4 / 10
第三話 大地の異変
しおりを挟む
フレム達は今日もソスナの村の広場で演奏していた。彼らの演奏を聴きに今日も多くの村人達が集まっていた。軽快に奏でられる演奏を聴く人々の表情は多少の陰りはあったがそれでも明るく見えた。
そして演奏を終えると村人達は盛大な拍手を送った。
*
フレム達が片付けを終えた時ノーラが駆け寄って来た。それに気づいたフレム達はノーラを笑顔で迎えた。
「こんにちは皆さん。」
「おう。今日も元気そうだな。」
「はい。母も元のように元気です。最近は前よりも元気なくらいです。」
「そうですか。それは良かったです。」
「本当にありがとうございました。」
ノーラが笑顔で話すのを聞いてグレスも笑みを返した。ノーラはグレスの事に少し見惚れており、後ろでシデンがニヤニヤと笑っていた。見咎めたグレスが睨み付けると冷や汗を流して笑うのをやめた。
赤い顔をなんとか冷ましたノーラは思い出したようにグレス達に尋ねた。
「そ、そう言えば皆さんは今日はこの後どうするんですか?」
それにグレスはフレムの方に振り向いた。視線を受けたフレムは少し考えて言った。
「そうだな、俺たちは今日も村の散策かな。」
「今日もなんですか?」
「あぁ。」
フレムの言葉にノーラは驚いた。最近のフレム達は演奏を終えると村の中を歩いて回っていた。何度も同じ場所を行ったり来たりするフレム達はいつも顔をしかめていた。
ノーラはグレス達と一緒に行こうかと考えたが、何かあるのだろうと思い言わなかった。その後ノーラは「明日も頑張って」と言って帰っていった。
*
ノーラが帰った後、フレム達は馬車の留守番組を残して村を散策しに行った。今日はフレムとミゾレのペアが北側を、サンラとルナンのペアが南側を回っていた。留守番にはアース・シデン・グレスが残った。
村を回る中、フレム達は村の様子がおかしいことに気付いていた。
「やっぱりおかしいな。」
「えぇ。いくら神が攻めて来ているとは言え村に活気がなさ過ぎます。」
村の人達は皆どこか疲れた様子が見られた。誰の顔にも暗い影が差し村全体に活気が無かった。それはサンラ達の方も同じだった。
「やっぱりいつ見ても元気が無いわね。」
「あぁ。それに、薄っすらとだがこの村を包んでんのはおそらく『神気』だろうな。」
「だね。」
サンラの言葉に頷いたルナンは空を睨んだ。同じようにサンラも空を、いや村を包む神気を睨んだ。村人達は彼らが何を見ているのか分からなかった。少しの間神気を睨んでいた二人は再び村の中を歩き出した。
*
夜。馬車の中でフレム達はそれぞれが掴んだ情報を話し合った。
「今のところ他の村に先日のようなことはないそうだ。」
「それって前の神の一人が降りて来たって事件から何も起きてないのか?」
「あぁ。他の神が降りて来たってこともないそうだ。」
その事には全員眉を顰めた。フレム達が前の村を出るきっかけとなった事件。それ以降神が降りて来たという事がなかったという事にフレム達は不審に思った。だが今はそのことについて一度おいて置くことにした。今はまずこの村のことが重要だった。
「気付いていると思うけど、この村に活気がない理由は村を包む『神気』のせいよ。」
サンラの言葉にフレム達は顔をしかめた。
『神気』とは神が持つ力のことだ。神にはそれぞれ司るものがある。一人一人が力を持ち、その力を行使するためのものが神気である。また『神の使い-メザーゴ』を形作るのもこの力である。
今この神気が村に影響を及ぼしていた。
「やはり、大地神の神気か。」
「えぇ。ノーラさんの家にあったものより弱いですが、それでも体に影響がある程度には濃いものです。」
尋ねたアースにミゾレが答えた。全員がその言葉に顔をしかめた。
先日、ノーラの母親がかかっていた原因不明の病。その正体は彼女の家の畑に染み込んでいた神気が原因だった。
フレムが顔を上げてシデンとアースの方を向いた。
「お前達はもう良いのか?大量の聖気を使っただろう。」
「平気平気。今まで休んでいたのとグレスのおかげでもうバッチシ!」
笑顔で答えたシデン。その横でアースも頷いていた。それを聞いてフレムは内心安堵の息を吐いた。
実は三人が今日留守番をしていた事には理由があった。先日ノーラの母親の病気を治した後、グレスがアースとシデンにあることを頼んでいた。それは畑に染み込んだ神気を払うことだった。シデンがまず自身の聖気を流し込み神気を相殺した。雷の聖気によって荒れた畑をアースが岩の聖気を流し込み整えた。だが強引な方法を使った二人は大量の聖気を消費した為疲労が激しく動くことさえ難しくなる程だった。
その後、一晩休んだことで動けるようになった二人だったが、無理は禁物と言われ留守番をしていたのだ。その間にグレスの聖気によって回復していたのだ。
二人の様子がもう良いことにグレスも頷いて同意した。フレム達は安堵した。
「良かった。いっつも俺に無茶するなって言う癖に、アースもシデンも無茶するんだから。」
「そうですね。無茶の度合いはともかく、二人とも今回は少しやり過ぎです。」
「少し反省してなさい。」
フレム・ミゾレ・サンラの言葉にアースとシデンは何も言えなかった。反省する二人にグレスが助け舟を出した。
「ほら皆さん。アースもシデンも十分反省していますから、もう良いでしょう。今はこの村のこともありますし。」
「そうだ。これ以上は話が進まねえ。」
グレスとルナンのの言葉に渋々引き下がった三人だが、まだ何か言いたそうにしていた。だが、今は村の事だと頭を切り替えた。
村全体を包んでいる神気を取り除くためにはノーラの家でやったような力技は出来ない。そんな事をすれば村人達が感電してしまうからだ。しかし生半可なものでは神気を完全に払うことは出来ないためグレス達はどうすれば良いかと悩んでいた。
「俺達がこの村の神気を払う。」
そう言ったのはシデンだ。隣にいるアースも同意見だった。だがそれには全員が反対した。
「ダメだ。前と同じ方法を取れば村人に被害が出る。第一お前達は病み上がりだ。そんな無茶をさせられるか。」
「ならどうすりゃ良いんだよ。」
「それを今考えているんでしょ。あんたは少し落ち着きなよ。」
フレムに反対されてシデンは怒鳴るがサンラに呆れた声で宥められた。シデンも危険な方法だと分かっているのか気持ちを落つけようとする。
隣にいたアースが何かを言おうとするが、言葉にする前にルナンに遮られた。
「馬鹿な事考えてんなよアース。たとえお前の聖気が岩だろうと、村一つ分の聖気を払うなんて無茶やらせる訳ねえだろ。」
「だが、」
「‘‘だが’’じゃねえ。分かってんだろ、お前一人でできる訳ねえって。俺達だってやれるんだ。もっと頼りやがれ。」
「…悪い。」
ルナンの言葉にそれでも何かを言おうとしたアースだがルナンは何も言わせなかった。ルナンの正論にアースは顔を俯けた。アースから顔を背けたルナンは持て余した怒りから舌打ちを漏らす。
二人に無茶をさせたくないルナン達だが、何か方法がなければ二人もしくはアース一人が無茶をしてしまう。
焦りが募る中、フレムがある提案をした。
*
フレム達は村のはずれに来ていた。その中でもフレムとミゾレ、グレスの三人だけは自身の武器を持っていた。フレムとミゾレが前に出ており、後ろの方にグレス達が控えていた。
「よっし、やるか。」
「…本当に無茶しねえんだよな。」
やる気満々のフレムにシデンが不安そうに言った。それにフレムは振り返り、呆れたように返した。
「だからしないって!何度目だよその質問は。ミゾレもなんか言ってくれよ。」
「フレムが無茶をするのはいつもの事ですが、今回はそこまでの無茶はしません。それは保証します。」
フレムは隣のミゾレに助けを求めるが、ミゾレはバッサリと切り捨てるように言った。その言葉にフレムは顔をひきつらせる。信用されていない事にフレムは肩を落として落ち込んだ。だが、シデンはミゾレが保証した事で納得し引き下がった。
「まあ、それは今は置いとくとして。」
気持ちを切り替えたフレムは腰の剣を抜き、村の上空に剣先を向けた。ミゾレも同じように弓を構える。二人は自身の武器に聖気を纏わせた。
「やるぞ。」
「はい。」
フレムは炎を纏わせた剣を一閃し、ミゾレは氷の矢を放った。二つの力が村の上空に達した時ぶつかり合い、弾けた。二つの力は互いに相殺しあい、村に飴を降らした。聖気を含む雨は村に染み込んだ大地の神気を流していく。全ての神気が流れ消滅した頃、雨が止んだ。
頃合いを見てグレスが腰の細剣を抜き聖気を纏わせる。風を纏った細剣を横薙ぎに一閃する。聖気を含む風は村の中を通り抜けて行く。そして神気によって弱っていた村人達も活力を取り戻していった。
*
武器を収めたフレム達は馬車へ戻ろうとしていた。その時シデンが昨夜のことを思い出していた。
「フレムが昨日『提案がある』とかいった時はどんな無茶を言い出すかと思ったぜ。」
「そのことはもう良いだろ。俺もミゾレもそこまで聖気を使ってないんだ。流石に勘弁してくれ。」
フレムは耳にタコだというように根を上げた。彼の後ろにいたグレス達は苦笑していた。
「そう思っているのならこれからは無茶をしないで下さい。」
「あ~、それはなあ。」
グレスの言葉にフレムは曖昧に返す。そんな彼に仲間達は揃ってため息を零した。
「全く、心配するこっちの身にもなりなさいよ。」
「悪いって。でも仕方ないだろ、体が勝手に動くんだから。」
サンラの言葉に申し訳なさそうに返す。だが止めようとする気配は一向に無い。何をいっても無駄だと思ったのかそれ以上はもう何も言わなかった。その一瞬だけフレムは表情を消して目を細めたが誰も気付かなかった。
(あの神気の気配は、一体…)
彼らがもう少しで広場に戻ろうとした時、空が一瞬だけ白く光った。
空からメザーゴ達が降りてくる。メザーゴ達はライトニング・バンを村に向かって放つ。村を壊して行くメザーゴ達に村人達は逃げ惑った。
「!こんな時に。」
「お前達は馬車へ行け。俺達で食い止める。」
「っ、」
メザーゴ達を見たシデン達は今武器を持っていない事をもどかしく思った。それをフレムが馬車へ取りに行くよう促す。一瞬だけ戸惑うシデン達だが、武器がなければ何もできないため、思い留まり馬車へ向かう。
「…無茶だけはするなよ。」
「あぁ。」
そう言って、フレム達は二手に分かれた。
メザーゴ達は広場とは反対の方向に向かって行く。フレム達はメザーゴを追いかけた。新たに光弾を放とうとした時、フレムが剣を振るい防ぐ。目の前に立ちふさがるフレム達にメザーゴ達は標的を村からフレム達に切り替える。メザーゴ達を警戒しながらもフレム達はいつもとは違うことに顔を強張らせた。
「今回は少し量が多いですね。」
「あぁ。いつもならこれの半分くらいだからな。それに、」
グレスの言葉に同意しつつも、フレムは何かを警戒していた。隣にいるミゾレがメザーゴの大群を見て何かを探す。
「恐らく、この村に仕掛けられていた神気が破られたことに神が気付いたのでしょう。居ました。」
そう言ったミゾレは大群のある一点に目を止める。一体のメザーゴを睨むように見る。
「バーリエント体・ランドです。」
「てことは、ゼムリアか。」
ミゾレの言葉にフレム達の空気が鋭くなる。ミゾレと同じように『ランド』と呼ばれた体に黄色い線が入ったメザーゴを睨みつける。
『バーリエント体』とはメザーゴの強化体のことだ。メザーゴは元々光の神気によって形作られているが、バーリエント体には光の神気とは別に他の神の神気が加えられている。そのため通常のメザーゴよりも力もスピードも格段に上がっているのだ。そして神が持つ神気の違いがバーリエント体にも現れる。神によってバーリエント体が持つ能力が変わってくるのだ。『ランド』とはその中でも大地神・ゼムリアの神気を加えられたものだ。その能力は大地の力を使うことが出来る。
睨み合いが続く中、先に動いたのはメザーゴ達だった。一斉に光弾を放つがフレム達は全てかわし、バラバラに分かれた。メザーゴ達は何度も光弾を放つがどれも当たることはなかった。フレムとグレスは剣に聖気を纏わせメザーゴ達を斬り倒していく。メザーゴ達はフレムとグレスに攻撃を集中させた。その隙を狙い、ミゾレがランドに向けて矢を構えた時、ランドが動いた。
「レインズ・ロック」
ランドは片手を頭上に掲げた。すると上空から石飛礫が降り注がれる。フレム達は姿勢を低くしながらギリギリ避けて行くが、攻撃に転じることは出来なかった。
「くっ、大地神の神気で強化されているだけはある。他のやつより数倍手強い。」
「えぇ。それにミゾレはともかく、僕達では相性が悪すぎます。シデン達が来るまで耐えるしかありません。」
前後左右に降り注ぐ石飛礫は一つ一つの威力が強く、当たれば大怪我だ。そんな状況を覆したくとも属性が炎と風であるフレムとグレスではランドと相性が悪い。三人の中で唯一相性のいいミゾレは弓を引くために動きを止めなくてはならず標的にされてしまう為弓を構えることができなかった。
フレムとグレスがフォローに回ろうとしてもランドの後ろにいるメザーゴ達によって妨害される。
防戦一方のその時ようやく彼らが駆け付けた。
「伏せろ。」
後ろから聞こえた声にフレム達は従い身を屈めた。迫る石飛礫は頭上を通過したものによって全て弾かれた。
立ち上がったフレム達は後ろを振り返り笑みを漏らした。
「シデン、皆!」
振り返った先にはそれぞれの武器を持つシデン達が居た。その中でシデンだけは銃を構えていた。先ほど石飛礫を防いだのはシデンの銃によって弾かれたからだ。
シデン達はフレム達の元に駆け寄った。
「大丈夫か。」
「平気だ。そっちこそ病み上がりのくせに無茶すんなよ。」
「へっ、お前に言われたかないな。」
アースの問いにフレムが笑顔で答える。それにシデンが皮肉って返す。だがフレムの様子を見て嘘ではないと確信したアース達は内心で安堵した。
そしてメザーゴ達に向き直ると、ランドを見て視線を鋭くさせた。
「バーリエント体か、厄介だな。」
「あぁ。ルナンとアースはミゾレの補佐をしてくれ。ミゾレはランドを頼む。」
「分かりました。」
ルナンの言葉に頷いたフレムは三人に指示を飛ばす。頷いたのを確認し、フレムは改めて剣を構えた。
「俺たちは他のメザーゴ達を倒す。行くぞ!」
『了解』
アースとルナンがミゾレの前を固め、フレム達がメザーゴ達に向かって飛び出した。
*
「お前達の相手はこっちだ。」
そう言ってフレムは剣を振るう。炎の聖気を纏う剣に薙ぎ払われて光のカケラとなって消滅するメザーゴ達。
「はあ。」
フレムの攻撃に追い打ちをかけるように風の聖気を纏わせた細剣を持つグレスは残像が出来る程の素早い突きを放つ。避けることもできず全ての突きを受けたメザーゴは光のカケラとなって消滅する。
「ふっ、くぅ。」
「いつもより動きが悪いよ。やっぱりまだ安静にしてたほうがよかったんじゃない?」
背中合わせで戦うシデンとサンラだが、いつもより動けていないシデンにサンラは茶化すように言った。それに額に青筋を浮かべたシデンは目の前の二体に蹴りを叩き込むと素早く両手に持つ銃で胸を撃ち抜く。
「ンなわけあるか。」
光のカケラとなって消滅して行くのを見ること無く捨て台詞のような言葉を残して別の相手に向かっていった。
「あちゃー、地雷踏んじゃったか。…でも、本当に完治しているようでよかったよ。」
苦笑を零すサンラだがシデンの後ろ姿を目を細めて見ていた。そこへ近付いてきたメザーゴに回し蹴りを放ち、正面に向き直った。両手に持つ短剣を構えて次の相手へ狙いを付ける。
フレム達が次々とメザーゴ達を倒して行き、残りあとわずかとなった時、ようやくそれは放たれた。
「グレイザード」
ミゾレの足元に青色の魔法陣が現れた。彼女が作り出した氷の矢が放たれる。矢が通り過ぎたところが凍り付いて行く。そして矢はランドの胸を貫き、体を氷が覆う。それはランドだけでなく、周りにいたメザーゴ達も共に凍り付いた。
次の瞬間、ランドとメザーゴを覆った氷は粉々に砕け散った。
*
全てのメザーゴを倒し終えたフレム達は引きを納めて一箇所に集まった。
「大丈夫か、ミゾレ。」
「っ、えぇ。」
肩で息をするミゾレには疲労が見えた。サンラがミゾレに近寄り、肩を貸す。
「疲れてるんでしょ、掴まりなよ。」
「ありがとうサンラ。」
サンラに寄りかかったミゾレの目はフレムに向いていた。ミゾレだけではない。サンラ達も真剣な顔をしてフレムを見ていた。全員の意を汲み取ってフレムが言う。
「明日、この村を発つぞ。」
その言葉に誰も否を言わなかった。彼らの意識は次の村へ行くことよりも別の事にあった。
*
次の日、フレム達はソスナの村を出た。村を出る事に元気になった村人達は惜しむものが多かったがそれでもフレム達の旅立ちを応援していた。
村を出る直前、ノーラが見送りに来た。
「皆さん、本当にありがとうございました。」
「いえ、僕達はただやれる事をしただけです。」
感謝を述べたノーラにグレスは当たり前のことだと返す。それに笑みを漏らしたノーラは少し言いづらそうに言う。
「あの、皆さんはその、『七賢聖』なんですよね。」
「えぇ、そうです。」
真っ直ぐ返したグレスにノーラは言うかどうか迷った後、決心した様にグレスを見上げた。
「グレスさん。『人は、神には負けません』よね。」
「勿論です。」
グレスは力強く頷く。それにノーラは安心した様な笑みを浮かべた。
ノーラと別れ、村を出たフレム達は次にどこへ行くかを話していた。
「次はどこに行くつもりなんだ?」
シデンに尋ねられたフレムは少し考えてから遠くを見て言った。
「そうだな。次はルネの村に行こう。」
『ルネ⁉︎』
「ちょっと待てよ、ルネってルナミス王国の最南端の村じゃねぇか!なんでそんな真反対の場所なんだよ。」
フレムの言葉に全員が驚いた。その心情はシデンが代わりに言ってくれたが今すぐにでもフレムに抗議をしそうになるのをなんとか留めていた。そんな彼らの気配を感じながらも、フレムの返答は曖昧だった。
「ちょっと、気になることがあってな。」
「気になること?」
首を傾げるサンラ達はフレムが何も言わない事を察したのかため息をこぼし、言われたままに進路を南へと向けた。
目指すはルナミス王国最南端。
*
「ふふっ、面白いなあ。」
どこかの場所で男が笑っていた。金色をした癖のある長い髪を持ち、両手に腕輪をはめている男は目の前にある泉に手をかざす。すると泉にソスナの村が映る。
「まさか僕が仕掛けた神気を破る人間が現れるなんてね。」
楽しげにそう言う男。自身の仕掛けを破られたにもかかわらず、悔しがることも怒ることもしない。ただ笑うだけの男に後ろから声がかかった。
「ゼムリア」
後ろに現れた別の男にゼムリアと呼ばれた男は振り返る。泉にはもうソスナの村は写っていなかった。
「あぁ、今行くよ。」
そう言って自身を待つ男の元へ歩いて行く。その先には三人の男女がいた。
続く
そして演奏を終えると村人達は盛大な拍手を送った。
*
フレム達が片付けを終えた時ノーラが駆け寄って来た。それに気づいたフレム達はノーラを笑顔で迎えた。
「こんにちは皆さん。」
「おう。今日も元気そうだな。」
「はい。母も元のように元気です。最近は前よりも元気なくらいです。」
「そうですか。それは良かったです。」
「本当にありがとうございました。」
ノーラが笑顔で話すのを聞いてグレスも笑みを返した。ノーラはグレスの事に少し見惚れており、後ろでシデンがニヤニヤと笑っていた。見咎めたグレスが睨み付けると冷や汗を流して笑うのをやめた。
赤い顔をなんとか冷ましたノーラは思い出したようにグレス達に尋ねた。
「そ、そう言えば皆さんは今日はこの後どうするんですか?」
それにグレスはフレムの方に振り向いた。視線を受けたフレムは少し考えて言った。
「そうだな、俺たちは今日も村の散策かな。」
「今日もなんですか?」
「あぁ。」
フレムの言葉にノーラは驚いた。最近のフレム達は演奏を終えると村の中を歩いて回っていた。何度も同じ場所を行ったり来たりするフレム達はいつも顔をしかめていた。
ノーラはグレス達と一緒に行こうかと考えたが、何かあるのだろうと思い言わなかった。その後ノーラは「明日も頑張って」と言って帰っていった。
*
ノーラが帰った後、フレム達は馬車の留守番組を残して村を散策しに行った。今日はフレムとミゾレのペアが北側を、サンラとルナンのペアが南側を回っていた。留守番にはアース・シデン・グレスが残った。
村を回る中、フレム達は村の様子がおかしいことに気付いていた。
「やっぱりおかしいな。」
「えぇ。いくら神が攻めて来ているとは言え村に活気がなさ過ぎます。」
村の人達は皆どこか疲れた様子が見られた。誰の顔にも暗い影が差し村全体に活気が無かった。それはサンラ達の方も同じだった。
「やっぱりいつ見ても元気が無いわね。」
「あぁ。それに、薄っすらとだがこの村を包んでんのはおそらく『神気』だろうな。」
「だね。」
サンラの言葉に頷いたルナンは空を睨んだ。同じようにサンラも空を、いや村を包む神気を睨んだ。村人達は彼らが何を見ているのか分からなかった。少しの間神気を睨んでいた二人は再び村の中を歩き出した。
*
夜。馬車の中でフレム達はそれぞれが掴んだ情報を話し合った。
「今のところ他の村に先日のようなことはないそうだ。」
「それって前の神の一人が降りて来たって事件から何も起きてないのか?」
「あぁ。他の神が降りて来たってこともないそうだ。」
その事には全員眉を顰めた。フレム達が前の村を出るきっかけとなった事件。それ以降神が降りて来たという事がなかったという事にフレム達は不審に思った。だが今はそのことについて一度おいて置くことにした。今はまずこの村のことが重要だった。
「気付いていると思うけど、この村に活気がない理由は村を包む『神気』のせいよ。」
サンラの言葉にフレム達は顔をしかめた。
『神気』とは神が持つ力のことだ。神にはそれぞれ司るものがある。一人一人が力を持ち、その力を行使するためのものが神気である。また『神の使い-メザーゴ』を形作るのもこの力である。
今この神気が村に影響を及ぼしていた。
「やはり、大地神の神気か。」
「えぇ。ノーラさんの家にあったものより弱いですが、それでも体に影響がある程度には濃いものです。」
尋ねたアースにミゾレが答えた。全員がその言葉に顔をしかめた。
先日、ノーラの母親がかかっていた原因不明の病。その正体は彼女の家の畑に染み込んでいた神気が原因だった。
フレムが顔を上げてシデンとアースの方を向いた。
「お前達はもう良いのか?大量の聖気を使っただろう。」
「平気平気。今まで休んでいたのとグレスのおかげでもうバッチシ!」
笑顔で答えたシデン。その横でアースも頷いていた。それを聞いてフレムは内心安堵の息を吐いた。
実は三人が今日留守番をしていた事には理由があった。先日ノーラの母親の病気を治した後、グレスがアースとシデンにあることを頼んでいた。それは畑に染み込んだ神気を払うことだった。シデンがまず自身の聖気を流し込み神気を相殺した。雷の聖気によって荒れた畑をアースが岩の聖気を流し込み整えた。だが強引な方法を使った二人は大量の聖気を消費した為疲労が激しく動くことさえ難しくなる程だった。
その後、一晩休んだことで動けるようになった二人だったが、無理は禁物と言われ留守番をしていたのだ。その間にグレスの聖気によって回復していたのだ。
二人の様子がもう良いことにグレスも頷いて同意した。フレム達は安堵した。
「良かった。いっつも俺に無茶するなって言う癖に、アースもシデンも無茶するんだから。」
「そうですね。無茶の度合いはともかく、二人とも今回は少しやり過ぎです。」
「少し反省してなさい。」
フレム・ミゾレ・サンラの言葉にアースとシデンは何も言えなかった。反省する二人にグレスが助け舟を出した。
「ほら皆さん。アースもシデンも十分反省していますから、もう良いでしょう。今はこの村のこともありますし。」
「そうだ。これ以上は話が進まねえ。」
グレスとルナンのの言葉に渋々引き下がった三人だが、まだ何か言いたそうにしていた。だが、今は村の事だと頭を切り替えた。
村全体を包んでいる神気を取り除くためにはノーラの家でやったような力技は出来ない。そんな事をすれば村人達が感電してしまうからだ。しかし生半可なものでは神気を完全に払うことは出来ないためグレス達はどうすれば良いかと悩んでいた。
「俺達がこの村の神気を払う。」
そう言ったのはシデンだ。隣にいるアースも同意見だった。だがそれには全員が反対した。
「ダメだ。前と同じ方法を取れば村人に被害が出る。第一お前達は病み上がりだ。そんな無茶をさせられるか。」
「ならどうすりゃ良いんだよ。」
「それを今考えているんでしょ。あんたは少し落ち着きなよ。」
フレムに反対されてシデンは怒鳴るがサンラに呆れた声で宥められた。シデンも危険な方法だと分かっているのか気持ちを落つけようとする。
隣にいたアースが何かを言おうとするが、言葉にする前にルナンに遮られた。
「馬鹿な事考えてんなよアース。たとえお前の聖気が岩だろうと、村一つ分の聖気を払うなんて無茶やらせる訳ねえだろ。」
「だが、」
「‘‘だが’’じゃねえ。分かってんだろ、お前一人でできる訳ねえって。俺達だってやれるんだ。もっと頼りやがれ。」
「…悪い。」
ルナンの言葉にそれでも何かを言おうとしたアースだがルナンは何も言わせなかった。ルナンの正論にアースは顔を俯けた。アースから顔を背けたルナンは持て余した怒りから舌打ちを漏らす。
二人に無茶をさせたくないルナン達だが、何か方法がなければ二人もしくはアース一人が無茶をしてしまう。
焦りが募る中、フレムがある提案をした。
*
フレム達は村のはずれに来ていた。その中でもフレムとミゾレ、グレスの三人だけは自身の武器を持っていた。フレムとミゾレが前に出ており、後ろの方にグレス達が控えていた。
「よっし、やるか。」
「…本当に無茶しねえんだよな。」
やる気満々のフレムにシデンが不安そうに言った。それにフレムは振り返り、呆れたように返した。
「だからしないって!何度目だよその質問は。ミゾレもなんか言ってくれよ。」
「フレムが無茶をするのはいつもの事ですが、今回はそこまでの無茶はしません。それは保証します。」
フレムは隣のミゾレに助けを求めるが、ミゾレはバッサリと切り捨てるように言った。その言葉にフレムは顔をひきつらせる。信用されていない事にフレムは肩を落として落ち込んだ。だが、シデンはミゾレが保証した事で納得し引き下がった。
「まあ、それは今は置いとくとして。」
気持ちを切り替えたフレムは腰の剣を抜き、村の上空に剣先を向けた。ミゾレも同じように弓を構える。二人は自身の武器に聖気を纏わせた。
「やるぞ。」
「はい。」
フレムは炎を纏わせた剣を一閃し、ミゾレは氷の矢を放った。二つの力が村の上空に達した時ぶつかり合い、弾けた。二つの力は互いに相殺しあい、村に飴を降らした。聖気を含む雨は村に染み込んだ大地の神気を流していく。全ての神気が流れ消滅した頃、雨が止んだ。
頃合いを見てグレスが腰の細剣を抜き聖気を纏わせる。風を纏った細剣を横薙ぎに一閃する。聖気を含む風は村の中を通り抜けて行く。そして神気によって弱っていた村人達も活力を取り戻していった。
*
武器を収めたフレム達は馬車へ戻ろうとしていた。その時シデンが昨夜のことを思い出していた。
「フレムが昨日『提案がある』とかいった時はどんな無茶を言い出すかと思ったぜ。」
「そのことはもう良いだろ。俺もミゾレもそこまで聖気を使ってないんだ。流石に勘弁してくれ。」
フレムは耳にタコだというように根を上げた。彼の後ろにいたグレス達は苦笑していた。
「そう思っているのならこれからは無茶をしないで下さい。」
「あ~、それはなあ。」
グレスの言葉にフレムは曖昧に返す。そんな彼に仲間達は揃ってため息を零した。
「全く、心配するこっちの身にもなりなさいよ。」
「悪いって。でも仕方ないだろ、体が勝手に動くんだから。」
サンラの言葉に申し訳なさそうに返す。だが止めようとする気配は一向に無い。何をいっても無駄だと思ったのかそれ以上はもう何も言わなかった。その一瞬だけフレムは表情を消して目を細めたが誰も気付かなかった。
(あの神気の気配は、一体…)
彼らがもう少しで広場に戻ろうとした時、空が一瞬だけ白く光った。
空からメザーゴ達が降りてくる。メザーゴ達はライトニング・バンを村に向かって放つ。村を壊して行くメザーゴ達に村人達は逃げ惑った。
「!こんな時に。」
「お前達は馬車へ行け。俺達で食い止める。」
「っ、」
メザーゴ達を見たシデン達は今武器を持っていない事をもどかしく思った。それをフレムが馬車へ取りに行くよう促す。一瞬だけ戸惑うシデン達だが、武器がなければ何もできないため、思い留まり馬車へ向かう。
「…無茶だけはするなよ。」
「あぁ。」
そう言って、フレム達は二手に分かれた。
メザーゴ達は広場とは反対の方向に向かって行く。フレム達はメザーゴを追いかけた。新たに光弾を放とうとした時、フレムが剣を振るい防ぐ。目の前に立ちふさがるフレム達にメザーゴ達は標的を村からフレム達に切り替える。メザーゴ達を警戒しながらもフレム達はいつもとは違うことに顔を強張らせた。
「今回は少し量が多いですね。」
「あぁ。いつもならこれの半分くらいだからな。それに、」
グレスの言葉に同意しつつも、フレムは何かを警戒していた。隣にいるミゾレがメザーゴの大群を見て何かを探す。
「恐らく、この村に仕掛けられていた神気が破られたことに神が気付いたのでしょう。居ました。」
そう言ったミゾレは大群のある一点に目を止める。一体のメザーゴを睨むように見る。
「バーリエント体・ランドです。」
「てことは、ゼムリアか。」
ミゾレの言葉にフレム達の空気が鋭くなる。ミゾレと同じように『ランド』と呼ばれた体に黄色い線が入ったメザーゴを睨みつける。
『バーリエント体』とはメザーゴの強化体のことだ。メザーゴは元々光の神気によって形作られているが、バーリエント体には光の神気とは別に他の神の神気が加えられている。そのため通常のメザーゴよりも力もスピードも格段に上がっているのだ。そして神が持つ神気の違いがバーリエント体にも現れる。神によってバーリエント体が持つ能力が変わってくるのだ。『ランド』とはその中でも大地神・ゼムリアの神気を加えられたものだ。その能力は大地の力を使うことが出来る。
睨み合いが続く中、先に動いたのはメザーゴ達だった。一斉に光弾を放つがフレム達は全てかわし、バラバラに分かれた。メザーゴ達は何度も光弾を放つがどれも当たることはなかった。フレムとグレスは剣に聖気を纏わせメザーゴ達を斬り倒していく。メザーゴ達はフレムとグレスに攻撃を集中させた。その隙を狙い、ミゾレがランドに向けて矢を構えた時、ランドが動いた。
「レインズ・ロック」
ランドは片手を頭上に掲げた。すると上空から石飛礫が降り注がれる。フレム達は姿勢を低くしながらギリギリ避けて行くが、攻撃に転じることは出来なかった。
「くっ、大地神の神気で強化されているだけはある。他のやつより数倍手強い。」
「えぇ。それにミゾレはともかく、僕達では相性が悪すぎます。シデン達が来るまで耐えるしかありません。」
前後左右に降り注ぐ石飛礫は一つ一つの威力が強く、当たれば大怪我だ。そんな状況を覆したくとも属性が炎と風であるフレムとグレスではランドと相性が悪い。三人の中で唯一相性のいいミゾレは弓を引くために動きを止めなくてはならず標的にされてしまう為弓を構えることができなかった。
フレムとグレスがフォローに回ろうとしてもランドの後ろにいるメザーゴ達によって妨害される。
防戦一方のその時ようやく彼らが駆け付けた。
「伏せろ。」
後ろから聞こえた声にフレム達は従い身を屈めた。迫る石飛礫は頭上を通過したものによって全て弾かれた。
立ち上がったフレム達は後ろを振り返り笑みを漏らした。
「シデン、皆!」
振り返った先にはそれぞれの武器を持つシデン達が居た。その中でシデンだけは銃を構えていた。先ほど石飛礫を防いだのはシデンの銃によって弾かれたからだ。
シデン達はフレム達の元に駆け寄った。
「大丈夫か。」
「平気だ。そっちこそ病み上がりのくせに無茶すんなよ。」
「へっ、お前に言われたかないな。」
アースの問いにフレムが笑顔で答える。それにシデンが皮肉って返す。だがフレムの様子を見て嘘ではないと確信したアース達は内心で安堵した。
そしてメザーゴ達に向き直ると、ランドを見て視線を鋭くさせた。
「バーリエント体か、厄介だな。」
「あぁ。ルナンとアースはミゾレの補佐をしてくれ。ミゾレはランドを頼む。」
「分かりました。」
ルナンの言葉に頷いたフレムは三人に指示を飛ばす。頷いたのを確認し、フレムは改めて剣を構えた。
「俺たちは他のメザーゴ達を倒す。行くぞ!」
『了解』
アースとルナンがミゾレの前を固め、フレム達がメザーゴ達に向かって飛び出した。
*
「お前達の相手はこっちだ。」
そう言ってフレムは剣を振るう。炎の聖気を纏う剣に薙ぎ払われて光のカケラとなって消滅するメザーゴ達。
「はあ。」
フレムの攻撃に追い打ちをかけるように風の聖気を纏わせた細剣を持つグレスは残像が出来る程の素早い突きを放つ。避けることもできず全ての突きを受けたメザーゴは光のカケラとなって消滅する。
「ふっ、くぅ。」
「いつもより動きが悪いよ。やっぱりまだ安静にしてたほうがよかったんじゃない?」
背中合わせで戦うシデンとサンラだが、いつもより動けていないシデンにサンラは茶化すように言った。それに額に青筋を浮かべたシデンは目の前の二体に蹴りを叩き込むと素早く両手に持つ銃で胸を撃ち抜く。
「ンなわけあるか。」
光のカケラとなって消滅して行くのを見ること無く捨て台詞のような言葉を残して別の相手に向かっていった。
「あちゃー、地雷踏んじゃったか。…でも、本当に完治しているようでよかったよ。」
苦笑を零すサンラだがシデンの後ろ姿を目を細めて見ていた。そこへ近付いてきたメザーゴに回し蹴りを放ち、正面に向き直った。両手に持つ短剣を構えて次の相手へ狙いを付ける。
フレム達が次々とメザーゴ達を倒して行き、残りあとわずかとなった時、ようやくそれは放たれた。
「グレイザード」
ミゾレの足元に青色の魔法陣が現れた。彼女が作り出した氷の矢が放たれる。矢が通り過ぎたところが凍り付いて行く。そして矢はランドの胸を貫き、体を氷が覆う。それはランドだけでなく、周りにいたメザーゴ達も共に凍り付いた。
次の瞬間、ランドとメザーゴを覆った氷は粉々に砕け散った。
*
全てのメザーゴを倒し終えたフレム達は引きを納めて一箇所に集まった。
「大丈夫か、ミゾレ。」
「っ、えぇ。」
肩で息をするミゾレには疲労が見えた。サンラがミゾレに近寄り、肩を貸す。
「疲れてるんでしょ、掴まりなよ。」
「ありがとうサンラ。」
サンラに寄りかかったミゾレの目はフレムに向いていた。ミゾレだけではない。サンラ達も真剣な顔をしてフレムを見ていた。全員の意を汲み取ってフレムが言う。
「明日、この村を発つぞ。」
その言葉に誰も否を言わなかった。彼らの意識は次の村へ行くことよりも別の事にあった。
*
次の日、フレム達はソスナの村を出た。村を出る事に元気になった村人達は惜しむものが多かったがそれでもフレム達の旅立ちを応援していた。
村を出る直前、ノーラが見送りに来た。
「皆さん、本当にありがとうございました。」
「いえ、僕達はただやれる事をしただけです。」
感謝を述べたノーラにグレスは当たり前のことだと返す。それに笑みを漏らしたノーラは少し言いづらそうに言う。
「あの、皆さんはその、『七賢聖』なんですよね。」
「えぇ、そうです。」
真っ直ぐ返したグレスにノーラは言うかどうか迷った後、決心した様にグレスを見上げた。
「グレスさん。『人は、神には負けません』よね。」
「勿論です。」
グレスは力強く頷く。それにノーラは安心した様な笑みを浮かべた。
ノーラと別れ、村を出たフレム達は次にどこへ行くかを話していた。
「次はどこに行くつもりなんだ?」
シデンに尋ねられたフレムは少し考えてから遠くを見て言った。
「そうだな。次はルネの村に行こう。」
『ルネ⁉︎』
「ちょっと待てよ、ルネってルナミス王国の最南端の村じゃねぇか!なんでそんな真反対の場所なんだよ。」
フレムの言葉に全員が驚いた。その心情はシデンが代わりに言ってくれたが今すぐにでもフレムに抗議をしそうになるのをなんとか留めていた。そんな彼らの気配を感じながらも、フレムの返答は曖昧だった。
「ちょっと、気になることがあってな。」
「気になること?」
首を傾げるサンラ達はフレムが何も言わない事を察したのかため息をこぼし、言われたままに進路を南へと向けた。
目指すはルナミス王国最南端。
*
「ふふっ、面白いなあ。」
どこかの場所で男が笑っていた。金色をした癖のある長い髪を持ち、両手に腕輪をはめている男は目の前にある泉に手をかざす。すると泉にソスナの村が映る。
「まさか僕が仕掛けた神気を破る人間が現れるなんてね。」
楽しげにそう言う男。自身の仕掛けを破られたにもかかわらず、悔しがることも怒ることもしない。ただ笑うだけの男に後ろから声がかかった。
「ゼムリア」
後ろに現れた別の男にゼムリアと呼ばれた男は振り返る。泉にはもうソスナの村は写っていなかった。
「あぁ、今行くよ。」
そう言って自身を待つ男の元へ歩いて行く。その先には三人の男女がいた。
続く
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
繰り返しのその先は
みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、
私は悪女と呼ばれるようになった。
私が声を上げると、彼女は涙を流す。
そのたびに私の居場所はなくなっていく。
そして、とうとう命を落とした。
そう、死んでしまったはずだった。
なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。
婚約が決まったあの日の朝に。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる