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金曜日。念のため、とラブキャットに電話を掛けている。
「あ、お母さん?土曜日に、例のラグドールの健康診断いいかなぁ。」
『午前中なら、予約の予定はないけど。飛び込みがいたらわからないわよ?』
「それは分かってるよ。念のため電話してるの。あ、名前は北倉アンジェラ。え?」
『北村さんじゃなかった?』
「本名北倉だった。そうだね、言ってなかった。仕事上の名前が、北村なんだって。ちょっといろいろあって。アンジェラは、家ではアンって呼んでるよ。」
『お洒落な人は凝った名前つけるわよね。』
「一生懸命考えたんだってさ。もう、とにかく、土曜の午前に、猫連れて帰るから!それだけ。じゃぁ。」
『あ、健斗。お腹の調子どう?』
「・・・いいよ。」
『ほんとに、女性だけだめなのね。北倉さんにはよくしてもらえてるの?』
「・・・うん。あ、でも、お金は多すぎるから断っちゃった。大したことしてないし。」
『ふーん?それでいいなら、別にお母さんはいいけど。お父さんなんて言うかしらね。あなたのことは、ちゃんと仕事してると思ってるみたいよ?』
「やることはやってる。」
心配しないで、と通話を切った。アンが不思議そうにスマホを見ている。家にいるときに使うことが稀だからだ。
「お母さんの声、聞こえた?明日には会えるからな。」
アンの背をポンポン叩く。
孝利はまだ起きてこない。そろそろ朝ごはんの支度をしよう。
何が食べたいかな・・・。
オムレツは、孝利の方が上手に作れるし、やっぱり目玉焼きかな。ベーコンエッグなら失敗も少ないし。あとは、寒いからカップスープをつけて、トーストかご飯。
思案しながら時計を見る。十一時。
風邪ぶり返してなきゃいいけど。
昨夜は、咳もしてなかったし、もう治ったのかな。
風邪が治っていたら、週末にはおもちゃを試してみる約束だ。
もう明日に迫っている。ドキドキしないわけじゃないが・・・。
それをクリアしないと、孝利とは繋がれない。
いつの間にか、孝利が自分を抱きたいと言うように、自分も孝利にそうされたい欲求が生まれていた。
抱かれたい。
抱かれたみたい、じゃなくて、抱かれたい、だ。興味や好奇心の域は超えていると思う。
今まで、あんなふうに求めてくれる人はいなかったから・・・応えたいのだ。
でもそのためにはまず、おもちゃなわけで。
その過程、踏まないとだめですか?
カチャリ・・・。
孝利の部屋のドアが開く音に、アンが反応する。廊下とをつなぐドアに、タタッと走っていって待っている。やがて、そのドアが開いた。寝起きで、コンタクトを入れる前の孝利。
どれくらい見えてるのかな?見えないのかな?
「おはよう。アン、タマ。」
アンの頭を撫でてやりながら、孝利がこちらを向く。ぼんやりとは見えているだろうけれど、たぶん表情まではわかっていないと思う。
「おはようございます。」
あふ、とあくびをしながら、洗面所に向かう孝利を見送って、キッチンに立つ。いつも目玉焼きで、本当に申し訳ないと思うが・・・。卵料理のレパートリーはかなり少ない。孝利が褒めてくれた卵焼きくらいなら何とか焼けるが、パン食だからとあまり作る機会がない。
ほどなく、孝利がコンタクトを入れて戻ってきた。
「朝ごはん、何か食べたいものありますか?」
「んー・・・。納豆と玉子焼きとお味噌汁。」
「みそ汁の具のリクエストはありますか?」
「わかめかな。ネギと。」
はーいと返事をして、お湯を沸かし始める。以前、納豆が食べたいと言ってたことがあったので、冷蔵庫にはストックがあった。いつ言われてもいいように、買っておいたのだ。
「・・・あるの?納豆。」
「ありまーす。まさかひきわりがいいなんて言いませんよね?」
確認すると、普通ので大丈夫、と返ってきた。
ネギとわかめを刻み、出汁巻きを巻いてゆく。こういう時、父親に料理を習っておいてよかったと切に思う。簡単なものだけだったが。今どき玉子焼きも、スーパーで買える。でも、温かいものを出したいじゃないか。
ご飯と納豆、玉子焼きとみそ汁を並べると、ニュースを見ていた孝利が食卓についた。
「美味しそう。・・・人に作ってもらうご飯って、やっぱりいいよね!」
「・・・僕のうちは、お父さんがご飯担当なんですけど、お母さんが同じこと言ってました。でも、孝利さん、自分でご飯作れるじゃないですか。」
「作れて、苦労を知ってるからありがたいんじゃない。旅館じゃないんだから、食べたいものがさっと出てくるのって、すごすぎると思う。
愛を感じるね!」
「わかってもらえます?」
数少ない、自分にできる精一杯の愛情表現。食べたいものを食べさせてあげること。嬉しくて、尻尾フリフリだ。
孝利が、いただきます、と食べ始める。食後のお茶の用意をしてから、席についた。
「いただきます。」
玉子に箸をつける。一口して、あれ?
「玉子、ちょっとしょっぱかったかも。」
「おかずには丁度いいよ。」
そんなフォローをしてもらい、二人、あっという間に完食した。お茶を沸かしにキッチンに行く。電気ケトルを仕掛けて、その間に食器を下げる。洗っているとお湯が沸いた。孝利がやってきて、急須にお湯を注いでくれる。
「なんかいいですね、この感じ。」
「いいね。・・・はじめは、二人で暮らすって少し不安だったけど、君とならやっていけそう。無理してない?」
「努力はしてますけど、無理はしてないですよ。」
「努力?」
「好みの分析をしたり。好きなもの買い置いたり。」
孝利は、少し驚いたような顔をして、次いで、ふふと笑った。
「ありがとう。」
照れくさくて、苦笑して誤魔化した。
「・・・それより、明日お父さんにバレたりしないか心配です。」
「付き合ってるのが?」
付き合ってる、と、言葉にされるのは初めてで、ドキドキした。頷いて、首をかしげる。
「まずいですよね?」
「最悪、君を連れ戻される。レンタルなのに、お金支払ってないしね。契約違反だからね。」
「ですよね。」
「とりあえずは、様子見だね。もし、付き合ってるのがバレたらどうなりそうか、さりげなく探りを入れないと。」
うんうんと頷いて・・・難しそうだとも思う。
「まぁ、何とかなるよ。」
孝利は気休めを言うと、お茶を一口した。
「あ、お母さん?土曜日に、例のラグドールの健康診断いいかなぁ。」
『午前中なら、予約の予定はないけど。飛び込みがいたらわからないわよ?』
「それは分かってるよ。念のため電話してるの。あ、名前は北倉アンジェラ。え?」
『北村さんじゃなかった?』
「本名北倉だった。そうだね、言ってなかった。仕事上の名前が、北村なんだって。ちょっといろいろあって。アンジェラは、家ではアンって呼んでるよ。」
『お洒落な人は凝った名前つけるわよね。』
「一生懸命考えたんだってさ。もう、とにかく、土曜の午前に、猫連れて帰るから!それだけ。じゃぁ。」
『あ、健斗。お腹の調子どう?』
「・・・いいよ。」
『ほんとに、女性だけだめなのね。北倉さんにはよくしてもらえてるの?』
「・・・うん。あ、でも、お金は多すぎるから断っちゃった。大したことしてないし。」
『ふーん?それでいいなら、別にお母さんはいいけど。お父さんなんて言うかしらね。あなたのことは、ちゃんと仕事してると思ってるみたいよ?』
「やることはやってる。」
心配しないで、と通話を切った。アンが不思議そうにスマホを見ている。家にいるときに使うことが稀だからだ。
「お母さんの声、聞こえた?明日には会えるからな。」
アンの背をポンポン叩く。
孝利はまだ起きてこない。そろそろ朝ごはんの支度をしよう。
何が食べたいかな・・・。
オムレツは、孝利の方が上手に作れるし、やっぱり目玉焼きかな。ベーコンエッグなら失敗も少ないし。あとは、寒いからカップスープをつけて、トーストかご飯。
思案しながら時計を見る。十一時。
風邪ぶり返してなきゃいいけど。
昨夜は、咳もしてなかったし、もう治ったのかな。
風邪が治っていたら、週末にはおもちゃを試してみる約束だ。
もう明日に迫っている。ドキドキしないわけじゃないが・・・。
それをクリアしないと、孝利とは繋がれない。
いつの間にか、孝利が自分を抱きたいと言うように、自分も孝利にそうされたい欲求が生まれていた。
抱かれたい。
抱かれたみたい、じゃなくて、抱かれたい、だ。興味や好奇心の域は超えていると思う。
今まで、あんなふうに求めてくれる人はいなかったから・・・応えたいのだ。
でもそのためにはまず、おもちゃなわけで。
その過程、踏まないとだめですか?
カチャリ・・・。
孝利の部屋のドアが開く音に、アンが反応する。廊下とをつなぐドアに、タタッと走っていって待っている。やがて、そのドアが開いた。寝起きで、コンタクトを入れる前の孝利。
どれくらい見えてるのかな?見えないのかな?
「おはよう。アン、タマ。」
アンの頭を撫でてやりながら、孝利がこちらを向く。ぼんやりとは見えているだろうけれど、たぶん表情まではわかっていないと思う。
「おはようございます。」
あふ、とあくびをしながら、洗面所に向かう孝利を見送って、キッチンに立つ。いつも目玉焼きで、本当に申し訳ないと思うが・・・。卵料理のレパートリーはかなり少ない。孝利が褒めてくれた卵焼きくらいなら何とか焼けるが、パン食だからとあまり作る機会がない。
ほどなく、孝利がコンタクトを入れて戻ってきた。
「朝ごはん、何か食べたいものありますか?」
「んー・・・。納豆と玉子焼きとお味噌汁。」
「みそ汁の具のリクエストはありますか?」
「わかめかな。ネギと。」
はーいと返事をして、お湯を沸かし始める。以前、納豆が食べたいと言ってたことがあったので、冷蔵庫にはストックがあった。いつ言われてもいいように、買っておいたのだ。
「・・・あるの?納豆。」
「ありまーす。まさかひきわりがいいなんて言いませんよね?」
確認すると、普通ので大丈夫、と返ってきた。
ネギとわかめを刻み、出汁巻きを巻いてゆく。こういう時、父親に料理を習っておいてよかったと切に思う。簡単なものだけだったが。今どき玉子焼きも、スーパーで買える。でも、温かいものを出したいじゃないか。
ご飯と納豆、玉子焼きとみそ汁を並べると、ニュースを見ていた孝利が食卓についた。
「美味しそう。・・・人に作ってもらうご飯って、やっぱりいいよね!」
「・・・僕のうちは、お父さんがご飯担当なんですけど、お母さんが同じこと言ってました。でも、孝利さん、自分でご飯作れるじゃないですか。」
「作れて、苦労を知ってるからありがたいんじゃない。旅館じゃないんだから、食べたいものがさっと出てくるのって、すごすぎると思う。
愛を感じるね!」
「わかってもらえます?」
数少ない、自分にできる精一杯の愛情表現。食べたいものを食べさせてあげること。嬉しくて、尻尾フリフリだ。
孝利が、いただきます、と食べ始める。食後のお茶の用意をしてから、席についた。
「いただきます。」
玉子に箸をつける。一口して、あれ?
「玉子、ちょっとしょっぱかったかも。」
「おかずには丁度いいよ。」
そんなフォローをしてもらい、二人、あっという間に完食した。お茶を沸かしにキッチンに行く。電気ケトルを仕掛けて、その間に食器を下げる。洗っているとお湯が沸いた。孝利がやってきて、急須にお湯を注いでくれる。
「なんかいいですね、この感じ。」
「いいね。・・・はじめは、二人で暮らすって少し不安だったけど、君とならやっていけそう。無理してない?」
「努力はしてますけど、無理はしてないですよ。」
「努力?」
「好みの分析をしたり。好きなもの買い置いたり。」
孝利は、少し驚いたような顔をして、次いで、ふふと笑った。
「ありがとう。」
照れくさくて、苦笑して誤魔化した。
「・・・それより、明日お父さんにバレたりしないか心配です。」
「付き合ってるのが?」
付き合ってる、と、言葉にされるのは初めてで、ドキドキした。頷いて、首をかしげる。
「まずいですよね?」
「最悪、君を連れ戻される。レンタルなのに、お金支払ってないしね。契約違反だからね。」
「ですよね。」
「とりあえずは、様子見だね。もし、付き合ってるのがバレたらどうなりそうか、さりげなく探りを入れないと。」
うんうんと頷いて・・・難しそうだとも思う。
「まぁ、何とかなるよ。」
孝利は気休めを言うと、お茶を一口した。
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