新田二五は何もしたくない

綿貫早記

文字の大きさ
27 / 45
二章

episode 15 集合写真

しおりを挟む
 *
 星野が受付の男性と話し始めたので、新田と日向は先に双山村郷土資料館を見て回ることにした。
 中に入った二人は、順路に従ってゆっくりと歩き出す。
 最初の展示室には、畳の上に置かれた火鉢があった。中には灰が残り、今にも煙が立ち上りそうな気配を漂わせている。
 展示室の奥へ進むと、隣の部屋へとつながる開口部があった。そこには、かつて村で使われていた農具や生活道具が並んでいた。
 木製の桶、手回しの脱穀機、煤けたランプなどが置かれ、どれもかつての暮らしを語っているようだった。
 壁際には、和紙に墨で描かれた双山村の古地図が掲げられていた。今はもう存在しない小道や、かすれて読めなくなった文字のようなものも記されていた。
 ふと、古地図の横の壁に掛けられた一枚の白黒の集合写真が目に入った。
 色褪せたその写真の中で、村人たちは誰一人として笑っていなかった。
 整列したまま、無表情でこちらをじっと見つめている。
 写真の下には、村人たちの名前が記されていた。
 新田は、写真と人物たちの名前を一人ひとり見ていた。すると、その中に「久遠小春」という名前を見つけた。
 その名前に、聞き覚えがあった。

「久遠小春って、伝説の話に出来てきた、最初に生まれた女の子の名前じゃないか?そうか……久遠家は小春だけが生きていたのか。ん?ってことは、村長の久遠は――久遠小春の子孫ってことになるのか?うーん……それにしても、伝説に出てきた人物の名前が本当に存在していたなんて。成宮君たちは、ミステリーの裏スポットや裏話を探すのが、よっぽど上手なんだな……感心してしまうよ」

 すると、横で一緒に写真を見ていた日向が、一人の名前を指して言った。

「先生、この一番最後の方の苗字は、何て読むんですか?」
「その苗字か、確か~……あっ!躑躅森《つつじもり》って読むんだよ」
「へぇ~、珍しい苗字ですね。でも、どこかで聞いたことがあるような……
それに、この“つ、つつじもり?”って方だけ、説明が書かれてます」
「本当だ」

 日向は、真剣な表情で説明文を読み始めた。
 新田は隣で腕を組み、その横顔をちらりと見て、静かに読み終わるのを待った。
 説明を読み終えた日向は、隣に立つ新田の方を向き、ゆっくりと口を開いた。

「双双山にいた人たちを、双山山に拠点を移そうって最初に言い出したのが、躑躅森だったって書かれてますね。しかもそのあとに『躑躅森の力について』って見出しがあって、その下に……なんか、謎めいた言葉が書かれてます。
『天上様、どうかこの大雨を止ませて下さい。』
躑躅森が天に向かって言ったとたん、雨が止んだ――って。
……あっ、思い出しました!彰人から聞いた伝説の話に、躑躅森って名前の人が出てきましたよね!
たしか、大岩の前で“雨を止ませてください”みたいなことを言ったって、彰人が言ってませんでしたっけ?
……やっぱり、伝説って本当だったんですかね?」

 新田は首を傾け「……躑躅森、か」とぽつりと言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

嘘コクのゆくえ

キムラましゅろう
恋愛
アニーは奨学金とバイトで稼いだお金で魔法学校に通う苦学生。 生活は困窮、他の学生みたいに愛だの恋だのに現を抜かしている暇などない生活を送っていた。 そんな中、とある教授の研究室で何らかの罰としてアニー=メイスンに告白して来いと教授が学生に命じているのを偶然耳にしてしまう。 アニーとは自分のこと、そして告白するように言われていた学生は密かに思いを寄せる同級生のロンド=ハミルトンで…… 次の日、さっそくその命令に従ってアニーに嘘の告白、嘘コクをしてきたロンドにアニーは…… 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 誤字脱字が罠のように点在するお話です。菩薩の如き広いお心でお読みいただけますと幸いです。 作者は元サヤハピエン主義を掲げております。 アンチ元サヤの方は回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

(完結)姑が勝手に連れてきた第二夫人が身籠ったようですが、夫は恐らく……

泉花ゆき
恋愛
蘭珠(ランジュ)が名門である凌家の嫡男、涼珩(リャンハン)に嫁いで一年ほど経ったころ。 一向に後継ぎが出来ないことに業を煮やした夫の母親は、どこからか第二夫人として一人の女性を屋敷へ連れてくる。 やがてその女が「子が出来た」と告げると、姑も夫も大喜び。 蘭珠の実家が商いで傾いたことを口実に、彼女には離縁が言い渡される。 ……けれど、蘭珠は知っていた。 夫の涼珩が、「男女が同じ寝台で眠るだけで子ができる」と本気で信じているほど無知だということを。 どんなトラブルが待っているか分からないし、離縁は望むところ。 嫁ぐ時に用意した大量の持参金は、もちろん引き上げさせていただきます。 ※ゆるゆる設定です ※以前上げていた作の設定、展開を改稿しています

完結 彼女の正体を知った時

音爽(ネソウ)
恋愛
久しぶりに会った友人同士、だが互いの恰好を見て彼女は……

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

幼馴染か私か ~あなたが復縁をお望みなんて驚きですわ~

希猫 ゆうみ
恋愛
ダウエル伯爵家の令嬢レイチェルはコルボーン伯爵家の令息マシューに婚約の延期を言い渡される。 離婚した幼馴染、ブロードベント伯爵家の出戻り令嬢ハリエットの傍に居てあげたいらしい。 反発したレイチェルはその場で婚約を破棄された。 しかも「解放してあげるよ」と何故か上から目線で…… 傷付き怒り狂ったレイチェルだったが、評判を聞きつけたメラン伯爵夫人グレース妃から侍女としてのスカウトが舞い込んだ。 メラン伯爵、それは王弟クリストファー殿下である。 伯爵家と言えど王族、格が違う。つまりは王弟妃の侍女だ。 新しい求婚を待つより名誉ある職を選んだレイチェル。 しかし順風満帆な人生を歩み出したレイチェルのもとに『幼馴染思いの優しい(笑止)』マシューが復縁を希望してきて…… 【誤字修正のお知らせ】 変換ミスにより重大な誤字がありましたので以下の通り修正いたしました。 ご報告いただきました読者様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。 「(誤)主席」→「(正)首席」

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...