あるとれいと~絶対回避能力があるのに色々トラブルに巻き込まれちゃう男のお話~

上田るぅ

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バレリア決戦編

第80話 ガラス玉のような瞳

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「うわぁ! 見てママ! アリシア様だよぉ」

「おぉぉぉ…… アリシア様。 今日もお美しい……」

「おーーい! 皆、アリシア様が通るぞぉぉ」

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 ニノカミ神聖国の兵舎に居るワンは、突然外から聞こえてきた人々の声を耳にする。

 外には人集りが出来、その中心には武装した兵に囲まれた一人の女性の姿が見えた。

「ふむ…… ようやくお出ましになったかの……」

 ワンは窓からその人集りを眺めながら呟く。

 その人集りはゆっくりと移動し、ワンの居る兵舎へと向かっていた。

「こらこら、危ないから離れなさい!」

「ちぇぇ…… ケチだなぁ」

「あぁ…… アリシア様…… 美しい……」

 女性を囲む兵士が少し怒ったように、集まる群衆に声をかける。

 その声を聞いた子供達は、少し拗ねたような表情でブツブツと文句を言っていた。

 しかし遠巻きに見ていた大人達は男女問わず、中心に居る女性に釘付けになっている。

「ささっ、アリシア様。 こちらです」

「ありがとう」

 一行は兵舎の前に着くと、一人の兵士が兵舎の扉を開け女性を中へと誘導する。

 アリシアと呼ばれていた女性は、小さくお礼を言うと群衆に背を向けたまま兵舎の中へと入っていく。

 その後姿を見ていた群衆は、少しガッカリしたような表情で不満を口にする。

「あぁ。 せっかくアリシア様が見れたのに……」

「一体、何があったんでしょうねぇ? お珍しい」

「あぁ。 五神の中でも、最も人前に出ないお方が」

 ヒソヒソと噂話も交えながら言葉を発する群衆に、兵達が少し呆れたように話しかける。

「さぁ、行った行った。 迂闊な発言をして法王様に知られても知らんぞ?」

 兵士の言葉を聞いた群衆は、ピタリと話を辞め蜘蛛の子を散らすようにその場を後にしていった。

(ふむ…… 相変わらずの影響力のようじゃが…… まぁ当然と言えば当然かの)

 ワンは窓から一部始終を眺め、真剣な表情で思案していた。

 信者以外の者が下手な事を言っては不味い事はワンも理解している。

 その為、言葉を発さないのは当然と言えた。

 ガチャ…… キィィィィ……

 外を眺めていたワンの居る応接室の扉が、音を立ててゆっくりと開いた。

「ここで結構です。 皆は外で待機を」

「アリシア様っ…… しかし……」

 ドアを開けたアリシアが兵に声をかけたが、兵は少し困惑した表情で返答する。

「聞こえませんでしたか?」

「はっ、ははっ……」

 アリシアは無表情のまま静かな声で尋ねると、兵は焦った表情で承諾する。

 キィィィィ…… トタンッ…… カツカツカツカツ……

 ドアが締まると、アリシアはテーブルの近くまで歩を進める。

 ワンはアリシアの姿を上から下まで眺めると、真剣な表情に変わり思案する。

(ふむ…… これがニノカミの武神、アリシアか。 あの基盤を見せれば必ず来るとは思っとったが……)

 ゴシック調の黒いドレスを纏い、青みがかった髪にガラス玉のような瞳。

 シミひとつ無い肌と整った顔は、まるで美しく彫られた彫刻が動いているようだった。

「貴方がワンですか?」

「如何にも。 お会いするのは…… 初めてですな?」

 ワンの問い掛けに対しアリシアは返答する事無く、テーブルの上に静かに首飾りを置く。

 緑色の基盤に半導体のような物が付いた、その首飾りに視線を移し静かに口を開いた。

「これをどこで? そして何用でここに?」

 アリシアの問い掛けに対し、ワンは少し思案を重ねていた。

(ふむ…… この者に言った所で意味を成さぬが…… 取り次ぎ位はしてもらわねばの)

 そして考えが纏まったように、ワンはアリシアの問い掛けに返答する。

「うむ。 率直に申さば…… 法王にお目通り願いたい。 構わぬかな?」

 法王、つまりニノカミ神聖国を統べる【数字の烙印の者】に会いたいと言ったワン。

 その言葉を聞きアリシアは無表情のまま、驚く事も無く返答する。

「良いでしょう。 来て下さい」

 そう話すとワンに視線を送る事も無く、ドアの方へと向かった。

 ガチャ…… キィィィィ……

「馬車を一台、用意して頂けますか?」

「はっ! かしこまりました!!」

 部屋の外で待機する兵に言葉をかけると、ワンに背を向けたまま言葉をかける。

「それではこちらに」

「うむ……」

 無駄な会話を一切しないアリシアに対し、ワンは少しだけ不気味さを感じていた。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「目立たないように行くので。 乗ってもらえますか?」

「……うむ」

 兵舎の前には豪勢な馬車が一台、用意されていた。

 まるで国賓が乗るようなその馬車を見たワンは、思わず絶句した。

(目立たぬようにと申しておったが…… これ…… 逆に目立つんじゃないかのぉ)

 ワンはチラッとアリシアに視線を送る。

 その視線に気付いているのかは分からないが、アリシアはワンを見る事無く馬車に乗り込む。

(まぁええか…… この者と歩いていた方が目立つじゃろうし……)

 ワンは小さく溜息を吐くと、ゆっくりと馬車に乗り込んだ。

 ゴトンゴトン…… ゴトンゴトン……

 整地された道とは言え、僅かに馬車は揺れている。

 道中、アリシアとワンは会話する事無く、目的地へと向かっていく。

 馬車内は車輪の音だけが鳴り、ワンには沈黙が時間の経過を遅らせているように感じられた。

 しばらく沈黙が続いた後、目的地へと着いた馬車がゆっくりと止まる。

「アリシア様! 到着致しました」

 馬車を先導する兵の声が聞こえると、アリシアはゆっくりと腰を上げる。

 そして無言のまま降りた後に、ワンが続いた。

「これはいつ見ても…… 見事じゃのぉ」

 馬車を降りてワンの目に飛び込んできたもの。

 ニノカミの聖廟として建てられたそれは、城壁より遥かに高く聳えていた。

 表面を大理石で覆ったピラミッドのようなその建物は、神聖国でも指折りの建造物と言える。

「こっちです」

 聖廟を見上げていたワンに対し、アリシアはそう言葉をかけるとワンに背を向け歩き出す。

「うっ…… うむ」

 外観だけでも巨大な事が理解出来たが、内部は案内が無ければ迷う程に広い。

 大理石の床と柱が並ぶ通路は複雑に入り組み、幾つもの扉が見えた。

 聖廟内は騎士や僧侶で溢れていたが、アリシアの行く先は海が割れるように開いている。

 道の脇に待機した騎士や僧侶が頭を下げる様を見て、アリシアが如何に高名であるかが伺い知れた。

「着きました」

 アリシアが立ち止まると、そこには一際大きな扉が聳えている。

 扉の脇で待機する真鍮色の甲冑を身にまとった騎士が、アリシアに声をかけてきた。

「ご苦労様です。 もうお入りになられますか?」

「えぇ。 お願いします」

 無表情のまま、騎士に目線も合わせずに答えるアリシア。

 その言葉を聞いた騎士は、巨大な扉をゆっくりと開けた。

 ギギギギギギギギギギギッ…… ガターーーーーンッ……

 扉が開くと無言のまま歩を進めるアリシア。

「ほぉ…… ここもまた、見事じゃのぉ……」

 通された部屋は巨大な礼拝所のような場所だった。

 真っ白な壁や床とは対象的に、色とりどりのステンドグラスが存在感を放っている。

 部屋の奥には巨大な像が鎮座し、それが人々の信仰対象である事が伺えた。

 キョロキョロと部屋の中を見回すワンを他所に、アリシアは部屋の奥へと歩を進める。

「連れてきました」

 部屋の奥、巨像の前には白い法衣を纏った一人の人物が見える。

 頭からすっぽりと法衣を被り、口元しか見えないその人物がゆっくりと口を開いた。

「あぁ。 ありがと」

 声を聞く限り、若い成人男性のようだ。

 謝意を述べていたその人物に、アリシアが再び声をかける。

「それではシュタイム。 私はこれで」

「いや、待て待て。 一応、お前もここに居てくれるか?」

「…………」

 少し焦ったような法王シュタイムの言葉を聞きアリシアは無言のまま、傍らで待機していた。

 その二人の様子を見ていたワンは、着ていた服のフードを脱ぎ顔を顕にする。

 そして小さく咳払いをすると笑顔で話しかけた。

「久しぶりじゃのぉシュタイム! 元気にしておったか?」

 にこやかな表情で手を上げるワンを見て、シュタイムは静かに返答した。

「てめぇ、よくここに顔が出せたな? 死ぬ覚悟は出来てんのか?」
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