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第二話 緑の風の怒り
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ロザの村を出た七人は北に向かった。彼らは次の村・ソスナに向かった。ソスナは山の中腹程にある村だ。
ソスナの村についた彼らはまずはじめに村の広場に向かった。広場の端に馬車を止めると、彼らはそれぞれ楽器を用意しはじめた。村人達は珍しい旅人達に興味を持ち
何をしようとしているのか見て居た。それぞれの楽器を持ち、準備の整ったフレム達は目配せをすると演奏を始めた彼らの奏でる音楽に村人達は聞き惚れた。次第に彼らの周りに人が集まった。
一曲目の演奏を終えると立ち上がって一礼した。村人達は彼らに拍手を送った。フレムが一歩前に出た。
「ソスナの村の人たち。俺たちの演奏を聴いてくれてありがとう。俺たちは演奏をしながら旅をしている。この村でも少しの間だが、俺たちの演奏を聴いて1日を元気に過ごして欲しいと思う。その思いを込めて、あと数曲聴いてください。」
フレムのスピーチに村人達は先程よりも盛大な拍手を送った。フレム達は早速と二曲目を演奏した。彼らが奏でる音楽に村人達は元気を貰ったように表情が明るくなっていった。
その後、何曲か演奏し、最後に礼をすると村人達から拍手と歓迎の言葉を貰った。
*
演奏を終えたフレム達は楽器を片付け終え、それぞれ村を回ろうということになった。
「さて、行くとしますか。」
フレムが張り切った声を上げた。その向かい側でルナンが腕を組んで言った。
「俺は残るぞ。お前らが出てる間、馬車の留守番をしといてやるよ。」
「なら、私とミゾレが買い出しに行ってくるよ。」
ルナンに続きサンラが言った。サンラの言葉に隣でミゾレも頷いていた。女性二人の申し出にフレムも了承した。
「頼んだ。よし、俺たちは村を回るか。」
「そうですね。なら、フレムとシデンは村の東側を回ってください。僕とアースで西側を回ります。」
「分かった。」
「あぁ。」
グレスの提案にシデンとアースも頷いた。彼らは夕方には馬車に戻るという事でそれぞれ別れた。
「えっと、」
「まず先に手入れ道具を買いましょう。消耗はあまりしていませんが、あるに越したことはありませんから。」
どこから回ろうか迷っていたサンラにミゾレが提案した。それにサンラも同意した。
「そうだね。私たちは大丈夫でも、使い方が荒いシデンなんかいつ無くなるか分かったもんじゃないもんね。」
茶化すように笑って言ったサンラの言葉に、ミゾレも笑った。そして二人は目的の店を探して歩いた。
同じ頃、噂をされたシデンはくしゃみをしていた。
「ふぇっくしょん!」
「おいおい、お前が風邪なんて珍しいな。」
茶化すフレムにシデンはほおを膨らませて反論した。
「ちげぇよ。誰かが噂したんだ。」
「どうせサンラあたりが『お前の道具の使い方が荒い!』とか言ってんだろ。」
「ぐっ。反論できねえ。」
フレムの言葉に反論できず、シデンは言葉に詰まった。それにフレムは吹き出した。笑うフレムにシデンはそっぽを向くがなんとか笑いを収めたフレムに宥められた。
「悪かったよ。ほら、早くしねぇと日が暮れちまうぞ。」
「分かったよ。そっちこそちゃんと情報掴んでこいよ。」
「任せろ。」
二人は村を歩きながら時折村人達と話してはさり気無く村の様子や神の侵攻具合について情報を集めていた。
同じ頃、アースとグレスも村の中を歩いていた。
「どうやら、この村はあまり神の侵攻を受けていないようですね。」
「あぁ、そのようだ。」
二人が別の村人に話を聞きに行こうとした時だった。ろじの曲がり道に差し掛かった時、奥から女性が飛び出してきた。女性は目の前にグレス達がいることに気付かず、グレスとぶつかってしまった。
「きゃあ。」
「!おっと。」
グレスはぶつかってきた女性を受け止めた。女性はぶつかった時に瞑っていた目を開き、グレスを見上げた。
「大丈夫ですか?」
グレスが女性の顔を覗き込んで尋ねた。女性はグレスに見とれていたが、そう尋ねられはっとしたように体を起こした。
「ご、ごめんなさい。」
「いえ、お怪我はありませんか?」
「は、はい。」
女性は起き上がってすぐグレスに謝った。グレスはそれを気にすることなく女性の心配をした。女性はそれに返事を返すが、何かを気にするように後ろを振り向いた。それに気付いたグレスとアースは顔を見合わせ頷き合うと、グレスが女性の手を引いて駆け出した。
「こっちです。」
腕を引かれた女性は驚いたが、引かれるままにあの場所を離れた。
三人が見えなくなった頃、先程までいた場所で数人の男達が何かを探すようにしていた。
*
先程の場所からだいぶ離れたところまできたグレス達は漸く足を止めた。後ろを振り返ってグレスが言った。
「ここまで来れば、追手も来ないでしょう。」
「あぁ。」
グレスとアースがそう話すのを聞いて、女性は礼を言った。
「ありがとうございます。すみません、助かりました。」
女性の方を向いたグレスは彼女に微笑みかけた。グレスの笑みに女性はまたもや見ほれた。
「いえ。僕はグレス。こっちは仲間のアースです。失礼ですが、お名前を伺っても?」
「はっ。す、すみません。助けていただいたのに名前も名乗らず。私はノーラと言います。」
グレスが自己紹介をすると隣でアースも頷いた。それに慌てたように女性-ノーラも名乗った。ノーラに向かってグレスは真剣な表情をして尋ねた。
「ノーラさん、あなたは一体何に追われていたんですか?」
グレスの問いにノーラは俯いてしまった。ノーラの様子に良くないことだと確信を持ったグレス達は顔を見合わせた。ノーラは俯いたままポツポツと話し始めた。
「私を追っていたのは、この村にいる賢人達です。」
その言葉に、二人は目を細めた。鋭い空気を纏わせた二人は横目でお互いを見合い、同じ考えであると確かめた。グレスがノーラに気取られない様に質問をした。
「どういう事ですか?」
「…。実は、亡くなった私の父が賢人達にお金を借りていたそうなんです。父が亡くなった後、彼らが貸していた分のお金を返せと家を訪ねてきました。借りていた分は家にあるほとんどのお金を渡す事でなんとか払うことはできたんですが、彼らはそれでは足りないと言い出し、貸していた利子の分だとさらにお金を要求してきました。彼らに家にあるお金はもう残っていないと言えば、払えない分はお前の体で払えと迫ってきて。」
「なるほど。それで彼らから逃げ出してきたわけですね。」
グレスの言葉にノーラは堪え切れなくなった涙を流しながら頷いた。話を聞いた二人は取り敢えず、ノーラを自分たちの馬車まで連れて行くことにした。そこまで迷惑はかけられないと遠慮するノーラに今家に帰るのは危ないと言う。グレス達の言葉にノーラも納得し、彼らについていった。
グレス達がノーラを連れて馬車に戻った時、既にフレムやミゾレ達もそれぞれの用事を済ませ戻っていた。グレス達が帰ってきたことに最初に気付いたのはシデンだった。
「おっ、グレスとアースが女の人連れてきたぞ。」
そういって茶化すシデンに、グレスは額に青筋が浮かんだ。アースはなんの反応もしなかった。
「あの頭の固さは世界一と言えるグレスといっつも無表情でいるアースが女の人連れてくるなんて、明日は神が降臨するのか?って、いってぇ⁉︎」
「いい加減口を閉じなさいシデン。彼女も困っているでしょう。」
なおも茶化し続けるシデンにグレスは拳骨を落とした。頭を抑えるシデンはグレスをこれ以上怒らせるのはまずいと思い、まだ戸惑っている彼女の方に向き直り謝った。
「悪かったな、からかっちまって。俺はシデン。向こうの赤髪の方がフレムで、黒髪の方がルナンってんだ。」
「は、はじめまして、ノーラと言います。」
シデンが名乗ったのに合わせ、ノーラも緊張したまま名を言った。そこにミゾレとサンラも近寄った。
「あんたノーラって言うのか。私はサンラ。こっちはミゾレだよ。」
「はじめましてノーラさん。」
「こちらこそ、はじめまして。」
ミゾレが深く礼をすると、ノーラも同じ様に返した。女性二人の登場で息をつけたノーラはシデンやサンラ達と楽しそうに会話していた。
その間にグレスから離れたアースがフレムに彼女を自分たちのところに少しの間置いておきたいと話す。何かあると察したフレムと彼の隣で話を聞いていたルナンは視線を鋭くした。
「訳は後で話してくれるか。」
フレムの問いにアースは一つ頷いた。そしてフレムは彼女をここに置いておくことを了承した。
その日の夜、彼女の事情を聞いたフレム達はむらの賢人達にのことに怒っていた。実はフレムとシデンが集めた情報でも賢人達のことについてあまり良い噂を聞いていなかった。ノーラの話を聞いたシデンは床に拳を打ち付けた。
「そいつら、一度痛い目みねぇと分からねぇみたいだな。」
「そうみたいだね。」
シデンの言葉にサンラが同意した。この二人は七人の中でも特に怒っていた。彼らは今からでも飛び出していきそうだった。そんな二人を抑えたのは、満面の笑みを浮かべたルナンだった。
「どこに行こうとしているんだ。」
「どこってあいつらのとこ…、いや、やっぱなんでもないです。」
立ち上がって馬車の出入り口に一歩踏み出した足を、シデンは顔を青くさせて引っ込めた。同じくルナンを見たフレム達も彼から少し体を引いていた。普段顔をしかめたままでいるルナンが笑みを浮かべている時は、よほど頭にきている時だ。ルナンの笑みを初めて見たノーラは顔を青くさせて震えていた。
そんな状況を見かねてフレムがとにかくと言った。
「この村にいる賢人達を締め上げるのは明日の演奏が終わってからだ。いいな。」
『了解。』
「ノーラさんもそれで良いか?」
「は、はい。何から何まで本当にありがとうございます。」
フレムの言葉にシデン達も頷いた。振り返ったフレムの言葉にノーラは深く頭を下げた。そしてグレス達にも礼をした。
明日はノーラはグレスと共に行動することにして、その日はもう休んだ。
*
翌日、今日の演奏も成功で終えた彼らは楽器などを片付け終えると、村の賢人達を探すために別れた。今日の馬車の留守番はミゾレとアースだ。元々はミゾレだけだったのだが、女性一人では危ないとアースが共に残ったのだ。そしてフレムがルナンと、サンラがシデンと共に行動していた。
「人として最低なことしやがったんだ。絶対に締め上げてやる。」
「締め上げるだけじゃ生温いよ。生きていることを後悔させるくらいはしないとね。」
サンラとシデンの二人は昨夜引き止められた分の怒りも上乗せして怒っていた。二人が村の賢人達を見つけ出した途端、メザーゴを倒す勢いで 襲い掛かりそうであった。二人を見た村人達は二人の纏う空気を感じて二人を避けていた。彼らの話を聞いた村人達は内心賢人達に合掌していた。
同じ頃、フレムはルナンをなだめながら村を歩いていた。ルナンも昨夜と同じく怖いくらいの満面の笑みを浮かべていた。
「賢人達を見つけたからって、いきなり襲いかかるなよ。」
「シデンやサンラじゃないんだからやらねぇよ。まぁ、見つけて捕まえた後、何をするかは分からねぇがな。」
「どうどう。」
フレムの言葉に顔をしかめたが、すぐに怖いくらいの笑みを浮かべた。フレムは苦笑しながらなだめる。何も知らない村人達は村を歩く彼らを見て見惚れているものもいたが、会話が聞こえたものは狙われているのが自分ではないとわかっていながらも顔を青ざめて震えた。
同じ頃、グレスとノーラはノーラの母親が心配という事で彼女の家に向かっていた。道中グレスが今までの旅のことやフレム達のことを話し、それをノーラは笑って聞いていた。
「あははっ、本当に仲が良いんですね。」
「まあ、長く一緒にいましたから。」
笑顔でいるノーラを見て、グレスも安心していた。今度は話を聞くだけだったノーラが質問した。
「あの、気になったんですけど、グレスさん達は家族の方はどうしているんですか?」
「‼︎」
何気無く聞いた質問だが、グレスは息を詰め思い詰めるように顔をうつむかせた。それを見たノーラは不躾なことを聞いてしまったと謝った。
「ごめんなさい。」
「いえ、ノーラさんは悪くありませんよ。」
そう言ったグレスだが、未だ表情は暗いままだった。二人の間に歩く音以外がなくなった時、先に沈黙を破ったのはグレスだった。
「ノーラさんはとても家族思いなんですね。」
「そんなことないですよ。」
「いいえ。自分が狙われているのに母親のことを心配しているんです。あなたはとても優しい人です。」
グレスにそう言われて顔を赤くするノーラ。だが母親のことを思うと心配で表情を曇らせた。
「実は、父がお金を借りていたのは、母の病気のせいなんです。」
ノーラの言葉にグレスは表情を真剣なものにした。顔をうつ向けたままノーラは言葉を続けた。
「私の家は農家なんです。でも、そこまで広い土地を持ってはいません。畑で出来た少しの作物を村で売って得たお金で生活していました。畑仕事は元々父と母の二人がやっていました。私も小さい頃から二人の手伝いをしていて、作物を売りに行くときもついて行っていました。ですが、先月父と作物を売り終えて帰った時、畑で母が倒れていたんです。医者に診せましたが原因はわかりませんでした。そして、そんな母を治すために働きすぎて父は亡くなりました。」
そう言って黙り込んでしまったノーラ。話を聞いたグレスは母親の病気のことを不審に思った。そのことをノーラに話そうとしたが、彼女の家が近くなったのを見て、ノーラは駆け出してしまった。グレスも後に続くように駆け出すが、彼女は急に家ではなく近くの路地に入ってしまった。
ノーラが後少しで家の扉に手がかかるところまできた時、横から伸ばされた手によって路地に引きずり込まれてしまった。ノーラは悲鳴を上げようとするが、腕を引かれたのとは別の腕によって口を塞がれてしまった。
「‼︎」
「やっと見つけたぜ。」
「ほら、大人しくしやがれ。」
自分を捕らえたのが件の賢人であることに気付いたノーラは逃げようと暴れるが、腕を抑えられて逃げることはできなかった。もがくノーラを舌なめずりして見ていた賢人達が彼女に襲いかかろうとした時、誰かが賢人達を蹴り飛ばした。
男達が離れて倒れそうになった時、横から別の誰かによって支えられた。
「大丈夫ですかノーラさん。」
「グレスさん。はい、ありがとうございます。」
顔をあげたノーラが見たのは自分を支えるグレスだった。グレスの向ける笑みにノーラは涙を浮かべて安心したように笑った。グレスはノーラを立たせると自分の後ろに隠すようにして庇うと目の前で倒れている賢人達を見据えた。
「ちくしょう、誰だてめえ!」
「昨日からの村に滞在している旅のもんだよ。」
起き上がった賢人達はノーラを後ろに庇うグレスを睨みつけるが、怯むことなくグレスも睨み返した。グレスの睨みに一瞬だけ怯む賢人達だが、すぐに睨み返し腰の剣を抜きはなった。
グレスの背後にいるノーラはグレスの口調が変わっていることに驚いたが、賢人達が剣を向けてきたことでグレスにしがみつく様にして隠れる。
剣を向ける賢人達を睨むグレス。何も言わない彼を見て怖気付いたと思った賢人達が剣を振るおうとした時だった。
空が一瞬白く光ると空から神の使い-メザーゴが降りてきた。
「神の命により、人間を排除する。」
抑揚のない声でそう言ったメザーゴ達は手のひらを村に向け光弾を放つ。『光の光弾-ライトニング・バン』を放つメザーゴから村人達は逃げて行く。
「ひっ、」
「メ、メザーゴだ!」
メザーゴ達を見た賢人達は村人達と同じ様に逃げ出した。グレスは賢人達に冷ややかな目を向ける。
「クズが。村の賢人が聞いて呆れる。」
「グ、グレスさん。私達も逃げないと。」
ノーラはメザーゴ達から逃げようとグレスの袖を引く。だが、グレスはメザーゴ達を睨んだままその場から動こうとしなかった。その様子に初めは不審に思っていたノーラだったが、何かを悟ったのかグレスの袖から手を離した。グレスから数歩離れるノーラに振り返り真っ直ぐな目を向けた。
「ノーラさん、信じてください。人は神には負けません。」
その言葉にノーラは目を見開いた。グレスは再度メザーゴを見ると彼らがいるところに向かって駆け出していった。その背中をノーラは祈る様に見送った。
*
メザーゴ達が村を破壊していた時、駆けつけたフレム達が侵攻を妨害していた。メザーゴ達はフレム達を先に排除しようとした。迎え撃ったフレム達と乱戦になる。
フレムの聖気である炎を纏った剣が正面のメザーゴを切り捨てた時、後ろから光弾を放とうとする一体を氷の矢が貫いた。光のカケラになって消滅するそれをフレムは横目で見るとすぐに他の一体に向かった。その途中で矢を放ったミゾレに声をかけるのも忘れずに。
「サンキュ、ミゾレ。」
「もう少し周りも注意してください。」
新たな矢を番えるミゾレはフレムに注意するも、苦笑いで返されため息がこぼれた。だがすぐに顔を上げ弓を引く。狙いの先にいたメザーゴを次々に撃ち抜いていく。
別の場所ではシデンとサンラが背中合わせで戦っている。二人とも格闘技を得意とするため乱戦の時はよく背中合わせになることが多い。
「今回は大分数が多いね。」
「ああ。こんだけいると大技使いたくなるぜ。」
「あんたの大技は周りに迷惑なんだからこんなところで使おうとしないでよ。」
そうやって会話をしながらも、目の前にいるメザーゴを殴り、蹴り、時には雷を纏わせた弾を打ち抜き、光を纏わせた短剣で斬り捨てた。抜群のコンビネーションを見せる二人はかすり傷の一つも負うことなく次々とメザーゴを倒していった。
上の二組とは別の場所では、アースが大斧を振るい、大地を震わせる。大斧に巻き込まれたメザーゴは吹っ飛ばされていく。身の丈に似合わぬ大斧を振るうアースにメザーゴは近付くことができなかった。
「相変わらずすごいなお前の斧。」
「ルナンの剣も相変わらずだ。」
アースの斧に近付くのはまずいと思ったメザーゴ達は彼の周りを囲むが、その一角をルナンが双剣で斬り込み崩した。メザーゴの意識がルナンに向いた瞬間、アースが斧を横薙ぎに振るった。吹き飛ばされたメザーゴは光のカケラになって消滅した。
六人が戦う中、ようやくグレスが到着した。それに気付いたフレムは持っていた細剣をグレスに投げた。
「グレス!」
投げられた剣を受け取ったグレスは抜き放つと同時に目の前の一体に突きを数十発叩き込んだ。突きを受けてメザーゴは光のカケラになって消滅した。
「向こうは大丈夫か。」
「ああ。どんな奴等かと思ったが、とんだ最低のクズだった。」
「お前がそこまで言うほどか。」
グレスはフレムと背中合わせになってそう言った。グレスの怒り具合を口調の違いで悟ったフレムは苦笑をこぼした。
グレスが参戦したのを遠目に確認したシデン達。だが、いつもより荒々しい剣技を見てグレスの様子を彼らも悟った。
「やべえ、グレスがブチ切れてる。」
「遅れてきたってことは、件の賢人達と会ったんでしょうね。」
「てことはあいつが起こってる原因ってそいつらの所為かよ。一体何やったらあいつをあそこまで怒らせる様なことになるんだ。」
グレスの怒りにシデンは冷や汗を流し、サンラはグレスをそうさせた賢人達のことに呆れ返っていた。
「あそこまで起こっているなら、すぐにでも大技を使うだろうな。」
「あいつの八つ当たりでメザーゴどもを倒せるのはいいが、巻き込まれるこっちのことを一切考えねぇからな。」
アースとルナンはグレスがいつ大技を出しても巻き込まれない様にするために、メザーゴと戦いながら少しずつ中心から離れていった。
そしてついにグレスが‘‘ソレ’’を使った。
「デザーディフィケーション」
グレスが細剣を頭上に掲げてそう言うと彼の足元に緑色に光る魔法陣が表れると、グレスの周りに大量の竜巻が発生した。竜巻はメザーゴ達を捕らえ、中で粉々に砕いていく。砕かれたメザーゴ達は光のカケラになって消滅していく。竜巻は次々とメザーゴ達を捕らえていく中、フレム達は巻き込まれない様に避難していた。
「やっぱり使ったか。」
「あそこまで怒っていれば、彼がアレを使うのも時間の問題だったでしょうから。」
フレムとミゾレは竜巻に巻き込まれない位置まで避難するとグレスの方を見ていた。肩をすくめるフレムにミゾレは事実を述べた。
「あっぶねぇ。ホントいつも思うが、あいつの大技の方が俺のよりやばい気がするんだけど。」
「よっと。あんたの方が周りへの影響がでかいわよ。特にこんな村の中で使ったら私達より村の人の方が危険よ。」
「グレスはそこまで広範囲には影響が無い。一緒にいる俺たちは別だがな。」
「ほんっと、傍迷惑な大技だよな、アレ。」
シデンとサンラはギリギリで竜巻を避け、アースとルナンと合流した。シデンはグレスの大技の威力に冷や汗を流して言うが、サンラにバッサリと切り捨てられた。それに落ち込むシデンの横でアースが淡々と言う。余計に落ち込んだシデンだが、誰も慰めなかった。ルナンはアースの隣でグレスの大技に顔を歪めて見ていた。
全てのメザーゴが倒されると竜巻は消滅した。大きく息をつき、剣を下ろしたグレスにフレム達は近寄った。フレム達に気付いたグレスは剣を納め、体ごと振り向いた。
「お疲れ様。大丈夫か。」
「えぇ。少し疲労感はありますが、問題ありません。」
フレムの問いにいつもの様子に戻ったグレスは微笑みを向けて答えた。だがすぐに真剣な表情をした。
「疲れているかと思いますが、皆さんに来て欲しいところがあります。」
グレスの言葉に何かあると察したフレム達は頷いた。
グレスの先導で向かったのはノーラの家だった。家の前にはノーラが立っており、グレスの無事な姿を見て安堵の息を漏らした。
「グレスさん、無事でよかった。皆さんも。」
「ノーラさん、少しあなたの母親の様子を見てみたいのですが、よろしいですか?」
「えぇ。どうぞ。」
ノーラに促され、中に入るグレス達。ノーラに案内されて母親がいる部屋に入ったグレス達は全員顔をしかめた。
「これは、」
フレム達がそうこぼす中、グレスはノーラの母親の元に近付いた。彼は母親に向かって片手を突き出すと、手のひらから風が生まれ、母親を包んだ。グレスの行動の意味がわからなかったノーラは何をしているのかとフレム達に尋ねた。
「グレスさんは、一体何をしているんですか?」
「あぁ。もう知っていると思うから俺たちのことは省くが、グレスの持つ聖気は風だ。あいつは自身の聖気を使って君の母親の病気を治しているんだ。」
「母の、」
「そう。あいつの風には治癒能力がある。だから、もう君のお母さんは大丈夫だよ。」
フレムの言葉にノーラは驚いて風を操るグレスを見た。グレスが風を収めると隣にゆっくりとノーラが歩み寄った。ノーラが見守る中、母親が目を覚ましノーラを見た。
「ノー、ラ。」
「お母さん、よかった。よかった。」
目を開けた母親にノーラは泣きながら抱きついた。母親もノーラを抱きしめ返した。二人の様子にベッドから離れたグレスは二人を見ていたアースに小さく何かを話した。それに頷いたアースはシデンを伴って部屋を出て行った。横目でそれを見たフレムは何も言わなかった。
グレス達はノーラ親子にたくさんの礼を言われた。助けてくれた礼をしたいと言う二人だがグレス達は何もいらないと言う。ノーラ親子はそれでは申し訳ないと言い、そこにフレムがある提案をした。
*
次の日、フレム達はいつものように広場で演奏していた。彼らの演奏を見る人たちの中にはノーラ親子の姿も見えた。フレムが二人に行った提案とは彼らの演奏を親子一緒に見に来ることだった。
演奏を見に来た親子の笑顔を見てグレスも笑みを漏らした。
その日の演奏もフレム達は大成功で納めたのであった。
続く
ソスナの村についた彼らはまずはじめに村の広場に向かった。広場の端に馬車を止めると、彼らはそれぞれ楽器を用意しはじめた。村人達は珍しい旅人達に興味を持ち
何をしようとしているのか見て居た。それぞれの楽器を持ち、準備の整ったフレム達は目配せをすると演奏を始めた彼らの奏でる音楽に村人達は聞き惚れた。次第に彼らの周りに人が集まった。
一曲目の演奏を終えると立ち上がって一礼した。村人達は彼らに拍手を送った。フレムが一歩前に出た。
「ソスナの村の人たち。俺たちの演奏を聴いてくれてありがとう。俺たちは演奏をしながら旅をしている。この村でも少しの間だが、俺たちの演奏を聴いて1日を元気に過ごして欲しいと思う。その思いを込めて、あと数曲聴いてください。」
フレムのスピーチに村人達は先程よりも盛大な拍手を送った。フレム達は早速と二曲目を演奏した。彼らが奏でる音楽に村人達は元気を貰ったように表情が明るくなっていった。
その後、何曲か演奏し、最後に礼をすると村人達から拍手と歓迎の言葉を貰った。
*
演奏を終えたフレム達は楽器を片付け終え、それぞれ村を回ろうということになった。
「さて、行くとしますか。」
フレムが張り切った声を上げた。その向かい側でルナンが腕を組んで言った。
「俺は残るぞ。お前らが出てる間、馬車の留守番をしといてやるよ。」
「なら、私とミゾレが買い出しに行ってくるよ。」
ルナンに続きサンラが言った。サンラの言葉に隣でミゾレも頷いていた。女性二人の申し出にフレムも了承した。
「頼んだ。よし、俺たちは村を回るか。」
「そうですね。なら、フレムとシデンは村の東側を回ってください。僕とアースで西側を回ります。」
「分かった。」
「あぁ。」
グレスの提案にシデンとアースも頷いた。彼らは夕方には馬車に戻るという事でそれぞれ別れた。
「えっと、」
「まず先に手入れ道具を買いましょう。消耗はあまりしていませんが、あるに越したことはありませんから。」
どこから回ろうか迷っていたサンラにミゾレが提案した。それにサンラも同意した。
「そうだね。私たちは大丈夫でも、使い方が荒いシデンなんかいつ無くなるか分かったもんじゃないもんね。」
茶化すように笑って言ったサンラの言葉に、ミゾレも笑った。そして二人は目的の店を探して歩いた。
同じ頃、噂をされたシデンはくしゃみをしていた。
「ふぇっくしょん!」
「おいおい、お前が風邪なんて珍しいな。」
茶化すフレムにシデンはほおを膨らませて反論した。
「ちげぇよ。誰かが噂したんだ。」
「どうせサンラあたりが『お前の道具の使い方が荒い!』とか言ってんだろ。」
「ぐっ。反論できねえ。」
フレムの言葉に反論できず、シデンは言葉に詰まった。それにフレムは吹き出した。笑うフレムにシデンはそっぽを向くがなんとか笑いを収めたフレムに宥められた。
「悪かったよ。ほら、早くしねぇと日が暮れちまうぞ。」
「分かったよ。そっちこそちゃんと情報掴んでこいよ。」
「任せろ。」
二人は村を歩きながら時折村人達と話してはさり気無く村の様子や神の侵攻具合について情報を集めていた。
同じ頃、アースとグレスも村の中を歩いていた。
「どうやら、この村はあまり神の侵攻を受けていないようですね。」
「あぁ、そのようだ。」
二人が別の村人に話を聞きに行こうとした時だった。ろじの曲がり道に差し掛かった時、奥から女性が飛び出してきた。女性は目の前にグレス達がいることに気付かず、グレスとぶつかってしまった。
「きゃあ。」
「!おっと。」
グレスはぶつかってきた女性を受け止めた。女性はぶつかった時に瞑っていた目を開き、グレスを見上げた。
「大丈夫ですか?」
グレスが女性の顔を覗き込んで尋ねた。女性はグレスに見とれていたが、そう尋ねられはっとしたように体を起こした。
「ご、ごめんなさい。」
「いえ、お怪我はありませんか?」
「は、はい。」
女性は起き上がってすぐグレスに謝った。グレスはそれを気にすることなく女性の心配をした。女性はそれに返事を返すが、何かを気にするように後ろを振り向いた。それに気付いたグレスとアースは顔を見合わせ頷き合うと、グレスが女性の手を引いて駆け出した。
「こっちです。」
腕を引かれた女性は驚いたが、引かれるままにあの場所を離れた。
三人が見えなくなった頃、先程までいた場所で数人の男達が何かを探すようにしていた。
*
先程の場所からだいぶ離れたところまできたグレス達は漸く足を止めた。後ろを振り返ってグレスが言った。
「ここまで来れば、追手も来ないでしょう。」
「あぁ。」
グレスとアースがそう話すのを聞いて、女性は礼を言った。
「ありがとうございます。すみません、助かりました。」
女性の方を向いたグレスは彼女に微笑みかけた。グレスの笑みに女性はまたもや見ほれた。
「いえ。僕はグレス。こっちは仲間のアースです。失礼ですが、お名前を伺っても?」
「はっ。す、すみません。助けていただいたのに名前も名乗らず。私はノーラと言います。」
グレスが自己紹介をすると隣でアースも頷いた。それに慌てたように女性-ノーラも名乗った。ノーラに向かってグレスは真剣な表情をして尋ねた。
「ノーラさん、あなたは一体何に追われていたんですか?」
グレスの問いにノーラは俯いてしまった。ノーラの様子に良くないことだと確信を持ったグレス達は顔を見合わせた。ノーラは俯いたままポツポツと話し始めた。
「私を追っていたのは、この村にいる賢人達です。」
その言葉に、二人は目を細めた。鋭い空気を纏わせた二人は横目でお互いを見合い、同じ考えであると確かめた。グレスがノーラに気取られない様に質問をした。
「どういう事ですか?」
「…。実は、亡くなった私の父が賢人達にお金を借りていたそうなんです。父が亡くなった後、彼らが貸していた分のお金を返せと家を訪ねてきました。借りていた分は家にあるほとんどのお金を渡す事でなんとか払うことはできたんですが、彼らはそれでは足りないと言い出し、貸していた利子の分だとさらにお金を要求してきました。彼らに家にあるお金はもう残っていないと言えば、払えない分はお前の体で払えと迫ってきて。」
「なるほど。それで彼らから逃げ出してきたわけですね。」
グレスの言葉にノーラは堪え切れなくなった涙を流しながら頷いた。話を聞いた二人は取り敢えず、ノーラを自分たちの馬車まで連れて行くことにした。そこまで迷惑はかけられないと遠慮するノーラに今家に帰るのは危ないと言う。グレス達の言葉にノーラも納得し、彼らについていった。
グレス達がノーラを連れて馬車に戻った時、既にフレムやミゾレ達もそれぞれの用事を済ませ戻っていた。グレス達が帰ってきたことに最初に気付いたのはシデンだった。
「おっ、グレスとアースが女の人連れてきたぞ。」
そういって茶化すシデンに、グレスは額に青筋が浮かんだ。アースはなんの反応もしなかった。
「あの頭の固さは世界一と言えるグレスといっつも無表情でいるアースが女の人連れてくるなんて、明日は神が降臨するのか?って、いってぇ⁉︎」
「いい加減口を閉じなさいシデン。彼女も困っているでしょう。」
なおも茶化し続けるシデンにグレスは拳骨を落とした。頭を抑えるシデンはグレスをこれ以上怒らせるのはまずいと思い、まだ戸惑っている彼女の方に向き直り謝った。
「悪かったな、からかっちまって。俺はシデン。向こうの赤髪の方がフレムで、黒髪の方がルナンってんだ。」
「は、はじめまして、ノーラと言います。」
シデンが名乗ったのに合わせ、ノーラも緊張したまま名を言った。そこにミゾレとサンラも近寄った。
「あんたノーラって言うのか。私はサンラ。こっちはミゾレだよ。」
「はじめましてノーラさん。」
「こちらこそ、はじめまして。」
ミゾレが深く礼をすると、ノーラも同じ様に返した。女性二人の登場で息をつけたノーラはシデンやサンラ達と楽しそうに会話していた。
その間にグレスから離れたアースがフレムに彼女を自分たちのところに少しの間置いておきたいと話す。何かあると察したフレムと彼の隣で話を聞いていたルナンは視線を鋭くした。
「訳は後で話してくれるか。」
フレムの問いにアースは一つ頷いた。そしてフレムは彼女をここに置いておくことを了承した。
その日の夜、彼女の事情を聞いたフレム達はむらの賢人達にのことに怒っていた。実はフレムとシデンが集めた情報でも賢人達のことについてあまり良い噂を聞いていなかった。ノーラの話を聞いたシデンは床に拳を打ち付けた。
「そいつら、一度痛い目みねぇと分からねぇみたいだな。」
「そうみたいだね。」
シデンの言葉にサンラが同意した。この二人は七人の中でも特に怒っていた。彼らは今からでも飛び出していきそうだった。そんな二人を抑えたのは、満面の笑みを浮かべたルナンだった。
「どこに行こうとしているんだ。」
「どこってあいつらのとこ…、いや、やっぱなんでもないです。」
立ち上がって馬車の出入り口に一歩踏み出した足を、シデンは顔を青くさせて引っ込めた。同じくルナンを見たフレム達も彼から少し体を引いていた。普段顔をしかめたままでいるルナンが笑みを浮かべている時は、よほど頭にきている時だ。ルナンの笑みを初めて見たノーラは顔を青くさせて震えていた。
そんな状況を見かねてフレムがとにかくと言った。
「この村にいる賢人達を締め上げるのは明日の演奏が終わってからだ。いいな。」
『了解。』
「ノーラさんもそれで良いか?」
「は、はい。何から何まで本当にありがとうございます。」
フレムの言葉にシデン達も頷いた。振り返ったフレムの言葉にノーラは深く頭を下げた。そしてグレス達にも礼をした。
明日はノーラはグレスと共に行動することにして、その日はもう休んだ。
*
翌日、今日の演奏も成功で終えた彼らは楽器などを片付け終えると、村の賢人達を探すために別れた。今日の馬車の留守番はミゾレとアースだ。元々はミゾレだけだったのだが、女性一人では危ないとアースが共に残ったのだ。そしてフレムがルナンと、サンラがシデンと共に行動していた。
「人として最低なことしやがったんだ。絶対に締め上げてやる。」
「締め上げるだけじゃ生温いよ。生きていることを後悔させるくらいはしないとね。」
サンラとシデンの二人は昨夜引き止められた分の怒りも上乗せして怒っていた。二人が村の賢人達を見つけ出した途端、メザーゴを倒す勢いで 襲い掛かりそうであった。二人を見た村人達は二人の纏う空気を感じて二人を避けていた。彼らの話を聞いた村人達は内心賢人達に合掌していた。
同じ頃、フレムはルナンをなだめながら村を歩いていた。ルナンも昨夜と同じく怖いくらいの満面の笑みを浮かべていた。
「賢人達を見つけたからって、いきなり襲いかかるなよ。」
「シデンやサンラじゃないんだからやらねぇよ。まぁ、見つけて捕まえた後、何をするかは分からねぇがな。」
「どうどう。」
フレムの言葉に顔をしかめたが、すぐに怖いくらいの笑みを浮かべた。フレムは苦笑しながらなだめる。何も知らない村人達は村を歩く彼らを見て見惚れているものもいたが、会話が聞こえたものは狙われているのが自分ではないとわかっていながらも顔を青ざめて震えた。
同じ頃、グレスとノーラはノーラの母親が心配という事で彼女の家に向かっていた。道中グレスが今までの旅のことやフレム達のことを話し、それをノーラは笑って聞いていた。
「あははっ、本当に仲が良いんですね。」
「まあ、長く一緒にいましたから。」
笑顔でいるノーラを見て、グレスも安心していた。今度は話を聞くだけだったノーラが質問した。
「あの、気になったんですけど、グレスさん達は家族の方はどうしているんですか?」
「‼︎」
何気無く聞いた質問だが、グレスは息を詰め思い詰めるように顔をうつむかせた。それを見たノーラは不躾なことを聞いてしまったと謝った。
「ごめんなさい。」
「いえ、ノーラさんは悪くありませんよ。」
そう言ったグレスだが、未だ表情は暗いままだった。二人の間に歩く音以外がなくなった時、先に沈黙を破ったのはグレスだった。
「ノーラさんはとても家族思いなんですね。」
「そんなことないですよ。」
「いいえ。自分が狙われているのに母親のことを心配しているんです。あなたはとても優しい人です。」
グレスにそう言われて顔を赤くするノーラ。だが母親のことを思うと心配で表情を曇らせた。
「実は、父がお金を借りていたのは、母の病気のせいなんです。」
ノーラの言葉にグレスは表情を真剣なものにした。顔をうつ向けたままノーラは言葉を続けた。
「私の家は農家なんです。でも、そこまで広い土地を持ってはいません。畑で出来た少しの作物を村で売って得たお金で生活していました。畑仕事は元々父と母の二人がやっていました。私も小さい頃から二人の手伝いをしていて、作物を売りに行くときもついて行っていました。ですが、先月父と作物を売り終えて帰った時、畑で母が倒れていたんです。医者に診せましたが原因はわかりませんでした。そして、そんな母を治すために働きすぎて父は亡くなりました。」
そう言って黙り込んでしまったノーラ。話を聞いたグレスは母親の病気のことを不審に思った。そのことをノーラに話そうとしたが、彼女の家が近くなったのを見て、ノーラは駆け出してしまった。グレスも後に続くように駆け出すが、彼女は急に家ではなく近くの路地に入ってしまった。
ノーラが後少しで家の扉に手がかかるところまできた時、横から伸ばされた手によって路地に引きずり込まれてしまった。ノーラは悲鳴を上げようとするが、腕を引かれたのとは別の腕によって口を塞がれてしまった。
「‼︎」
「やっと見つけたぜ。」
「ほら、大人しくしやがれ。」
自分を捕らえたのが件の賢人であることに気付いたノーラは逃げようと暴れるが、腕を抑えられて逃げることはできなかった。もがくノーラを舌なめずりして見ていた賢人達が彼女に襲いかかろうとした時、誰かが賢人達を蹴り飛ばした。
男達が離れて倒れそうになった時、横から別の誰かによって支えられた。
「大丈夫ですかノーラさん。」
「グレスさん。はい、ありがとうございます。」
顔をあげたノーラが見たのは自分を支えるグレスだった。グレスの向ける笑みにノーラは涙を浮かべて安心したように笑った。グレスはノーラを立たせると自分の後ろに隠すようにして庇うと目の前で倒れている賢人達を見据えた。
「ちくしょう、誰だてめえ!」
「昨日からの村に滞在している旅のもんだよ。」
起き上がった賢人達はノーラを後ろに庇うグレスを睨みつけるが、怯むことなくグレスも睨み返した。グレスの睨みに一瞬だけ怯む賢人達だが、すぐに睨み返し腰の剣を抜きはなった。
グレスの背後にいるノーラはグレスの口調が変わっていることに驚いたが、賢人達が剣を向けてきたことでグレスにしがみつく様にして隠れる。
剣を向ける賢人達を睨むグレス。何も言わない彼を見て怖気付いたと思った賢人達が剣を振るおうとした時だった。
空が一瞬白く光ると空から神の使い-メザーゴが降りてきた。
「神の命により、人間を排除する。」
抑揚のない声でそう言ったメザーゴ達は手のひらを村に向け光弾を放つ。『光の光弾-ライトニング・バン』を放つメザーゴから村人達は逃げて行く。
「ひっ、」
「メ、メザーゴだ!」
メザーゴ達を見た賢人達は村人達と同じ様に逃げ出した。グレスは賢人達に冷ややかな目を向ける。
「クズが。村の賢人が聞いて呆れる。」
「グ、グレスさん。私達も逃げないと。」
ノーラはメザーゴ達から逃げようとグレスの袖を引く。だが、グレスはメザーゴ達を睨んだままその場から動こうとしなかった。その様子に初めは不審に思っていたノーラだったが、何かを悟ったのかグレスの袖から手を離した。グレスから数歩離れるノーラに振り返り真っ直ぐな目を向けた。
「ノーラさん、信じてください。人は神には負けません。」
その言葉にノーラは目を見開いた。グレスは再度メザーゴを見ると彼らがいるところに向かって駆け出していった。その背中をノーラは祈る様に見送った。
*
メザーゴ達が村を破壊していた時、駆けつけたフレム達が侵攻を妨害していた。メザーゴ達はフレム達を先に排除しようとした。迎え撃ったフレム達と乱戦になる。
フレムの聖気である炎を纏った剣が正面のメザーゴを切り捨てた時、後ろから光弾を放とうとする一体を氷の矢が貫いた。光のカケラになって消滅するそれをフレムは横目で見るとすぐに他の一体に向かった。その途中で矢を放ったミゾレに声をかけるのも忘れずに。
「サンキュ、ミゾレ。」
「もう少し周りも注意してください。」
新たな矢を番えるミゾレはフレムに注意するも、苦笑いで返されため息がこぼれた。だがすぐに顔を上げ弓を引く。狙いの先にいたメザーゴを次々に撃ち抜いていく。
別の場所ではシデンとサンラが背中合わせで戦っている。二人とも格闘技を得意とするため乱戦の時はよく背中合わせになることが多い。
「今回は大分数が多いね。」
「ああ。こんだけいると大技使いたくなるぜ。」
「あんたの大技は周りに迷惑なんだからこんなところで使おうとしないでよ。」
そうやって会話をしながらも、目の前にいるメザーゴを殴り、蹴り、時には雷を纏わせた弾を打ち抜き、光を纏わせた短剣で斬り捨てた。抜群のコンビネーションを見せる二人はかすり傷の一つも負うことなく次々とメザーゴを倒していった。
上の二組とは別の場所では、アースが大斧を振るい、大地を震わせる。大斧に巻き込まれたメザーゴは吹っ飛ばされていく。身の丈に似合わぬ大斧を振るうアースにメザーゴは近付くことができなかった。
「相変わらずすごいなお前の斧。」
「ルナンの剣も相変わらずだ。」
アースの斧に近付くのはまずいと思ったメザーゴ達は彼の周りを囲むが、その一角をルナンが双剣で斬り込み崩した。メザーゴの意識がルナンに向いた瞬間、アースが斧を横薙ぎに振るった。吹き飛ばされたメザーゴは光のカケラになって消滅した。
六人が戦う中、ようやくグレスが到着した。それに気付いたフレムは持っていた細剣をグレスに投げた。
「グレス!」
投げられた剣を受け取ったグレスは抜き放つと同時に目の前の一体に突きを数十発叩き込んだ。突きを受けてメザーゴは光のカケラになって消滅した。
「向こうは大丈夫か。」
「ああ。どんな奴等かと思ったが、とんだ最低のクズだった。」
「お前がそこまで言うほどか。」
グレスはフレムと背中合わせになってそう言った。グレスの怒り具合を口調の違いで悟ったフレムは苦笑をこぼした。
グレスが参戦したのを遠目に確認したシデン達。だが、いつもより荒々しい剣技を見てグレスの様子を彼らも悟った。
「やべえ、グレスがブチ切れてる。」
「遅れてきたってことは、件の賢人達と会ったんでしょうね。」
「てことはあいつが起こってる原因ってそいつらの所為かよ。一体何やったらあいつをあそこまで怒らせる様なことになるんだ。」
グレスの怒りにシデンは冷や汗を流し、サンラはグレスをそうさせた賢人達のことに呆れ返っていた。
「あそこまで起こっているなら、すぐにでも大技を使うだろうな。」
「あいつの八つ当たりでメザーゴどもを倒せるのはいいが、巻き込まれるこっちのことを一切考えねぇからな。」
アースとルナンはグレスがいつ大技を出しても巻き込まれない様にするために、メザーゴと戦いながら少しずつ中心から離れていった。
そしてついにグレスが‘‘ソレ’’を使った。
「デザーディフィケーション」
グレスが細剣を頭上に掲げてそう言うと彼の足元に緑色に光る魔法陣が表れると、グレスの周りに大量の竜巻が発生した。竜巻はメザーゴ達を捕らえ、中で粉々に砕いていく。砕かれたメザーゴ達は光のカケラになって消滅していく。竜巻は次々とメザーゴ達を捕らえていく中、フレム達は巻き込まれない様に避難していた。
「やっぱり使ったか。」
「あそこまで怒っていれば、彼がアレを使うのも時間の問題だったでしょうから。」
フレムとミゾレは竜巻に巻き込まれない位置まで避難するとグレスの方を見ていた。肩をすくめるフレムにミゾレは事実を述べた。
「あっぶねぇ。ホントいつも思うが、あいつの大技の方が俺のよりやばい気がするんだけど。」
「よっと。あんたの方が周りへの影響がでかいわよ。特にこんな村の中で使ったら私達より村の人の方が危険よ。」
「グレスはそこまで広範囲には影響が無い。一緒にいる俺たちは別だがな。」
「ほんっと、傍迷惑な大技だよな、アレ。」
シデンとサンラはギリギリで竜巻を避け、アースとルナンと合流した。シデンはグレスの大技の威力に冷や汗を流して言うが、サンラにバッサリと切り捨てられた。それに落ち込むシデンの横でアースが淡々と言う。余計に落ち込んだシデンだが、誰も慰めなかった。ルナンはアースの隣でグレスの大技に顔を歪めて見ていた。
全てのメザーゴが倒されると竜巻は消滅した。大きく息をつき、剣を下ろしたグレスにフレム達は近寄った。フレム達に気付いたグレスは剣を納め、体ごと振り向いた。
「お疲れ様。大丈夫か。」
「えぇ。少し疲労感はありますが、問題ありません。」
フレムの問いにいつもの様子に戻ったグレスは微笑みを向けて答えた。だがすぐに真剣な表情をした。
「疲れているかと思いますが、皆さんに来て欲しいところがあります。」
グレスの言葉に何かあると察したフレム達は頷いた。
グレスの先導で向かったのはノーラの家だった。家の前にはノーラが立っており、グレスの無事な姿を見て安堵の息を漏らした。
「グレスさん、無事でよかった。皆さんも。」
「ノーラさん、少しあなたの母親の様子を見てみたいのですが、よろしいですか?」
「えぇ。どうぞ。」
ノーラに促され、中に入るグレス達。ノーラに案内されて母親がいる部屋に入ったグレス達は全員顔をしかめた。
「これは、」
フレム達がそうこぼす中、グレスはノーラの母親の元に近付いた。彼は母親に向かって片手を突き出すと、手のひらから風が生まれ、母親を包んだ。グレスの行動の意味がわからなかったノーラは何をしているのかとフレム達に尋ねた。
「グレスさんは、一体何をしているんですか?」
「あぁ。もう知っていると思うから俺たちのことは省くが、グレスの持つ聖気は風だ。あいつは自身の聖気を使って君の母親の病気を治しているんだ。」
「母の、」
「そう。あいつの風には治癒能力がある。だから、もう君のお母さんは大丈夫だよ。」
フレムの言葉にノーラは驚いて風を操るグレスを見た。グレスが風を収めると隣にゆっくりとノーラが歩み寄った。ノーラが見守る中、母親が目を覚ましノーラを見た。
「ノー、ラ。」
「お母さん、よかった。よかった。」
目を開けた母親にノーラは泣きながら抱きついた。母親もノーラを抱きしめ返した。二人の様子にベッドから離れたグレスは二人を見ていたアースに小さく何かを話した。それに頷いたアースはシデンを伴って部屋を出て行った。横目でそれを見たフレムは何も言わなかった。
グレス達はノーラ親子にたくさんの礼を言われた。助けてくれた礼をしたいと言う二人だがグレス達は何もいらないと言う。ノーラ親子はそれでは申し訳ないと言い、そこにフレムがある提案をした。
*
次の日、フレム達はいつものように広場で演奏していた。彼らの演奏を見る人たちの中にはノーラ親子の姿も見えた。フレムが二人に行った提案とは彼らの演奏を親子一緒に見に来ることだった。
演奏を見に来た親子の笑顔を見てグレスも笑みを漏らした。
その日の演奏もフレム達は大成功で納めたのであった。
続く
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