2 / 15
2
しおりを挟む
自分の住んでいるこの町は、いわゆるベッドタウンというやつで。交通の便は良いが、適度に田舎で家賃相場が安く、車を持っていなくても十分に暮らせる良い街だ。大きな川もなく、海にも距離があり、災害にも強そうだった。いくつかの町や村が合併して、市としての面積は広い方だが、背の高い建物はあまりない。しかしながら、最新設備の総合病院ができたばかりだし、広域の災害拠点となっているため、消防署も大きい。近年住宅は増えつつあり、住民も増えているので、商店街には活気がある。十数年前には、シャッターの降りていた空き店舗もあったそうだが、賃料が安いため若年層の出店が増えているとか。昔からある店と新しい店とで不思議な風景を作っていて、それを求めて電車で遊びに来る客も多い。面白いところである。
自宅は、駅前にあるその商店街から、自転車で十分ほどの、丘の中腹にある。坂道を登らなければならない立地のおかげで、この地域の中でも家賃は安い方だった。
シャワーを終えると、座卓に置いたスマホが点滅している。手に取ると、画面には面接日程の件とポップアップがあった。開いてみると、今日面接予定だった、明楽(あきら)フーズの、晴海という担当からだった。履歴書は、伊住に預けてきたのだが、どうやらそれで不採用が確定したわけではなかったらしい。水曜の三時はどうかとの打診である。もちろん予定はないので、その旨返信して、スマホを置いた。カバンから名刺入れを取り出す。中には、帰りがけに渡された、伊住の名刺が一枚だけ。自分のものはもとより、以前の仕事関係の縁は、全部切りたくて処分した。もちろん、スマホのアドレスも。今日手に入れたこの新しい繋がりが、続けばいいのだが・・・。
明楽フーズ、商品開発部、伊住藍(いずみらん)。瞳の色と肌の色から、なんとなく外国の人かとも思ったが、名前は日本人みたいだった。
いろいろと、無敵そうな外見だったと思い起こす。
精悍な顔立ちで、真面目そう。若そうな感じだったが、いわゆるチャラさがない。遊びのない佇まいは、どっしりと落ち着いていて、優美な外見とは裏腹に、高嶺の花といったところ。潔癖すぎて、女性も距離を置いてそうだと思った。どちらかと言うと、少し冷たい印象。耳の奥に響く低い声が心地よかった。流暢な話し方だった。
それに・・・いい匂いだった。
もし、自分が女性だったなら、好きになってしまいそうな。
柔らかな香り・・・。
いや、女性だったらどうだったろう?
むしろ、自分が男だから、あの匂いが好きなのかもしれない。
変な感覚・・・。
香水の銘柄がわかれば、欲しいかと問われると頷けない。あれは、彼から香るからいいのだ。
似合っている・・・のかな。
それだけ・・・?
一方の自分はといえば、背丈は日本人の平均より少し高いが、荒れた食生活と運動のできない環境で痩せてしまい、貧相な肉付きである。顔は、年より幼く見られることが多い丸顔で、瞳も髪も黒。前髪を左寄りで流したツーブロックである。どこにでもいそうな見た目は、女性にモテたりすることはなく、ごく平凡な学生時代を送った。今やそう少なくない、清らかな体の成人男子だ。アピールポイントとしては、人に移るような病気を持っていないことだろうか。
いい男、だったな。
伊住である。もし、採用になったとしても、店舗のアルバイトと、本社の社員では、接点はないように思う。世の中には、ああいった恵まれた人間がいる。そういう人は、どんどん幸せになっていったりするのだろう。あわよくば自分も、おこぼれに預かりたいものだ。家賃が払えなくなることを心配したり、すべてにおいて節約を強いられ、たまの贅沢がジェラート・・・。
いやいや。ジェラートはいいんだよ。あれは人生のうるおいなんだから。
今のところ、ほかに魅力を感じるものはあまりない。つまり、ジェラートは自分にとって、なくてはならないものと言えた。
毎日ジェラートと仕事ができたら・・・幸せだろうなぁ。
水曜の面接は、今日と同じネクタイでいいだろうか。そんなことを考えながら、寝ることにした。
朝ごはんに、ハムを四枚のせた卵二個の目玉焼きを食べたから、今日は気合が入っている。そして、お昼は商店街にあるホットサンドのお店で軽く食べて、電車に乗った。
いつものスーツを着て、今日こそ面接、の水曜の午後。からりと晴れた空は青く、とても暑い。夏物とはいえ、ジャケットの下はしっとりと汗をかいていた。
ニオイ、大丈夫だろうか。
食品関係の会社の面接である。清潔感は、他の会社よりも重要だろうから、汗臭かったりしたら台無しだ。空いている時間帯の電車の中は、冷房もしっかり入っているが、汗が気になるのは緊張しているからだろうか。
別のことを考えよう。
面接から、いったん頭を切り替えることにした脳裏に浮かんだのは、伊住の顔だった。
会えるかな。
・・・?
会えるかな??
なにを考えたんだろう。普通に考えて会えないと思う。人事の人間ではないし、この間だってどうして彼が自分の相手をしたのか、よくわからない。しかし、なんでそう思ったのかを追及する間もなく、電車は目的の駅に着いた。
一昨日来たばかりのビルに、また足を踏み入れる。覚えている道順をなぞりながら、エレベーターに乗り、明楽フーズの前にはすぐにたどり着いた。ドアを開けるが、オフィスには前回よりも人が少なかった。その、奥の方のデスクから、こちらに気付いた男性がスタスタとやってくる。
「こんにちは。高梨さんですね。」
「はい。高梨です。」
一礼すると、相手も会釈した。
「先日は不在で失礼しました。メールした晴海です。よろしくお願いします。こちらへどうぞ。」
四十代くらいの男性は、ニコニコとそう言うと、こちらです、と歩きだした。軽く頭を下げてから、後について歩く。どうやら一昨日の応接室とはまた別の部屋だ。ガラスのドアを開けると、寒いくらいに冷房が効いており、向かって左手の席を示される。一般的なミーティングルームのようで、テーブルも椅子も簡素なものだった。
「どうぞ。」
晴海はそう言いながら、向かいに座る。失礼しますと席に着き、背筋を伸ばした。
「伊住から話は聞きました。履歴書をありがとうございます。拝見しました・・・。店舗の方は、立ち仕事ですし、体力勝負なところありますが、どうでしょう。問題なさそうですか?」
体力には自信があります!なんて返せたらいいのだろうが、そうでもない。学生時代に、コンビニでアルバイトをしたことがあるが、早朝シフトで、長くても一日四時間ほどだった。丸一日、立って接客するのは、確かに大変かもしれない。しかし、ここは大丈夫と答えるところ。
「客足にもよりますが、休憩は取れる人員配置をしていますので、食事はとれないことないと思います。休日も。あぁ、逆にしっかり働きたいと、物足りないかもしれません。多くても週五日の勤務になります。基本は四日ですね。その分時給は他より高めに設定されていますが。」
そうなのか。家賃を払って、一人で生活できる程度は収入が見込めないといけないのだが。
悩んでいると、晴海は難しい顔をして首を傾げた。
「生活費を安く上げるなら、弊社には寮がありまして。今は空きがあるので、アルバイトでも利用できますよ。」
「社員じゃなくても、住めるんですか?!」
晴海の提案に、思わず声が大きくなる。家賃とライフラインがかなり楽になるだろうことを思い、飛びつきそうになる。いやいやまてまて。まだ採用とは限らない。というか、なんで、そんなこと言ってくるんだろう。自分はそんなに魅力的な人間ではないはずだ。
「あの・・・。そんなに良い条件で、他に応募してくる人はいないんですか?」
恐る恐る聞いてみる。すると、晴海は困った顔で、笑った。いないわけではないんですが、と前置きし、眉尻を下げる。
「あの商店街は、どこのお店も条件がいいので、アルバイトは取り合いなんです。それもあって、時給はやや高めです。
あと、福利厚生がいいのが自慢なので、従業員は好待遇です。なので、一度採用されると、やめる人が少ないので、人間関係が密です。そういった環境を好まない方も多くて。希薄な人間関係を求めている方には向きません。あそこの店舗は特にフレンドリーというかアットホームというか・・・飲み会も多かったりします。そういうのが、楽しめる方でないと、難しいかな、と。」
そういうことか。すでに出来上がって固定化している人間関係に飛び込むのは勇気がいる。自分は、わりと人懐こい方だが、それは相手によるし。
唸っていると、晴海は苦笑した。
「試用期間も三か月ありますので、まずは試してみませんか。」
ん?
「・・・あの。それって採用、ってことなんですか?」
今度はこちらが首を傾げた。
「・・・そうです。」
少し言い淀み、晴海はしかし、しっかりと頷いた。
なんで?
どこにも採用される要素が見当たらないのだが。
「事情がありまして。お願いする立場なのは、こちらなのです。」
なんで?
上手い話には気をつけろ、と警鐘が鳴る。
一呼吸おいて、答える。
「・・・考えさせていただいても、いいんでしょうか。」
「即決できる状況でないのは承知です。用心深くて、逆に安心しました。・・・なるべくいい返事を期待しています。」
あやしいことを言っている自覚があるのか、晴海はもはや苦笑を浮かべることもなく、ただただ困り顔だった。
帰り道、自転車をこいで坂道を上る。
なんか変な話じゃなかったか?
大丈夫なんだろうか。
魅力的な提案もあったけれど。
あのあと、時給についてなどの話を少しして、返事は今週中には欲しいと言われ、ビルを出た。
伊住には、やはり会えなかったと思いながら帰路についた。
今週中に返事、ってことは金曜の六時までだよなぁ。
なんだか疲れてしまったので、小さな湯船にお湯を張り、かれこれ二十分つかっている。体を折りたたむほどではないが、狭いそこで寛げているかどうかは謎だ。
会社のホームページを見たり、店舗の口コミを見たり、つぶやきを見たりと、情報収集をしてみたが、今のところ悪い話はない。むしろ評判は良い方で、強いて難を上げるとしたら、会社上層部が家族経営だということか。しかし、そんな上の方のこと、アルバイト志望の自分には関係がないように思う。それより感心したのは、ジェラートへの情熱というか、商品への姿勢だった。開発には、ジェラートの本場から人と機械を導入し、材料はその時々で産地を変える。工場の衛生管理はもちろん、店舗でも徹底されている。定番には特に力を入れているようだった。季節ごとの限定品については、ノベルティ含めて一度は買いたくなるような魅力がある。
商品開発とマーケティングが上手なのだろう。楽しそうな会社だな、と思う。そんな社風が反映されたのが会社の名前なのかと思ったら、創業者の苗字とのこと。明楽(あきら)、明るく楽しいなんて、なんて素晴らしい。二つ返事でОKしても良かったんじゃないかと思う。けれど・・・。
なぁんかこう・・・ひっかかるというか?
上手い話は怖い。前のブラック企業だって、相当よさそうなことを言っていた。おかげで少しだけど、見る目は養ったようにも思う。なによりも、駄目だったら次に行くという選択肢ができた。職歴がぐちゃぐちゃになる前にどこかに落ち着きたいが。持ち前の諦めの良さが発揮されると、お先真っ暗の予感さえする始末だ。
「とりあえずはバイトでいいんだよなぁ・・・。」
提示された時給なら、社会保険も入れる。新卒の手取りとそう変わらない。むしろ時間にゆとりができる分、QОLは上がると思う。試用期間が終わったら、寮に引っ越せば貯金もできそうだ。朝夜の食事つきだというから、家事負担も減る。
無職よりは・・・。
独り立ちしたとはいえ、実家の父には仕事を辞めたことを報告した。ほぼ一人で家族七人養っていた父だ。稼ぎのない自分を許すはずがない。自分のことは自分で何とかしないと。実家には頼らない。まだ、下に三人の弟妹がいる。甘えられない。それは絶対あり得ない。兄の陰で、目立った存在ではなかったが、いい歳だし、仕送りできないまでも、迷惑だけはかけられない。焦って決めても碌なことはないと重々承知だが。
「よし。」
ざぶ、とお湯で顔を拭う。
返事は決まった。
アルバイト先が決まったので、商店街の稲荷にお礼参りに来ている。お賽銭の五百円玉をいれ、深々と頭を下げて、お礼をする。社の奥には、薄い青色の紫陽花が咲いていて、よく見るとその下にも小さな社があった。なんとなくしゃがみ込み、財布にあった五円を置いて、人間関係の無事を祈る。良いご縁に恵まれたい。
お参りを終えて、アーケードを歩く。足はジェラート屋の方に向いていた。気温が高い。七月でこれなら、夏休みはもっと暑いだろう。ジェラートはきっとよく売れる。忙しいだろうな、と思い店の方を窺う。列には今日も子供連れの女性が並んでいた。なんとなく、それを避けて、手前のアクセサリーショップで足を止めた。欲しいものがあるわけではない。少し、苦手なのだ。
子供が、とか。女性が、とか。それを取り巻く、普通の家族、を想像させるものに、不快感がある。嫌悪感と言ってもいい。これは根深い問題で、少なくとも自分はそれを欲していなかった。
アルバイトを始めたら、あの客層は避けられない。失念していたわけではないが、あえて蓋をして見ないようにしていた。
慣れるかも・・・しれないし。
このままの自分だと、家族を作れる気がしない。自身はそれでもいいが、両親は孫の顔が見たいだろう。四つ年上の兄にも、よく催促しているのを知っている。普通に結婚して、できれば大家族に。子孫はどんどん増やすべき。時代錯誤な父のその思想は、心に暗い影を落とす。
ぼんやり、並んでいる商品を見ていると、あとからやってきた女子高の制服の二人組が、ひそ、と奥の看板を指さして財布の中身を確認しだした。気になってそちらを見ると、銀色のプレートには占い、とある。ここでそんなものをやっているなんて初耳だ。けれど自分は、神様は信じるし、稲荷には参るし、雑誌の占いも気にするのである。個人的に対面での占いは初めてだが、今はすごくそのプレートが気になった。
ちょっと、今後の運勢とか知りたいかも。
無駄遣いはできないが、収入のあてはできたし、少しくらいいいんじゃないだろうか。隣を見ると、女の子は予算的に無理、と悲しそうに財布をバッグに戻していた。丁度その時、看板の奥の重たそうな黒いカーテンが揺れて、女性が出てきた。ハンカチで目元を拭うと、こちらに気付いて、足早に去って行く。
今なら、すぐ見てもらえるのかな。
予約制というわけではなさそうな雰囲気に、ちらりと窺うと、諦めたのか女の子達はいなくなっていて、店の前には自分一人になっていた。レジのカウンターに店員の女性がいて、目が合う。
「あ・・・。占い、って今大丈夫そうですか?」
「見てもらいます?聞いてみますね。」
店員は、ゆら、とカーテンをめくり、中の誰かと話をした。
ややあって、こちらに向き直り、どうぞと重そうにカーテンを開ける。
「どうも。」
促されるまま低いドアかまちをくぐると、一段低くなっていて、転びそうになる。中は暗く、テーブルと椅子があり、小柄な人が壁側に座っていた。一畳ほどの狭い空間に、線香のような匂いが充満していて、むせそうになる。いらっしゃい、と言われて女性の声だ、と思った。テーブルの小さなランプ以外光源がない。火が揺らめいて、オレンジ色の影が明滅する。顔を布で覆っていて占い師の年の頃は分からなかったが、声は若そうだった。
「こんにちは。」
圧倒されそうな雰囲気とは裏腹に、ごく普通に挨拶されて戸惑う。
「・・・こんにちは。」
どうぞ、と椅子を勧められ、居心地悪く、小さな背もたれのない木製のそれに座った。
「あの・・・。」
おずおずと口を開く。
そうだ。先のことを占ってもらうんだった。
目的を忘れそうになるほど、そこは異空間だった。口を開きかけるのを、やんわりと止められる。
「あなたは、今日の私のお役目です。」
お役目?
首をかしげると、女性はどこからか折り紙のような手のひらほどの紙と、ガラスのペンを取り出した。その紙をテーブルに置かれた香炉の細い煙にひらひらとくぐらせる。
「あなたは、とても強運な人と、縁ができました。」
強い口調で宣言し、続ける。
「その人が、これからのあなたの人生の鍵になります。あなた自身の幸運は、その人に逢えたこと。でもこれからは、その人のそばにいることで、よりよい未来になります。」
家族以外の縁は、大体切ったばかり。となると、最近会った人だろうか。思いを巡らすが、特に思い当らない。首をかしげていると、占い師はまた口を開いた。
「その人は、星を自在に操ります。」
「星・・・?ですか?」
占い師は頷いて、とぷ、とインク壺にペン先をつけ、紙にいくつかの星を描いた。
「こんな感じの・・・。」
すっと、その紙を差し出される。受けとると、紙は思っていたよりも厚みがあり、裏側がザラザラしていた。占い師はペンを片付け、それはお守りです、と言った。ますます謎だった。とりあえず、宇宙関連の仕事の人?とは関わった覚えも予定もない。そもそも宇宙とか天文の人だって、星は動かせないだろう。
操るってなんなんだ・・・。
「私は、縁ができたことを伝える役目です。あなたが間違わずにその人と共にあるように、手助けをするのです。」
それで、お役目、ってことだろうか。
「あなたは、その人にもう一度会えば、すぐにわかります。あなたが望む未来のために、必要な人です。」
ゆっくりと、しかしはっきりそう言うと、占い師は満足そうに胸の前で手を組んだ。
「え?もしかして、終わりですか?」
占いってこういう感じなの?と思っていると、こちらを見透かしたように占い師は少し笑い、これは占いではありません、と告げた。そして、決まったことです、と続けた。
なんだろう。不思議な感じ。
お代はお気持ちで、と言われ財布にあった千円札を渡すと、先ほどの紙を代わりに財布に入れるようにと促された。なるべく離さずに持っているように念を押され、丁寧に折り畳んで落とさないようにしまい込んだ。占い師はまた満足そうに頷いて、近いうちにわかりますよ、と話を終えた。
なんだか、夢みたいだったな。
総菜屋さんでアジフライを買い、帰宅して夕食。ペットボトルからカップに移した緑茶を飲み干して、二枚目のフライに齧りついた。肉厚で美味しい。炊き立てのご飯をかきこんで、
モリモリ食べた。早食いの癖は治らない。
一人でする食事に、やっと慣れたところ。実家は大所帯だったから、食事はせわしなかった。弟妹の面倒を見ながら、合間を見て食べて、済んだら洗い物。母はいつも疲れていたから、兄と分担で家事をこなしていた。手が足りないのに、なんでこんなに産んだのか、といつも思っていた。
どうしてるかな。
大学までは一緒に住んでいた。就職を機に、ようやく家を出たけれど、淋しさは特に感じていない。解放感が勝っていた。
ご飯、好きなものゆっくり食べられるし・・・悪くないんだよな・・・。
これはこれで幸せ。そのはずなのに、彼女の一人も作れと急かされる。体裁を整えるためのお付き合いはしたくなくて、女性に目が向かない。そんな風に付き合って、惰性や義務感で作った子供を、父のように養っていける気がしない。だから、子供ができるような行為には、ある種の恐怖感があった。責任を取らなければならない状況にはなりたくない。なら、種をまかなければいい。ずっと、清い体でいい・・・。
食事を終え、キッチンに食器を下げていると、チャイムが鳴った。
「はーい。」
誰だろ。宅配の予定はないし、セールスは嫌だな。
ドアののぞき窓から外を見ると、疲れた感じの女性が幼い子供の手を引いて立っていた。
自宅は、駅前にあるその商店街から、自転車で十分ほどの、丘の中腹にある。坂道を登らなければならない立地のおかげで、この地域の中でも家賃は安い方だった。
シャワーを終えると、座卓に置いたスマホが点滅している。手に取ると、画面には面接日程の件とポップアップがあった。開いてみると、今日面接予定だった、明楽(あきら)フーズの、晴海という担当からだった。履歴書は、伊住に預けてきたのだが、どうやらそれで不採用が確定したわけではなかったらしい。水曜の三時はどうかとの打診である。もちろん予定はないので、その旨返信して、スマホを置いた。カバンから名刺入れを取り出す。中には、帰りがけに渡された、伊住の名刺が一枚だけ。自分のものはもとより、以前の仕事関係の縁は、全部切りたくて処分した。もちろん、スマホのアドレスも。今日手に入れたこの新しい繋がりが、続けばいいのだが・・・。
明楽フーズ、商品開発部、伊住藍(いずみらん)。瞳の色と肌の色から、なんとなく外国の人かとも思ったが、名前は日本人みたいだった。
いろいろと、無敵そうな外見だったと思い起こす。
精悍な顔立ちで、真面目そう。若そうな感じだったが、いわゆるチャラさがない。遊びのない佇まいは、どっしりと落ち着いていて、優美な外見とは裏腹に、高嶺の花といったところ。潔癖すぎて、女性も距離を置いてそうだと思った。どちらかと言うと、少し冷たい印象。耳の奥に響く低い声が心地よかった。流暢な話し方だった。
それに・・・いい匂いだった。
もし、自分が女性だったなら、好きになってしまいそうな。
柔らかな香り・・・。
いや、女性だったらどうだったろう?
むしろ、自分が男だから、あの匂いが好きなのかもしれない。
変な感覚・・・。
香水の銘柄がわかれば、欲しいかと問われると頷けない。あれは、彼から香るからいいのだ。
似合っている・・・のかな。
それだけ・・・?
一方の自分はといえば、背丈は日本人の平均より少し高いが、荒れた食生活と運動のできない環境で痩せてしまい、貧相な肉付きである。顔は、年より幼く見られることが多い丸顔で、瞳も髪も黒。前髪を左寄りで流したツーブロックである。どこにでもいそうな見た目は、女性にモテたりすることはなく、ごく平凡な学生時代を送った。今やそう少なくない、清らかな体の成人男子だ。アピールポイントとしては、人に移るような病気を持っていないことだろうか。
いい男、だったな。
伊住である。もし、採用になったとしても、店舗のアルバイトと、本社の社員では、接点はないように思う。世の中には、ああいった恵まれた人間がいる。そういう人は、どんどん幸せになっていったりするのだろう。あわよくば自分も、おこぼれに預かりたいものだ。家賃が払えなくなることを心配したり、すべてにおいて節約を強いられ、たまの贅沢がジェラート・・・。
いやいや。ジェラートはいいんだよ。あれは人生のうるおいなんだから。
今のところ、ほかに魅力を感じるものはあまりない。つまり、ジェラートは自分にとって、なくてはならないものと言えた。
毎日ジェラートと仕事ができたら・・・幸せだろうなぁ。
水曜の面接は、今日と同じネクタイでいいだろうか。そんなことを考えながら、寝ることにした。
朝ごはんに、ハムを四枚のせた卵二個の目玉焼きを食べたから、今日は気合が入っている。そして、お昼は商店街にあるホットサンドのお店で軽く食べて、電車に乗った。
いつものスーツを着て、今日こそ面接、の水曜の午後。からりと晴れた空は青く、とても暑い。夏物とはいえ、ジャケットの下はしっとりと汗をかいていた。
ニオイ、大丈夫だろうか。
食品関係の会社の面接である。清潔感は、他の会社よりも重要だろうから、汗臭かったりしたら台無しだ。空いている時間帯の電車の中は、冷房もしっかり入っているが、汗が気になるのは緊張しているからだろうか。
別のことを考えよう。
面接から、いったん頭を切り替えることにした脳裏に浮かんだのは、伊住の顔だった。
会えるかな。
・・・?
会えるかな??
なにを考えたんだろう。普通に考えて会えないと思う。人事の人間ではないし、この間だってどうして彼が自分の相手をしたのか、よくわからない。しかし、なんでそう思ったのかを追及する間もなく、電車は目的の駅に着いた。
一昨日来たばかりのビルに、また足を踏み入れる。覚えている道順をなぞりながら、エレベーターに乗り、明楽フーズの前にはすぐにたどり着いた。ドアを開けるが、オフィスには前回よりも人が少なかった。その、奥の方のデスクから、こちらに気付いた男性がスタスタとやってくる。
「こんにちは。高梨さんですね。」
「はい。高梨です。」
一礼すると、相手も会釈した。
「先日は不在で失礼しました。メールした晴海です。よろしくお願いします。こちらへどうぞ。」
四十代くらいの男性は、ニコニコとそう言うと、こちらです、と歩きだした。軽く頭を下げてから、後について歩く。どうやら一昨日の応接室とはまた別の部屋だ。ガラスのドアを開けると、寒いくらいに冷房が効いており、向かって左手の席を示される。一般的なミーティングルームのようで、テーブルも椅子も簡素なものだった。
「どうぞ。」
晴海はそう言いながら、向かいに座る。失礼しますと席に着き、背筋を伸ばした。
「伊住から話は聞きました。履歴書をありがとうございます。拝見しました・・・。店舗の方は、立ち仕事ですし、体力勝負なところありますが、どうでしょう。問題なさそうですか?」
体力には自信があります!なんて返せたらいいのだろうが、そうでもない。学生時代に、コンビニでアルバイトをしたことがあるが、早朝シフトで、長くても一日四時間ほどだった。丸一日、立って接客するのは、確かに大変かもしれない。しかし、ここは大丈夫と答えるところ。
「客足にもよりますが、休憩は取れる人員配置をしていますので、食事はとれないことないと思います。休日も。あぁ、逆にしっかり働きたいと、物足りないかもしれません。多くても週五日の勤務になります。基本は四日ですね。その分時給は他より高めに設定されていますが。」
そうなのか。家賃を払って、一人で生活できる程度は収入が見込めないといけないのだが。
悩んでいると、晴海は難しい顔をして首を傾げた。
「生活費を安く上げるなら、弊社には寮がありまして。今は空きがあるので、アルバイトでも利用できますよ。」
「社員じゃなくても、住めるんですか?!」
晴海の提案に、思わず声が大きくなる。家賃とライフラインがかなり楽になるだろうことを思い、飛びつきそうになる。いやいやまてまて。まだ採用とは限らない。というか、なんで、そんなこと言ってくるんだろう。自分はそんなに魅力的な人間ではないはずだ。
「あの・・・。そんなに良い条件で、他に応募してくる人はいないんですか?」
恐る恐る聞いてみる。すると、晴海は困った顔で、笑った。いないわけではないんですが、と前置きし、眉尻を下げる。
「あの商店街は、どこのお店も条件がいいので、アルバイトは取り合いなんです。それもあって、時給はやや高めです。
あと、福利厚生がいいのが自慢なので、従業員は好待遇です。なので、一度採用されると、やめる人が少ないので、人間関係が密です。そういった環境を好まない方も多くて。希薄な人間関係を求めている方には向きません。あそこの店舗は特にフレンドリーというかアットホームというか・・・飲み会も多かったりします。そういうのが、楽しめる方でないと、難しいかな、と。」
そういうことか。すでに出来上がって固定化している人間関係に飛び込むのは勇気がいる。自分は、わりと人懐こい方だが、それは相手によるし。
唸っていると、晴海は苦笑した。
「試用期間も三か月ありますので、まずは試してみませんか。」
ん?
「・・・あの。それって採用、ってことなんですか?」
今度はこちらが首を傾げた。
「・・・そうです。」
少し言い淀み、晴海はしかし、しっかりと頷いた。
なんで?
どこにも採用される要素が見当たらないのだが。
「事情がありまして。お願いする立場なのは、こちらなのです。」
なんで?
上手い話には気をつけろ、と警鐘が鳴る。
一呼吸おいて、答える。
「・・・考えさせていただいても、いいんでしょうか。」
「即決できる状況でないのは承知です。用心深くて、逆に安心しました。・・・なるべくいい返事を期待しています。」
あやしいことを言っている自覚があるのか、晴海はもはや苦笑を浮かべることもなく、ただただ困り顔だった。
帰り道、自転車をこいで坂道を上る。
なんか変な話じゃなかったか?
大丈夫なんだろうか。
魅力的な提案もあったけれど。
あのあと、時給についてなどの話を少しして、返事は今週中には欲しいと言われ、ビルを出た。
伊住には、やはり会えなかったと思いながら帰路についた。
今週中に返事、ってことは金曜の六時までだよなぁ。
なんだか疲れてしまったので、小さな湯船にお湯を張り、かれこれ二十分つかっている。体を折りたたむほどではないが、狭いそこで寛げているかどうかは謎だ。
会社のホームページを見たり、店舗の口コミを見たり、つぶやきを見たりと、情報収集をしてみたが、今のところ悪い話はない。むしろ評判は良い方で、強いて難を上げるとしたら、会社上層部が家族経営だということか。しかし、そんな上の方のこと、アルバイト志望の自分には関係がないように思う。それより感心したのは、ジェラートへの情熱というか、商品への姿勢だった。開発には、ジェラートの本場から人と機械を導入し、材料はその時々で産地を変える。工場の衛生管理はもちろん、店舗でも徹底されている。定番には特に力を入れているようだった。季節ごとの限定品については、ノベルティ含めて一度は買いたくなるような魅力がある。
商品開発とマーケティングが上手なのだろう。楽しそうな会社だな、と思う。そんな社風が反映されたのが会社の名前なのかと思ったら、創業者の苗字とのこと。明楽(あきら)、明るく楽しいなんて、なんて素晴らしい。二つ返事でОKしても良かったんじゃないかと思う。けれど・・・。
なぁんかこう・・・ひっかかるというか?
上手い話は怖い。前のブラック企業だって、相当よさそうなことを言っていた。おかげで少しだけど、見る目は養ったようにも思う。なによりも、駄目だったら次に行くという選択肢ができた。職歴がぐちゃぐちゃになる前にどこかに落ち着きたいが。持ち前の諦めの良さが発揮されると、お先真っ暗の予感さえする始末だ。
「とりあえずはバイトでいいんだよなぁ・・・。」
提示された時給なら、社会保険も入れる。新卒の手取りとそう変わらない。むしろ時間にゆとりができる分、QОLは上がると思う。試用期間が終わったら、寮に引っ越せば貯金もできそうだ。朝夜の食事つきだというから、家事負担も減る。
無職よりは・・・。
独り立ちしたとはいえ、実家の父には仕事を辞めたことを報告した。ほぼ一人で家族七人養っていた父だ。稼ぎのない自分を許すはずがない。自分のことは自分で何とかしないと。実家には頼らない。まだ、下に三人の弟妹がいる。甘えられない。それは絶対あり得ない。兄の陰で、目立った存在ではなかったが、いい歳だし、仕送りできないまでも、迷惑だけはかけられない。焦って決めても碌なことはないと重々承知だが。
「よし。」
ざぶ、とお湯で顔を拭う。
返事は決まった。
アルバイト先が決まったので、商店街の稲荷にお礼参りに来ている。お賽銭の五百円玉をいれ、深々と頭を下げて、お礼をする。社の奥には、薄い青色の紫陽花が咲いていて、よく見るとその下にも小さな社があった。なんとなくしゃがみ込み、財布にあった五円を置いて、人間関係の無事を祈る。良いご縁に恵まれたい。
お参りを終えて、アーケードを歩く。足はジェラート屋の方に向いていた。気温が高い。七月でこれなら、夏休みはもっと暑いだろう。ジェラートはきっとよく売れる。忙しいだろうな、と思い店の方を窺う。列には今日も子供連れの女性が並んでいた。なんとなく、それを避けて、手前のアクセサリーショップで足を止めた。欲しいものがあるわけではない。少し、苦手なのだ。
子供が、とか。女性が、とか。それを取り巻く、普通の家族、を想像させるものに、不快感がある。嫌悪感と言ってもいい。これは根深い問題で、少なくとも自分はそれを欲していなかった。
アルバイトを始めたら、あの客層は避けられない。失念していたわけではないが、あえて蓋をして見ないようにしていた。
慣れるかも・・・しれないし。
このままの自分だと、家族を作れる気がしない。自身はそれでもいいが、両親は孫の顔が見たいだろう。四つ年上の兄にも、よく催促しているのを知っている。普通に結婚して、できれば大家族に。子孫はどんどん増やすべき。時代錯誤な父のその思想は、心に暗い影を落とす。
ぼんやり、並んでいる商品を見ていると、あとからやってきた女子高の制服の二人組が、ひそ、と奥の看板を指さして財布の中身を確認しだした。気になってそちらを見ると、銀色のプレートには占い、とある。ここでそんなものをやっているなんて初耳だ。けれど自分は、神様は信じるし、稲荷には参るし、雑誌の占いも気にするのである。個人的に対面での占いは初めてだが、今はすごくそのプレートが気になった。
ちょっと、今後の運勢とか知りたいかも。
無駄遣いはできないが、収入のあてはできたし、少しくらいいいんじゃないだろうか。隣を見ると、女の子は予算的に無理、と悲しそうに財布をバッグに戻していた。丁度その時、看板の奥の重たそうな黒いカーテンが揺れて、女性が出てきた。ハンカチで目元を拭うと、こちらに気付いて、足早に去って行く。
今なら、すぐ見てもらえるのかな。
予約制というわけではなさそうな雰囲気に、ちらりと窺うと、諦めたのか女の子達はいなくなっていて、店の前には自分一人になっていた。レジのカウンターに店員の女性がいて、目が合う。
「あ・・・。占い、って今大丈夫そうですか?」
「見てもらいます?聞いてみますね。」
店員は、ゆら、とカーテンをめくり、中の誰かと話をした。
ややあって、こちらに向き直り、どうぞと重そうにカーテンを開ける。
「どうも。」
促されるまま低いドアかまちをくぐると、一段低くなっていて、転びそうになる。中は暗く、テーブルと椅子があり、小柄な人が壁側に座っていた。一畳ほどの狭い空間に、線香のような匂いが充満していて、むせそうになる。いらっしゃい、と言われて女性の声だ、と思った。テーブルの小さなランプ以外光源がない。火が揺らめいて、オレンジ色の影が明滅する。顔を布で覆っていて占い師の年の頃は分からなかったが、声は若そうだった。
「こんにちは。」
圧倒されそうな雰囲気とは裏腹に、ごく普通に挨拶されて戸惑う。
「・・・こんにちは。」
どうぞ、と椅子を勧められ、居心地悪く、小さな背もたれのない木製のそれに座った。
「あの・・・。」
おずおずと口を開く。
そうだ。先のことを占ってもらうんだった。
目的を忘れそうになるほど、そこは異空間だった。口を開きかけるのを、やんわりと止められる。
「あなたは、今日の私のお役目です。」
お役目?
首をかしげると、女性はどこからか折り紙のような手のひらほどの紙と、ガラスのペンを取り出した。その紙をテーブルに置かれた香炉の細い煙にひらひらとくぐらせる。
「あなたは、とても強運な人と、縁ができました。」
強い口調で宣言し、続ける。
「その人が、これからのあなたの人生の鍵になります。あなた自身の幸運は、その人に逢えたこと。でもこれからは、その人のそばにいることで、よりよい未来になります。」
家族以外の縁は、大体切ったばかり。となると、最近会った人だろうか。思いを巡らすが、特に思い当らない。首をかしげていると、占い師はまた口を開いた。
「その人は、星を自在に操ります。」
「星・・・?ですか?」
占い師は頷いて、とぷ、とインク壺にペン先をつけ、紙にいくつかの星を描いた。
「こんな感じの・・・。」
すっと、その紙を差し出される。受けとると、紙は思っていたよりも厚みがあり、裏側がザラザラしていた。占い師はペンを片付け、それはお守りです、と言った。ますます謎だった。とりあえず、宇宙関連の仕事の人?とは関わった覚えも予定もない。そもそも宇宙とか天文の人だって、星は動かせないだろう。
操るってなんなんだ・・・。
「私は、縁ができたことを伝える役目です。あなたが間違わずにその人と共にあるように、手助けをするのです。」
それで、お役目、ってことだろうか。
「あなたは、その人にもう一度会えば、すぐにわかります。あなたが望む未来のために、必要な人です。」
ゆっくりと、しかしはっきりそう言うと、占い師は満足そうに胸の前で手を組んだ。
「え?もしかして、終わりですか?」
占いってこういう感じなの?と思っていると、こちらを見透かしたように占い師は少し笑い、これは占いではありません、と告げた。そして、決まったことです、と続けた。
なんだろう。不思議な感じ。
お代はお気持ちで、と言われ財布にあった千円札を渡すと、先ほどの紙を代わりに財布に入れるようにと促された。なるべく離さずに持っているように念を押され、丁寧に折り畳んで落とさないようにしまい込んだ。占い師はまた満足そうに頷いて、近いうちにわかりますよ、と話を終えた。
なんだか、夢みたいだったな。
総菜屋さんでアジフライを買い、帰宅して夕食。ペットボトルからカップに移した緑茶を飲み干して、二枚目のフライに齧りついた。肉厚で美味しい。炊き立てのご飯をかきこんで、
モリモリ食べた。早食いの癖は治らない。
一人でする食事に、やっと慣れたところ。実家は大所帯だったから、食事はせわしなかった。弟妹の面倒を見ながら、合間を見て食べて、済んだら洗い物。母はいつも疲れていたから、兄と分担で家事をこなしていた。手が足りないのに、なんでこんなに産んだのか、といつも思っていた。
どうしてるかな。
大学までは一緒に住んでいた。就職を機に、ようやく家を出たけれど、淋しさは特に感じていない。解放感が勝っていた。
ご飯、好きなものゆっくり食べられるし・・・悪くないんだよな・・・。
これはこれで幸せ。そのはずなのに、彼女の一人も作れと急かされる。体裁を整えるためのお付き合いはしたくなくて、女性に目が向かない。そんな風に付き合って、惰性や義務感で作った子供を、父のように養っていける気がしない。だから、子供ができるような行為には、ある種の恐怖感があった。責任を取らなければならない状況にはなりたくない。なら、種をまかなければいい。ずっと、清い体でいい・・・。
食事を終え、キッチンに食器を下げていると、チャイムが鳴った。
「はーい。」
誰だろ。宅配の予定はないし、セールスは嫌だな。
ドアののぞき窓から外を見ると、疲れた感じの女性が幼い子供の手を引いて立っていた。
2
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
天の求婚
紅林
BL
太平天帝国では5年ほど前から第一天子と第二天子によって帝位継承争いが勃発していた。
主人公、新田大貴子爵は第二天子派として広く活動していた亡き父の跡を継いで一年前に子爵家を継いだ。しかし、フィラデルフィア合衆国との講和条約を取り付けた第一天子の功績が認められ次期帝位継承者は第一天子となり、派閥争いに負けた第二天子派は継承順位を下げられ、それに付き従った者の中には爵位剥奪のうえ、帝都江流波から追放された華族もいた
そして大貴もその例に漏れず、邸宅にて謹慎を申し付けられ現在は華族用の豪華な護送車で大天族の居城へと向かっていた
即位したての政権が安定していない君主と没落寸前の血筋だけは立派な純血華族の複雑な結婚事情を描いた物語
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
夜が明けなければいいのに(洋風)
万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。
しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。
そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。
長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。
「名誉ある生贄」。
それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。
部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。
黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。
本当は、別れが怖くてたまらない。
けれど、その弱さを見せることができない。
「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」
心にもない言葉を吐き捨てる。
カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。
だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。
「……おめでとうございます、殿下」
恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。
その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。
――おめでとうなんて、言わないでほしかった。
――本当は、行きたくなんてないのに。
和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。
お楽しみいただければ幸いです。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~
上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。
ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。
「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」
そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。
完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか?
初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。
義兄が溺愛してきます
ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。
その翌日からだ。
義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。
翔は恋に好意を寄せているのだった。
本人はその事を知るよしもない。
その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。
成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。
翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。
すれ違う思いは交わるのか─────。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる