新田二五は何もしたくない

綿貫早記

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三章

episode 1 隠し部屋

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 双双山の中に、真っ白い外観のI字型の建物が、真っ直ぐ横に伸びるように建っていた。 
 玄関に入ると、信者たちや、信者につれられてきた訪問者が靴を脱ぐためのスペースがあり、すぐそばには、体を清めるための輝水が湧き出る水道口と紙コップが設けられている。
 真っ直ぐ進んでいくと、信者達の生活区画が広がっており、そこには移住区や食堂、そして少し広めの談話スペースがある。
 そこを通りすぎてさらに真っ直ぐ進むと、輝水殿へと続く廊下がある。
 その廊下の床は厚いガラス張りになっており、下には輝水が静かに流れている。信者たちはその上を『幸せへと導かれる』と信じて歩く。
 天上の光が輝水に反射し、光の波が揺れるように見える。歩くたびに水音が響き、せせらぎの音が囁きのように心に届く。
 そして、輝水殿に入ると、広々とした空間に整然と椅子が並べられており、正面には教団の象徴である白い壁が高く立ち上がっている。
 その壁の向こう側には、教祖や幹部たちの個室が並んでおり、信者たちの目には触れない“聖域”として隔てられている。
 教祖が現れる時は、壁の中央にある扉がゆっくりと開き、信者たちの前に姿を現すようになっている。

 輝水殿に向かう廊下の途中、壁の模様に紛れるようにして、信者たちが気に留めることのない小さな扉がある。
 一人の信者――二十代の男性は、周囲に他の信者の姿がないことを確かめると、小さな扉を開けて中に入る。その奥には、薄暗く地下へと続く階段が伸びていた。
 男性は、教祖の側近に言われたことを思い出す。

『明日の双山村祭りに使われる双炎柱そうえんばしらは、すでに二本、村人たちによって用意されているのを確認しました。今夜“アレ”をその柱の中に入れてきなさい。
絶対に誰にも気づかれてはなりません。
明日、村人が火を点ければ、“アレ”はただの燃えカスになるだけです。
村長には、双炎柱の後始末は輝水天上天下の信者たちで行うと伝えてあります。
ですから、問題はありません。
今夜“アレ”を運べるよう、準備をしておきなさい』

 男性は階段を降りていくと、段々と水の音が聞こえてくる。地下につくと、そこには「輝水」と呼ばれる湧水が湧きだしている。地下に湧き出す輝水は、施設の装置によって地上へと汲み上げられ、施設内へと送り込まれている。
 また、隣山――双双山と橋でつながる双山村へも、輝水は分け与えられている。
 そこを通りすぎ、さらに奥へ進むと、教祖と側近の雨宮と幹部の数人、そして“アレ”の世話係である自分だけが知っている隠し部屋がある。ここに、“アレ”は閉じ込められている。
 世話係の男性は、白い作務衣のポケットに手を差し入れ、小さな鍵を取り出した。
 そして隠し部屋の鍵を開け、ドアをゆっくりと開ける。
 部屋の中は暗く、ジメジメと湿っぽい。電気をつけても、薄暗さが残るだけだった。あたりを見渡したが、誰の姿もなかった。
 ゆっくりと部屋の中心まで歩いていくと、ふと、部屋の隅に気配を感じた。
 目を向けると、そこには背中まで伸びた、乱れた真っ黒な長い髪をした、白無地の着物を着た“アレ”が、静かに立っていた。
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