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番外編(聖奈様より)
いつもの風景①
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今度こそ、上手くいく。
今回こそ、計画は完璧なーーはずだった。
「…っしゃ。」
俺は真っ暗な夜の廊下で、誰にも聞こえない声でそう呟きほくそ笑んだ。足音を最大限に消しながら向かうのは、今まさに眼の前に迫る外へと通じる扉。そうだ、俺は何度も何度もこのシーンをシュミレーションし、その先にある自由と解放を求めて恥辱の日々を耐え続けてきた。今更ビビって引き返すわけがない。
「ははっ…見てろよアイツら。これでこのクソ施設ともおさらばだ」
最後にチラリと後ろを振り向き別れの台詞を吐いてやると、いつもなら触れることすら出来ない出口のドアノブに手をかけた。今日だけは俺の綿密な手回しで鍵が掛かっていないドアノブは途中で止まらずすんなりと下げることができ、最後の難関をクリアした喜びと興奮で心臓は最高にバクバクと鳴っている。
さぁ、ゴールテープはすぐそこ、この扉を開けた先にーー!
「やぁ希望くん、お疲れ様。夜のお散歩は楽しかったかな?」
「…は?」
やっと、やっとの思いで開けた扉の先に待っていたのは…自由でも解放でもなく、見慣れすぎて吐き気がする奴の顔だった。俺はそのあまりの予想外の出来事に絶望やら失敗やらを感じる前に、ただただ驚いてドアに手を掛けたままソイツのニコニコ顔を呆然と見つめるしか無かった。
「あはは、今回は中々良い線まで行ってたよ?うーん、でもまぁ40点ぐらいって感じかな。もちろん本当はもっと早くに捕まえることも出来たんだけど、ここで待ってるのが一番楽しそうだと思ってさ。予想通りお前のその素っ頓狂な顔が見れて俺の方は計画通りそのものだね、あははっ!」
心から嬉しそうに手を叩いて笑うこいつを見て漸く俺は現実に戻り、事のマズさをじわじわと感じ始めてきた。
「え、や…嘘だろ、いつから…」
「いつからって、最初からに決まってるでしょ?ほんっといつもいつも浅はかだよね~お前はさぁ。俺が気づいてないとでも思ってた?まぁ万が一、億が一俺を騙せたとしてこの施設から逃げるなんて絶対無理だけどね。お前があまりにも毎回懲りないから面白くて泳がせてあげてるの」
ニヤニヤしながら少しづつ迫ってくる三原の表情に恐怖を覚え、冷や汗を垂らしながらじりじりと後ずさりをしてしまう。そんな状況も楽しんでやがるのか、手を伸ばせばすぐ捕まえられる距離にも関わらず舌なめずりをして本当に俺を舐め回すようにじっくりと見つめてくるだけだ。
「…ッ、何、だよ。捕まえんだ、ろ?…ジロジロ見やがって、気持ち悪ぃんだよ」
「ふぅん。自分のした事にまず謝罪もせず偉そうなのはいつまで経っても変わらないね。ま、今から一緒に行くとこはもう分かってるよね?そう、お前もよーく知ってるあのお部屋だよ」
”あの部屋”。その言葉を聞いて俺は一瞬にして身震いし全身に鳥肌が立った。今まで悪さをする度に連れて行かれた、身の毛もよだつ場所だ。
「!!…い、嫌だ、それだけは…!」
「はいはい駄々こねないの。嫌なら最初から悪いことしなけりゃ良いのに。あーあ、希望くんってばほんと面白いよね」
そこでやっと俺の肩に手を伸ばしてきた三原だったが、今からされるであろう地獄のお仕置きの数々を想像してしまうと捕らえられるのを覚悟していた心は完全に消え、反射的にその手を振り払いーー思いっきりさっきまで辿ってきた廊下を走って逆戻りしてしまっていた。
「あっはは。観念したつもりなのにまた逃げるの?馬鹿だねぇ、素直に土下座でもして謝れば手加減してあげようとも思ったけど?更にお仕置きの口実を増やしちゃってさ」
数メートル離れた後ろで悠々と喋るアイツの声が響くが、半分ぐらいは頭の中をすり抜けていく。それぐらい今の俺はとにかく逃げるのに必死だった。少し走ったところで数秒後には必ず捕まえられることなど分かりきっているはずなのに、恐怖に支配された身体は勝手にほんの少しの時間稼ぎすらしようと働いてしまうみたいだ。
「はぁっ、はあっ…!いやだ、嫌だ!」
突き当りの廊下を曲がった所でさっき通ってきたドアを開けようとガチャガチャとするも何故か開かなくなっている。ここまで見越した三原が仕組んだのだろうか、それでも諦め悪く必死に扉に体当たりをしていると、ゆらりと悪魔の影が後ろの壁に映った。
「のーぞみくん。そろそろ鬼ごっこは終わりだよ」
不敵な笑みを浮かべる悪魔はゆっくりとその姿を見せ、震える俺を前に何倍も大きく見えるような威圧感を放っていた。
「…!わ、悪かっ、た…!もうしない、からっ!頼む、見逃しーー」
そして俺は開かない扉を背にそこまで言ったところで、目にも止まらぬ早さで三原の熟練された体術で床にねじ伏せられ、薬を染み込ませた布を嗅がされ眠りに落ちたのだった。
「おやすみ希望くん。次起きた時には、お前の大好きなお部屋の中だから楽しみにしてなよ」
◇ ◆
ーー『懲罰室』
そう書かれた重たい扉の中は、泣く子も黙る…というにも生ぬるいありとあらゆる器具や機械がおびただしくひしめいている。拘束具は勿論、見るからにやばそうなモノや何に使うか分からないモノまで。そう、この施設で脱走しようとしたり態度の改善が見られない者には、ここでみっちりと”再指導”されるのだ。
「…ん、あ…」
「あ、やっと起きた。えーっと、前にここに来たのはいつだったかな?希望くんぐらいこの部屋に連れてこられる子は珍しいからね。普通は一度ここでお仕置きを受けたらもう二度と御免だって、ぴったりとおとなしくなる子ばっかりだからねぇ」
まだぼんやりとする寝起きの頭で、聞き慣れた声がひんやりとした部屋に響く。身体を動かそうにも当然全裸でガッチリと拘束されており、どうやら今回は平らな拘束台に仰向けで手足首を固定されているらしい。
そしてやっと目がはっきりとしてきたところで、見たくもないアイツがひょこっと頭を出して俺の顔を覗き込んできやがった。
「おはよう。確認するまでもないけど自分が今こうして懲罰室に居る理由は分かるよね?再三の忠告にも関わらず脱走を企て実行したこと。職員への抵抗。その他諸々。挙げればキリがないけど一応お仕置きを与える前に言わなきゃいけないからサラッとね」
ここまでされればもう勝ち目なんてない。コイツに媚びるなんて絶対したくないが、少しは反省の色を見せておかないと流石にマズい程度の事は予想がつく。
「…チッ。反省…してます。から、許して…下さい」
「あーあ、毎回このやりとりも変わんないよね。ちょっとは反省してます許してください以外の語彙を増やしたら?あとそれ全然反省してる表情じゃないんだけど」
つんつんと頬をつついてからかうような三原にこの状況でも腹が立ってしまい、ギリッと奥歯を噛みながら目を合わせずありきたりの贖罪の言葉をボソッと呟くと、つついている方と反対の手で拘束台に頬杖をつきながら伸びた声であくびを返してきた。今からこの男の機嫌ひとつで俺をどうにだって出来ると分かっていても、変なプライドと意地が邪魔をしてきて素直に謝ることが出来ない。…そう、そんな事が出来る善い人間なら、そもそもここには来ていない訳で…。
「さっ、お話はこのぐらいにして”再指導”を始めようか。初犯なら半日ぐらいで終われるんだけど、希望くんは何回目だったかな?キツーいお仕置きを受けてもわかんないって子は、更にキツーいお仕置きが必要だよね。そしてそれでもわかんないって子は…ふふっ、どうなるか分かるかなぁ?」
頬杖をついていた中腰から立ち上がり、見せつけるように何かのリモコンを操作しだした三原をせめてもの抵抗で睨んでやる。それが逆効果だと分かっていても、どうしてもコイツに最初から素直に従ってやりたくない。
「あーあーそんなに睨むなよ。余計にいじめて下さいって言ってるようなもんだって分かんないの?あ、もしかしてドMな希望くんはわざとやってたり?」
「うるさい黙れ」
反射的に逃げた時から生まれた恐怖の感情を無理矢理隠したいのか、これから行われる責めから意識だけでも逃避したいのか、ただ単に苛立ちからなのか。いつもと変わらない反抗的な態度をとってしまう自分。そんな俺を見て最高のオモチャだといわんばかりに目を輝かせ一層口角を上げた三原は、果てしない地獄を開始するリモコンのスイッチを押した。
「さぁ今からしっかりこのお部屋で反省するんだよ?自分のしたことについて…嫌というほど、ね」
言うが早いか、ピッという起動音と同時にうじゃうじゃ拘束台の側面から出てきたのは見慣れたマジックハンド達だった。俺が擽り責めにめっぽう弱い事を知っている三原は大体いつもこのパターンだ。今回も恐らくこのマジックハンド達でめちゃくちゃに虐め倒されるのだろうとこの時点で嫌でも察することが出来る。
(やっぱこれかよ…アイツ俺の弱点知り尽くしてやがるから面倒臭ぇ…!)
仰向けの目に映る無数のマジックハンド達を見るだけで身体が反応し笑いが出そうになるのをグッと堪え、次に来るであろう刺激に覚悟を決めて目を強く瞑った後に来たのはーー
「ひゃああぁぁんっ?!」
ゾワっとする優しいタッチの手が、首や脇腹、お腹や太腿といった敏感な場所を撫で回す刺激だった。てっきり激しい擽りを予測していた分、そのギャップに思わず自分でも耳を塞ぎたくなるような甘い悲鳴が口から漏れてしまい身体中が真っ赤に火照ってしまう。
「ひぁっ、や、め…!やめ、ろっ…!ひゃははははっ…!」
「何で軽く触られただけなのにもう全身真っ赤にしちゃってんのさ~?ド敏感希望くーん?」
ふわふわ揺れるマジックハンドの隙間から見えるニヤニヤした三原の顔を今すぐにでも殴ってやりたいが、この施設に来てから数え切れない調教と開発を受けたせいでどこを触られても敏感になってしまった俺の身体は僅かな刺激にさえ余裕なくビクビクと跳ね続けるしか無い。
「ふうっ…!んんっ、てめっ…、あはははっ!止めっ…、ろっ…んあぁっ!!」
「やっぱ最初から喋れないぐらいめちゃくちゃにするより、ギリギリ会話できるぐらいにする方がお前を煽るには合ってるね。怒りながら笑って感じててウケるし」
「ひッ、あ、ふざけんなぁはははははッ…!!んあっ、そこやめっ…やだ、やめてっ!ぃやはははははははっ!!」
最初こそ混乱してほんの少し余裕があったものの、同じ動きの筈なのに次第に感度が高まってくる肌の感覚。ヤバい、最初からこんなんじゃ…
「んうぅっ!や、止めてっ…!くくっ…んぁあああっ!」
「あはは、何言ってんの。まだ始まって5分も経ってないよ?これからお前はずーっとずーっと、気絶も出来ないままこの懲罰室で過ごしてもらうんだから。あぁ俺は勿論他の仕事があってお前にかかりっきりなんて無理だから自動モードにしとくけど、途中の水分補給や栄養補給もその機械が勝手にやってくれるよ。良かったね希望くん、これで意識をしっかり保ったまま反省し続けられるね?」
「ひゃははははっ、そ、んなっ…!待ってっ、待って出ていかないでっお願いします!っあははははははっ!!やだっ、やだぁぁはははははっ!!」
せめてコイツが居れば泣きながら謝罪の言葉を羅列して情に訴えかけることも出来るが、このままこの機械と共に放置されたら?三原の鬼畜な性格からして本当に何時間…いや、もしかしたら何日もここでひとりっきりにされてしまうかもしれない。そんな口ぶりに絶望を感じた俺はとにかく今のうちになんとか許してもらうしかないと冷や汗を垂らしながら必死に懇願した。
「ゃははははっ、ご、ごめんなさいぃ…っ!んぅぅっ、もうにげません、からぁっ!あははははっ、放置だけは…!」
「もう逃げません、って今まで俺は何回お前の口から聞いたっけ?その度にこーやって都合よくその場しのぎで泣きついてさ。結局俺もそれで許しちゃう甘いところがあるからいけなかったんだね。今回は心を鬼にして指導しないと~」
何は”今回は”だ!てめーに甘いとこなんでねーだろいつもいつも限界突破するまで俺をいたぶりやがってこの鬼畜スーツ野郎が!!と反論したいが今この状況で出来る筈もない。そもそも俺が100%悪いと言っちゃあそれまでなのだが、そこまで自分の非を素直に認められる程デキた人間じゃないのは己が一番良く分かっている。そんな俺が今必死にやれることといえば、刺激に身を捩らせながら三原の気を引く言葉を思いつくままに紡ぐだけだ。
「やめっ、やだ、ぁははははっ…!許して、ごめんなさい、止めでぇ”っっっ!!!」
「お前本当そればっかりだな」
その言葉を最後にスンっと冷めた瞳になると、リモコンを何処かへ置き、そのまま俺の視界から離れていった。
「ひぅッ…!ハンドっ、止めてぇっ…!助けてぇっあはははははは!!お願いします!無理ぃっ!無理だからぁああああっっ”!!」
そしてその後、懲罰室の重い扉が閉まる音がハッキリと聞こえた後も焦る頭で自分でも何を言ってるか分からない程無我夢中でわめき立てたが、冷たく無情に動き続ける機械の音の他に返ってくる音は無かった。
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今回こそ、計画は完璧なーーはずだった。
「…っしゃ。」
俺は真っ暗な夜の廊下で、誰にも聞こえない声でそう呟きほくそ笑んだ。足音を最大限に消しながら向かうのは、今まさに眼の前に迫る外へと通じる扉。そうだ、俺は何度も何度もこのシーンをシュミレーションし、その先にある自由と解放を求めて恥辱の日々を耐え続けてきた。今更ビビって引き返すわけがない。
「ははっ…見てろよアイツら。これでこのクソ施設ともおさらばだ」
最後にチラリと後ろを振り向き別れの台詞を吐いてやると、いつもなら触れることすら出来ない出口のドアノブに手をかけた。今日だけは俺の綿密な手回しで鍵が掛かっていないドアノブは途中で止まらずすんなりと下げることができ、最後の難関をクリアした喜びと興奮で心臓は最高にバクバクと鳴っている。
さぁ、ゴールテープはすぐそこ、この扉を開けた先にーー!
「やぁ希望くん、お疲れ様。夜のお散歩は楽しかったかな?」
「…は?」
やっと、やっとの思いで開けた扉の先に待っていたのは…自由でも解放でもなく、見慣れすぎて吐き気がする奴の顔だった。俺はそのあまりの予想外の出来事に絶望やら失敗やらを感じる前に、ただただ驚いてドアに手を掛けたままソイツのニコニコ顔を呆然と見つめるしか無かった。
「あはは、今回は中々良い線まで行ってたよ?うーん、でもまぁ40点ぐらいって感じかな。もちろん本当はもっと早くに捕まえることも出来たんだけど、ここで待ってるのが一番楽しそうだと思ってさ。予想通りお前のその素っ頓狂な顔が見れて俺の方は計画通りそのものだね、あははっ!」
心から嬉しそうに手を叩いて笑うこいつを見て漸く俺は現実に戻り、事のマズさをじわじわと感じ始めてきた。
「え、や…嘘だろ、いつから…」
「いつからって、最初からに決まってるでしょ?ほんっといつもいつも浅はかだよね~お前はさぁ。俺が気づいてないとでも思ってた?まぁ万が一、億が一俺を騙せたとしてこの施設から逃げるなんて絶対無理だけどね。お前があまりにも毎回懲りないから面白くて泳がせてあげてるの」
ニヤニヤしながら少しづつ迫ってくる三原の表情に恐怖を覚え、冷や汗を垂らしながらじりじりと後ずさりをしてしまう。そんな状況も楽しんでやがるのか、手を伸ばせばすぐ捕まえられる距離にも関わらず舌なめずりをして本当に俺を舐め回すようにじっくりと見つめてくるだけだ。
「…ッ、何、だよ。捕まえんだ、ろ?…ジロジロ見やがって、気持ち悪ぃんだよ」
「ふぅん。自分のした事にまず謝罪もせず偉そうなのはいつまで経っても変わらないね。ま、今から一緒に行くとこはもう分かってるよね?そう、お前もよーく知ってるあのお部屋だよ」
”あの部屋”。その言葉を聞いて俺は一瞬にして身震いし全身に鳥肌が立った。今まで悪さをする度に連れて行かれた、身の毛もよだつ場所だ。
「!!…い、嫌だ、それだけは…!」
「はいはい駄々こねないの。嫌なら最初から悪いことしなけりゃ良いのに。あーあ、希望くんってばほんと面白いよね」
そこでやっと俺の肩に手を伸ばしてきた三原だったが、今からされるであろう地獄のお仕置きの数々を想像してしまうと捕らえられるのを覚悟していた心は完全に消え、反射的にその手を振り払いーー思いっきりさっきまで辿ってきた廊下を走って逆戻りしてしまっていた。
「あっはは。観念したつもりなのにまた逃げるの?馬鹿だねぇ、素直に土下座でもして謝れば手加減してあげようとも思ったけど?更にお仕置きの口実を増やしちゃってさ」
数メートル離れた後ろで悠々と喋るアイツの声が響くが、半分ぐらいは頭の中をすり抜けていく。それぐらい今の俺はとにかく逃げるのに必死だった。少し走ったところで数秒後には必ず捕まえられることなど分かりきっているはずなのに、恐怖に支配された身体は勝手にほんの少しの時間稼ぎすらしようと働いてしまうみたいだ。
「はぁっ、はあっ…!いやだ、嫌だ!」
突き当りの廊下を曲がった所でさっき通ってきたドアを開けようとガチャガチャとするも何故か開かなくなっている。ここまで見越した三原が仕組んだのだろうか、それでも諦め悪く必死に扉に体当たりをしていると、ゆらりと悪魔の影が後ろの壁に映った。
「のーぞみくん。そろそろ鬼ごっこは終わりだよ」
不敵な笑みを浮かべる悪魔はゆっくりとその姿を見せ、震える俺を前に何倍も大きく見えるような威圧感を放っていた。
「…!わ、悪かっ、た…!もうしない、からっ!頼む、見逃しーー」
そして俺は開かない扉を背にそこまで言ったところで、目にも止まらぬ早さで三原の熟練された体術で床にねじ伏せられ、薬を染み込ませた布を嗅がされ眠りに落ちたのだった。
「おやすみ希望くん。次起きた時には、お前の大好きなお部屋の中だから楽しみにしてなよ」
◇ ◆
ーー『懲罰室』
そう書かれた重たい扉の中は、泣く子も黙る…というにも生ぬるいありとあらゆる器具や機械がおびただしくひしめいている。拘束具は勿論、見るからにやばそうなモノや何に使うか分からないモノまで。そう、この施設で脱走しようとしたり態度の改善が見られない者には、ここでみっちりと”再指導”されるのだ。
「…ん、あ…」
「あ、やっと起きた。えーっと、前にここに来たのはいつだったかな?希望くんぐらいこの部屋に連れてこられる子は珍しいからね。普通は一度ここでお仕置きを受けたらもう二度と御免だって、ぴったりとおとなしくなる子ばっかりだからねぇ」
まだぼんやりとする寝起きの頭で、聞き慣れた声がひんやりとした部屋に響く。身体を動かそうにも当然全裸でガッチリと拘束されており、どうやら今回は平らな拘束台に仰向けで手足首を固定されているらしい。
そしてやっと目がはっきりとしてきたところで、見たくもないアイツがひょこっと頭を出して俺の顔を覗き込んできやがった。
「おはよう。確認するまでもないけど自分が今こうして懲罰室に居る理由は分かるよね?再三の忠告にも関わらず脱走を企て実行したこと。職員への抵抗。その他諸々。挙げればキリがないけど一応お仕置きを与える前に言わなきゃいけないからサラッとね」
ここまでされればもう勝ち目なんてない。コイツに媚びるなんて絶対したくないが、少しは反省の色を見せておかないと流石にマズい程度の事は予想がつく。
「…チッ。反省…してます。から、許して…下さい」
「あーあ、毎回このやりとりも変わんないよね。ちょっとは反省してます許してください以外の語彙を増やしたら?あとそれ全然反省してる表情じゃないんだけど」
つんつんと頬をつついてからかうような三原にこの状況でも腹が立ってしまい、ギリッと奥歯を噛みながら目を合わせずありきたりの贖罪の言葉をボソッと呟くと、つついている方と反対の手で拘束台に頬杖をつきながら伸びた声であくびを返してきた。今からこの男の機嫌ひとつで俺をどうにだって出来ると分かっていても、変なプライドと意地が邪魔をしてきて素直に謝ることが出来ない。…そう、そんな事が出来る善い人間なら、そもそもここには来ていない訳で…。
「さっ、お話はこのぐらいにして”再指導”を始めようか。初犯なら半日ぐらいで終われるんだけど、希望くんは何回目だったかな?キツーいお仕置きを受けてもわかんないって子は、更にキツーいお仕置きが必要だよね。そしてそれでもわかんないって子は…ふふっ、どうなるか分かるかなぁ?」
頬杖をついていた中腰から立ち上がり、見せつけるように何かのリモコンを操作しだした三原をせめてもの抵抗で睨んでやる。それが逆効果だと分かっていても、どうしてもコイツに最初から素直に従ってやりたくない。
「あーあーそんなに睨むなよ。余計にいじめて下さいって言ってるようなもんだって分かんないの?あ、もしかしてドMな希望くんはわざとやってたり?」
「うるさい黙れ」
反射的に逃げた時から生まれた恐怖の感情を無理矢理隠したいのか、これから行われる責めから意識だけでも逃避したいのか、ただ単に苛立ちからなのか。いつもと変わらない反抗的な態度をとってしまう自分。そんな俺を見て最高のオモチャだといわんばかりに目を輝かせ一層口角を上げた三原は、果てしない地獄を開始するリモコンのスイッチを押した。
「さぁ今からしっかりこのお部屋で反省するんだよ?自分のしたことについて…嫌というほど、ね」
言うが早いか、ピッという起動音と同時にうじゃうじゃ拘束台の側面から出てきたのは見慣れたマジックハンド達だった。俺が擽り責めにめっぽう弱い事を知っている三原は大体いつもこのパターンだ。今回も恐らくこのマジックハンド達でめちゃくちゃに虐め倒されるのだろうとこの時点で嫌でも察することが出来る。
(やっぱこれかよ…アイツ俺の弱点知り尽くしてやがるから面倒臭ぇ…!)
仰向けの目に映る無数のマジックハンド達を見るだけで身体が反応し笑いが出そうになるのをグッと堪え、次に来るであろう刺激に覚悟を決めて目を強く瞑った後に来たのはーー
「ひゃああぁぁんっ?!」
ゾワっとする優しいタッチの手が、首や脇腹、お腹や太腿といった敏感な場所を撫で回す刺激だった。てっきり激しい擽りを予測していた分、そのギャップに思わず自分でも耳を塞ぎたくなるような甘い悲鳴が口から漏れてしまい身体中が真っ赤に火照ってしまう。
「ひぁっ、や、め…!やめ、ろっ…!ひゃははははっ…!」
「何で軽く触られただけなのにもう全身真っ赤にしちゃってんのさ~?ド敏感希望くーん?」
ふわふわ揺れるマジックハンドの隙間から見えるニヤニヤした三原の顔を今すぐにでも殴ってやりたいが、この施設に来てから数え切れない調教と開発を受けたせいでどこを触られても敏感になってしまった俺の身体は僅かな刺激にさえ余裕なくビクビクと跳ね続けるしか無い。
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「やっぱ最初から喋れないぐらいめちゃくちゃにするより、ギリギリ会話できるぐらいにする方がお前を煽るには合ってるね。怒りながら笑って感じててウケるし」
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最初こそ混乱してほんの少し余裕があったものの、同じ動きの筈なのに次第に感度が高まってくる肌の感覚。ヤバい、最初からこんなんじゃ…
「んうぅっ!や、止めてっ…!くくっ…んぁあああっ!」
「あはは、何言ってんの。まだ始まって5分も経ってないよ?これからお前はずーっとずーっと、気絶も出来ないままこの懲罰室で過ごしてもらうんだから。あぁ俺は勿論他の仕事があってお前にかかりっきりなんて無理だから自動モードにしとくけど、途中の水分補給や栄養補給もその機械が勝手にやってくれるよ。良かったね希望くん、これで意識をしっかり保ったまま反省し続けられるね?」
「ひゃははははっ、そ、んなっ…!待ってっ、待って出ていかないでっお願いします!っあははははははっ!!やだっ、やだぁぁはははははっ!!」
せめてコイツが居れば泣きながら謝罪の言葉を羅列して情に訴えかけることも出来るが、このままこの機械と共に放置されたら?三原の鬼畜な性格からして本当に何時間…いや、もしかしたら何日もここでひとりっきりにされてしまうかもしれない。そんな口ぶりに絶望を感じた俺はとにかく今のうちになんとか許してもらうしかないと冷や汗を垂らしながら必死に懇願した。
「ゃははははっ、ご、ごめんなさいぃ…っ!んぅぅっ、もうにげません、からぁっ!あははははっ、放置だけは…!」
「もう逃げません、って今まで俺は何回お前の口から聞いたっけ?その度にこーやって都合よくその場しのぎで泣きついてさ。結局俺もそれで許しちゃう甘いところがあるからいけなかったんだね。今回は心を鬼にして指導しないと~」
何は”今回は”だ!てめーに甘いとこなんでねーだろいつもいつも限界突破するまで俺をいたぶりやがってこの鬼畜スーツ野郎が!!と反論したいが今この状況で出来る筈もない。そもそも俺が100%悪いと言っちゃあそれまでなのだが、そこまで自分の非を素直に認められる程デキた人間じゃないのは己が一番良く分かっている。そんな俺が今必死にやれることといえば、刺激に身を捩らせながら三原の気を引く言葉を思いつくままに紡ぐだけだ。
「やめっ、やだ、ぁははははっ…!許して、ごめんなさい、止めでぇ”っっっ!!!」
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その言葉を最後にスンっと冷めた瞳になると、リモコンを何処かへ置き、そのまま俺の視界から離れていった。
「ひぅッ…!ハンドっ、止めてぇっ…!助けてぇっあはははははは!!お願いします!無理ぃっ!無理だからぁああああっっ”!!」
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