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スキナノカナ
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「……で?話ってなによ?」
練習後、すでに太陽は月へと変わり暗い道を再び元気をなくした義経は無言で親慶の後ろをついて歩いてくる。
リンクの上では無理やりだけど元気にしてたんだけどねぇ…。
どうしたものかと、今日何度目かの溜め息をついている内にスケートリンクからそう遠くない親慶の家に着いた。二階へと続く階段を上ると後ろから「お邪魔します…」と義経の小さな声が聞こえてさっきまでなにも喋らなかったくせにと律儀なその様子に小さく笑った。
自分の部屋の床にどかっと座ると遠慮がちに目の前に座った義経は今通ったばかりのドアを横目で確認する。
「…今日…チカのお母さんは…?」
「今日は夜勤だってから誰もいねぇよ」
そう答えると義経は分かりやすくほっと息を吐く。義経信者の親慶の母親は義経がどんなに静かに、忍者のごとく家の中に入ってきたとしても気配を察知するのかなぜか義経が来てることを嗅ぎ付けて親慶の部屋に突入してくる。そして義経を見つけると興奮したままマシンガンのように喋り倒すから義経はいつも怯え、たじたじになってしまう。父親がいればもう少し大人しいのだが、残念ながらストッパー役の父親は遠くの地で単身赴任中。そのためなのか親慶の母親は年々義経への愛をパワーアップさせていく。
悲しいかな、大会の応援は息子の親慶よりも義経への方が大きい。夜なべして義経用の応援グッズを作っていた──もちろん親慶の分はない──時は実の母親ながら引いたな、と回想しながら親慶は失笑した。
まぁ、今日は母さんがいるかよりも話を誰にも聞かれたくないって感じかね…。
頭を切り替えて目の前の義経に意識を戻すと正座したジャージのズボンを強く握り締めながら義経が重く口を開いた。
「あの、さ…チカ、は…………その…誰かとし、したことある…?」
「なにを?」
「っ…!」
なんとなく勘付いてはいた親慶だが、本人からはっきり聞かないまま思い込みで話しを続けるのは良くないだろうと思い率直に返事をしたら義経の顔が一気に真っ赤に染まった。義経は小さくあーとか、うーとか声を上げてから言いずらそうに上目で親慶を伺う。
「その………『じい』、って…いうか……」
「『じい』?……あぁ、オナニーのことか!」
「っっ!!」
俺の発言を聞いた瞬間、義経は両肩を大袈裟に跳ねさせ紅潮させた顔を俯かせジャージをさらに強く握り締めると親慶はさすがにジャージが心配になってしまう。
やっぱりそういうことか…。
精通した男同士ならオナニーの見せ合いは同級生などと興味本位やノリでやってしまうこともあるだろうが、義経は自他共に認めるフィギュアスケートバカ。流行りの音楽やファッションにも──元は良いんだからその気になれば一緒にモデルなんかも出来るだろうにと親慶は常に残念に思うほど──全く興味がない。そんな義経だからこんな性の悩みを誰にも相談できなくて当然か、と親慶は納得する。
「高校の時に仲間とやったことあるけど…」
「…そう、か……それって、その……なんか特別な意味がある訳じゃない…よな…?」
『特別な意味』…相手が自分にある種の好意を抱いての行動なのかどうかと、親慶は顎の下に手を当ててわざとらしく考えるフリをする。
なるほど。大方、この前の大会の時に湊和に無理やり手伝われて、湊和がどうして自分にそういうことをしたのか分からなくて悩んでるってとこか…。
当たらずとも遠からずな予想をすると親慶はさらにわざとらしくうーんと声を上げる。
「状況とかどんなことしたか、相手は誰か…それが分かんねぇからなんとも言えねぇけど」
そこまで言って義経の様子を横目で伺いながらわざと間をあける。あわよくば自分の言葉に返事をしてくれるかと親慶は期待したからだ。案の定、義経は目をくるくると泳がせながら唇を噛んだり緩めたりを繰り返し、答えようかを悩んでいるようだ。
「…相手が仲の良い友達で触り合いするだけなら普通じゃねぇか?」
あまりに悩む義経の様子にいたたまれなくなった親慶が当たり障りなく答えると義経は顔を上げ、分かりやすく安堵の表情を見せた。
ま、本当のことなんて気付かせてやらなくていいよな…。
親慶は少し緊張の解けた義経の横に移動すると意地悪くにやりと笑う。瞬間、嫌な予感に襲われた義経はすぐさま距離を取ろうとするが流れるように肩を組まれそれはかなわなかった。
「……で?話ってなによ?」
練習後、すでに太陽は月へと変わり暗い道を再び元気をなくした義経は無言で親慶の後ろをついて歩いてくる。
リンクの上では無理やりだけど元気にしてたんだけどねぇ…。
どうしたものかと、今日何度目かの溜め息をついている内にスケートリンクからそう遠くない親慶の家に着いた。二階へと続く階段を上ると後ろから「お邪魔します…」と義経の小さな声が聞こえてさっきまでなにも喋らなかったくせにと律儀なその様子に小さく笑った。
自分の部屋の床にどかっと座ると遠慮がちに目の前に座った義経は今通ったばかりのドアを横目で確認する。
「…今日…チカのお母さんは…?」
「今日は夜勤だってから誰もいねぇよ」
そう答えると義経は分かりやすくほっと息を吐く。義経信者の親慶の母親は義経がどんなに静かに、忍者のごとく家の中に入ってきたとしても気配を察知するのかなぜか義経が来てることを嗅ぎ付けて親慶の部屋に突入してくる。そして義経を見つけると興奮したままマシンガンのように喋り倒すから義経はいつも怯え、たじたじになってしまう。父親がいればもう少し大人しいのだが、残念ながらストッパー役の父親は遠くの地で単身赴任中。そのためなのか親慶の母親は年々義経への愛をパワーアップさせていく。
悲しいかな、大会の応援は息子の親慶よりも義経への方が大きい。夜なべして義経用の応援グッズを作っていた──もちろん親慶の分はない──時は実の母親ながら引いたな、と回想しながら親慶は失笑した。
まぁ、今日は母さんがいるかよりも話を誰にも聞かれたくないって感じかね…。
頭を切り替えて目の前の義経に意識を戻すと正座したジャージのズボンを強く握り締めながら義経が重く口を開いた。
「あの、さ…チカ、は…………その…誰かとし、したことある…?」
「なにを?」
「っ…!」
なんとなく勘付いてはいた親慶だが、本人からはっきり聞かないまま思い込みで話しを続けるのは良くないだろうと思い率直に返事をしたら義経の顔が一気に真っ赤に染まった。義経は小さくあーとか、うーとか声を上げてから言いずらそうに上目で親慶を伺う。
「その………『じい』、って…いうか……」
「『じい』?……あぁ、オナニーのことか!」
「っっ!!」
俺の発言を聞いた瞬間、義経は両肩を大袈裟に跳ねさせ紅潮させた顔を俯かせジャージをさらに強く握り締めると親慶はさすがにジャージが心配になってしまう。
やっぱりそういうことか…。
精通した男同士ならオナニーの見せ合いは同級生などと興味本位やノリでやってしまうこともあるだろうが、義経は自他共に認めるフィギュアスケートバカ。流行りの音楽やファッションにも──元は良いんだからその気になれば一緒にモデルなんかも出来るだろうにと親慶は常に残念に思うほど──全く興味がない。そんな義経だからこんな性の悩みを誰にも相談できなくて当然か、と親慶は納得する。
「高校の時に仲間とやったことあるけど…」
「…そう、か……それって、その……なんか特別な意味がある訳じゃない…よな…?」
『特別な意味』…相手が自分にある種の好意を抱いての行動なのかどうかと、親慶は顎の下に手を当ててわざとらしく考えるフリをする。
なるほど。大方、この前の大会の時に湊和に無理やり手伝われて、湊和がどうして自分にそういうことをしたのか分からなくて悩んでるってとこか…。
当たらずとも遠からずな予想をすると親慶はさらにわざとらしくうーんと声を上げる。
「状況とかどんなことしたか、相手は誰か…それが分かんねぇからなんとも言えねぇけど」
そこまで言って義経の様子を横目で伺いながらわざと間をあける。あわよくば自分の言葉に返事をしてくれるかと親慶は期待したからだ。案の定、義経は目をくるくると泳がせながら唇を噛んだり緩めたりを繰り返し、答えようかを悩んでいるようだ。
「…相手が仲の良い友達で触り合いするだけなら普通じゃねぇか?」
あまりに悩む義経の様子にいたたまれなくなった親慶が当たり障りなく答えると義経は顔を上げ、分かりやすく安堵の表情を見せた。
ま、本当のことなんて気付かせてやらなくていいよな…。
親慶は少し緊張の解けた義経の横に移動すると意地悪くにやりと笑う。瞬間、嫌な予感に襲われた義経はすぐさま距離を取ろうとするが流れるように肩を組まれそれはかなわなかった。
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