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好きなのに
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しおりを挟む合同練習の後、例にも漏れず義経の体は高揚感を変化させた熱に襲われていた。家に帰るまで耐えるのはつらいと考えた義経は親慶に相談してロッカー室かトイレか、どちらにせよ親慶に見張りを頼んで熱を吐き出したいとそう願っていた。その為には早々に親慶を捕まえなければと焦る義経は人混みの中、背の高い親慶の姿を見つけると視界が明るく開けた気がした。
「チ…っ!!」
呼び止めようと開けた口は突然、後ろから何者かに塞がれ義経の体はそのまま近くのトイレの個室に連れ込まれた。訳がわからず混乱する義経は荒手のファンだったらどうしようと不安に襲われるが個室の鍵を閉める人物が花巻 湊和だと分かると静かに安堵の息を吐いた。しかし義経には湊和が何故こんな無理矢理トイレに連れ込むなんて事をしたのか不思議に思っていた。
「湊和くん…?」
恐る恐る声をかけると湊和はまるで外に声が漏れたらまずいというように再び素早く義経の口を両手で塞ぎ、注意深く耳を済ませトイレに誰も入ってこないことをしばらく確認するとようやく口から両手は離し、代わりに自分の口の前で人差し指を立て「しー」っと静寂を要求した。それに義経は頷きで答えると湊和は優しく微笑んだ。
「ヨシ、今日も体辛いんでしょ」
「あ、うん…。でも今日はチカがいるから大丈夫…っ!」
突然、湊和に両肩を掴まれトイレの壁に強く押さえつけられると義経は恐怖に震えた。目の前には見たことがないほど憤怒している湊和がいたからだ。
初めて湊和に『手伝って』もらった日から大会の後にもう何度も触り合いあいをしていた二人だが、それでも義経はフィギュアスケートでは尊敬すらしている湊和とこんなことをしていいのか悩んでいたため親慶がいる時は出来るだけ親慶に相談しようと思っていた。それがなぜここまで湊和を怒らせたのか義経には分からず、唇をきつく閉じたまま唾を飲み込んだ。
湊和は自分を落ち着かせようと深呼吸を繰り返し無言のまま義経の体を抱き締め義経は湊和の腕の中で努めて大人しくしていた。
「ごめん…」
苦しげに、喉の奥から絞り出したような謝罪はそれでもその輪郭をはっきりしないまま朧気に義経の耳へと届いた。それが自分をここへ連れ込んだことへの謝罪なのか怯えさせたことへの謝罪なのかよく理解できなかった義経はそれでも恐怖から小さく頷いた。
状況が落ち着いたところで義経は廊下から聞こえる物音が小さくなっていることに気付き、親慶も帰ってしまっただろうかと思うと今日も湊和に手伝ってもらうしかないのかと小さく溜め息を吐いたその時──。
「義経ぇ~?…ったく、どこ行ったんだ、アイツ…」
廊下から聞こえた親慶の声に義経の腕がぴくりと震え湊和の肩に預けていた頭を上げると返事をするよりも前に三度湊和に口を塞がれ、逃がさないというように義経を閉じ込めた腕にもさらに力が込められた。義経は再び恐怖に体を緊張させると前の廊下を自分の名前を呼びながら親慶が通りすぎて行くのを感じると自分の自由を奪う湊和の力が少しだけ緩んだ気がした。
しばらくそうしていると親慶の声も足音もしなくなり義経を捜すことを完全に諦めたと分かると湊和はようやく義経の体を解放した。
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