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攻防戦
素直な人(四)
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……手を出すつもりはなかったんだけどな。
ベッドの上に仰向けのまま、ベルティは自身の前髪を掻き上げた。
Ωを前にして、今まで理性よりも本能が上回ったことなんて一度もなかったのに。……ただ触れたいと、自分の物にしたいという欲に思考が一瞬で奪われた。
未だ熱っぽい体を落ち着かせようと深いため息をつく。セヴェーロに惚れてもらうつもりが、俺が本能に囚われたら世話ないな。
右手にはまだ、赤く色付いた肌に触れた感触が残っている。
……意外と柔らかい頬に、短く切っているのが勿体無いほど綺麗な髪。睨み上げた目の奥には、どこか困惑と恐怖の色が滲んでいた。
上に乗った体は小さくて華奢で……自分を強く見せようと威嚇する猫のようだった。
天井を見上げながら、酒に濡れた髪と肌の艶めかしさを思い出す。
――軽かったな。
あんなに細くてちゃんと子供を孕めるんだろうか……?
再びため息を吐いてベッドから立ち上がった。
一人のΩ相手に思考が全部取られるなんてらしくない。
……飲んできたα用の抑制剤の効果が切れてきた気がする。今日のところは出直そう。
扉を開け部屋の外に出ると、ガタイのいい男が横に立っていた。セヴェーロの部下で……αの男だ。
「何か用?」
「大尉が娼館を出るまでの見張りです」
「……信用ないな」
「貴方はボスにとって、平穏を乱しにきた侵略者でしかありません」
「出口はあちらです」と言ってエスコートしようとするオスカーに、ベルティは気に入らないと笑みを浮かべた。
済ました優等生のような顔をして……Ωの下に付いているαだって十分信用できないだろう。αというのは大抵、表と裏の顔がある。常に建前で話し相手を欺き、本音は腹の中に腐らせて決して表に出さない。
こいつだって愛しいボスにバレないよう、臭い欲を身の内に抱えているはずだ。
「君のボスは軽すぎじゃないか?上に乗ってもらったけど女みたいに華奢だった」
「あ゙?」
簡単な煽りに乗せられ、すぐ治安の悪い低い声が返ってくる。釣り上がった目尻から怒りが滲み、こめかみの上に青筋を作った。
「髪も艶があって綺麗だし、触り心地もいい。君もαなら思うだろう。あの白い肌に触れたいと……もしかして、そのために彼へ近づいたのか?Ωの部下になってまで」
「――貴方のような人が……っ」
ボスの運命の番を名乗るなんて。
悔しさと腹立たしさにグッと奥歯を噛み締める。もっと美しい、夢物語のような存在じゃなかったのか。
「王国はΩを子供を産むための、消耗品としか思っていない。死んだ命に換えなんてないのに……ボスは行き場のない人達に仕事を与えて、彼らのために安くシレーナを売ってる。どっちについて従いたいかなんて比べるまでもない」
「廃れた街を牛耳るマフィアの言葉とは思えないな」
「組の形なんてどうでもいい。ボスの守りたいものが守れるなら……アルフェラッツ王国の軍人が、あの人の運命だなんて反吐が出る」
「は?」
「何やってるのよ」
コツコツと高いハイヒールの音が響き、タイトな白いドレスに身を包んだエマが廊下の向こうから顔を出した。気付けば下に見えるラウンジから客室の扉、廊下の角と至る所か娼館の客が二人の様子を伺っている。
テナイドでは滅多に見ない大柄なα二人が、部屋の前で言い合いをしていれば当然目を引いた。
「場所を変えてくださる?……お客様も、付き合ってもらえるかしら」
「……丁度良かった。君と、話してみたいと思っていたんだ」
女性らしい艶やかな身振りを交え、二人の前を通り過ぎると別の部屋へ案内される。その柔くカールした長い紺色の髪から、Ωの甘ったるい匂いが漂っていた。
ベッドの上に仰向けのまま、ベルティは自身の前髪を掻き上げた。
Ωを前にして、今まで理性よりも本能が上回ったことなんて一度もなかったのに。……ただ触れたいと、自分の物にしたいという欲に思考が一瞬で奪われた。
未だ熱っぽい体を落ち着かせようと深いため息をつく。セヴェーロに惚れてもらうつもりが、俺が本能に囚われたら世話ないな。
右手にはまだ、赤く色付いた肌に触れた感触が残っている。
……意外と柔らかい頬に、短く切っているのが勿体無いほど綺麗な髪。睨み上げた目の奥には、どこか困惑と恐怖の色が滲んでいた。
上に乗った体は小さくて華奢で……自分を強く見せようと威嚇する猫のようだった。
天井を見上げながら、酒に濡れた髪と肌の艶めかしさを思い出す。
――軽かったな。
あんなに細くてちゃんと子供を孕めるんだろうか……?
再びため息を吐いてベッドから立ち上がった。
一人のΩ相手に思考が全部取られるなんてらしくない。
……飲んできたα用の抑制剤の効果が切れてきた気がする。今日のところは出直そう。
扉を開け部屋の外に出ると、ガタイのいい男が横に立っていた。セヴェーロの部下で……αの男だ。
「何か用?」
「大尉が娼館を出るまでの見張りです」
「……信用ないな」
「貴方はボスにとって、平穏を乱しにきた侵略者でしかありません」
「出口はあちらです」と言ってエスコートしようとするオスカーに、ベルティは気に入らないと笑みを浮かべた。
済ました優等生のような顔をして……Ωの下に付いているαだって十分信用できないだろう。αというのは大抵、表と裏の顔がある。常に建前で話し相手を欺き、本音は腹の中に腐らせて決して表に出さない。
こいつだって愛しいボスにバレないよう、臭い欲を身の内に抱えているはずだ。
「君のボスは軽すぎじゃないか?上に乗ってもらったけど女みたいに華奢だった」
「あ゙?」
簡単な煽りに乗せられ、すぐ治安の悪い低い声が返ってくる。釣り上がった目尻から怒りが滲み、こめかみの上に青筋を作った。
「髪も艶があって綺麗だし、触り心地もいい。君もαなら思うだろう。あの白い肌に触れたいと……もしかして、そのために彼へ近づいたのか?Ωの部下になってまで」
「――貴方のような人が……っ」
ボスの運命の番を名乗るなんて。
悔しさと腹立たしさにグッと奥歯を噛み締める。もっと美しい、夢物語のような存在じゃなかったのか。
「王国はΩを子供を産むための、消耗品としか思っていない。死んだ命に換えなんてないのに……ボスは行き場のない人達に仕事を与えて、彼らのために安くシレーナを売ってる。どっちについて従いたいかなんて比べるまでもない」
「廃れた街を牛耳るマフィアの言葉とは思えないな」
「組の形なんてどうでもいい。ボスの守りたいものが守れるなら……アルフェラッツ王国の軍人が、あの人の運命だなんて反吐が出る」
「は?」
「何やってるのよ」
コツコツと高いハイヒールの音が響き、タイトな白いドレスに身を包んだエマが廊下の向こうから顔を出した。気付けば下に見えるラウンジから客室の扉、廊下の角と至る所か娼館の客が二人の様子を伺っている。
テナイドでは滅多に見ない大柄なα二人が、部屋の前で言い合いをしていれば当然目を引いた。
「場所を変えてくださる?……お客様も、付き合ってもらえるかしら」
「……丁度良かった。君と、話してみたいと思っていたんだ」
女性らしい艶やかな身振りを交え、二人の前を通り過ぎると別の部屋へ案内される。その柔くカールした長い紺色の髪から、Ωの甘ったるい匂いが漂っていた。
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