
しおりを挟む「ふぇっくしょーーーんっ……」
ハイランド帝国城でルクレティア達が話していた頃。
ニノカミ神聖国へと続く街道には旅装束姿で馬に乗る者と、その馬の手綱を引く者の姿が見えた。
よく晴れたこの日、辺りを見回すと森の木々は濃い緑色に染まっている。
曇り気味だった午前とは違い太陽が高く登る正午になると、少し汗ばむような陽気に変わっていた。
「んっ? 何じゃ? この暑い時期に風邪でも引いたのか?」
「えっ? いやぁ…… これはきっと誰かがアタシの噂を……」
少しだけ鼻をすすりながら、苦笑いを浮かべるバレリア。
「ハッ! もしかして…… レイちゃんがアタシの事を! うん、絶対そうだ」
「うっ、うむ。 あそこを出て暫く経つが…… 元気にやっとるかのぅ」
ワンは上空を見上げながら、思い出すようにアル達の事を考えていた。
アル達の住んでいた集落跡からニノカミ神聖国までは、寄り道せずに行けば五日程度の行程。
しかし軽く我儘を言うバレリアの機嫌を取る為に、ワンは道中にある街々立ち寄っていた。
のんびりとした行程を進んでいた二人だが、ニノカミ神聖国までは残す所あと僅か。
ワン達が進む街道は二手に別れ、そのT字路には地名の書かれた大きめの立て札が立っている。
右手がニノカミ神聖国、左手がデンガーナ商業都市と書かれた立て札を見ながらバレリアが
「あのぉ…… 主様! もうすぐニノカミですけど…… やっぱ、アタシも行かないとまずいですよね?」
苦笑いを浮かべながら、少しだけ気不味そうに話すバレリア。
その様子を見たワンは、キョトンとした表情で返答する。
「なんじゃ? 行きたくないのか?」
「行きたくないって訳じゃないんですけど…… 何かニノカミって苦手っていうか……」
バレリアの言葉を聞き、ワンは呆れた表情で言葉をかけた。
「つまり行きたくないんじゃろ?」
「…………はぃ。 いやっ何ていうか…… あの……」
バツの悪そうな表情のバレリアに対し、ワンはニヤッと白い歯を見せ言葉をかける。
「安心せぃ。 お主には、ちとやってもらいたい事があっての」
そう言うとワンは荷物を漁り、ズッシリと中身の詰まった革袋を取り出した。
それをバレリアに手渡すと、呆れた表情で話し始める。
「まぁお主の事じゃから、どうせ来ないと思っとったしの……」
「いやっ、あの…… 来いと言われたら行きますけど…… それよりやってもらいたい事って何です?」
少し気不味そうに苦笑いを浮かべたバレリアだが、気を取り直して改めて尋ねる。
するとワンは白く伸びた髭を触りながら、バレリアの目をジッと見つめる。
「うむ。 ちょっとデンガーナに行ってな。 探って欲しい事があるんじゃ」
「探る? そういうのアタシ、苦手なんですけど……」
バレリアの言葉を聞き、ワンは少し呆れたながら言葉をかける。
「難しい事では無い。 デンガーナに【烙印の者】がおるか、それとなく探して欲しいんじゃよ」
「それは構いませんけど…… 見つけたらどうするんですか?」
「んむ。 可能であればアルやレイ達の元にな」
ワンの言葉を聞いたバレリアは、納得したような表情で大きく頷く。
「なるほど! こっちからもレイちゃん達の手助けをって事ですね?」
「まぁそういう事じゃ! ただし!!」
ワンは急に真剣な表情に変わると、バレリアに手渡した革袋に手を添える。
「これは当座の資金として使っても良いが…… 無駄遣いせぬようにな?」
「そんなぁ。 アタシは子供じゃないんですから……」
ワンの言葉を聞いたバレリアは、苦笑いを浮かべながら返答する。
「ここまでの道中、酔いつぶれる事二回。 レイへのお土産と称して余計な物を購入した事七回」
ワンはバレリアの目をジッと見つめながら、言葉を続ける。
「まだまだあるぞ!」
「わっ、分かりましたってば! 大丈夫ですって!」
「……ふむ。 まぁええじゃろ」
ワンは少し呆れたような表情で溜息を吐くと、改めて話を続ける。
「ワシは暫くニノカミに居る知人の所に厄介になるつもりじゃ。 お主はそうじゃの…… まぁ一ヶ月程度はその金でやり繰りして貰えるかの?」
バレリアはズッシリとした革袋の感触を感じながら、ニヤッと笑みを浮かべる。
(これだけあれば一ヶ月なんて余裕じゃん! やったぁぁ! いっぱいお酒飲もぉっと)
「任せて下さい! えへへぇ」
「本当に大丈夫かの…… まぁええわい」
ワンは呆れた表情でそう言うと、改めてバレリアの顔をジッと見つめる。
「まぁそんな事は無いじゃろうが…… 仮に金が尽きたら……」
「尽きたら?」
追加で貰えると思ったのか、目を見開き笑顔を浮かべたバレリア。
その表情を見たワンは、ニヤッとした表情に変わり話を続ける。
「頑張って自分で稼ぐんじゃぞ! 良いか? くれぐれも問題を起こさないようにな!」
「分かってますって!」
「正体も隠さねばいかんぞ? 生水を飲んだり、拾い食いしたらいかんぞ?」
「もぉ…… 主様……」
少し馬鹿にしたような口調で話すワンに、バレリアは顔を膨らませながら拗ねた様子を見せていた。
「はっはっは。 冗談じゃ。 では一旦、ここでお別れじゃ。 ワシも用が済んだら、お主の所へ出向くとするわい」
ワンの言葉を聞き、バレリアは真剣な表情に変わる。
「分かりました! それでは、お気をつけて」
「うむ。 それでは、またの」
ワンはそう言うと馬の手綱を握り、ニノカミ神聖国へと向かって行った。
その後姿を小さくなるまで見つめていたバレリア。
ワンの姿が見えなくなるとニノカミ神聖国への道を背にし、ニヤッとした表情に変わっていた。
「さぁーーって…… 部屋を探して…… とりあえず今日は飲もっと……」
そう呟くと心なしか軽い足取りで、デンガーナへと向かっていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
バレリアと分かれたワンがニノカミ神聖国へ向かって数日が経った。
巨大な街をグルリと取り囲むように作られた、ニノカミ神聖国の城壁が見えてくる。
見渡す限り横に伸びた高くそびえる城壁が、この国の大きさを物語っていた。
広く真っ直ぐに伸びた街道には、巡礼の装束に身を包んだ多くの旅人の姿が見える。
「ふむ…… ここも久しく来ておらんが…… 変わらんのぉ」
街道を進んだワンが城壁の正門に辿り着くと、そこには多くの人々が長蛇の列を作っている。
馬上でその列を眺めていたワンに、ニノカミ神聖国の僧侶が話しかけてきた。
「失礼ですが信者の方ですかな? 信者の方はあちらにお並び頂ければ」
僧侶が指差す方向は、まさに長蛇の列の最後尾。
ワンはその言葉に静かに顔を横に振ると、首に下げていた首飾りを外す。
緑色の基盤が付いたその首飾りを僧侶に手渡し、少し笑みを浮かべながら言葉をかけた。
「これをな。 武神殿にお渡し頂けるかな? そしてワンが来たと伝えて下され」
ワンの言葉を聞いた僧侶は、急に姿勢を正し焦った表情に変わる。
「武の神様のお知り合いの方でしたか。 失礼しました。 ささっ、こちらへ」
信者用の城門とは別に設けられた、信者ではない者達専用の城門へと案内される。
そこは門は規模も大きさも、信者用の城門とは比べ物にならないほど小さく作られていた。
門を潜ると兵舎のような建物が並び、武装した兵が警戒に当たっている。
ワンはその兵舎の中でも一際大きな建物に案内された。
僧侶は広めの応接室のような場所にワンを案内し、ワン用の着替えをテーブルの上に置く。
そして茶のような飲み物を出すと、笑顔を浮かべワンに言葉をかけた。
「今、お呼びしておりますので…… 着替えを済ませ暫くお待ち下さい」
僧侶が深々と頭を下げるのを見て、ワンは右手を上げ返答する。
「うむ。 では待たせて貰いますかの」
案内された兵舎の応接室の窓からは外が見渡せ、ワンは椅子に腰掛けながら外を眺めていた。
(ふむ…… 相変わらず合理的というか、何というか…… 不気味じゃのぉ……)
外を眺めていると、普通の街と変わらずに活気が溢れた通りも見える。
一方で頭からすっぽりとフードを被った、一見すると怪しい人影の姿もチラホラ見えた。
(相変わらず信者以外の者は、管理されておるようじゃの)
ワンは改めて自分が潜ってきた門に視線を送る。
そこでは武装した兵が厳重に警備し、信者以外の者達を厳しくチェックしている。
身分証等の確認が終わるとワン同様、個別に用意された服を渡され着替えるよう促されていた。
服の背には色や文字、数字が割り振られ、誰がどの服を着ているかが一目瞭然になっている。
(信者は互いに干渉し合い、信者以外は皆に監視される国か…… バレリアが嫌がるのも無理無いわい)
ワンは小さく溜息を吐くと、テーブルの上に置かれた服に視線を送る。
(さて…… ワシも着替えて待つとするかの)
ワンは用意された服を着ると、茶をすすりながら改めて外を眺めていた。
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