あほうぎ

降守鳳都

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かきおき

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 ある国に阿呆がいました。
 阿呆は実はかしこい人でした。
 これは、『あほうぎ』でみんなと話が出来るようになって、みんなと仲良くなってからのお話です。
 その日阿呆は、たまたま『あほうぎ』を家に忘れて外に出て、みんなのうちの一人と道であったので、「こんにちは!」と元気よくあいさつをしました。
 阿呆は相手から「こんにちは」が返って来ると思っていたのですが、あいさつをされた人は、迷惑そうに顔を手でぬぐって、そのまま歩き去ってしまいました。
 「あれ?」と阿呆は思ってから少し考えてみました。そして『あほうぎ』を家に忘れて来ていることに気づきました。
 さっきの人は『あほうぎ』がなかったからそのまま歩き去ってしまったのかも知れない。
 そこで阿呆は『あほうぎ』を取りに家に帰ることにしました。家に戻る道を走っている阿呆を見ていた雲上の神様は、それを見てにこやかに微笑んでいましたが、そこへ遙か遠くの星から仏様がピュッとやって来て、長い手を伸ばして阿呆の家の中にある『あほうぎ』を取り上げました。
 「えっ?なんで」と神様がおどろいている間に、仏様は一枚の紙を取り出してその上でぐるぐるぐるぐると指を回しています。回している指はそのうちに紙からはみ出して、仏様は宙の上でさらにぐるぐるぐるぐる指を回して、そのぐるぐるが、ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるした時に指が止まりました。
あっけに取られている神様を見て、仏様は涼しげな笑みをうかべて、今まで神様が聞いたことのないひびきをしたやさしい声で、
 「この『かきおき』を与えなさい」と言って、来たときと同じようにピュッと遙か遠くの星へ帰っていきました。
 さて、阿呆が家に戻ると、『あほうぎ』がおいてあったところに、ぐるぐるぐるぐる渦が描かれている『かきおき』がありました。
 阿呆は『あほうぎ』がなくなっているのを気にもせずに、『かきおき』を手に持って外に出ました。
道を歩いていると、さきほどとは別のみんなのうちの一人がこちらに向かって歩いて来ました。阿呆は『かきおき』に描かれているぐるぐるぐるぐるの渦が気になっていたので、『かきおき』を顔のまえで持ったまま、
 「こんにちは!」とあいさつをしました。すると描かれているぐるぐるぐるぐるの渦がにじんでぼやけて見えました。
 今度は相手も「こんにちは」とあいさつを返してくれましたが、阿呆は次に何を話せば良いのか分からなかったので、返事の代わりに頭を下げてお別れをして家に帰ることにしました。
 家に帰ってから阿呆は、ぐるぐるぐるぐるの渦に向かって、一人で「こんにちは!」と言ってみました。すると、さっきと同じように、描かれているぐるぐるぐるぐるの渦がにじんでぼやけて見えました。何度「こんにちは!」を言っても同じようになってしまいます。
 「こんにちは!」を言いすぎて、つかれてきた阿呆が小さな声で「こんにちは!」と言ったときにぐるぐるぐるぐるの渦がぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる紙から飛び出して、天井を破って空に上がっていき雲の中へと消えました。
 そして、ぐるぐるの渦を飲み込んだ雲の形が変わって雨が降って来ました。天井がなくなった阿呆はぬれるがままで、落ちてくる雨粒を手でぬぐいながら、ただぼうぜんと空を見上げました。
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