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スキナノカナ
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しおりを挟む前回の国内の大会から義経の様子がおかしい。プログラムは間違えるしジャンプも回転不足、今までは練習に来たらリンク上からめったに降りなかったのに今はぼぉーっとリンクを眺めてる時間の方が長い。動き自体は悪くないので体の不調よりは精神的なものなのだろう。そう分析を終えて弁天 親慶はちらりと自身と義経のコーチをしている神楽を伺った。神楽は腕を組んだまま親慶を一瞥すると顎を動かしただけで「行け」と指示を下す。
相変わらず態度悪いな…。
まるで不良を思わせるような仕草に親慶は静かに笑うと未だリンクを見つめる義経の元へ向かった。
「よーしーつーねー!」
「いて…」
そっと義経の後ろに回り込んだ親慶はその頭を平手で叩くと反応の薄さに物足りなさを感じつつ顔を見ないように義経とは反対を向いた状態でベンチの隣に座ると頬杖をついた。
「…悩みごと?」
「…え…?」
「かぐっちゃんが、お前の様子が変だって心配してた。まぁ、この前大会が終わってから練習に身が入ってないなぁとは思ってたけど…」
「……」
親慶はそこまで言うと口をつぐんだ。光を失い不安そうに揺れる義経の瞳が事の深刻さを親慶に訴えかけてきた。
…スケート関係なら遠慮なくかぐっちゃんに相談するだろうし……怪我でもしたか?いや、それも義経のことだ。早期に対処するのがベストだって分かってるからすぐに報告するだろう…。それなら──。
「分かった!恋バナだろっ!!」
「こっ!………そ、そんなんじゃないっ……!!」
「………え…?もしかして当たっちゃった…?」
原因を突き止めるつもりではあった親慶だが、恋バナという話題はからかい半分だった。そのため顔を真っ赤に染めて俯くなんて義経の予想外の反応に、どう返したらいいのか分からず固まってしまった。
同様に義経も何か言い訳をしなければと頭をフル回転させるが元々饒舌ではない舌は上手く言葉を発することが出来ず、金魚のように口をパクパクしながら目を右に左にぐるぐると回して親慶にパニックを伝えていた。
「とりあえず落ち着けよ…」
義経のあまりの様子に逆に冷静になった親慶は、ベンチに跨がるように体の向きを変えるとちゃんと酸素を取り入れられてるか心配になる義経の背中を優しく擦ってやる。そうするとすぐにすぅー、ふぅー、と震えを含みながら大きく空気が動く音が聞こえ親慶もほっと短く息を吐いた。
「……」
前回大会の夜、花巻 湊和に『手伝ってもらった』ことが義経の頭を離れず、よく分からない感情が胸の中で渦を巻いていた。こんなことを親慶に相談することがベストではないかもしれないが、義経自身も今の状況を何とか打開したかったのだ。
背中を擦り続けてくれている親慶に気付かれないように横目でちらりと伺った義経は意を決して口を開いた。
「……恋バナ…じゃないけど……チカに……聞きたいことは、ある…」
相変わらず俯いたままで義経の表情は分からなかったが、ぽそり、ぽそり、と頼りなくこぼすように話す義経に、それでも頼られたことが嬉しい親慶は義経に向かって大袈裟に声を上げ両手を大きく広げてみせた。
「よし!なんでも聞いてやるから包み隠さずに話してみろ!!」
「えっ…と……」
「ん?どうした?どんな話でも俺が解決してやるからなんでも言ってみな!」
「……」
安心させるための台詞も義経には逆効果だったようで折角開いた口は再び固く閉じられてしまった。
重症だな…。
「…無理にとは言わねぇけど、誰かに聞いてもらうだけでも気持ちが軽くなったりするもんだぜ?」
くしゃっと親慶が慣れた手つきで頭を撫でてやれば義経の唇が微かに動いて大きく空気を吸う音がした後、弱々しい声が届いた。
「こ、ここじゃ話しにくいから…今日、チカの家に行ってもいい?」
「…もちろん。じゃあ、それまで練習頑張るぞっ!」
背中を強く叩き義経を送り出すと、一度親慶に振り返り無言で頷いた。リンクへ戻った義経は一瞬、下唇を噛み締め振りきるように頭を何度か横に振った後、上げられたその顔つきはいつものようにしっかりとしたものに変わっていた。親慶はその様子に違和感を感じながらもいつもどおりを装う義経の姿を眺めていた。
「…湊和よりも、ちょっと遅かったな…」
リンクを滑る義経に二年前の湊和の姿を重ね、巡る記憶はあまり思い出したくないものだと親慶は蓋をするように瞼を強く閉じた。
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