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【番外編】大不正解(東儀×神楽)
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練習も終わりすっかり暗くなった街をタクシーに乗り込み神楽は慣れたように行き先を告げる。
最後に会ったのは三年前。
差し出された手を一方的に振り切って別れたあの日、竜太との関係はあの瞬間に終わったはずだった。流れる景色を眺めながら神楽は過去を思い出しどんどんと気分が落ちていくのが分かった。
これから向かう部屋も辛い思い出ばかりが記憶から引き出され神楽は無意識に溜め息を吐いた。
…流されるように始まった不器用な恋だった。
臆病者と初心者の手探りの恋はとても美談になるような綺麗なものではなかったと神楽は嘲笑した。
求められるままに身体を重ね心とは裏腹に絆され慣らされ…暴かれたのは身体か心か。
「…」
それでもあの頃のあいつとの関係が恋ではないのだとしたら…俺は恋なんて知らなくていい。
そんな自問自答に答えは出ず。ホテルの正面入口に着き、必然的に開いたドアを恨めしく思いながらも神楽はフロントを通り過ぎ真っ直ぐに『いつもの部屋』へ向かった。
ホテルの最上階。
エレベーターを降りて伸びる廊下の窓からは幻想的だとも思えるほどキラキラと輝く夜景が広がっているが、こんなに重い気持ちで歩いているのは自分ぐらいだろうと神楽は何度目か分からない嘲笑を溢した。
ドアの前に立つとノックする事が躊躇われどうしたものかと悩む神楽だが、意を決して三回、控えめにノックをすると待ちわびていたかのようにドアはすぐに開かれた。
「よぉ、えらい遅かったな。待ちくたびれたわ」
明るい声で出迎える竜太に不機嫌を隠しもせず神楽は盛大に溜め息を吐いた。
「そもそも来るなんて言ってねぇよ…」
「来るってわかっとったよ?アキは昔から俺から逃げられへんもんなぁ?」
自信満々に言いきられ神楽は苦虫を噛み殺し渋々部屋の中へ歩みを進めた。
「何しに日本に来たんだよ」
「弁天 親慶」
悪態をついた神楽に竜太の一言が重くカウンターとして返ってきたことに驚きを隠せない神楽は大袈裟に体を跳ねさせた。
神楽には心当たりがあった。
先日の世界選手権で親慶に渡したプログラムは当時まだ日本にいた竜太が神楽のために用意したもので、神楽はそれを演じたら竜太と共にカナダへ拠点を移すつもりだった。しかし神楽はそのプログラムを世に出すことはなく電撃引退という形でフィギュアスケートの表舞台から姿を消し竜太からも逃げるように日本に残った。そして竜太は予定どおり一人でカナダへ拠点を移したのだった。
あのプログラムは二人の最高傑作で、共に歩き出すはじめの一歩でもあったのだが、それを勝手に反古にしたのは神楽だった。
「あのプログラムを見て、いてもたってもおられんくなって日本まできたんや」
「…バカか。あのプログラムにはなんの意味もない。ただ親慶に合うと思ってやらせただけだ」
「…三年前、なんで一緒についてきてくれへんかったん?最初は一緒に来てくれる気ぃやったやろ?」
「…」
逢いたくなかったのはその理由を問い質されるのが怖かったから…。
神楽は目の前に立ちはだかる男に一度眼鏡を上げると諦めの溜め息をつく。
「…彼女、置いてきたのか?」
「彼女…ナターリヤのことか?何回か写真撮られたけど別に関係ないで?」
「…子供、いたよな?確か三人…」
「ナターリヤが欲しいゆうたからな」
「…」
カナダへ渡った竜太はすぐに現地のモデルと浮名を流し、認めているだけで実の子供も三人いることも神楽はインターネットのニュースなどで知っていた。
日本にいる間中、あれほど自分に愛を語っていた竜太があっさりと、しかも女性と浮名を流したことがショックだったと告げるも竜太はあっけらかんと事実を肯定し、むしろ何故それが一緒にカナダに行かなかった理由になるのかと首を傾げる始末だ。
練習も終わりすっかり暗くなった街をタクシーに乗り込み神楽は慣れたように行き先を告げる。
最後に会ったのは三年前。
差し出された手を一方的に振り切って別れたあの日、竜太との関係はあの瞬間に終わったはずだった。流れる景色を眺めながら神楽は過去を思い出しどんどんと気分が落ちていくのが分かった。
これから向かう部屋も辛い思い出ばかりが記憶から引き出され神楽は無意識に溜め息を吐いた。
…流されるように始まった不器用な恋だった。
臆病者と初心者の手探りの恋はとても美談になるような綺麗なものではなかったと神楽は嘲笑した。
求められるままに身体を重ね心とは裏腹に絆され慣らされ…暴かれたのは身体か心か。
「…」
それでもあの頃のあいつとの関係が恋ではないのだとしたら…俺は恋なんて知らなくていい。
そんな自問自答に答えは出ず。ホテルの正面入口に着き、必然的に開いたドアを恨めしく思いながらも神楽はフロントを通り過ぎ真っ直ぐに『いつもの部屋』へ向かった。
ホテルの最上階。
エレベーターを降りて伸びる廊下の窓からは幻想的だとも思えるほどキラキラと輝く夜景が広がっているが、こんなに重い気持ちで歩いているのは自分ぐらいだろうと神楽は何度目か分からない嘲笑を溢した。
ドアの前に立つとノックする事が躊躇われどうしたものかと悩む神楽だが、意を決して三回、控えめにノックをすると待ちわびていたかのようにドアはすぐに開かれた。
「よぉ、えらい遅かったな。待ちくたびれたわ」
明るい声で出迎える竜太に不機嫌を隠しもせず神楽は盛大に溜め息を吐いた。
「そもそも来るなんて言ってねぇよ…」
「来るってわかっとったよ?アキは昔から俺から逃げられへんもんなぁ?」
自信満々に言いきられ神楽は苦虫を噛み殺し渋々部屋の中へ歩みを進めた。
「何しに日本に来たんだよ」
「弁天 親慶」
悪態をついた神楽に竜太の一言が重くカウンターとして返ってきたことに驚きを隠せない神楽は大袈裟に体を跳ねさせた。
神楽には心当たりがあった。
先日の世界選手権で親慶に渡したプログラムは当時まだ日本にいた竜太が神楽のために用意したもので、神楽はそれを演じたら竜太と共にカナダへ拠点を移すつもりだった。しかし神楽はそのプログラムを世に出すことはなく電撃引退という形でフィギュアスケートの表舞台から姿を消し竜太からも逃げるように日本に残った。そして竜太は予定どおり一人でカナダへ拠点を移したのだった。
あのプログラムは二人の最高傑作で、共に歩き出すはじめの一歩でもあったのだが、それを勝手に反古にしたのは神楽だった。
「あのプログラムを見て、いてもたってもおられんくなって日本まできたんや」
「…バカか。あのプログラムにはなんの意味もない。ただ親慶に合うと思ってやらせただけだ」
「…三年前、なんで一緒についてきてくれへんかったん?最初は一緒に来てくれる気ぃやったやろ?」
「…」
逢いたくなかったのはその理由を問い質されるのが怖かったから…。
神楽は目の前に立ちはだかる男に一度眼鏡を上げると諦めの溜め息をつく。
「…彼女、置いてきたのか?」
「彼女…ナターリヤのことか?何回か写真撮られたけど別に関係ないで?」
「…子供、いたよな?確か三人…」
「ナターリヤが欲しいゆうたからな」
「…」
カナダへ渡った竜太はすぐに現地のモデルと浮名を流し、認めているだけで実の子供も三人いることも神楽はインターネットのニュースなどで知っていた。
日本にいる間中、あれほど自分に愛を語っていた竜太があっさりと、しかも女性と浮名を流したことがショックだったと告げるも竜太はあっけらかんと事実を肯定し、むしろ何故それが一緒にカナダに行かなかった理由になるのかと首を傾げる始末だ。
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