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やっぱり好き
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しおりを挟む「ヨーイ………スタート!!」
スタッフの声に続いてカチンコの乾いた音が響くと俯いていた義経がゆっくりと顔をあげる。
『もう…この関係、終わりにしよう…』
目を細め、苦しげな義経の表情はまるで自分のものかと思うほど、押し潰される胸が親慶の肺と思考を低下させる。
『どうして…?』
『やっぱり無理だったんだよ…男同士でこんな…』
『俺は無理だなんて思わない!…俺を…信じろよ…』
親慶が腕を掴むと義経の体は距離を取るように退く。
『…オレは……もうやめたい…』
離れる義経に、親慶の頭にフラッシュバックするのは先程の女子生徒と義経のやり取り。
義経だっていつか誰かと付き合って───嫌だ!!誰にも渡したくない!
『俺はお前と離れたくない…!』
『っ!!……ん……っ…』
現実とドラマが交錯する。
感情は思いの外簡単に行動に移すことが出来るものだと親慶の頭の中は冷静だった。
誰かのものになるならいっそ…。
腕を引き緊張に体を強張らせる義経の頬に手を当て、予定と違い唇をぶつけると義経は目を見開いた後、親慶の体を押し返すがびくともせず慣れないキスに肺が苦しさを訴える。
それでも監督からのカットはかからず、義経の頭が酸欠でぼぉーっとしてきたところで親慶の唇は離れたが腕の力は弱まることはなく眼差しは力強いまま義経を捕らえ続ける。
『…俺と…一緒に逃げよう…誰も、知り合いのいないところまで…』
『ぁ…』
『俺を信じてくれ…お前は絶対に俺が守るから…』
『…っ…!!』
目を離せない程の鋭い視線に義経は頭に入っていたはずの台詞も紡げずにいたのだが、親慶はそれをカバーしながら演技を続けていく。
『金も名誉もいらない……欲しいのはお前との未来だけ…』
『……後悔…しない…?』
絞り出した言葉は台本の台詞とは違うものだったが不安に揺れる義経の瞳を見つめる親慶の視線は変わらなかった。
『後悔なんてしない。俺に必要なのは義経だけだ』
『っ…』
近付く距離に、再びキスされるのかと身構える義経に親慶はお互いの額を合わせるとゆっくりと瞳を閉じた。
その様子を上目遣いに見ていた義経は伝わる温もりに安堵しつつ同じようにゆっくりと目を瞑った。
ドラマの中の二人はこの後、駆け落ち同然に町を飛び出し両親や友人に追われ…悩み苦しんだ義経は全てから逃げるように海に身を投げるというバッドエンドが待ち受けている。
現実はそうならないようにと願いながらも、もし、二人で生きていける未来があるのならそれはとんでもない荊の道だと親慶は心の中で苦笑した。
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