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いい声しているな、一緒にやらないか?(2)

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「おいどうする。あいつノクターン・ベースじゃん。力尽くでぶちのめすのは難しいぜ」

「びびるな! たかだか一人で何ができるっていうんだよ!」

ぎぃぃん

 そう言い放った男子生徒をノクターン・ベースが睨み付けた。蛇睨みのごとく、男子生徒の体が麻痺した。

「お前を代表に決定する」

「だ、代表?」

「そう、怪我人は少ない方が良いから代表の一人に絞った方が良いだろ?」

ひゅん

 ノクターン・ベースの姿が消えた。正確には並の肉眼では見きれないスピードで彼が動いたのだ。

ががががががが

 男子生徒の一人に、打撃の連打が当たった。わずかにノクターン・ベースが残像を見せるが、彼がどういう攻撃をしたかを分かる者がいなかった。

「ごばはぁっ!」

 男子生徒の一人が血反吐を吐き、床に倒れた。男子生徒の一人が逃げ出すと、それに呼応するように、他の男子生徒も何も言わずにそそくさと慌てて立ち去っていった。

「あ、ありがとうございます」

 クレッシェ・ソプラがノクターン・ベースの圧倒的な強さに恐怖しながらもお礼を言った。

「なかなか良い叫び声が聞こえたから駆けつけてきたがお前がその声の持ち主か。なるほど、男子にしては高い声質だ」

「は、はぁ……」

 クレッシェ・ソプラはノクターン・ベースが何を意図して喋っているのか良く分からなかった。

「良い声しているな。俺といっしょにやらないか?」

びくん

 クレッシェ・ソプラの体が大きく揺れ、ノクターン・ベースから距離を置く。

「おい、いきなりどうしたよ」

「まさか、あなたまで僕を襲おうと……」

「あっ……馬鹿! 紛らわしい言葉言ったけど勘違いするな! 俺が男好きに見えるっていうのか!」

「す……すいません……」

「まぁいい、誘いをかけたが……その前によ、そのぼろぼろの格好じゃあ家に帰れねえだろ?」

 ノクターン・ベースは、着ていた上着をクレッシェ・ソプラに与えた。

「しばらくその上着を貸してやる。だから俺についてこい。お前は俺に借りがある状態だ。拒否権はねぇぞ。拒否したらお前が死ぬまで心が安まる時はないものと思え」

「あ、あの、とっても怖いんですが……」

「俺のどこが怖いってんだ!!」

 ノクターン・ベースが怒鳴るとクレッシェ・ソプラは泣きそうな顔となった。

「おい、どうすればお前は怖がらねえ?」

 クレッシェ・ソプラが少し考え込んでから口を開いた。

「わ、笑うとか……」

「こうか」

 クレッシェ・ソプラは驚いた。ノクターン・ベースがさっきとはうってかわって、良い笑顔を出したのだ。

「どうした?」

「いや、さっきまで怖かったのに、まるで何回も練習した役者さんのように表情が良い笑顔になったので……すいません……」

「まっ、歌う時は笑顔が基本って教わっているからな」

 ノクターン・ベースの意外な言葉にクレッシェ・ソプラは驚いた。

「えっ、あの、歌っているんですか?」

「そうだ、俺は一応ブレイブ内の合唱サークルの団長を務めさせて貰っている」

 ブレイブ内には、学生達の課外活動の場としてサークルがいくつかある。合唱サークルだけでなく、剣術をより鍛えたい人向けの剣術サークル、クエスト仲間を集めるためのクエストサークル等多くあるのだ。

「なんか意外ですね」

「そうでもねえさ」

 そうこう会話している内に、二人はいつの間にかある場所にたどり着いていた。入り口には合唱サークルと書かれている。

「部室だ入りな」

 ノクターン・ベースが合唱サークルの部室の引き戸を乱暴に開ける。クレッシェ・ソプラも恐る恐る室内に入った。中には赤髪の長髪の女性が四、五人で使うサイズの机に座っていた。

「あら、ノクターン・ベース。いかにも襲われましたって感じの可愛い子もいっしょに連れてどうしたのかしら?」

「新しく入れる部員だ。まず互いに自己紹介といこうか」

「えっ……あの僕……」

「お前のはい・いいえは聞かない」

 ノクターン・ベースがクレッシェ・ソプラの言葉をシャットアウトした。

「俺はノクターン・ベース。17歳。将来の希望職種は盗賊。担当は男性低音だ」

「は~~い。私はピアッソ・アルト。15歳。将来の希望職業は一応歌術使い。でもわりと色々とできるからそれ以外の職業もいいかなって考えているわ。担当は女性低音よ。はい、可愛い君も自己紹介どうぞ」

 クレッシェ・ソプラはピアッソ・アルトの美貌に驚いた。今までこんなにも美しい異性を彼は見たことがなかったのだ。

「クレッシェ・ソプラ、12歳です。希望職業は……僕自身出来損ないで特技がなくて……というか退学寸前の危機なのでちょっとどうしようもないというか……この合唱団にもいられるかどうか……」

 クレッシェ・ソプラは顔を赤らめながら小さな声で応答した。

「あら大変ね。じゃあ私のお嫁さんになってみる? 養ってあげるわよ」 

「えっ!?」

「君みたいな可愛い子だったらいつでも恋人にしたいな。君ってフリーでしょ? 勘で分かるわよ」

「き、急に言われましてもそんな簡単に結論を出せないわけで……」

うぉっほん

 ノクターン・ベースがわざとらしく大きな咳をした。

「おいソプラ、一応言っておくが、そいつはれっきとした男だ」

「えぇっ!? アルトさんこんなに綺麗なのに!?」


「まぁ見た目は女だし、声質も女性低音に聞こえる。だが間違いなくこいつは男だよ」

「なぁに、もしかしてノクターン、この子を私がとっちゃうって思ったの? もしかしてこの子を誘ったのって一目惚れとかかしら?」

「何を言うんだ! そんなんじゃねえ! こいつの声質が女性高音としていけそうだから誘っただけだ!」


「あ、あの、僕よりも女性の合唱経験者を誘った方が良いんじゃないですか?」

 一瞬、空気が凍った。クレッシェ・ソプラは何か自分が悪いことを言ったのではないかと思った。
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