あるとれいと~絶対回避能力があるのに色々トラブルに巻き込まれちゃう男のお話~

上田るぅ

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バレリア決戦編

第81話 シュタイム

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「てめぇ、よくここに顔が出せたな? 死ぬ覚悟は出来てんのか?」

「はっはっは、ご挨拶じゃのぉ。 法王を自称する割に、威厳も糞も無いのぉ。 まぁ無愛想なのは相変わらずか」

「てめぇ…… 本当に死にたいのか?」

 頭から被った法衣で表情までは確認出来ないが、その口調は明らかに怒りが籠もっていた。

「殺りますか? ご命令を」

 シュタイムの様子を横で見ていたアリシアは、一歩前に出ると振り返り命令を待っている。

 その様子を見たシュタイムは左手を上げ、制止した。

「まぁ良い。 それで? てめぇがここに来るって事は、それなりの要件なんだろ?」

 法王の問い掛けに対し、ワンはニヤッと白い歯を見せ答える。

「うむ、ようやく現れたぞ。 【二の烙印を持つ男】がの」

 ワンはこの世界にアルが現れた事をシュタイムに告げる。

「…………」

 ワンの言葉を聞いたシュタイムはピクっと反応したように見えたが、押し黙ったままだった。

「驚かぬのか? お主にとって、いやワシにとっても待ちに待った出来事だというのに」

 リアクションの無い姿を見てワンは、少しだけ驚いた表情に変わる。

「それで…… どこに現れたってんだ?」

「うむ。 場所で言うと…… 旧アストリナの領地じゃな」

 ワンの言葉を聞いたシュタイムは、笑いを堪えるように少しだけプルプルと震えていた。

 その様子を見たワンは疑問を浮かべた表情で尋ねる。

「んっ? どうしたんじゃ? 何がおかしい」

 シュタイムは無言のまま懐から書簡を取り出すと、それをワンに投げつける。

「一体なんじゃ?」

 ワンは投げつけられた書簡を拾うと、無言でそれを開き目を通す。

「……これは」

 書簡に書かれている内容を読み、ワンは驚いた表情に変わる。

 そこには長々と前置きが記載されていたが最後に、こう書かれていた。

 【リナリア王女によるアストリナの再建国の為、ニノカミ神聖国に支援を要請する】

 書簡を読み終えたワンに対し、シュタイムは少し笑いながら話しかける。

「あははっ。 これと同じ物がアストリナ周辺の国々から多数来てるぞ? 時期や地理的に考えて、これはその【二の烙印を持つ男】の仕業だろ?」

「そうか…… アルの奴め」

 シュタイムの言葉に対し、ワンは笑みを浮かべながら小さく呟く。

「アル? その男の名前か?」

「うむ。 まぁお主なら存じておるとは思うが、そのアルという男は記憶がの」

 ワンの話を聞いたシュタイムは腕を組み、右手を顎に当て何か思案する様子を見せていた。

(そっか…… やっぱ記憶が…… となると、何も分かっちゃいないって事だよな……)

 シュタイムは傍らに居るアリシアに視線を送り、改めて思案を重ねる。

(って事は…… 俺の二の舞だけは、絶対に回避させる必要が……)

 考えがまとまったシュタイムは、改めてワンに言葉をかけた。

「てめぇは記憶が無いそのアルってのに、何を吹き込んだんだ?」

 シュタイムの言葉を聞き、ワンは真剣な表情に変わる。

「ワシの目的をな。 それよりどうするつもりじゃ? 書簡の通り、援助してやるのか?」

「おいおい。 この国は不可侵で成り立ってるって事、知らない訳じゃねぇだろ? この国は侵略もしないし、させない。 アストリナを援助するって事は、国の規模から言って侵略と捉えかねないしな」

「まぁそうじゃが…… お主も今、アルに死なれたら困るのでは無いのか?」

 ワンの言葉を聞き、シュタイムは小さく溜息を吐き言葉を続ける。

「良いか? この国はニノカミを信仰する宗教国だ。 信仰する者達を裏切ったら国の根幹が揺らぐ。 そうなると援助どころじゃねぇだろ?」

 シュタイムの言葉を聞き、ワンは真剣な表情で返答する。

「ふむ…… となると、捨て置くつもりか?」

「そうは言ってない。 っていうか、一体どういうつもりだ?」

「どういうつもり?」

 シュタイムの問い掛けに対し、真意が分からないワンは問い返す。

「てめぇは未だに【元の世界に戻る】つもりなんだろ? なら俺とは絶対に相容れない」

「ふむ。 考え直す気は」

「ない。 俺は【元の世界に戻る】つもりは、これっぽっちも無いからな」

 シュタイムの言葉は力が籠もり、ワンとは根本から意見が違う事をはっきりと宣言した。

 その言葉を聞いたワンは、少し笑顔を見せ返答する。

「まぁええじゃろ。 しかしアルがワシに付けば、相容れないお主も困るのでは無いのか?」

「チッ…… やっぱ今、殺しておくか?」

 シュタイムの言葉を聞き、アリシアがまた一歩前に踏み出す。

「ご命令を」

「いや…… 分かった。 助けてやるよ。 ただ一つ聞かせろよ」

 改めてアリシアを制止すると、少し不機嫌そうにワンに問いかける。

「何をじゃ?」

「てめぇとしちゃ、俺達は邪魔なはずだろ? なのに何故、この事を伝えにきた?」

 シュタイムの問い掛けに対し、ワンはニヤッと白い歯を見せる。

「なに、簡単な事じゃ。 今はまだお主もアルもワシにとって、利用価値があるからじゃ。 【烙印の者】達を集める為にの。 その点については、お主も同じじゃろ?」

 ワンの言葉を聞きシュタイムは「チッ」と舌打ちをしたが、気を取り直すように小さく息を吐く。

 そして改めてワンに言葉をかけた。

「まぁ良い。 だがそのアルってのの出方次第では、ハイランドとこの国が争う事になるかもしれねぇんだぞ? そうなると、てめぇの目論見通りにはならないんじゃねぇのか?」

 大陸でも一、二を争う大国同士の戦争となれば、大勢の犠牲者が出るのは想像に難しくない。

 シュタイムはワンの目的でもある【烙印の者】達が、多数犠牲になる可能性を示唆していた。

「何、お主が手助けしてくれれば心配は要らぬよ。 それに念の為、保険もかけておいたしのぉ」

「保険だぁ?」

「うむ。 帝国領とニノカミとの緩衝地帯であるデンガーナにな。 バレリアを待機させておる」

 ワンの言葉を聞き、シュタイムは腕を組み右手で顎を触り思案する。

(バレリア…… あの最初の【異怪の烙印】か……)

 法衣を被ったままで視線までは読み取れないが、シュタイムは明らかにワンの方を見ていた。

(一体、何を考えて…… はぁ…… やっとこの国も落ち着いてきたってのに……)

 シュタイムは小さく溜息を吐くと、改めてワンに言葉をかけた。

「それで? てめぇは、これからどうするつもりだ?」

 シュタイムの問い掛けに対し、ワンはニヤッとした表情に変わる。

「なに、色々じゃ。 互いの目的の為に動くのは、当然じゃろ?」

「チッ…… んで? 要件はそれだけか?」

「うむ。 お主がアルに全てを告げても良し、告げぬも良しじゃが…… どちらにせよ、よく考えて行動する事じゃな」

 忠告とも取れるワンの言葉を聞きシュタイムは、またしても小さく舌打ちをしていた。

「さて、ワシはそろそろお暇するかの。 バレリアには告げずに行く故、何かあれば頼ると良いぞ」

 ワンはそう告げると、笑い声を上げながらシュタイム達に背を向け歩き出す。

 部屋を後にするワンを見ていたアリシアは、シュタイムに視線を向け言葉をかけた。

「殺さなくても良いのですか?」

 その言葉を聞いたシュタイムは、「ふっ」と小さく笑うとアリシアに言葉をかける。

「それが出来ない事はアリシア、お前が一番分かってるだろ? やれやれ……」

 シュタイムは「はぁ……」と息を吐くと、改めてアリシアに話しかけた。

「デンガーナに繋ぎを頼む。 アストリナの支援は任せたってな」

 シュタイムはアリシアにそう告げると、「はぁ……」と溜息を吐きながら部屋の奥へと消えていった。
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