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約束の卵
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「……と、まぁこんな感じで今、此処にいられるのは神楽コーチと義経のおかげだと思ってます」
親慶は照れ笑いを浮かべながら横目で隣を伺うと義経は一度深く瞼を閉じた。
「今の話、古河選手は覚えていらっしゃいますか?」
「チカのその話が本当なら完全に余計なことしましたよね、昔のオレ…」
苦笑いをしながら今日の順位を嘆くと伏し目がちに義経は続ける。
「…本当は覚えてます。オレは、本当にチカのスケートが好きで。オレよりも体格も恵まれてて才能があるのに絶対もったいないって…本当に辞めて欲しくなかったから……戻ってきてくれて嬉しかったです」
珍しく素直な気持ちを吐露しマイクを置くと隣に座る親慶と目が合ってしまい、瞬間的に真っ赤に染まる親慶の顔につられて義経も顔を赤くすると目映い程のフラッシュを浴びせられ二人は慌てて俯いて顔を隠した。なかなか止まないフラッシュの嵐に慌ててマイクを取ったのは親慶だった。
「こっ!この大会に出る前に神楽コーチと約束しました!俺が金メダルを取ったら神楽コーチは現役復帰をするって!」
「いっ!!」
会場の壁に寄りかかった状態で記者会見を見守っていた神楽が突然の親慶の暴露に驚いた瞬間、二人に注がれていたフラッシュはそのままの数を保ち一斉に神楽に向けられた。
確かに約束はした。
新プログラムに取りかかると決めたあの日、
「もし俺が世界一になったら、かぐっちゃんの現役復帰約束してよね!!」
生意気で自信満々な笑みを向ける親慶に神楽は一言「おもしれぇ」と答えた。
…が、神楽には守る気などさらさらなく、大会が終わった後に反故にするつもりだったが親慶によって白日の元にさらされてしまえばそれも容易ではない。
「……申し訳ないですが、三年もトレーニングしないで復帰できるような甘い世界ではないと理解しております。しかし、約束は約束なのでアイスショーには参加したいと思ってます…」
「現役の復帰は本当に考えてないですか?」
「考えてません!二百パーセント有り得ません!!」
いま譲歩出来る最低限の約束に書き換え、尚も食らいつく記者の質問に断固として答えるとフラッシュは更に増した気がした。
収拾のつかなくなった会見場は混乱のまま解散となり、翌日の新聞の一面はもちろん泣き崩れる親慶の写真にセイレーンの復活を祝う記事に溢れていた。
「…最悪だ……本当に…なにが悲しくて初の一面記事があんな写真…」
「めちゃくちゃ泣いてたチカが悪い…」
「…お前とかぐっちゃんも写ってたけどな…」
「チカがあんなに泣くからつられたんだよ…」
全紙ではないがほとんどの新聞に三人で泣き崩れている時の写真を使われ、義経と神楽も巻き込み被害を受けていた。
本来ならば大会の緊張感から解放されたエキシビションは楽しいものだが今日はあの写真のせいで陰鬱だ。二人の出番は終わったが親慶は最後のアンコールでもう一度出る機会があった。しかしただで出るのもつまらないと一興を講じる事にしていた。そうこうしている内に会場全体にアンコールが響き渡り立ち上がった親慶は義経に向かい手を伸ばした。
「さぁ、みんなを驚かせに行くぞ!」
もし二人で表彰台に並んで上がれたらやろうと決めていた事だった。まさかこんな最高の順位の並びで披露する事になろうとは思ってもみなかったと二人は顔を見合わせて苦笑した。小道具を脇に抱えた親慶は一人でリンクの真ん中へ行くと持っていた絨毯を広げその上に座った。その光景に一部のファンがざわめく。
そして『AWhole New World』の曲が流れ始めるとざわめきは悲鳴に変わった。イントロが終わる頃にリンク上に現れた義経の手を取りいつかのアイスショーで披露したプログラムは初めて二人で作り上げたもので。本当は女子選手と組むことも考えてはいたが義経と組んだ方が気心は知れてるし練習もやりやすそうだという安直な理由で二人はこのプログラムに取り組む事にした。
まさかそれが別れを惜しむこの状況で披露する事になるとはその頃の二人は思いもしなかった。
親慶はこれが二人で演じる最後の機会だと悟り、後悔のないようにしようと覚悟を決めていた。
義経の心中は相変わらずぐちゃぐちゃだったが、それでも奥底にある願いに縋りつき、本当に自分が望む未来に進もうと震える足で前に進む決意をしていた。
だから今は、二人だけのこの時間を楽しもう…。
「……と、まぁこんな感じで今、此処にいられるのは神楽コーチと義経のおかげだと思ってます」
親慶は照れ笑いを浮かべながら横目で隣を伺うと義経は一度深く瞼を閉じた。
「今の話、古河選手は覚えていらっしゃいますか?」
「チカのその話が本当なら完全に余計なことしましたよね、昔のオレ…」
苦笑いをしながら今日の順位を嘆くと伏し目がちに義経は続ける。
「…本当は覚えてます。オレは、本当にチカのスケートが好きで。オレよりも体格も恵まれてて才能があるのに絶対もったいないって…本当に辞めて欲しくなかったから……戻ってきてくれて嬉しかったです」
珍しく素直な気持ちを吐露しマイクを置くと隣に座る親慶と目が合ってしまい、瞬間的に真っ赤に染まる親慶の顔につられて義経も顔を赤くすると目映い程のフラッシュを浴びせられ二人は慌てて俯いて顔を隠した。なかなか止まないフラッシュの嵐に慌ててマイクを取ったのは親慶だった。
「こっ!この大会に出る前に神楽コーチと約束しました!俺が金メダルを取ったら神楽コーチは現役復帰をするって!」
「いっ!!」
会場の壁に寄りかかった状態で記者会見を見守っていた神楽が突然の親慶の暴露に驚いた瞬間、二人に注がれていたフラッシュはそのままの数を保ち一斉に神楽に向けられた。
確かに約束はした。
新プログラムに取りかかると決めたあの日、
「もし俺が世界一になったら、かぐっちゃんの現役復帰約束してよね!!」
生意気で自信満々な笑みを向ける親慶に神楽は一言「おもしれぇ」と答えた。
…が、神楽には守る気などさらさらなく、大会が終わった後に反故にするつもりだったが親慶によって白日の元にさらされてしまえばそれも容易ではない。
「……申し訳ないですが、三年もトレーニングしないで復帰できるような甘い世界ではないと理解しております。しかし、約束は約束なのでアイスショーには参加したいと思ってます…」
「現役の復帰は本当に考えてないですか?」
「考えてません!二百パーセント有り得ません!!」
いま譲歩出来る最低限の約束に書き換え、尚も食らいつく記者の質問に断固として答えるとフラッシュは更に増した気がした。
収拾のつかなくなった会見場は混乱のまま解散となり、翌日の新聞の一面はもちろん泣き崩れる親慶の写真にセイレーンの復活を祝う記事に溢れていた。
「…最悪だ……本当に…なにが悲しくて初の一面記事があんな写真…」
「めちゃくちゃ泣いてたチカが悪い…」
「…お前とかぐっちゃんも写ってたけどな…」
「チカがあんなに泣くからつられたんだよ…」
全紙ではないがほとんどの新聞に三人で泣き崩れている時の写真を使われ、義経と神楽も巻き込み被害を受けていた。
本来ならば大会の緊張感から解放されたエキシビションは楽しいものだが今日はあの写真のせいで陰鬱だ。二人の出番は終わったが親慶は最後のアンコールでもう一度出る機会があった。しかしただで出るのもつまらないと一興を講じる事にしていた。そうこうしている内に会場全体にアンコールが響き渡り立ち上がった親慶は義経に向かい手を伸ばした。
「さぁ、みんなを驚かせに行くぞ!」
もし二人で表彰台に並んで上がれたらやろうと決めていた事だった。まさかこんな最高の順位の並びで披露する事になろうとは思ってもみなかったと二人は顔を見合わせて苦笑した。小道具を脇に抱えた親慶は一人でリンクの真ん中へ行くと持っていた絨毯を広げその上に座った。その光景に一部のファンがざわめく。
そして『AWhole New World』の曲が流れ始めるとざわめきは悲鳴に変わった。イントロが終わる頃にリンク上に現れた義経の手を取りいつかのアイスショーで披露したプログラムは初めて二人で作り上げたもので。本当は女子選手と組むことも考えてはいたが義経と組んだ方が気心は知れてるし練習もやりやすそうだという安直な理由で二人はこのプログラムに取り組む事にした。
まさかそれが別れを惜しむこの状況で披露する事になるとはその頃の二人は思いもしなかった。
親慶はこれが二人で演じる最後の機会だと悟り、後悔のないようにしようと覚悟を決めていた。
義経の心中は相変わらずぐちゃぐちゃだったが、それでも奥底にある願いに縋りつき、本当に自分が望む未来に進もうと震える足で前に進む決意をしていた。
だから今は、二人だけのこの時間を楽しもう…。
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