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【番外編】大不正解(東儀×神楽)
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しおりを挟む「…突然ですが、私、神楽 愛灯はシーズン途中ではありますが只今をもちましてフィギュアスケートを引退します。理由は……自分の能力の限界を感じたからです。すみません、これ以上は何もお伝えする事はありません。失礼します…」
眩いフラッシュに追われるように必要なことだけを一方的に告げ、質問も受けず逃げるように会見場を後にした。
もう三年も前のことなのに何故今さら夢に見たのか…。
引退を後悔した日などないし撤回を考える気もない。
あるのはあの頃の、失望される恐怖のみ……。
世界選手権が終わりシーズン中の重く鋭い空気感とは違い和やかなムードの中、神楽は慌ててリンクへ向かい目の前に広がる光景に唖然とした。リンクの中央付近で義経がフードを被った男に後ろから羽交い締めにされていたのだ。その目の前で親慶が膝をつき呆然とその光景を見上げていた。
不審者の侵入かと神楽は不機嫌に舌打ちし、スケート靴のカバーを外すと勢いよくリンクへ飛び込み侵入者の背中に体当たりをした。
親慶ほどではないが神楽もそこそこ背が高い方なのだが侵入者はさらに高く、神楽は顔を上げフードを外した男が振り返った瞬間逃げ出したい衝動に駆られた。
「…久しぶりやな、アキ」
恐怖などではなく流暢な関西弁を喋るその男に神楽はいやと言うほど見覚えがあったからだ。
混乱で身体が強張る神楽はそれでも侵入者に目をキラキラと輝かせながら大人しく捕まっている義経の解放を優先する。
あぁ…そうだ。義経はこいつのファンだった。
膝をついて見上げる親慶も『なぜこの人がここにいるのか』と混乱して呆然としていることが分かると神楽は眼鏡を指で持ち上げ、頭を抱えながら溜め息を吐いた。
「…なんであんたが此処にいるんだ、東儀 竜太」
名前を呼ばれた男は目にかかる程の長さの金髪を掻き上げると酷く楽しそうに口端を上げ、神楽はそれに鋭い視線を返した。
「久しぶりやっちゅうのにそんなつれないコト言わんでや、アキ」
「大体、どっから沸いてきやがったっ!!義経、親慶の側から離れんじゃねぇぞ!!」
竜太の腕から義経の身体を無理矢理引き剥がすと、その体を親慶の方へ投げ捨て、自身は竜太の前へ立ちはだかった。
「少しくらい遊ばせてくれたってええやん…いけずやわぁ。それとも?昔みたいにアキが遊んでくれるん?」
「ふざけんのも…」
「いつもの部屋で待っとる。アキがくるのずっと待っとる…」
「っ!!」
軽口を叩く竜太に神楽は睨みながら噛み付こうとすると竜太は一瞬にして距離を詰めると神楽の耳元で優しく、しかし拒否を認めない強さも含みながら鼓膜を揺らした。
そのまま竜太は楽しそうに笑いながら義経と親慶に手を振りリンクを後にすると神楽は屈辱に満ちた表情で拳を握り締めた。
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