新田二五は何もしたくない

綿貫早記

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三章

episode 2 二十数年前……

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 *
 私は片桐風子。コンクリートの箱のような監禁部屋に連れてこられてから、もう二ヶ月が経つ。
 外から鍵がかけられ、逃げ出すことはできなかった。
 一週間前からは水しか与えられず、体を起こすのも辛い。
 その日、隣の部屋からアレの声と男の声が聞こえてきた。
 きっと、“あの計画”の話をしているのだろう。
 二ヶ月前、雷雨の真夜中に現れたアレは、私が知らなかった双山村の秘密を語った。
 私の知らないところで、“あの計画”はすでに始まっていたのだ。  


 **
 それは、まだ私が生まれるずっと前――
 二十数年前……

 片桐一郎いちろうの昔からの友人、雨宮あまみやしげるが、ある日ふいにこう言った。

「俺が最近知り合いになった人なんだが、会ってくれないか?」

 そして彼が双山村に連れてきたのが、宇佐美うさみ佳乃よしのという女性だった。
 一郎は、佳乃のその美しさに、一瞬で心を奪われた。
 友人が先に帰ったその夜、出会ったばかりの一郎と佳乃は、激しく惹かれ合い、肉体関係を持った。
 だが、一つだけ問題があった。
 一郎には、片桐静子しずこという妻がいたのだ。
 それでも佳乃は「構わない」と言い、二人の関係は続いていった。
 そんなある日、双山村の村長、久遠宗一郎の家に、三、四十代ほどの男がふらりと現れた。
 そして突然、その男はこう言った。

「私は、天上様の声を天下に告げる力を持った者です。この近くから湧き出る水を通して、天上様はお告げをくださっています。
私の力で、湧水を“輝水きすい”へと変えました。苦しんでいる者たちを集め、輝水を与えるのです。
そうすれば、苦しむ者は再び輝きを取り戻すでしょう。そしてこの双山村も、潤うのです。
――そう、天上様は仰っております」

 宗一郎はその男を見つめ、次の瞬間、大声で嘲笑った。

「俺を騙そうとしても無駄だ!この村には湧水など、どこにもない!何が“天上様の声が聞こえる”だ!嘘をつけ!帰れ、帰れ!」

 するとその男は、宗一郎の目をじっと見つめて言った。

「天上様は“この村”とは仰っていません。この近くから湧き出る水、と仰ったのです。そしてその“近く”とは、かつて双双山村があった場所。
そこから湧水が出ていると、天上様は天下に告げておられます」
「ほぉ~!じゃあ確認しに行って、湧水が出ていなければどうする!?」
「天上様の言葉は絶対です。しかし、もし湧水が出ていなければ――あなたの願いを、どんなものであれ、私が叶えましょう」

 その男の一言一言が不気味に響き、宗一郎は一瞬、怯んだ。

「わ、分かった!……じゃあ村人たちを集めて、湧水が出ているか明日確認しに行こうではないか!」
「分かりました。では、明日またこちらに伺います」

 翌日。
 宗一郎は村人十数人を連れて、男とともにかつて双双山村があった場所へ向かった。すると――本当に、男の言ったとおり湧水が湧き出していた。
 村人たちは驚き、ざわめき始める。

「……言ってた通りだ…」
「本当に……力があるんじゃ……」

 そんな声が上がる中、宗一郎だけはなおも疑いの目を向けていた。

「こんな湧水が出ていることぐらい、まぐれで言い当てたのかもしれん!それに、もし湧水が出てなければ、適当なことを言って逃げるつもりだったのだろう!?」

 男は静かに言った。

「仕方がありませんね。では、私が天上様から授かった“未来を予知する力”をお見せしましょう」

 村人たちは、湧水が出ていたのを目の当たりにしたことで、男の言葉を信じ始めていた。
 だが――宗一郎だけは、なおもその目を鋭く細めていた。

「み、未来を予知する力だと?そんなものがあるなら、見せてみろ!!」

 すると男は空に顔を向け、目を閉じると、ぶつぶつと何かを唱え始めた。
 やがてピタリと静かになり、目を開けて宗一郎と村人たちに顔を向けた。

「この村にいる一人の未来が見えました。双子を妊娠している女性がいます。年齢は二十代の方です」

 それを聞いた宗一郎の脳裏に浮かんだのは、結婚している娘の静子の顔だった。

「この村で二十代で結婚している女は、ほんの数人しかおらん!だが全員、妊娠などしておらんぞ!嘘をつくな!」

 男は落ち着いた声で静かに答えた。

「今すぐ信じてもらえるとは思っておりません。ですので、一年後に再びこの村を訪れます。そのとき、私の予知が的中していれば――それが天上様の力だと信じていただけますか?
そしてこの湧水を“輝水”という名を与え、苦しんでいる人々を救うために使わせてください」

 宗一郎と村人たちは話し合い、やがて頷いた。
 男が背を向け、立ち去ろうとしたそのとき、宗一郎が声を上げた。

「おい待て、お前の名前をまだ聞いてなかったな!」

 男は振り返り、静かに名乗った。

「昔、先祖がこの村で“予知の力”を持っていたと言われています。私はその子孫、躑躅森つつじもり たすくです」
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